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勝手に魔王認定された魔女は勇者に魔力を奪われたので取り戻すために旅をする~なお500年経っても魔力は戻っていない~  作者: 山岡桃一


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魅了の賢者

「オレにも1杯くれ」

「私も」

「ワシも」

「オイにも」

「アタイにも」

「わ、わわ……

 ル、ルシアさん! いっぱいお願いします!」

 アリスの小悪魔戦略と爺さんのオーバーリアクションが功を奏したようで、私たちの前に続々と審査員たちが集まってきた。

 そしてアリスを囲むようにいろんな角度から注文が入り、アリスはワタワタと困惑し始めた。

 もし数種類のメニューを用意していたら、全部さばけなかったかもしれないな。

 よかった『ルシアリスらーめん』1本で。

「あいよー」

 そんな困惑するアリスを横目に、私は落ち着いて作業を進める。

 麺を茹でる鍋の容量さえ超えなければ、

『おぉ』

 私の熟練された魔力制御によって、寸分の狂いもなく、華麗に複数のらーめんが仕上がっていく。

 そしてその様子を見ていた審査員たちから、感嘆の声が上がった。

 よしよし。視覚的にも好感触だ。

 他の店は勇者にちなんだマッチョパワフル系がほとんどなので、私たちのような美少女、そしてテクニック系魔導料理は否応なしに目を引く。

「ありがとうございます。ありがとうございます」

 それにアリスという、マッチョ系にも劣らない体力無尽蔵の看板娘が、途切れることのない笑顔で愛想を振りまいている。

 ここまでくれば隠蔽魔法の失敗さえなければ、あるいは、私以上の魔力の使い手が現れなければ、勝利は確実だ。

 まぁそんな奴はいないだろうがな。

 ふふ。見えるぞ。他店の悔しそうな顔が。

「ぬううううううう!

 負けてはおれん! オレたちもやるぞ!」

『おおっ!!』

 私たちの盛況っぷりを見て焦り出した店が、次々と呼び込み演出を始めだした。

『そーれ! きゅんきゅん! きゅんきゅん!!』

 …………

 上半身裸のゴリマッチョ複数人によるきゅんきゅん……

 ……見てられん……

 しかしそれはあくまでも私の感想であって、この町ならでは、というべきか、複数の審査員がその筋肉に引き寄せられていく。

 まぁこれは仕方がないか。

 結果的に私のらーめんさえ食べてくれればいいのだから。

「活力100倍! みなぎる勇気は1000倍!!

 そしてたぎる筋力10000倍!!!」

 叫び1つにポージング1つ。ボディビル用パンツ1枚の、出場する大会間違えたのでは? と思うマッチョ店員。

 その店がポージング宣伝とともに出したのは、通常の10倍はあろうかという器に、これでもかとモリモリに盛った、具材満載のらーめん。

 さすがに1人分ではないと思うが、インパクトはでかい。

 でも周囲がマッチョだらけということもあり、ここでのポージングはちょっと弱いな。

 審査員もそう思ったのか、あまり心が揺れていない模様。

 やはりこのままいけば余裕で勝てる。

 そう思っていた矢先、大きなどよめきが聞こえた。

「まさか!? 『魅了の賢者』がここでやるのか!?」

 1人の審査員が驚きの声を上げると同時に、審査員ほぼ全ての視線が1つの店に集まる。

「も、もしや……この子に刺激されて……」

「?」

 その『原因』であろうアリスにも視線が集中するが、アリスはなんのことだかわからず、首を少し傾げるだけ。

 なんだなんだ? 『魅了の賢者』って、実在しない賢者のコスプレで、私を笑わせたあの店か?

