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勝手に魔王認定された魔女は勇者に魔力を奪われたので取り戻すために旅をする~なお500年経っても魔力は戻っていない~  作者: 山岡桃一


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魔力的不純物

 さて。

 今回の不正らーめん作りそのものに問題はなかったが、一つの懸念がある。

 アリスが『理想のサンドイッチ』を作ることを目標に掲げてからは、茹で卵が保有できる魔力量の限界値到達までの浸透速度は格段に上がった。

 このペースでいけば、本番前日に作れる『アリスの茹で卵』は100個ぐらいはいけそうだ。むしろそれ以上は作ってもらわないと具材が足りなくなる。

 ただそこまではいい。

 問題なのは私だ。

 『アリス湯』があまりにも綺麗すぎるのだ。

 原因はわからないが、この状態で当初の予定通り私とアリスが一緒のお風呂に入って魔力が混在させると、なんらかの不具合が起きるのではないだろうか?

 もちろん、私の体汚い、というわけではなく、アリスの魔力影響下においては私が『魔力的不純物』になりかねない。

 あぁ……まさか魔力制御大ベテランの私がど素人のアリスに劣ることなど……

 いやいや、これが底辺魔女と上位魔女の差なんだ……これはどうしようもない事実であり、ひっくり返すことはできない。

 でも私の中の想像上の毒舌アリスが『ルシアさん、そんなこともできないんですか? 汚い体ですねぇ』とあざ笑っている……

 まぁ、本物のアリスはそんなことは言わないだろうが。

 と、変に落ち込んでいても仕方がない。

 ここは私の体は汚くない……じゃなくて、私は決して『魔力的不純物』ではないことを証明するため、実験あるのみ。

「アリス、特訓の最終段階だ。

 風呂に入るぞ」

「もしかして、ついに共同作業ですか?」

「そうだ。

 今回は茹で卵を『クレナイの蜜』と想定する。

 そしてアリスが茹で卵に魔力を浸透させたすぐそばで、私がその魔力を浮遊魔法に変化させる」

「つまり、飛ぶ茹で卵、ということですか?

 でもお客さんは集まるかもしれませんが、食べ物で遊ぶな、と怒られるかもしれませんよ?」

 アリスはそう言って飛ぶ茹で卵を想像したのか、少し上を見上げる。

「食べ物で実験するならいいが、遊んでいたら私でもキレるぞ」

「……同じ意味な気がしますが……」

「違う。違うぞ。

 詳しい説明は省くが、魔導研究とただ遊ぶのでは全く次元が違う。

 料理だって研究しないと美味しい食べ物はできないだろ?」

「な、なるほど」

 美味しい食べ物で貫き通せばアリスは簡単に納得するのだから、ちょろいもんだ。

「話を戻すぞ。

 今回は魔法を仕込めればなんでもいいから、わざわざ幻覚魔法を仕込む必要はない。

 それに浮遊魔法なら魔力制御を間違わなければ、天井を突き破る心配もない」

「なるほど。

 でもルシアさん。そんなことを言っていいんですか?」

 アリスは得意気な表情を浮かべ、にや、と笑う。

「な、なんだ?」

 まさかアリスが魔力的な指摘を?

 今の説明に穴があったとでも言うのか?

