アリス学園編・中止
「話は少しそれるが、アリスは学校に通いたいと思うか?」
「いいえ」
……即答かよ……
「先生の話を聞いて、勉強だけしているのが耐えられそうにありません」
アリスらしい答えではあるが……
600年もほぼ1人で過ごしてきたのだ。
そんな少女の境遇を漫画に置き換えるのなら『実は少し憧れもあるんです』という答えが返ってきてもよさそうなのに。
確かにアリスは私の話を聞いている時でも何か食べているし、私が理解できなければ、ぽかん、としているので、学校の授業は肌に合わなさそう。
……自分で質問しておいてなんだが、考えてみれば私の本当の学生時代とは違い周囲は普通の人間ばかりだろうから、仲の良い友達ができれば別れが辛いかもしれない。
アリスは漫画をよく読んでいるから、その中には当然学園ものもあり、甘酸っぱい青春もあれば、出会いと別れもある。
それを思うと『こんなに辛いならもう友人は作らない。1人でいたほうがいい。さようなら』とか言い出しかねない。
私としてもアリスを手放すわけにはいかないので、やはり積極的に『アリス学園編』を行うべきではないな。
あと、アリスみたいな小柄で可愛い美少女が入学してきたら即ファンクラブが設立され、アリスを巡った争いが起きそう。
まぁアリスが『どうしても行ってみたくなりました』と言うのなら止めはしないが。
「それに学校で眠くなる授業を受けるよりも、ルシアさんと食べ物で学んだ方が身につくと思います」
多分、私を信頼しての発言であり、これを聞いた私は感動するべき場面なのだろうけど……
それを聞いて、以前、足し算をするときにパンを2つ作り出して、これが『1+1=2ですよね?』と、若干不安そうに言っていたことを思い出す。
とりあえず卒園。これから初等部レベルの授業かぁ……先が思いやられる……
とはいえ、アリスの主張は正しい部分もあると思う。
魔導関係はもっと積極的に学んで欲しいが、今更学校に通って難しい数式をダラダラ学んで一切頭にはいらないよりも、私が食事に例えた術式を教えた方が万倍効率が良さそうだし実用的でもある。
そう。そこらへんの児童と違うのは、アリスは世界トップの上位魔女だということ。
最新鋭魔導戦艦と同等以上の魔力を有しているのだ。理論上発動可能な術式を覚えさせれば魔力不足に陥ることはない。
そう思えば、例え初等部クラス相当の授業であっても、私としては授業に身が入るというものだ。
それに、アリスの魔法を思えばアリスにとっては食べ物が学問であり、人生そのものだと言え、学校でノートを取るよりはるかに理にかなっている。
「アリスがそれでいいのなら、しばらくはその方向でいこう」
「はい。それでいいと思います」
アリスの返事には一切の迷いがない。
そこまで普通の授業が嫌なのか、別れを考えると辛いのかまではわからないが。
「では特訓の話に戻るが、アリスの茹で卵特訓は本番直前、つまり『クレナイの蜜』に魔力を浸透させる日まで続けてくれ。
繰り返しになるが、特訓中とはいえ特に気合をいれる必要はない。
軽い気持ちで、照明魔術に魔力を使用するぐらい気楽に行ってくれて構わない。
私はその間、隠蔽魔法を見抜かれないための、自然にらーめんを作る特訓を行う」
「ということは、その試作品を食べてもいいんですね?」
アイスを食べ終わったアリスは、それを聞いて目を輝かせる。
「それは構わないが、知っての通り私の料理の腕は普通以下なので味の保証はできないぞ。
それでもよければいくらでも食べて構わないが」
使用するのはどこでも手に入る普通のインスタントらーめんだが、私も下位とはいえ魔女であり、あの筋肉野郎と比べればはるかに魔力は多い。
しかし、いくら魔力制御が完璧であっても料理の腕がそれに追いつかず、不味い方向へ振られる可能性が高い。
とはいえ食べ物を無駄にはしたくない。
そこでクッソ不味い術式料理を個性というアリスに食べてもらえれば無駄にはならないのだが、私の話を聞いて少し迷っているのか、顎に手を当てて珍しく何か考えている模様。
