大成功と劣等感
さて、本日の転生予定者は私にとっては初の女性。坂上という女社長だ。資料によれば若くして起業し、一代で2000人規模の大きさまでに成長させ、また慈善事業にも積極的に取り組んだという実力者。社員からの評判も高い。同じ人の上に立つ女性同士。何も問題は無いと思われた。だが、ここに来る者は癖の強い者が多いらしい。
「だ~か~ら~ そこをどうにか出来るスキル?それを寄越せって言ってるのよ!」
「だ~か~ら~ そんなむちゃくちゃなスキルがあってたまるかってのよ!」
「貴女は神様なんでしょ? どうにかしなさいよ?まったく。勝手に転生とか言われる身にもなりなさいってのよ。それとも貴女は駄目駄目な神様なのかしら?駄女神なのかしら?」
我の強い女性同士だからなのか、最初はうまくいっていたのだが途中からお互いに引っ掛かり、次第に顔がひきつるようになり、ついには口論となった。
「くあ~!どいつもこいつも駄女神駄女神と!!」
「あら、図星なの? はぁ、困ったものね。私にそんな人材を当てるなんて。貴方の方が優秀そうだわ。ねえ、別の神様はいらっしゃらないの?」
「残念ながら。しかし、成長中の注目株… のはずですよ。安心… は出来ないかもですが、私も精一杯サポートさせていただきますので、より良い転生のためにしっかり詰めていきましょう」
「疑問符が多い!」
「ありがとう。というか、貴方も大変ねぇ」
「いえ」
その大変な理由の一つが御自身ということは度外視のようだ。まぁ『要望があれば何でも言ってくれ』と言っておきながら『それは出来ない』の一点張りでは落ち度は女神側にしかないと判断されて仕方のないことではあるのだが。
「いやいや、限度があるでしょうよ。記憶の引き継ぎは全然ありとしても、こっちの財力権力影響力をそのまま持っていきたいとか」
「そのままが無理なら同じレベルの社長の子にでも転生させるとかあるでしょう?少しは考えなさい」
「んな都合よく社長夫妻が子宝に恵まれるか!?」
「なら転生の時期をずらしなさい。縁結びや子宝のの神様にでも頼んで地盤を作りなさい」
やれやれ、これでは転生のために異世界に直接干渉させられることになりかねん。あまり滅茶苦茶な前例を残すことは避けたい。
「う~ん… というかレディ?何故に貴女はそこまで現在の自分に固執するのです?新たな世界で新たな自分で新たな活躍を。それが転生の醍醐味であり、貴女ならば可能なはずでは?」
たしかにアスカの言う通りだ。彼女の転生先は魔王や怪物の暴れる混沌世界ではない。どちらかと言ったら現世に近い世界であり、なんやかんやで一度文明が崩壊し衰退した世界。言ってみれば大戦後の荒廃社会のようなものだ。彼女に求められているのは復興なのである。だから要求を飲むにしても彼女の求めるような会社などあるかどうか。そもそもが無理に近い要求なのだ。それは彼女も理解しているはず。なのにそこまで執着するのは何故なのか。急に黙り込んだ彼女に注目が集まる。
「…無理よ。私がここまでこれたのはね、運。就職活動に失敗し続けて頭にきてヤケになって起業しただけ。失敗したらさっさと死んでこんな人生終わりにしてやるくらいのノリだったのよ。たまたま同じ時期に起業した会社がよければって誘ってくれて、たまたま担当した事業がメディアに取り上げられて大成功して、同僚が開発した製品がたまたま大きなとこの偉い人の目にとまって、会社が大きくなったのもたまたま私のとこに集まってくれた部下が優秀だったおかげなだけで…」
「え?自慢?」
「違うわよ!つまり、私は特別でもなんでもないのよ。最初はヤケで、その後は普通のことを普通にしてただけ。まわりが過剰に盛り上げただけで私は凡人なの。みんながいないと何も出来ないの。だから別の世界で同じように活躍を期待されても無理なのよ。私にはもう、何も無いんだから…」
あまりにも人生がうまく行きすぎたための劣等感。努力以上の結果が次々と降ってきたために、常に不安や欺瞞の心に苛まれてきたのだろう。もし躓いた時、思った結果にならなかった時、大きな失敗になった時、それを取り返せる能力が自分には無いと。その時に周囲はどう反応するのだろうと。彼女の死は彼女にとっては解放であり幸福ですらあったのかもしれない。
