58話 突然
鈴凛さんが僕の太ももに顎をひっかけて本を読んでいると下でチャイムが鳴った。
「……誰だろう」
僕は上の窓から様子を見た、そこには入学早々に鈴凛さんを虐めていた鏑木……奴だった。
「住所まで特定してきて何をしたいんだ……」
僕は敵意をむき出しで玄関を開けた、すると奴は驚いていた。
「えっ、どうして幸がここに!?」
「気安く名前を呼び捨てで言うんじゃあない」
すると鏑木さんの母親が謝ってきた。
「今日は喧嘩しにここに来たわけではないのです、どうか……家の中で話させてください」
おしとやかな雰囲気で鏑木の母親とは思えないぐらいの綺麗さだった。すると騒ぎを聞きつけた恵さんがひょっこりと顔を出してきた。
「なんなの?来客?」
「いや……その……」
「鈴凛さんに謝りたくてここに来ました、これは菓子折りです……」
頭を深々と下げ、菓子折りを出してきた。
「いきなり困ります……アポを取ってもらわないと」
(そこか?今言うのは)
「今すぐ謝りたいんです!」
鏑木さんの母親の気迫に押されたのか恵さんは鈴凛さんを呼んだ。
「鈴凛!今すぐ1階に来なさい!」
そして恵さんは鏑木と鏑木さんの母親を家に上げた。
「どうぞ……粗茶です」
恵さんは丁重に鏑木と鏑木さんの母親を扱っているが、当の本人は本当に申し訳ない気持ちでいっぱいのようだ。
「……どうしたの?」
「ほら、ここに座りなさい」
そうして僕も座らされた。
「まず……入学当初、鈴凛さんに無礼をかけました、風月もすごく反省しているので……申し訳ございませんでした!」
「その事でしたか……仕方ないですよ、この世の中、耳が聞こえないとかは周りの人からしてみれば、何のことだと思うのでしょう……ですけど、イントネーションが変だとか、そう言うのはお門違いじゃあないでしょうか?」
「その事について……お話を聞きたくて」
恵さんは苦虫を噛み潰したように話を続けた。
「……鈴凛は生まれたことは健常でした、ですけど元夫からのDVで耳が聞こえなくなったんです、そこのところ、理解願います」
「はい……」
「それで、何か言い分があるんですか?」
「いいえ……何もないです」
鏑木さんの母親は拳をぎゅっと握っていた、それを恵さんは見逃さなかった。
「……風月さんも、何かを隠しているんですか?」
「は?そんなわけ」
「やめなさい、風月」
「くっ……はい」
「元々、風月は小学校でいじめられていて……それで気の強い子になってしまったんです」
それを聞いた恵さんは少しだけ声に怒気が混じっていた。
「それが鈴凛を虐める理由になるんですか!?それが幸くんを虐める理由になるんですか!?」
それを聞いた鏑木と鏑木さんの母親は黙り込んだ、それに畳みかけるように恵さんは話を続けた。
「いじめは原因があろうとも、理由もあろうとも、決していじめを行ってはいけないんですよ!それに子供を押さえつけてばっかりだと、いつか反発して手に負えなくなりますよ!」
恵さんは鏑木にも何かを諭すように言った。
「今ならまだ間に合うんだ、この子たちと仲良くしてくれないか?」
「……わかった」
鏑木の目には少しだけ涙が流れていた。
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