勇者の情報
「これは勇者の名に因んだハチマキで、これを巻くと心の奥底から闘志が湧いてくるんだ」
興奮系魔力が装填された魔導衣類の一種だと思えばその効果も理解できるが、なぜアイリスなのかが理解できない。
私が調べた限り、偽名や聞き間違いなどでなければ、狂人変態勇者の名前は『サクラ・キリシマ』であって、アイリスと結びつく要素っがない。
もしかすると私が知らないだけであって『サクラ・キリシマ』は、どこか別の地域では『アイリス』というのかもしれない。
そこは一度製造元を尋ねてみてもいいかもしれないな。もちろん普通の方法では会ってくれないと思うので『準備』は必要となるが。
「他にもあるぞ。これとか」
次に取り出したのは、どデカく『勇者』と書かれたコップ。
うん。これは正真正銘どうでもいい。
「次にコレ」
同じく『勇者』と大きく書かれた扇子。
「……へぇ」
どうでもいいものが出てくるたびに私の興味が削がれていくが、それでも魔導研究者たるもの探求を放棄してはならない。
もしかすると、これは勇者が書き残した勇者のサインを発掘したものから……って、なんで『勇者』ってサインするんだよ!?
そこは自身の名前だろうが!
それに勇者の筆跡を見たことがあるが、こんな達筆ではなかった。
どちらかといえば、というほどでもなく、汚いも次で解読するには少々時間がかかる系の文字だった。
「ちなみに、それはどこで手に入れたんだ?」
「この町にある勇者ショップだ。そこは他の町に比べて品揃えがいいんだぜ」
……ただのお土産の一種……私の思考時間を返して欲しい……
……こうなると聞くだけ無駄かもしれないが……
「その、アイリスにはどういう意味があるんだ? 花の一種ということはわかるのだが」
「オレも詳し口は知らないが、これは他のグッズと違って高価だからか、身に付けると力が湧いてくるんだ。
今ならなんでもできそうな気がする、ってな」
やはり魔導衣類の一種ということで間違いなさそうだが……
力が湧いてくる……
アイリスで力が湧く……
アイリス……アイリス……アイ、リス……アイ、リース……アズレイ・リーズ……
身体強化魔法じゃねーか!
……いやまぁ、勇者のことを少しでも知っていれば辿り着けるアイディア商品かもしれないが、結局私にとってはどうでもいいものに変わりはない。
「……えぇと……グッズの他に、勇者に関するとっておきの情報ってないか?」
ここまでくると期待するだけ愚かかもしれないが、一応聞いてみる。
もう勇者のどんなところに憧れて勇者らーめんをやろうと思った、程度の情報でもいい。
それでも聞いたことがなければ新情報にかわりはないのだから。
「情報か……
オレが調べた限りだと、勇者は実は魔法で身体強化を行っていたらしい」
普通に正解だよ、それ。
正確には魔女から奪い食った魔力で、だが。
一般的には過酷なトレーニングによって、その強さを身につけたとされているが、それは間違った歴史だ。
その事実が年月を重ねるごとに少しずつ曲がっていったのか、元から曲げられたものだったかは、未だ定かになっていない。
私も調べてはいるのだが、なにせ勇者から逃げて100年ほどは勇者が召喚された地には近づきもしなかった。
それに加えて強力な箝口令が敷かれていたようで、真実を知るものが1人も生き残っていないのだ。
「と、言われているが」
ん?
「実際にはやはり過酷なトレーニングと適度な食事によるものだったそうだ」
なーんで正解から外れちゃうかなぁ?
所詮は一般論しか語れない程度のものか。
「ちなみに、勇者はどんな食事をとっていたのだと思う?」
デマと思っていた情報も数集めて繋げれば、私が得ていた情報こそがデマであり、集めたデマが真実になる可能性だってある。
なので少し話を広げてみることにした。
「そりゃあ、みそらーめんよ。
なんと言っても勇者の力の源だ。
まぁ年がら年中同じものを食っていたわけじゃあないと思うが、力の秘密はズバリみそらーめんだな」
まだ理性を保っていた初期段階ならありそうだが、後期勇者となると、主な食事は魔物だった。
これは魔力を奪う意味ではなく、普通の食事としてだ。
当時は魔物を食べるなんて考えもしなかったので、それが力を増幅させる一端となっていた、と考えていた。
しかし時代が進むにつれて、魔物は普通の動植物よりおしいということがわかったが、それと同時に身体を強化させる効果がないこともわかった。
「それと、今回助けてもらったからとっておきの勇者情報を教えるが、これはオレが所属する勇者会のメンバーから聞いた話だから、内密に頼む」
お。今度こそ有力な情報か?
「口はガッチガチに硬いから、それは大丈夫だ」
私がベラベラと喋るような性格なら、魔女狩り全盛時代で人生が終わっていたような気もする。
「それじゃあ教えるが、3ヶ月後、ベイルサイドで大規模な勇者フェスティバルが行われる。
そこでは抽選100人に可動式勇者フィギュアが配布されることになっているが、聞いた話よると、その中の一体に魂を宿した勇者フィギュアがあるらしい」
ここにきて急に面白そうな情報が出てきた。が……
「魂を宿す? 具体的にはどういうことなんだ?」
「そいつは他の可動式と違って、魔力を装填しなくても動き出すらしい、って話だ」
「ふぅん……」
普通に考えると、組み込まれた術式によって周囲の魔力に反応して動き出す、昔で言うところの『呪いの人形』だ。
私も本当の学生時代に『自動人形』なるものを作ってはみたが、試作段階では微妙に動くだけで全く役に立たなかったので、速攻研究を辞めた。
これが上位魔女ともなれば兵器にもなるのだだが、私の魔力ではそれは不可能だった。
その勇者フィギュアも簡単な術式が組まれているだけであって、注目を集めるために作ったのかもしれない。
実際、メンバーだからと言ってそんな貴重な情報を手に入れられるだろうか? 意図して制作者が流して注目を浴びようとしている、と思う方が理にかなっている。
それでも些細な情報で動くのが私だ。
ベイルサイドでは勇者に関する大規模なイベントが定期的に何度も行われているので、何度か足を運んだことはある。
印象としては、勇者を題材とした漫画が多くジャンルも様々で、少年向けや恋愛を中心としたもの、中にはボーイズラブまであった。
その中には想像で書いたもののはずなのに、まるで現地でみてきたかのように、状況がピタリと合うものまで出品されていた。
それを店主に何度聞いても『想像で書いただけ』としか言わなかったので、深く追求しきることもできていない。
ちなみに魔王に関しては、筋骨隆々か男の魔法使い像が多く、女性を魔王にしたものは巨乳でエロ系、あるいは婚姻系に進む展開が多かった。
それはさておき。
これ以上は有力な情報は得られず、適当に話を流しつつ夕食を食べ終わる。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
「おう。今日は助かったよ。ありがとな。
またいつでもきてくれ。何かサービスさせてもらうからよ」
ひとしきり勇者に関する話を終えて赤色筋肉は、満足そうに見送ってくれた。
「わかった」
次は2、30年後ぐらいかもしれないが、そこまで店が持つかな?
そういえば結局、赤色筋肉の名前を聞かなかったけど、別にどうでもいいか。