「はあ?なにアホなこと言ってんの?」
アーシアがアホみたいな顔で暴言を吐く。
「誰の顔がアホ面か! つーかさ、なんか勘違いしてない?坂上さんが成功したきっかけは運だったかもだけど、あんたのまわりに人が集まってきたのはあんたに人望があったからっしょ? 運が良いだけで人の心は動かせないっしょ」
確かにその通りだ。運が良いだけの人間があそこまで慕われることはあるまい。その運にあやかりたいだけの人間が全員優秀なはずもあるまい。つまるところ、彼女の能力は起業し成功する力ではなく、人望によって優秀な人材を集める力、なのだろう。
「で、でも… でも…」
坂上がたじろぐ。無理もない。だが、アーシアですら既に理解している。後は本人次第。いつ決心をするか。いつ割りきることができるか、だ。
長い沈黙が続いた。その沈黙をアスカが破る。
「ずいぶんとお悩みのようですが、ならいっそ、そういうスキルを貰えばよろしいのでは?」
「へ?」
「つか、あんなハズレスキルでほんとによかったんかね~?」
転生の儀式を済ませた後、アーシアが棒状の菓子をつまんでくねくね揺らしながら呟く。
「ハズレに分類する者は多いが、その進化系はむしろ彼女には必要性は高い。そういう結論に至った上での、だろう?」
「いや、そーなんだけどさ。も少しサービスしたってもよかったんじゃね?みないな」
しばしくねらせた菓子を咥えて一気にポリポリと食べ、そしてふぅと一息つく。
「過剰なサービスの前例を作るのはよくないと思いますよ? そんなことを言い出したら『世界を救ってやるから最初から究極進化版よこせ!』になってしまいます。てか次はそうしてくれ」
「極端!だけどまーそーよねー」
穏やかに話していたアスカの目が一瞬にして座りアーシアがドン引き。そして納得する。というか、私が来た時にやろうとしたことであるのだがな。
「いや、あれはあんたがまどろっこしいから」
「あかんて」
「ま、まぁ未遂で終わった話よ。んなことより次よ次。さあがんばるわよ~」
「まったく」
~20年後~
「久しぶりね。駄女神さん?」
「駄女神言うなし!ったくあいか~らずで安心したわよ~」
「調子、よさそうですね?」
「貴方のアドバイスのおかげね」
坂上は転生後、一般的な家庭へと生まれた。そして平凡ではあるが、様々な出会いの中で多くの仲間を得た。今はその仲間たちと共にボランティア活動をしている。そしてその活動の中でも新たな出会いをし、新たな仲間を増やしていく。出会った人々の才能を引き出しながら。
「僕はアドバイスしただけ。それを最大限に活かしたのは貴女自身です。てか予想以上すぎ」
笑い合う二人。彼女が得たスキルは二つ。その一つは『鑑定』だ。初期状態では物の真贋や価値を知れる程度だが成長を繰り返し進化すると『神眼』になり秘めた能力を見定めることが可能になる。すなわち人の隠された才能を知れるのだ。彼女は持ち前のカリスマ性で集まった人々の才能発掘をしたのである。そしてもう一つのスキルは『早熟』。初期に急成長するパッシブスキルだ。尻すぼみになりがちなのであまり好まれないのだが、彼女はこれを強く所望した。
「さっさと成長したおかげでスキル進化も早かったからね。皆の役に立ててよかったよ」
後ろに見える多くの仲間たちを笑顔で見回す。そして仲間たちも笑顔で返す。内に眠る才能を知れたところで、それを引き出し成長させるのは本人。中には取り扱いが難しいスキルもあっただろう。それを可能にし、それを成した人々が笑顔で傍らに集まり続けているのは彼女の人望の賜物だろう。
「ちょっとおもしろいやつがいてさ、まだまだ机上の空論だがうまく実現出来りゃ世界は変わるぜ?」
本当に楽しそうに笑う元坂上。この分なら何も問題ない。世界の復興も彼女の世代で遂げるだろう。
「いい顔しちゃって」
「それは君のおかげでもある。あの時の啖呵はなかなかいいものだった」
「いやいや~」
「いやいや」
何はともあれ、こうして送り出した者たちの活躍を見るのは気持ちのよいものだ。アーシアも良い女神が様になってきた。それが何よりも喜ばしい。