アリスの秘密、研究中
ここモールトンは結構大きな町で、その役所のセキュリティは最新のはずだが、私が偽造した『勇者王決定戦』出場申請書類は、受付の男性の目をいともたやすく欺き、すんなり受理された。
もちろん私の卓越した偽造技術もあるが、このお祭り雰囲気にチェック体制も少し気が抜けているような印象を受けた。
飲食系イベントだから特に……というわけではないが、もうちょっとしっかりチェックをしなければ、例えばテロリストなんかには簡単に付け込まれてしまうぞ。
昔、魔物討伐協会が冒険者ギルドと呼ばれていた頃、高位冒険者を名乗ってギルド内の機密情報が盗まれ、大騒ぎになったことがある。
まぁその高位冒険者を名乗ったのは私なのだが。
盗むつもりはなかったんだけどなぁ……同時に別の事件が発生したから持ち去らざるを得なかっただけで。
結果的にその重要機密は『私』が取り戻すことになるという、マッチポンプ。
当然感謝され祝いの席も用意されたが、少しでも怪しまれる前に、早々にその町からは退散した。
それはさておき。
なんやかんやと用事を済ませ、時計を見れば午後9時を少し回ったところ。
「嘘のように静かですね」
「だな」
しばらく滞在するホテルに向かうために駅前に戻ってきたところ、昼間の賑わいが嘘のように静まり返っている。
本来この時間ともなれば、らーめん屋には飲酒後の一杯という客で賑わうはずだが、開いている店がほとんどない。
「多分『勇者王決定戦』も近い上に『勇者みそらーめん』を売りにした観光地だからか、客が店に殺到して売り切れ状態なったんじゃないか?
だから早々に店を閉めた、と。
もしそうだとすれば店にとっては嬉しい悲鳴だろうし、そもそもこの時期は書き入れ時なんだろうな。
それでもまだ開いている店は、これを見越して材料を多めに仕入れていたか、クソまずいかの二択だな」
私の予想は多分当たりのようで、開いている店を見ても特に賑わっている様子もない。
「確かにこのマップをみると、開いている店の評判は若干低いですね」
アリスは街灯の下でマップを広げ、店の評価をチェックする。
「私はホテルのルームサービスを利用するつもりだが、アリスはどうする?
テイクアウトできるか聞いてみるか?」
バタバタと動き回っていたので、途中軽く口にはしたが夕食といえるようなものは食べておらず、ちょっとお腹が空いている。
とはいえ、不人気店に入るには少々躊躇してしまう。美味しくないのはまだいいが、クソまずいとなると損した気分になるし。
それでもアリスが入りたいと言えば付き合うが……
でもアリスってずっと食物魔法を含め、ずっと何か食べていたんだよな……
「そうですね。逆に人気のない味、というのも気になりますし」
「……そうか」
答えは予想した通りのものだった。
さすが食欲魔女……というか、これが『魂喰いの魔女』という、歴代最高クラスの魔女の弱点なのかもしれない。
つまり、極悪なまでの燃費の悪さ。
それを自身の食物魔法や食事で補っている、と。
しかしそれだと、魔力で生成した食物魔法はともかく、普通の食事でも太らない、という謎が残ることになる。
アリスの身長体重体型は定期的にチェックしているが、食べた直後を除けばいつも同じ数値を示すので、常にエネルギーを消費している模様だが一定値以下にもならない。
それに食べない時間が長く、魔力を補給しない状態であっても、空腹で苦しい、魔力不足で体調が悪い、なんてこともないらしい。
やはりアリスは不老不死であり、そもそも食事を摂る必要がないのでは? 体型の維持も魔女かの類似現象だと考えれば……
まだまだ推測の域を出ないアリスの秘密。やはり魔導研究者として研究のやりがいがある。
「あ……ルシアさん……」
「どうした?」
アリスは店に向かうでもなく、何かを発見したのか、小声で私の服の袖を引っ張る。
「あれ、泥棒さんじゃないですか?」
「んん?」
ここは『駅前勇者らーめん通り』というだけあって、勇者らーめんを中心とした飲食店が軒を連ねている。
そうなると当然建物と建物の隙間が狭くなり、夜ともなれば町の灯りはそこには届かず、暗闇となる。
つまり、泥棒に限らず犯罪者にとっては都合の良い場所、というわけだ。
まぁ今の時代ならほとんどの店が防犯用映像記録魔術(通称防犯カメラ)を設置しているとは思うが。
「あそこです」
アリスは指こそ刺さないが、視線を怪しいと思われる隙間に向けたので、私もよーく目をくらして見てみると、黒ずくめの人間のようなものが店内を覗いているような姿が何となく見えた。
……いや、あれをここから見つけるか……
もしかすると、こういうところが今まで無事に生きてこられた理由でもあるのだろうか?
そんなアリスが発見した黒ずくめが覗いているのは『元祖勇者みそらーめんレッド』の看板を掲げている店だ。




