お風呂回・測定開始
「アリス、順調か?」
私も浴室にゴミや埃を持ち込まないよう気をつけるために、きっちり髪をまとめて、今まで出番のなかった白色フリルのついた紺色ビキニを着用して浴室に入る。
これは昨年、海中にある魔導素材を手に入れるために購入したものだが、途中で邪魔が入ってしまい、結局着ることはなかった。
別の機会に海潜る際に着ようかと思っていたが、まさかここで役に立つとは。
まぁ裸の方が余計なゴミが入らないかもしれないが、アリスの目の前ということもあるが、全裸で浴室作業というのはちょっと……
もちろん研究内容によっては恥も外聞も捨てる覚悟はあるが、今はその時ではない。
それはさておき。
今回ホテル選びで重視したのは、大きい部屋に加えて大きい浴室があることだが、お金さえだせば意外と簡単に見つかる。
懸念していたのは、高級ホテルほど予約で埋まっている可能性が高いことだが、今回は『勇者王決定戦』間近だというのに、運良く空き部屋が見つかり、不正することなく予約できた。
そしてこの部屋の浴室は広いことはもちろん、大きな鏡に大きな洗面台が設けられており、作業がしやすい環境となっている。
「順調か、と聞かれると、どうでしょう? としか答えられないのですが……」
アリスはちゃんと言付け通り髪を束ねてタオルを巻き、お湯にその長い髪が浸からないようにしている。
出会った頃は全くこういうことはできなかったのだが、ちゃんと成長しているな。
「それもそうか。
では質問を変えるが、お湯に浸かってから何度か上がったか?」
「いえ。最初に身体を入念に洗ってから入って、それからは出ていません」
となると、私が準備を開始してから浴室に入るまではおよそ30分程度だったので、アリスはおおよそ20分前後くらいはお湯に浸かっていることになる。
「体調はどうだ? 気分が悪くなりそうだったら一度上がっても構わないが」
「大丈夫です。
今日はいつもより身体を洗う時間が長かったので、お湯に浸かっている時間はいつもよりまだ短いですし」
たまにびっくりするぐらい長風呂なこともあるが、のぼせたことは一度もなかったので、このぐらいは平気か。
それにしても、ついこの間までは野生児だったのに、この便利な環境に慣れてしまってはもう戻りたくないだろうな。
問題は、アリスがもっと知識をつけて、独り立ちしたい、と言った時だ。
私はそれを拒否したりするつもりはないが、魔力面でアリスを手放すのはもったいない。
なんとか遠隔でアリスの魔力を使い続けられる魔術を開発したいところだが……現実的にはかなり難しい……
「それならいいが。
では実験の第一段階として、茹で卵を1つくれ」
「はい」
私の手がお湯に触れて結果が乱れないように注意しながら、アリスから茹で卵を1つ受け取り、洗面台でテスターを使って魔力を測定する。
普通に考えると、術式を組んでいない、クレナイのような魔物でもない普通の茹で卵に対し、いくら魔力を送りこんでも瞬間的に魔力が蓄積されることはない。
なのでこの20分程度アリスが手に持っていた茹で卵を検査したところで何一つ期待できないところなのだが……
アリスは上位魔女。それを覆してくれるかもしれない。
私はそれを期待して、茹で卵にテスター棒をぶっ刺して魔力を測定する。
なお、普通の茹で卵を基準1とする。
結果、アリス卵は『1.1』を示す。
つまりアリスの魔力が『0.1』染み込んでいることになる。
これを、たかが『0.1』と思う人もいるかもしれないが、術式が組まれていない、何の変哲もない茹で卵にこの短時間で魔力を染み込ませたことは驚愕の事実である。
この実験は私も行ったことはあるが、魔力を奪われる前の私ですら、術式が組まれていない物体に魔力を染み込ませるためには数日かかったのだ。
それに対してわずか20分程度。やはり上位魔女は魔力の質からして下位魔女とは比べものにならない。
これは期待できる。
「アリス。次はコップ1杯分んお湯を汲んでくれ」
「はい」
私はアリスにコップを渡し、それを受け取ったアリスはお湯を汲み、同じく私はお湯に手を触れないよう受け取る。
そして同じく通常のお湯を1とし、アリス湯にテスター棒を突っ込んで測定する。
結果『1.05』
こちらは卵のように意識的に魔力を使用したわけではないので測定値は卵に劣るが、こちらも私お予想を大きく上回る数字を叩き出している。
考えようによっては魔力制御がうまくできておらず、卵に集中できておらず魔力が分散している、ということでもあるのだが。
ちなみに、私が意識的にお湯に魔力を込める実験を行ったときは、こんなにうまくはいかなかった。
3時間出たり入ったりを繰り返しても測定値は『1』から変わらず、この実験はもうやってられない……と、諦めたのだ。
しかしここまで良い結果が出ると、アリスの身体の一部である髪をお湯に浸けないのはもったいない。
それに今は実験段階だ。やれることはなんでもやるべきだろう。
「ありす。髪もお湯に浸けてくれ」
「え? でも……」
「私が先ほど説明した件は一部訂正だ。
今は実験段階だから、髪の毛入りの測定データも欲しい」
「そういうことなら。わかりました」
アリスがタオルと髪を解くと、アリスの綺麗な白髪が湯船に浸かり染み込んでいく。
……本当に綺麗な髪なんだよな。出会った当時は野生生活だったから汚れてはいたが、ちゃんと風呂に入るようになってからは特に何もせず、この綺麗な髪質となった。
しかし、元は赤色に近い髪色でいつのころから白髪になった、と言っていたな。
アリス自身は全く気にしていないようだが、これも上位魔女、というか、アリスの特異な能力に関係しているのかもしれない。
現状、何をやってもその原因は掴めないのだが……
それはさておき。
この髪の毛入りアリス湯がどのような結果となるか……それを考えただけでも楽しみすぎる……く……くく……
「? ルシアさん?」
アリスは怪訝そうな表情を浮かべるが、私は実験が示す結果を想像すると、喜びの笑みが我慢しきれない。




