情報は大事
「好きなところに座って、ちょっと待っていてくれ」「あぁ」
赤色筋肉の店『元祖勇者みそらーめんレッド』の店内は、カウンター10席、4人がけテーブル席5、2人がけテーブル席5、と、店内はそこそこ広いが、昼間食べたらーめんのようにシンプルで飾り気はない。
閉店後であるため当然他に客はいないので、私阿智は4人がけのテーブルに座る。
そしてテーブルに置かれたメニューを見ても、らーめんは『元祖勇者みそらーめん』のみで、あとはトッピングや一品、らーめんと合わせたセットメニューのみ。
一品メニューも『勇者バンプアップチキン』や『勇者満腹チャーチュー丼』と個性的。
まぁ私個人の意見としては、あまりメニューが多くても迷うだけだし、各地を旅していれば長期滞在でもしない限り二度と来ることはない……30年後とかだと店が潰れているケースもある……ので、看板メニューを迷わず選べるのは好印象だと思う。
「はいよ。おまち」
私が店内を軽く観察している間に、あっという間に賄い料理が完成したようだ。
というか、エプロンぐらい着用しろよ。
いやしかし、筋肉裸エプロンはそれはそれで引いちゃうな……
それでも真っ裸に近い状態よりもマシ、か?
そもそも、女性相手に真っ裸状態が犯罪的すぎてヤバいが、もしかするとここはそういう店であって、確信犯……というより裸が制服なのか?
いや、昼間アリスを助けた時はちゃんと服着てたし。やっぱりわざと見せて私たちの反応を楽しんでるか?
これはもう『勇者王決定戦』が無事終わって賞品を獲得したら通報しておこうか。どうせ二度と会うことはないだろうし。
「わぁ。とてもおいしそうですね。
いただきます」
とはいえ、絵面的にヤバいだけで私もアリスも男の真っ裸を見たぐらいでは『こいつは性犯罪者』と思うだけなので、特に目をそらすこともない。
とりあえずお腹も減っていることだし、私も……
「って、この料理……」
「見ての通り、ウチの賄い料理『力みなぎる勇者の魔王殲滅丼セット』さ」
さもの当然のように言い放つが……
らーめん丼に大きなチキンが蓋をするように乗っており、それを少しずらして中を見てみると、入っていたのはらーめんではなく、丼一杯に一口サイズの角切りチャーシュー丼。
そしてサラダボウルいっぱいのサラダ。
もう見ているだけでお腹いっぱいになりそう……
「あー……作ってもらっておいてんだが……私にはこの量はちょっと……」
「おっとすまねぇ。
ついついいつも通りに作っちまったから、食べられそうになかったら残してもいいぜ」
そうは言うものの、出されたものはクソ不味くなければ全部食べたいところだが……
「アリスは私の半分を追加してもいけるか?」
「はい。余裕です。
残すのももったいないですし、おかわりをする必要もなくなりますし」
さすがアリス。この場面において予想通りの答えは心強い。
「というわけで、半分にしてもらえるだろうか?」
私が魔法を使ってもいいのだが、実力の一端でも見せたくないことと、何より魔力がもったいない。
「おうよ」
赤色筋肉は快く応じ、右手に魔力を込めて私の丼のど真ん中に突っ込み、綺麗に半分に分けると、これまた綺麗にアリスの方の丼に盛り付ける。
一見不衛生に見えるが、真の魔導料理を理解しているのなら、これぐらいはどうということはない。
昼間もこうやって作っていたし、そもそもこの賄い料理を作っている時も調理器具などは一切使っていなかったようだし。
「そういえば、黒ずくめがこの店を狙っていた理由だが、もしかするとここが『現勇者王』の店なのか?
この賄い料理もおいしいし、昼間食べたらーめんからも、もしかして、と思っていたのだが」
もちろんこれはお世辞であり、当然どの店が『現勇者王』なのかは調べているし、そもそもマップを見れば一目でわかる。
私が本当に知りたいのは、私の知らない情報の有無、である。
地域に根付いた店などからは、文献では得られない情報が得られることは意外と多く、こういった地道な活動は結構重要だ。
昔、地元の名士だというおじさんに、ちょっとエロい服装で幻惑侵食系魔力を混入させたお酒を飲ませ、貴重な情報を得たことがある。
そしてそれは後々活きることになった。
しかしこの美少女2人を前にして、照れる様子の一切ないほぼ全裸の筋肉男に色仕掛けが通用するのだろうか?
という疑問があったので、褒めて持ち上げる手段をとってみた。
まぁ私たちの見た目、特にアリスの見た目が幼いので、赤色筋肉の守備範囲外という可能性もあるが。
なお『現勇者王』の店である『秘信山勇者らーめん』には昼間の騒動後に行ってみたのだが、人気店すぎて長蛇の列ができたいたため、他にやることもあったので店に入ることは諦めた。
アリスのように口直しで別のらーめんを食べることが目的ではなく『現勇者王』は次回の『勇者王決定戦』まで所持できる勝者の証『勇者が身につけていたとされる魔導石』が授与される。
それは『この町で一番おいしいらーめん屋』という称号でもあるので、店内に飾っている可能性もあり、繁盛している店内の隙を伺って偽物と交換できれば、と思っていたのだが……
そのためにはまず本物を見て、私の得意な偽造技術で作り上げる必要がある。
もしそれができれば『勇者王決定戦』に出場するという面倒はさけられるから、隙があればまた店を覗いてみることにしよう。
ちなみに『秘信山』というのは、かつて勇者がそこに篭って特訓した場所、という話になっているが、そこは召喚された国からだいぶ離れた国にある場所なので、私はデマだと思っている。
しかし、実際一月ぐらい勇者の足取りがつかめなかった時期があるので、何かが起こったことは間違い無いのだが、どこをどう調べてもその謎が解けないでいる。
そのため、どんな些細なことであっても、例えそれがデマであったとしても、小さな情報の積み重ねをしていきたいのだ。
「それはありがたい勘違いだが、前回、オレはあと一歩のところで負けたんだよ。
だから今、今回こそ負けないように特訓を繰り返しているのさ」
ほぼ全裸でポーズをとる赤色筋肉。
それはなんの特訓なんだい?
と、危うく声に出してしまうところを抑え……下手に質問をして長々と話をされても困る……
「なるほどなるほど。
しかし、本番前の特訓中でこれだけ美味しいものが作れるのだから、今回こそ『勇者王』に君臨しそうだな」
私が優勝すれば他のやつの順位なんてどうでもいいが、実際のところ、この店の料理はかなり美味しいので、前回同様いいところまで行くのではなかろうか。
「おう。ありがてーこと言ってくれるなぁ。
まぁオレも魔導料理だけじゃなく、できるだけ尊敬する勇者に関するものは知識だったり物だったりと、色々手に入れてきたからな」
きた。きたきたきた。それが聞きたかったんだよ。
「ちなみに、どんなものを手に入れたのか教えてもらうことはできるのか?」
「おうよ。まずこれだ」
赤色筋肉が得意そうに言って出したのは、アイリスの花の刺繍が入ったハチマキ……
……クッソどうでもいいのが出てきたな……




