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再転生の勇者

その男は眉目秀麗、スポーツ万能で知性も高く、優しく厳しくユーモアもあるといういわゆる完璧超人のような人物だった。その魂が強い輝きを放ち、異世界を救うために転生を願われるに至るのは当然のことだろう。

だが、担当した女神に問題があった。本人は自信が持てる程の実力を持ち合わせていなかったのだ。にもかかわらず他人は才能がどうだと持て囃す。言い訳は謙遜だと聞く耳持たれない。努力をしなかったわけではない。その期待に応えようとはした。が、学業は苦手だ。何もわからない。わからないところがわからない。指導を求めるも何を言っているのかわからない。なんて残念な頭だろう。やがて自暴自棄になる。同期だけはそんな彼女を正しく理解し力になろうとしていた。だが、彼女にはその協力をありがたく受け入れる余裕は残っていなかった。

その男が彼女の所に来たのはそんな時。最悪のタイミングだった。彼も女神の言うことが間違いのはずはないと信じて受け入れる。彼女はそんな彼が眩しすぎて気持ちが悪いとさえ思った。彼は早く転生して世界を救いたいと、彼女はさっさと転生させて離れたいと、確認もほどほどに転生は成される。


「後で暇潰しに読んだ資料を見て青ざめたわ。彼の転生先、ちょっと特殊でさ。まぁ簡単に言えば価値観がめちゃくちゃなのよ。美醜とか善悪とか」

「だが、転生なのだから問題無いだろう? 赤子からその価値観の中で成長するのだ。頭のいい人物であれば前世の記憶があっても…」

「もう一つの特殊なとこ。王国が転生を利用した勇者召喚をやっててさ。勇者の因子を持った肉体に勇者足り得る魂を喚び入れるとかなんとか?」

「は?いや、その肉体はどうやって…」

どう用意されるのか。女神は無表情に事務的に淡々と説明する。いつ魔王が誕生し世界に危機が来るかわからないのならば、あらゆる方法で用意する。時にはキメラのように作成したり、時には子孫の魂を無理矢理剥ぎ取ったり、様々な方法が試され様々な形で勇者の器は保存された。と

「善悪の価値観か… キツいな。それでいきなり大人の状態で異世界召喚されてしまったと」

「そ。もはや転生じゃないわ。んで、魔王を名乗る人物も彼の価値観からは討伐すべき悪とは思えず? 国王に食って掛かって? んでも勇者降臨て世間には知れ渡っていて、反逆って噂も直ぐに広まって」

「最初から地獄だな…」

「そこからの旅は… いえ、旅というよりは迫害され追い回される人生か… あーしが遅まきながら気付いて交信したのはそんな時。最初こそはなんとかしなきゃヤバいって頑張ってはみたんだけどね」

大きなため息をついて机に突っ伏す。

「だって普通は成長するまで十年以上は余裕あるじゃん? こっちもいきなり緊急事態で脳ミソ追っ付かないくらいテンパってるし向こうも会話にならないくらいに荒んでるしあーしもマジ泣きの大泣きよ」

今度はふんがーと両手を挙げて怒りだす。

「で、大泣きしてるあーしにプロメたちが気付いてガンダルフ様に報告して、からは前に話した通り。プロメも律儀に状況報告してくれてさ。『フォローはしておいたが相当に恨まれている。必ず再転生して必ず恨みを晴らす、だそうだ』だって」

「どう晴らすつもりなのか考えるのも恐ろしいな」

「再転生のために心を殺して魔王討伐を完遂して、それでも迫害し続ける民には一切手を出さず。そーゆーのが全部あーしに向けられてるわけっしょ?」

「………本当に恐ろしいな」


~数日後~

「アーシアは、女神アーシアはいるかー!?」

「「来た」」

怒号と共に勢いよく扉が開き、勢いで破壊され、バタンと横たわる扉。先日修理したばかりだったのだが… 今度の修理代は自腹か…

「勇者アスベル…」

「その名前で呼ぶな!僕は勇者ライネスだ!いや違う。僕の名前はアスカだ!」

伝説の勇者ライネスの因子を持った肉体に入れられその勇者の名に相応しく生きろと言われたかと思えば、その名にふさわしくないとこれまた伝説級の愚者アスベルの名前を与えられ。俺でもわけがわからず困惑して混乱して自暴自棄になるだろうな。

