『勇者王決定戦』開戦
「ついに! ついにやってまいりました!!
最強の勇者を決める『勇者王決定戦』!!!」
乙女の肌の天敵となりそうなほどの、雲ひとつない晴天。
駅前のアルヴァール公園に特設された『勇者王決定戦』の会場。
定刻を迎え、人の頭ほどの高さのステージに魔導ホログラムで映し出されたゴリゴリマッチョの勇者を背景に、黒スーツに赤色の蝶ネクタイの司会があがり、マイクなしでも公園全域に届きそうな声で熱い進行を始める。
ちなみにこの司会もゴリマッチョで、少しでも動けばそのピチピチのスーツが破れそうなのに、よくここまで無事にたどり着いたな。
『おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』
司会の登場とド派手にポージングする魔導ホログラム勇者に、集まった観客も湧き上がる。
そしてこの場でひとつ言えることは……
「……あっついな」
「そうですねぇ」
顔をしかめる私に対し、アリスはちょっとワクワクしたような表情を見せる。お祭り、好きなのかな?
なおこのアツさ、熱狂で、という意味ではない。
この町の勇者のコンセプトは公園前の『勇者像』でもわかるように、ゴリマッチョだ。
それが『勇者王決定戦』出場者ならわかる。
しかし集まった観客の男性8割、女性1割ぐらいもマッチョという、もはやボディビル大会、いやボディビル乱戦だ。
それが原因かどうかはわからないが、気温が5、6度上がったような気がして暑い。そして暑苦しい。
低温サウナかよ。
「それにしてもルシアさん。私たち、こんな普通の服装でよかったんでしょうか?」
「んー……」
これはアリスがおしゃれに目覚めた発言ではない。
参加店の数は20で、ここから見える範囲では男女半々といったところ。
ここまでは普通。
アリスが服装に関して疑問に思ったことの答えは、この『勇者王決定戦』というコンセプトにある。
出場者の男性8割はマッチョで、多分勇者を意識している。残りの2割は魔法使いっぽい服装。
同じく女性の半分は賢者、3割魔法使い、2割マッチョ。こちらも同じく勇者を意識か。
と、普通のらーめん店に入って見かけるような店員は一人もいない。
いや、この町に限って言えば普通なんだけども。
この町に来てからというもの、アリスと一緒にいろんならーめん店に入ったが、店員はほぼマッチョ。
エプロンこそ着用していたが上半身裸で、衛生的にどうなの? と思うこともしばしば。
さすがにコスプレまでしている店はなかっ……いやしていた店もあったな。
それらに対して私は、万が一に備えて太ももに巻きつけた魔術を使えるように紺のスカート。
あとは白シャツにグレーのエプロンと、この町以外では普通のらーめん店員の服装だ。
そのため、この面々からすればかなり地味。
それでも魔導衣服なので、間違ってスープをこぼしてしまっても火傷するようなことはない。
アリスも同じく魔導衣服だが、こちらは私の心の中の宣言通りに、一肌脱いでもらった。
私と同じエプロンを着用しているが、白のスリーブレスに、ちゃんと覗き見防止魔力を施した短めのスカート。
これぐらいなら運営に止められるほど公序良俗に反してはいない。
それどころか、いたって健康的で動きやすい服装であり、一目見て可愛いと思える看板娘だ。
これが性的に見える人間は目と心が汚れているのだ。
まぁ本音を言えば、その目と心が汚れている一部の層に突き刺さる脇と太ももを強調しておき、視線をそちらに向けることで私の隠蔽魔法の成功率を少しでも上げる作戦だ。
アリスもおねしょ以外に恥ずかしいと思う感情が本当にないのか、特に恥ずかしがる様子もなく、なんの疑問も持つことなく、普通に着替えていた。
というか、私たち以外の女性陣、特に賢者のコスプレをした人の中には、アリスの比ではない露出度の高い人物が数人いる。
よくそれで運営に止められなかったな? というか、運営のコンプライアンスはガバガバなのか?
大会中止になるほどの苦情が来なければ、私の知ったことではないが。
しかし本当の学生時代の巨乳上位魔女のように、貧乳煽りでバカにしてくるようであれば、私の手が滑ってらーめんスープが飛んでいくかもしれないな。
まぁアレはアレで、アリス以上に視線を集めそうなので、隠蔽魔法の隠れ蓑として機能してくれるのなら、ありがたい話ではある。
それにしても、実在しなかった賢者のコスプレとか。笑っちゃうよな。
「アリス。この町以外では私たちが普通なんだ。そんな心配をする必要はない」
「それならいいんですが。
でもこれ、らーめん大会ですよね?
もし間違ってコスプレ大会に出場していたら、私たち負けちゃいませんか?」
「……大丈夫だろ」
そこまで言われると私も、この大会は『らーめん勝負』ではなくて『勇者とらーめんをコンセプトにしたコスプレ大会』な気がしてきた。
そう思い始めると、各店のらーめんを作るための料理道具が、コスプレの小道具に見えてきて若干不安になってくる……
「ルールはいたってシンプル!
審査員100名の得票数が最も多い店が『勇者王』として君臨する!
なお特別審査員の持ち点は3ポイントとなっている!
しかし! 見ての通り、特別審査員に贔屓をしないように一般審査員に紛れ込ませている!」
確かに見ただけでは誰が特別審査員なのかはわからない。
なのでせっかく特別用にちょっといい器を用意したというのに、無駄になってしまったな。
それにこれだと『特別審査員狙い撃ち作戦』も実行不可能だ。
まぁ慣れない料理で失敗するよりも、不正幻覚らーめんに全力を注げば優勝は間違いないんだ。
「では『勇者王』を目指し、日々鍛錬してきた諸君」
そこで司会は声のトーンを落とし、胸を押さえつつ少しうずくまり、かすかに震えているようにも見える。
なんだ? 誰かに侵食系遅効魔力毒でも仕込まれていたのか?
もしかしてこれから事件が起きちゃうのか?
昔もあったぞ、こんな展開。
「『勇者王決定戦』開戦!!」
そんな危惧とは裏腹に、うずくまっていた司会が全身の筋肉を隆起させると、まずスーツの背中が破れ、そして体を起こすと同時にスーツを完全にビリビリ破り、見たくもない筋肉をあらわにする。
いや、おまえも脱ぐ系なのかよ。まぁピチピチスーツの時点で察するものは確かにあったが。
「この町ではみなさん、あんなことができるんでしょうか?」
「いやぁ、あれは特殊な訓練を受けた人間ができる芸当であって、普通はできないぞ。普通はな」
この町のマッチョ系らーめん店員は最初に出会ったマッチョ二人を始め、どうも服を破りたがる傾向にある。
ちなみにあの二人の姿もここから確認できる。
『うおおおおおおおおお!!!』
冷静に状況を見守る私たち二人とは正反対に、テンション爆上がりの筋肉系店員の衣服が破れ飛ぶのは、まぁ想像できた。
しかし……
筋肉系観客の服までもが一斉に飛び散り、その勢いが風を呼んだのか、私たちの髪が少しなびく。
……うっそだろ……




