衝撃的な発言
朝の身支度を終えて。
アリスは自分では上出来だと思っているようだが、髪には顔を洗ったときに付着したであろう水滴が残っているし、その髪はところどころはねている。それに服の裾も折れ曲がっている。
不慣れもあるのだろうが、アリスの性格がよく出ている。
これを私が指摘して直してもいいのだが、あまりしつこくネチネチと細かいことまで言われると、嫌気がさすかもしれない。
せっかくここまで自分でできるようになったのだ。
ここからは少し様子を見て、だんだん雑になっていくようであれば指摘するし、自分でやっぱりおかしいな、と思うようになれば、それは成長の証だ。
これはあくまで私の主観であり『可愛い』の正解は人それぞれではあるが、アリスの素材は今まで『可愛い可愛い』とチヤホヤされてきた美少女たちが、地に頭をつけて謝罪するレベルだと思っている。
だがアリスはそんな自分の素材の良さに気づくことはなく、雑に扱ってきて600年。
これが敵対する人間ならどうでもいいが、私自身、常に『可愛く』あり続ける努力をしているのだ。ならば私と一緒に行動する以上、アリスにも『可愛く』いてもらう。
押し付けということなかれ。
『乙女は常に可愛く』
これが私の心情だ。
しかしアリスはそんな私の気持ちには全く気づかず、まだまだ花より団子。
今も自分の可愛さなんてどうでもよく、朝食に心奪われ、まるで財宝でも見つけたかのように並べられた、数種類の焼きたてのパンを眺めて目を輝かせている。
そんなアリスがトレイを手に取ると、全ての種類のパンを乱雑にトレイに乗せられるだけ乗せ、パンだけ持ってテーブルに着いた。
「いただきます」
パン好きなのは知っているが、毎度毎度よくそれだけ食べられるな……
「いつも思うが、そんなに大量に持ってこなくても、ここは森の中じゃないんだから、横取りされたりしないぞ?」
「いやぁ、わかってはいるんですけど、どうしても目移りして一番を決められなくて、ついつい手に取っちゃうんです」
この子供のような純粋な眼差し……いやまぁ実際見た目は子供なのだけど……
「体調を悪くしないのなら、やめろとは言わないが」
「大丈夫です。今日も絶好調です」
そう言ってアリスは美味しそうにパンを口に運ぶ。
これで体調を崩して魔力を落とすようなことがあれば、無理矢理にでもバランスのとれた食事を口にねじ込むのだが、確かにアリスの言う通り、いきなり食生活が変わっても体調を崩すどころか絶好調だ。
ちなみに私は、クロワさん2つとサラダにハム、チーズ、小さなお皿にフルーツの盛り合わせ。
「今日はこれから何をするんですか?
やっぱり一日中特訓ですか?」
と、既にトレイに乗せたパンの半分を消滅させたアリスからの質問。
「今日のスケジュール、というか、本番までの基本スケジュールとなるが。
起きたら身支度して朝食。そして一息ついて特訓。
昼前から外出して、昼食はどこかのお店、あるいは気になるものがあればそれを食べてもいい。
そして買い物や情報収拾を済ませてホテルに戻ってくる。
時間にもよるが、早ければ一息ついて特訓。遅ければ夕食後に一息ついて特訓。
それが終わったら就寝だ。
別の予定が入ればそちらを優先するかもしれないが、今の所はこのスケジュール通りに過ごす」
「なるほど。
それで私はお風呂に入るときに茹で卵を持って入る、それだけでいいんですか?」
「この期間中、何か別の案を思いついたときには追加でお願いするかもしれないが、基本的にはそれだけでいい。
あとは日々、魔力制御を行っているという意識をもっていれば、それだけでも特訓になるからな。
それと、何度も繰り返して聞き飽きたかもしれないが、過度な気合を入れる必要はない。
お風呂に入ってリラックスして、自然な形で照明魔術に魔力を注ぐ程度の気持ちでいい。
昨日の結果を見てもアリスには才能があることはわかる。あとは魔力制御の精度を上げられれば、もっと良くなる」
「えへへ。照れちゃいます」
アリスは最後のパンを頬張りながら照れ笑う。
よしよし。アリスの機嫌を良くすることで効果が上昇するの結果は出ている。
隙あらば褒める。
それとは別に、アリスには食物魔法以外の簡単な魔法を覚えさせて、それを常に実行させていれば魔力制御の特訓にはなる。
しかし今回は私も特訓を行うので、ずっとアリスのことばかり見ているわけにもいかない。
だから術式の知識がないアリスに教えるのも時間がかかるし、何より私が見ていないところで間違えて、不安定な術式のまま魔法を使い続けていると、ちょっとした『ズレ』で暴発しかねない。
これは『素人のガチャ術式現象』とも呼ばれる現象で、素人が間違えた術式を元に戻そうと、焦って術式をガチャガチャと適当にいじることで、偶然にも別の術式の魔法を組み上げてしまうことだ。
これが一般人なら、偶然にも大魔法の術式を完成させても魔力不足で発動しないので被害は起こりづらいが、アリスの場合だと大問題に発展する。
アリスはおそらく、理論上どんな魔法でも発動できる魔力を保有しているので、もし魔力が暴発なんてしてしまったら、ここら一帯焼け野原。
原因不明の大爆発。それが魔法によるものだと判明した場合、第二次魔王戦争が起こりかねない。
そんなことになると『どんまい。次頑張ればいいさ』なんて言っている場合ではない。
現代では当時になかった魔導兵器がいくつもある。それを駆使して再び全世界で魔女狩りが行わたら、今度こそ魔女が絶滅しかねない。
アリスにこの最悪の事態を伝えた上で、余計なことはするな、と忠告してもいいのだが、アリスの性格上、余計なことを考えすぎて緊張しすぎてしまい、逆効果になりそうなんだよな。
だから、気合を入れるな、気楽にやれ、と念押ししている。
「ところで、その魔力制御ができるようなると、私もサンドイッチを作れるようになりますか?」
アリスはトレイのパンを平らげ、次はトレイの半分にパン、半分にハム、卵、チーズなどの副菜を山盛りに……
今なんて言った?
もしかしてアリスから魔導関係の質問が出たのか?
もしかして私、まだ寝てる? 夢見てる?
質問の意図もちょっとわかりづらいし……
アリスのそんな予想外の言葉に、私の食事の手がピタリと止まり、朝っぱらから頭の中をフル回転させる。