「それ漫画では、フラグ、って言うんですよ」

 アリスにしては珍しく、一本取ってやった、と言わんばかりの勝ち誇ったような表情で右手人差し指を、ぴん、と立てる。

「……わ、私に限ってそんなことあるはずないだろ……」

 さすがアリスのマンガ脳。そう言う指摘か。

 でも正解なんだよなぁ。

 本当の学生時代にも、私に限ってそんなことはない、と言った直後に研究室を爆破させたことがある。しかも何度も。

 だからアリスの指摘は正しいと言えば正しいのだが、アリスに指摘されるとなんだか悔しい。

 浴室に入るとアリスはいつも通り体を洗うが、私はいつもより入念に、しかも魔法まで駆使して必死に洗う。

 あまりゴシゴシと強く洗うとこの綺麗な肌を痛めてしまうが、今回ばかりは気にしている場合ではない。

 このあと自分で入ったお湯の水質検査を行うのだ。一般基準以上の汚れを検知させるわけにはいかない。

 アリスは洗い終えすでに湯船に浸かっているが、私はアリスの2倍くらいの時間をかけ、可能な限り綺麗な体に仕上げて、いよいよ湯船に浸かり、2人向き合う。

「今回はいつものコロコロではなく、茹で卵を持つ手を私に向かって伸ばしてくれ。そしていつも通りに、リラックスしながら魔力の浸透を。

 私はそれを即座に魔法に変化させていく」

「わかりました」

 アリスは、うんうん、と頷き、言われた通り両手で包んだ茹で卵を私の方に向け、私はその手を包み込むように自分の両手を重ねる。

 アリスの特訓は眼を見張るものがあり、この大きさの茹で卵なら、10分もあれば魔力保有量の上限に達するまでに成長した。

 アリス特有の食べ物効果もあるかもしれないが、それでもさすがは上位魔女。私には到底到達できない領域であり、羨ましい限りだ。

 私が同じことを何時間、何日続けても茹で卵の上限に達することなんてできない。

 丸一日かけて浸透した魔力は少し休んだだけでも減少し、振り出しに戻ってしまう。

 例えるなら、穴の開いたバケツに一生懸命水を入れているようなものか。

 不眠不休で1年も続ければ可能かもしれないが、当然それは現実的ではない。

 本当にアリスと出会えてよかったよ。研究が捗る捗る。

 そんな魔導研究最優先な私だからか、本当の学生時代に友人っぽい人物と一緒に風呂に入った時は、仲良く、きゃっきゃうふふ、をやろうなんてことは微塵も思わなかった。

 アリスの場合はどうだろう?

 ある意味1から面倒をみているので、母性……とは違う気がする。けど、姉妹感でもないような……かといって恋愛感情でもない、と思う。

 ……恋愛なんてしたことないからよくわからないけど。

 可愛いと思ったり、庇護欲を掻き立てられる、なんて場面もあるが、それはなんかペットっぽい感覚、というほうがしっくりくるかも。

 まぁ昔から魔導研究対象者には強く興味を惹かれるから、それが恋愛というのなら私は今、恋をしているのだろう。

「わ、浮いてきました」

 そんなことを考えつつ浮遊魔法を仕込んでいると、程なくして茹で卵が浮き上がり、やがて浴室の天井に、こつん、とぶつかって止まる。

 よし。天井を破壊してないな。

 とりあえず湯船に浸かっての共同作業は成功した。あとは本番一発勝負で『クレナイの蜜』に幻覚魔法を仕込むのみ。

 そしてもう一つ。水質検査のほうだが……もう少し体が温まるまで浸かってから行うことにしようか。

 決して嫌な現実を目の当たりにすることを先延ばしにしているわけではない。

「こうして一緒にお風呂にはいっていると姉妹みたいですよねぇ……」

 アリスは茹で卵が手から離れると肩までしっかり浸かり、顔をとろけさせてそんなことを言い出した。

 ……どう返そうか……

 魔導研究対象者への想いが恋なら『むしろ恋人みたいだろ』と言ってもいいかもしれないが、この後の関係がハッピーになるかドン引きされるか、究極の賭けだ。

 まぁ時代的に同性婚も認められてきて、結婚していた方が何かと優遇される場面もあるが……

「……そうだなぁ……」

 とりあえず無難に答えておいた。

 もう一つ、ペットのネコが湯船に浮かぶ洗面器の中に入って気持ちよさそうにしている場面も思いついたが、ペット扱いとは言わない方がいいだろうな。

 それから20分ほど浸かり、私たちが浸かったお湯を魔導ボトルに入れて、早速水質検査を行う。

 ………………………………

「いたっ!?」

 と、そこへ浴室からアリスの悲鳴が聞こえた。

 多分、浮いていた茹で卵が落ちてきて直撃したんだろうな。

 侵食系魔力で茹で卵内部の魔力を使用して浮いていたので、そのうち落ちてくるから気をつけろ、と、言い忘れてたな。

 それはさておき。結果が出たな。

 …………

 それを見て、私自身、少しの間硬直したのがわかった。

 やはりいくら入念に体を洗ったところで、私のような底辺魔女では……

 いや、正確に言えば飲めないことはないのだ。むしろ『美少女2人の残り湯』なのだから『ありがたくいただけ。そして値段は通常の2倍な』と言いたい。

 それはさておき。

 ……つまり私は『魔力的不純物』だということ……

 いや、汚いとかそういう意味ではない、ということはもちろん理解しているが……言葉的に乙女心が傷つけられた気がするんだよなぁ……

「この茹で卵も美味しいですよ」

 私の乙女心が爆散しそうなタイミングで、バスタオルを巻いたアリスが茹で卵を食べながら出てきた。

「……それはよかったな」

「?」

 アリスは私の悩みなどつゆ知らず。

 本当、羨ましいよ。上位魔女が……

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