「……つまり、おやつに最適ですね」
「……どう考えても主食だろ?」
考えた末に出てきた答えがそれかよ……
またこの食欲魔女はぶっ飛んだことを言いおったな……主食かおやつかで迷ってたのかよ……
「私もそう思うのですが、ルシアさんは自分でも料理は普通以下と言っていますし、それに特訓中のらーめんです。
術式料理よりは美味しいと思いますが、やはりメイン3食にはちゃんと美味しいものを食べたいな、と」
どんどん食に対して貪欲なっていくな……まぁそれだけ普通の生活ができるようになったことだし、いいことだとは思う。
それにしても、アリスはたまにごく自然に微塵の悪気なく毒を吐くことがあるな……
「でもルシアさんなら特訓などせずに、ばばん、と本番中にでも魔法を使えそうですが、それはできないんですか?」
これが他の上位魔女だと皮肉を言っているように聞こえるのだが、アリスが言うと不思議と私の実力を認めているように聞こえるから不思議だよな。
アリスが自分の実力を認識しておらず、自分は食べ物を作ることしかできない魔女だから、と自分を卑下している部分があるからかもしれないが。
「一応昔、今回とは違うケースであるが、大勢の目の前でバレないように使ったことはある。
しかしその時は料理ではなかったし、今は不正魔力探知魔術も進化しているからな」
「そういえば以前、料理の動画を見ていたら怪しい動作をしていないのに『不正探知』と言って、床が抜けてプールに落ちていました」
アリスは言いつつ、アイスを作り出して2本目を食べ始める。
……やはり何度見ても、即座に同じものを作れるのは異常な能力だと思う。これで自分の魔法は対しことない、って悪気なくいうのだから、聞く人によってはプライドズタズタで再起不能になりそう。
「それはバラエティだから過剰な演出だと思うが、実際、現代の不正魔法探知魔術の制度はかなり高い。
それに普段料理をしていないのに、いきなり本番で大量の料理を作るとなったら、いくら頭ではわかっていても体がついてこず、動きがぎこちなくなってしまうかもしれない。
そこで不審に思った審査員が途中で詳細なチェックでもしたらそこでアウト、即退場だ。
一応、隠蔽魔法も事前に仕込むことも可能だが、先ほども言ったように装填した魔力は徐々に減っていくし、術式を使えないから隠蔽魔法はの使用には持続的な魔力消費が必要となる。
なので今回ばかりはその場の勢いというわけにもいないし、料理の経験も少ないわけだから不審に思われないよう特訓するんだ」
「なるほど、確かに。
普段は外食かお弁当ですし、ルシアさんが何か作ると言ってもお湯を注ぐか魔術で温める姿しか見たことがないので、ルシアさんが華麗に料理をする姿が思い浮かびません」
……今回、アリスの自然毒発生率高いな……
確かに、指摘されなくてもわかってはいたんだよ。私は客観的に見るとズボラな人間だと。
でも仕方長いんだよ。
私は料理をする時間をお金で買っていて、その分の時間を研究に費やしているのだから、魔導研究者としては正しい姿なのだ。
そう仕方がないのだ。うん。
「……だろ。
とは言っても過剰な気合を入れても空回りするだけだから、私もアリスも1ヶ月じっくりと時間をかけて焦らないように特訓するんだ」
「わかりました。私も上手くいくようにがんばります」
それにしても、ちゃんとした料理……今回は不正魔法料理だが……なんていつ振りだったか?
逃亡生活時代はお金もなく、そこらへんの食べられそうなもので、まともではなくても自炊はしていたけど、お金を稼げるようになってからは自炊なんてしなくなったからなぁ……
研究場所確保のために、掃除だけは魔王戦争前からできるけど……
確か20年ぐらい前に、麻痺侵食系魔力を仕込んだ料理を作ったことがあるが、それ以来だったかな?
ちなみにその時は見た目重視のクッソ不味い術式料理だったので食べた人は吹き出していたが、アリスなら何を食べても大丈夫だろう。