「きたぞ!」

 審査員の1人が興奮気味に声を上げ、そして皆の視線を集める中、1つの店の前にレッドカーペットが敷かれる。

 そこに現れたのは……

 深紅ワンピースに、体の線を拾いすぎない上品なシルエット。

 胸元や背中は控えめに開き、決してエロ釣りするような下品な服装ではない。

 審査員もそれを感じ取っているのか、あるいは場の空気を読んでいるのか、1人ぐらいは『いいぞねぇちゃん』と言いそうな雰囲気だが、そんな下卑たざわめきは起きない。

 言ってみれば、アリスと対になる妖艶な女性。

 そして、レッドカーペットの先に立つ女性は、目を奪われていた男性の手を取った。

 すると、スタッフっぽいスーツを着た女性が素早く椅子とテーブルを用意すると、男性は吸い込まれるようにその席についた。

 ……あれ、強引な客引きじゃ?

 しかし運営からの警告はない。ということはセーフなのか。

 それがアリなら、こっちはアリスの遠距離攻撃で、そこら中の審査員の手を取って連れてこさせるぞ。

 本当にこの運営のコンプライアンスがわからん。趣味でやってるのか?

 男性の手を取った女性は一旦下がると、次はテーブルクロスを持った、同じく色気はあるが決して下品ではない女性が現れ、テーブルクロスを敷いて下がる。

 次は空のコップを持った女性。

 次はそのコップに水を注ぐ女性。

 次は花を持った女性……

 と、次々と女性がレッドカーペットの上を歩いて、テーブルまで1つ1つの素材を置いては下がるを繰り返していく。

 その演出に視線は釘付けとなり、まるでその店だけが動いているかのように、周囲の人間の動きがピタリと止まる。

 マッチョに染まったこの町の中では、私たちに劣らず演出面ではかなり強い。

 一体どういう店なんだろうか?

 あくまでイメージだが、ちょっとエロい店がらーめんも提供している、とか?

 気にはなるが、現在私はらーめん店店主と偽っている。

 下手な質問をして怪しまれるわけにもいかないから、おとなしく見ているか。

「あれはなんですか?」

 と、そこで純粋に疑問に思ったであろうアリスが、審査員の1人に尋ねた。

 ナイスアリス。

「あれは本店で、しかも上客にしかやらないサービスなんだよ」

 そのマッチョ審査員は行ったことがあるらしく、得意げに説明してくれたのだが……

「おもしろそうですね。私もいつか行ってみたいです」

「……いや、お嬢ちゃんはちょっと……」

「?」

 審査員は、無垢な子を汚してしまった、という申し訳なさそうな表情を浮かべ、視線を外して言い淀む。

 やっぱり、エロい店じゃねーか。

 ただ、アリスはエロ系の漫画も読んでいたようなので、その手の知識はある。

 なのでアリスから『おにいさんもそういうの好きなんですか?』と聞かれたら、審査員は恥辱に耐えられず逃げ出すのでは?

 それはさておき、多分、本店ではもっと過激な服装してるんだろうな。

 一応マッチョ系とは違うみたいだから、ここは服を破かず抑えている、というところか。

 しかしパフォーマンスは優秀だが、そのペースでは1人の接客に時間がかかる。

 その間に過半数に不正らーめんを食べさせれば、そこからはどうやったってひっくり返せない。

 せいぜい男どもが、なんかいい思いした、程度の話だ。

 そんなことを考えていると、ついに本命らーめんの登場だ。

 その様子を映している魔導ホログラムで確認すると、私と同じくとてもシンプルなもの。

 そして器を持った女性が審査員の隣に座って、何やら呟いた。

 ……まさか、洗脳系魔法じゃないだろうな?

 しかし不正魔力探知はない。

 それでももう少し考えればわかることだった。

 私が不正を行うのだから、他にも不正を行う店があってもおかしくない。

 それでも魔女以外で私に勝てる者なんて……

「アリス! ここからが本番だ!」

「わかりました!」

 一抹の不安を抱えるも、私たちがやることはただ1つ。

 ひたすら不正幻覚らーめんを作って、アリスが呼び込んだ審査員に食わせるのみ。

 そして私がぶっ倒れない程度に、当初の予定より魔力多めでいく。

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