理想のサンドイッチ
「魔力制御で料理、か?
例えば」
私はクロワッサンを魔法で横に切り開き、そこへハムとチーズを挟み込む。
「こんな感じか?
この程度なら多少大雑把な魔力制御でも簡単にできるが、魔力が洗練されていないと切り口も雑な感じになる」
「うわぁ、凄いです。簡単にオリジナルサンドイッチができちゃうんですね」
私が適当に作ったサンドイッチに対し、アリスは目を輝かせ尊敬するような眼差しを向ける。
「これぐらいなら魔力制御が上達すれば、アリスでも簡単にできるようになるさ」
アリスの魔力制御特訓の意欲を上げるために簡単な実演を見せたが、この『切る』魔法というのは攻撃魔法に属するので、警察にでも見つかれば連行されかねない。
私ぐらいの魔力制御レベルになれば、このくらいのことは周囲に気づかれないよう行うことができるが、それでも正直ちょっとドキドキする……
「でもそうではないんです。
私の食物魔法はどういわけか、初めからサンドイッチで作られたものを食べれば同じサンドイッチを作れますが……
例えば、ここにあるパンで挟んでサンドイッチ状にしても……」
アリスはそう言いつつ、クロワッサンを折り曲げて、そこにハムとチーズを挟んで食し、直後に食物魔法で今食べた物を作るが、トレイの上にはクロワッサン、ハム、チーズ、と別々に作られてしまう。
「どうしてもサンドイッチ状に作ることができません。
もし魔力制御を勉強して上手くできるようになれば、自分でもオリジナルサンドイッチが作れるようになると思うんです。
例えばそうですね……今回はらーめんをいっぱい食べたので、パンに麺を挟んだものとか、おいしいかもしれませんね。
あ、でも、パンにらーめんを挟むとビチャビチャになってしまいますね」
アリスは将来の展望を語りつつ、てへへ、と笑いながら再び食を進めていく。
「……もちろんできるようになるさ」
「本当ですか!?」
私の断言にアリスは再び目を輝かせる。
「あぁ。長年魔導研究を続けてきた私が言うのだから間違いない」
「わぁ。それだったら私もっと頑張れちゃいます」
魔力制御特訓に意欲を見せるアリスだが……
……とは言ったものの、正直な話、未だ解明されていない食物魔法だ。絶対にできるとは言い切れない。
しかしここで『わからん』と言うのは私のプライドが傷つく。
では、アリスが希望に満ちた表情で食事を進めている間に、改めて食物魔法について考えてみよう。
検証。それは魔導研究者にとっては必須項目。
アリスの食物魔法は『アリスが食べ物と認識して食べた物を幾分の狂いもなく、完璧に同じ物を作り出す魔法』だ。
しかし今回はアリスが作ったサンドイッチが再現されることはなく、別々の食べ物が作り出されてしまっている。
アリスが私をからかったり嘲笑うような行為はしないと思うので、これは私を試すような行為でもないだろう。
そもそも合体させた食べ物を作れないわけではないのだ。
アリスと出会った頃に行った実験では、完成品を見ていれば合体させて作ることができていた。
その時に行った実験は、イチゴとケーキを分けて食べたが、アリスはイチゴのショートケーキという完成品を見ていたので、その二つを合体させてイチゴのショートケーキを作り出すことに成功していた。
ということは可能性の1つとして、アリスの中ではアリスが作った『パンに食材をただ挟んだだけのもの』という食べ物は『サンドイッチとしての完成品ではない』つまり『食べ物として認識していない』ということなのかもしれない。
この仮定が正しいとすると、アリスの意識改革、強く思い込む、自己洗脳などによって、問題は簡単に解決するかもしれない。
となると結論として、アリスがオリジナルサンドイッチを作るために必要なのは、魔力制御と集中力の特訓、となる。
が、ここで出した私の推測教えてもいいのだが……
理由は食欲由来であっても、せっかくアリスが魔力制御に興味を示したのだ。
簡単に正解を教えるのではなく、一生懸命考える努力をする方向で教育していけば、きっとアリスの今後の成長につながるはず。
「だからなアリス。今回の特訓は今後のオリジナルサンドイッチ作りにも役立つものなんだ。
アリスは確かに魔力制御がまだまだ身についていない。
だがやってもらう茹で卵特訓は、静かに落ち着いて1つのものに魔力を集中させる、つまり初級魔力制御特訓としてふさわしいものなんだ。
だからこれに慣れてくれば当然応用も効くようになる。それはつまり、理想のサンドイッチを作れる食物魔法の第一歩となることは間違いない」
とりあえず、まずは目の前の目標に集中させる。
そして魔法に必要な、術式、術式を組み上げた魔導回路、魔法の発動、と順を追ってアリスを教育していけば、アリスの魔力保有量なら理論上どんな魔導回路だって組み上げられるはず。
それは食べ物に限らず、現段階では理想論だけで組み上げた魔術であってもだ。
つまりアリスは好きなものを食べられて嬉しい。私は理想の魔術が手に入って嬉しい。
2人とも嬉しい。
「なるほどぉ。
では特訓を頑張るために、もっともっとエネルギーを蓄えておきますね」
そう言ってアリスは、意気揚々とおかわり3回目に向かうのだった。
やはりアリスの成長には食べ物は不可欠だな。
……でも『何でも』食べさせすぎて、600年前にアリスがモデルとなったと思われる『魂喰いの魔女』をガチのマジで完成させないよう注意にしないと……
ご飯で満足できなくなったら、それはもう手遅れだ。




