魅了の賢者
「オレにも1杯くれ」
「私も」
「ワシも」
「オイにも」
「アタイにも」
「わ、わわ……
ル、ルシアさん! いっぱいお願いします!」
アリスの小悪魔戦略と爺さんのオーバーリアクションが功を奏したようで、私たちの前に続々と審査員たちが集まってきた。
そしてアリスを囲むようにいろんな角度から注文が入り、アリスはワタワタと困惑し始めた。
もし数種類のメニューを用意していたら、全部さばけなかったかもしれないな。
よかった『ルシアリスらーめん』1本で。
「あいよー」
そんな困惑するアリスを横目に、私は落ち着いて作業を進める。
麺を茹でる鍋の容量さえ超えなければ、
『おぉ』
私の熟練された魔力制御によって、寸分の狂いもなく、華麗に複数のらーめんが仕上がっていく。
そしてその様子を見ていた審査員たちから、感嘆の声が上がった。
よしよし。視覚的にも好感触だ。
他の店は勇者にちなんだマッチョパワフル系がほとんどなので、私たちのような美少女、そしてテクニック系魔導料理は否応なしに目を引く。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
それにアリスという、マッチョ系にも劣らない体力無尽蔵の看板娘が、途切れることのない笑顔で愛想を振りまいている。
ここまでくれば隠蔽魔法の失敗さえなければ、あるいは、私以上の魔力の使い手が現れなければ、勝利は確実だ。
まぁそんな奴はいないだろうがな。
ふふ。見えるぞ。他店の悔しそうな顔が。
「ぬううううううう!
負けてはおれん! オレたちもやるぞ!」
『おおっ!!』
私たちの盛況っぷりを見て焦り出した店が、次々と呼び込み演出を始めだした。
『そーれ! きゅんきゅん! きゅんきゅん!!』
…………
上半身裸のゴリマッチョ複数人によるきゅんきゅん……
……見てられん……
しかしそれはあくまでも私の感想であって、この町ならでは、というべきか、複数の審査員がその筋肉に引き寄せられていく。
まぁこれは仕方がないか。
結果的に私のらーめんさえ食べてくれればいいのだから。
「活力100倍! みなぎる勇気は1000倍!!
そしてたぎる筋力10000倍!!!」
叫び1つにポージング1つ。ボディビル用パンツ1枚の、出場する大会間違えたのでは? と思うマッチョ店員。
その店がポージング宣伝とともに出したのは、通常の10倍はあろうかという器に、これでもかとモリモリに盛った、具材満載のらーめん。
さすがに1人分ではないと思うが、インパクトはでかい。
でも周囲がマッチョだらけということもあり、ここでのポージングはちょっと弱いな。
審査員もそう思ったのか、あまり心が揺れていない模様。
やはりこのままいけば余裕で勝てる。
そう思っていた矢先、大きなどよめきが聞こえた。
「まさか!? 『魅了の賢者』がここでやるのか!?」
1人の審査員が驚きの声を上げると同時に、審査員ほぼ全ての視線が1つの店に集まる。
「も、もしや……この子に刺激されて……」
「?」
その『原因』であろうアリスにも視線が集中するが、アリスはなんのことだかわからず、首を少し傾げるだけ。
なんだなんだ? 『魅了の賢者』って、実在しない賢者のコスプレで、私を笑わせたあの店か?
「きたぞ!」
審査員の1人が興奮気味に声を上げ、そして皆の視線を集める中、1つの店の前にレッドカーペットが敷かれる。
そこに現れたのは……
深紅ワンピースに、体の線を拾いすぎない上品なシルエット。
胸元や背中は控えめに開き、決してエロ釣りするような下品な服装ではない。
審査員もそれを感じ取っているのか、あるいは場の空気を読んでいるのか、1人ぐらいは『いいぞねぇちゃん』と言いそうな雰囲気だが、そんな下卑たざわめきは起きない。
言ってみれば、アリスと対になる妖艶な女性。
そして、レッドカーペットの先に立つ女性は、目を奪われていた男性の手を取った。
すると、スタッフっぽいスーツを着た女性が素早く椅子とテーブルを用意すると、男性は吸い込まれるようにその席についた。
……あれ、強引な客引きじゃ?
しかし運営からの警告はない。ということはセーフなのか。
それがアリなら、こっちはアリスの遠距離攻撃で、そこら中の審査員の手を取って連れてこさせるぞ。
本当にこの運営のコンプライアンスがわからん。趣味でやってるのか?
男性の手を取った女性は一旦下がると、次はテーブルクロスを持った、同じく色気はあるが決して下品ではない女性が現れ、テーブルクロスを敷いて下がる。
次は空のコップを持った女性。
次はそのコップに水を注ぐ女性。
次は花を持った女性……
と、次々と女性がレッドカーペットの上を歩いて、テーブルまで1つ1つの素材を置いては下がるを繰り返していく。
その演出に視線は釘付けとなり、まるでその店だけが動いているかのように、周囲の人間の動きがピタリと止まる。
マッチョに染まったこの町の中では、私たちに劣らず演出面ではかなり強い。
一体どういう店なんだろうか?
あくまでイメージだが、ちょっとエロい店がらーめんも提供している、とか?
気にはなるが、現在私はらーめん店店主と偽っている。
下手な質問をして怪しまれるわけにもいかないから、おとなしく見ているか。
「あれはなんですか?」
と、そこで純粋に疑問に思ったであろうアリスが、審査員の1人に尋ねた。
ナイスアリス。
「あれは本店で、しかも上客にしかやらないサービスなんだよ」
そのマッチョ審査員は行ったことがあるらしく、得意げに説明してくれたのだが……
「おもしろそうですね。私もいつか行ってみたいです」
「……いや、お嬢ちゃんはちょっと……」
「?」
審査員は、無垢な子を汚してしまった、という申し訳なさそうな表情を浮かべ、視線を外して言い淀む。
やっぱり、エロい店じゃねーか。
ただ、アリスはエロ系の漫画も読んでいたようなので、その手の知識はある。
なのでアリスから『おにいさんもそういうの好きなんですか?』と聞かれたら、審査員は恥辱に耐えられず逃げ出すのでは?
それはさておき、多分、本店ではもっと過激な服装してるんだろうな。
一応マッチョ系とは違うみたいだから、ここは服を破かず抑えている、というところか。
しかしパフォーマンスは優秀だが、そのペースでは1人の接客に時間がかかる。
その間に過半数に不正らーめんを食べさせれば、そこからはどうやったってひっくり返せない。
せいぜい男どもが、なんかいい思いした、程度の話だ。
そんなことを考えていると、ついに本命らーめんの登場だ。
その様子を映している魔導ホログラムで確認すると、私と同じくとてもシンプルなもの。
そして器を持った女性が審査員の隣に座って、何やら呟いた。
……まさか、洗脳系魔法じゃないだろうな?
しかし不正魔力探知はない。
それでももう少し考えればわかることだった。
私が不正を行うのだから、他にも不正を行う店があってもおかしくない。
それでも魔女以外で私に勝てる者なんて……
「アリス! ここからが本番だ!」
「わかりました!」
一抹の不安を抱えるも、私たちがやることはただ1つ。
ひたすら不正幻覚らーめんを作って、アリスが呼び込んだ審査員に食わせるのみ。
そして私がぶっ倒れない程度に、当初の予定より魔力多めでいく。




