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勝手に魔王認定された魔女は勇者に魔力を奪われたので取り戻すために旅をする~なお500年経っても魔力は戻っていない~  作者: 山岡桃一


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魔女出汁

 アリスが湯船に浸かっている間、私は試作品を作るための準備を行う。

 まずは同じ味の『これぞ勇者! みそらーめん!』という、安価なカップらーめんを2つバッグから取り出す。

 今はお腹も満足しているので、そこから麺を取り出して、液体スープをそれぞれ開封して入れる。

 次に、この部屋にはお湯を沸かすための魔術があるので、まずは水道水を少しカップの中へ入れ、軽くかき混ぜてスープをいただく。

 うん。普通。魔導研究などで忙しい時でも、食事を考える余裕があるとき、たまに食べるカップらーめんとほぼ同じ。

 そして本命のアリス湯。

 ここが最大のポイントだ。

 本来ならアリスの魔力を浸透させただけでは『他人の魔力は自分の魔力として使用できない』という『世界の理』に従ってアリスの魔力を私の魔法として使うことはできない。

 だが浸透させた魔力を『魔導回路』として使用するならそれは魔術であり、もしかすると私の魔力をそこへ通すことができるかもしれない。

 ただこの場合だと、魔力の使用権が一時的に譲渡された形となるので、魔法を維持するためには私の魔力を常に使う必要がある。

 しかも『魔導回路維持』と『仕込んだ魔法の維持』の2つ。

 これによって、アリスが魔力を途切れさせても浸透させた魔力は私によって維持できる、いってみれば『魔力封印』状態となる。

 そのため封印者である私も当然魔力を使用しているので、アリスの魔力を解放しないと自分の魔力も戻ってこない。

 とまぁ、簡単に言えば『私はとても疲れる』ということだ。

 しかし今回の目的のためにはやらなければならない。

 では最初の一歩。これができなければ何も始まらない。

 アリス湯に浸透した魔力を『魔導回路』として使う。

 ……アリスの上手いとは言えない魔力制御なので、魔力を解析しても若干見辛くはあるが……

 いけるか?

 私は慎重に魔力を操作し、アリス湯に幻覚魔法を仕込んでから、スープに適した温度まで沸かして、同じくカップに注ぐ。

 当然実験段階なので、漠然と『先ほど飲んだスープより美味しい気がする』程度で構わない。

 では、いただきます。

 ……うん。先ほどのスープより美味しい気がする。

 よっし! 成功! 私凄いぞ!

 本来なら術式が組まれていないアリス湯に魔力を浸透させることはほぼ不可能に近いが、アリスという上位魔女の飛び抜けた魔力によってアリス湯自体が魔術としての媒体化しており、私によってアリスの魔力を魔法として使うことが可能となっている。

 ……とまぁ、成功ではあるのだが、この手の料理イベントだと魔力検査に長けた審査員や不正判定魔術が設置されているので、このまま出すと間違いなく何か違和感を覚えるはず。

 美味しくはある。だが、何か妙な雑味がある。ちょっと調べてみよう。となった時点でアウトだ。

「……あのう。本当に大丈夫なんでしょうか?」

 アリスは私がアリス湯を飲むところを見て、若干心配そうというか、不安そうな表情を見せる。

 自分の入った湯を飲んだ人を見てドン引きするのではなく、心配するあたりがアリスらしい。

 私だったら、目の前で自分が入っていたお風呂のお湯を美味しく頂かれたのだ。普通なら無条件でドン引きだ。

 だがしかし『これは上位魔女が入った特別なお湯』なんて言われたら、お湯を飲み干したい気持ちに共感してしまうだろう。

 とはいえ、魔導研究者でもないアリス対して正直に『アリスのお湯美味しい』なんて言ったら、流石のアリスもドン引きしてしまうかもしれないから、ちゃんと一般目線の話もしておこう。

「少し言い方が悪いかもしれないが、アリスの魔力が浸透したお湯を計測してみても、異物や毒素のようなもの、わかりやすく言えば、腹を壊しそうな要素は混入していないため、そのまま飲んでも問題ない。

 それよりも、アリスが叩き出したこの数値だ。

 これなら誰もが認める非常に優秀なスープの出汁となる。言ってみれば『魔女系出汁』だな。

 まぁそんな出汁を使っているなんて、公には言えないけどな」

「そう、ですか……それは喜んで良いのか迷いますが……」

 あれ? 褒めると喜ぶアリスなのに、この微妙な表情。

 私としては最大級の賛辞を送ったつもりだったけど、褒め方間違えたかな?

「それはさておき。

 アリス、そろそろ1時間が経つので体調的にちょっときついかもしれないが、最後にもう一度コップにお湯を汲んでくれ」

 アリスの体調は悪そうには見えないが、これが原因で体調を崩させるわけにもいかない。

 時間的にキリもいいので、一度アリスに上がらせ、もう一度アリス湯と茹で卵の魔力を測定する。

「いえ。これぐらいなら問題ありませんよ」

 アリスはそう言って受け取ったコップを沈め、コップと茹で卵と一緒に浴槽から上がる。

「はい。どうぞ」

「ありがとう。

 そういえば、火照った身体に美味しいアイス、と思って用意していたが、まだまだ平気ならアイスはお預けで実験を続けてもいいな」

「いやぁもぉ。身体アッツアツです」

 調子のいいアリスは、即座にバスタオルで身体を包み込み、長い髪の水分をタオルでぱたぱたと拭いていく。

 私も魔女化の前、ちょっと髪を伸ばしてみようかな? と思って長くしたことはあるが、手入れが面倒臭すぎて、結局今の長さに落ち着いたな。

 男どもには長い方が好評だったが、なぜお前らのご機嫌伺いで伸ばしていないといけないのか、と、思ったものだ。

 それはさておき。

 お湯と茹で卵を受け取った私は、二度目の魔力浸透量の計測を行うと、その数値は30分経過時点で測定した数値のほぼ倍の数値を示す。

 この結果に私は、思わずこの場で歓喜の舞でも踊りたいほど、この結果に震えていた。

 私が魔力弾に魔法を瞬時に装填できるのは、それ専用の術式を組んでいるからであり、術式が組まれていない、例えばその辺の石ころに魔法を装填しようとしても、1時間どころか1日経ってやっと可能かどうかだ。

 理由は、魔法が装填できるほどの魔力が石に存在していないから。

 ……まぁその辺の石が魔力盛々の魔導石なら話は別だが……

 それを1時間程度で魔法が装填できる魔力を浸透させるのだから、そりゃ震えるってものだ。

 もちろん、上位魔女であるアリスなら、と期待はしていたが、まさかここまでとは……

 しかもアリスは魔力制御が不得手なのだから、魔力はかなり分散している。

 そのことを考えると、本気で魔力制御を覚えた時、これどうなっちゃうんだ?

 想像しただけで研究者魂が震える。

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