勧誘3人目
「……私……助かっ……た……?」
全身すっぽり黒ずくめで、男女どちらかわからなかったが、声から察するにどうやら女性のようだ。
そう。男か女かわからないのだ。
今までなら『君も貧乳か』程度にしか思わなかったが、最近の流れだとちょっと嫌な予感がする。
しかしそれを確認する前に、まずは恩を売っておく。
「あぁ。もう心配いらないぞ。
私が。私の治療魔法で怪我を治したから、もう大きな痛みはないはずだ」
照明魔法に怪我を治療する効果なんて当然ない。そもそも小衝撃の威力は、非力な私がビンタしたぐらいの威力しかないので、そんなに痛いこともない。
「そ……それはどうもありがとうございました……
…………ところであなた。女性、ですよね?」
治療を受け、無事だと思い込んでいる黒ずくめは、その視線こそ確認できないが、多分私を一瞥してそう口にしたのだと思う。
こんな完璧美少女に対して、女性ですよね? って愚問にも程があるだろ。過去に男の娘と間違われたことはあるが。
当然そいつには、精神的苦痛を伴ったことを理由に慰謝料を請求しておいた。
「その質問、そっくりそのままおまえに返してやろうか?」
これで黒ずくめが『自分、男なんで』とか言ったら、愚問どころから究極ノンデリなその質問に、見る目のないその目ん玉をくり抜いてやるところだが……
「私も歴とした女性ですよ。
そう、あなたと同じです。同士です。
まさか私を助けてくれたのが、あなたのような人とは。これも運命でしょうか……」
運命と言われても気持ち悪いだけだが、属性的に同士であることは今更否定しない。
というかやっぱり、こいつは『巨乳絶滅組織』の人間か。
それで思い出したけど、先日クレナイ収穫のバスで出会った『組織』のあいつ。結局どうなったんだろう?
私たちが帰るまでに姿を見せなかったから、やっぱり餌にされたんだろうけど。
「一応聞いておくが、何が運命なんだ? 私は同性愛者ではないぞ」
なんなら恋愛経験すらない。
素材として魅力を感じたあの感情が恋心というのなら、私は恋多き女ということになるが、こいつが『組織』の人間なら間違いなく勧誘だろう。
それにしても、今までの数百年間で聞いたことのない組織だから、おそらく新興組織なんだろうな。
それでもこの短期間で各地に信者がいるようなので大したものだが、それだけ自分の身体にコンプレックスを抱いている人が多いということなのだろうな。
だが新興となると、具体的な魔術や魔法はまだ完成していないのではないだろうか?
となると、現状魔導研究的にこの『組織』に期待できるものないのかもしれない。
もうちょっと、せめてあと10年くらい泳がせて、町でもこの『組織』の名前を聞くようになってから、忍び込んだほうが良さそうだな。
私もこれ以上成長することはないし、10年後でも余裕で『運命の人』とか言われるだろうし。
「運命。それは当然私たち『持たざる者』が出会うことです。
そして『持たざる者』だからこそ『世界の平等』を実現させる壮大な理念を共有できる組織なのです。
そのためには大量の魔力や様々な魔術が必要となり、その中でも世界に平和をもたらした『勇者に関わるものを手に入れることは最重要事項。
だから今回も『勇者王決定戦』の賞品を得るために、優勝候補の味を盗み、あるいは」材料に仕込みを入れることで、我々の勝利を引き寄せようとしていました」
「なるほど」
まだ今回の目的を問い詰める前なのに、べらべらと喋ってくれて助かるが、現状、様々な魔術を集めている段階、かぁ……
やはりここは慎重に様子を見て、ここ一番で組織に忍び込めば、大量の魔術をえられるかもしれないな……
しかも『勇者』に関わる魔術か……真贋はさておき、想像しただけでもよだれが出る。
それにしても『同士』というだけで、これほどまでに口を軽くさせるとはなぁ。
それだけ『持たざる者の組織』内での結束が硬いということなんだろうけど、違う言い方をすれば、ただの傷の舐め合い、でしかない。
結成した当初はいいかもしれないが、そのうちどんぐりの背比べが勃発するんじゃないか?
私とアリスでいえば、客観的(特に巨乳大好き男)に見れば同じ貧乳でしかないが、細分化すればアリスの方が大きいい。
そのためアリスが私を見下して馬鹿にする、みたいな。
今のところ私とアリスでそのようなことは起きそうにもないが、組織が大きくなればいずれ自壊しそう。
そうなれば集めた魔術を総取りできるかもしれないな……
この『勇者王決定戦』が終わったら、ちょっと考えてみるか。