「僕の中に溜まりに溜まったドス黒い感情の全て!君に余すところなくぶつけてやるぞ!覚悟しろ!」

老衰で亡くなる予定と聞いていたが、随分と見た目が若い。そういえばここに来る魂は全盛期の姿をとるのだったか。自分を含め、自分が来てからは若くして亡くなった人ばかりで忘れていた。

「い、いったいどうする気なの? ドス黒い感情をぶつけるって… ま、まさかあーしにあんなことやこんなことをするの? エロ同人みたいに?エロ同人みたいに!?」

「するかっ!! 何を考えているんだ君は!?」

うん。とりあえずエロ同人路線ではないようだ。そして暴力や拷問でもなさそうだ。なるほど。清廉潔白な完璧超人。プロメテウス殿が落ち着いていたわけだ。つまりこれから行われることは…



「次の町ではいきなり子供が唾を吐きかけてきたんだぞ? 価値観が違うはずなのに迫害方法は同じってどうなんだ? 人助けをしようとすれば侮辱しているのかと怒鳴られ殴られ!」

「うぅ…」

「足を崩すな! 聞く態度が成っていない! 野良猫に餌を与えようとすれば神への冒涜だと石を投げられ、ケンカの仲裁に入れば憲兵に捕まるし」

ドス黒い感情をぶつけるとはすなわち、50年にわたる不遇の人生を延々と正座で聞かせるということ、つまりはお説教だ。何も心配することはなかった。

「粗茶ですが」

「ありがとう… うぅ… 普通にお茶を頂けることがこんなにも嬉しいことだったなんて… うぅ…」

たったお茶の一杯で号泣してしまった。話を聞くだけではわからない苦労がどれほどあったのだろう。自然と膝をついて、肩にポンと手を乗せて、目を合わせて頷いていた。

「ありがとう… ありがとう…」

「さぁ、まだ復習は始まったばかりです。二度と間違いを起こさぬようしっかりと話しましょう!」

「やかましいわよ!てか字が違うでしょ!復讐でしょ?復讐!」

「いや、復習だな」

「僕の負の感情が駄女神の更正に一役買えるなんて嬉しいやら恥ずかしいやら」

「駄女神言うなし!」

何はともあれ、恐れていた事態には至らず、長い長いお説教で済むのは不幸中の幸いだ。いや、ある意味では幸福なことだ。一時は荒んでいたらしいが勇者の人格が如何に規格外に素晴らしかったかがわかる。

「扉の修理代はいずれ必ず」

本当に人格者だ。さて今日の夕飯は何を作ろうか?

「あ、あーしロティサリーチキン!皮が超パリパリのやつがい~」

「お前には聞いてない」

「んがっ!?」

「ろ、ロティサリ? 皮がパリパリ、だと?」

「ヘルシーでとってもおいしーわよ?」

アスカの口元からよだれが垂れる。ダムの貯水率がオーバーしたようだ。

「決まりだな。楽しみに説教を続けてくれ」

「「はーい」」




「あ、説教タイムていつまで許可もらってるん?」

「ああ。気の済むまで続けていいと言われている」

「誰にだ?」

「プロメテウス様だ」

「それ、正確にはガンダルフ様が許可してプロメに伝言させてっしょ。ん~おいしー」

「うん。何十年ぶりの人間らしい食事。いや、最高の食事だ…」

「ありがとう。つまり暫くは転生はせずにここにいるということか」

「うん。すまないが暫く厄介になります」

「ほんとに厄介だわ…」

「延長…」

「うげ」

「なら、参加も可能か」

「あ!おお~」

「ん?何のこと?」

斯くして謀らずとも強力な助っ人を得た?我ら再生チームは大会を快進撃

となるのだろうか?

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