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同期と過去

「はーっはっはっはー!アーシアはいるかっ!? 我が来たぞ!!」

「「……どちら様で?」」

大声と共に勢いよく開き、勢いで破壊され、バタンと横たわる扉。先日アーシアと買い出しに行った時に何故か入口付近に扉が大量に並んでいたが…

「そうよ。こいつがどこでもこれやるからよ」

「はーっはっはっはー!こいつとは他人行儀な!貴様と我の仲ではないかっ!!」

(……どんな仲だ?)

(定型文よ。本題まで無視していいわよ。疲れるだけだから)

詳しく聞かずとも理解した。おそらくはこの目の前の、上半身裸でムッキムキの、いちいち叫んでは合間に筋肉を強調するポーズを取る男が、例の大会でマッスルプログラムをやらかした神なのだろう。

「てゆーか、空気読んでるつもり?こそばなの合間にポーズキメてんな。ふっはって息ウザい!」

「あ、空気読んでの行動だったのか」

「はーっはっは!サービスのつもりだったのだがな!要らぬ世話だったか!」

「ウザいからさっさと要件を言えし!そして修理代払って帰れし!」

アーシアが壊れた扉を指差し怒鳴る。と、神は振り返って扉を見て、そして戻って腰に両手を当てて高笑いした。なるほどウザい。

「なんと言う事はない。もう大会の話は聞いただろう!? 今年は遂に貴様も参加し、密かに研ぎ澄ましていた爪を披露すると専らの噂だ! しかーし!!」

更にデカい声を放つ。アーシアは前もって耳に手を当てており、私もそれを見て直ぐに従ったため無傷で済んだ。

「その唯一のパートナーは人間であり未経験!さすがにこれは不公平!そこで我が直々にマッスル指導をと馳せ参じた次第であーる!!」

「いらない。帰れ」

「はーっは!即決!!」

私としては有難い話だが… この神では果たして鍛練になるのかという疑問しかないな…

「むむうっ!?」

「いや、このキャラを度外視すれば優秀なんよこれで。なんつっても戦争の神だし」

「は?」

聞き捨てならないワードだ。戦争の神?

「人聞きが悪いぞ? 我は力と闘いを司る神!たしかに粛清や間引きのために戦争を起こすことは稀にあるがな!」

力と闘いの神プロメテウス。私の世界の同名の神とは無関係なナルシストとのこと。ということは、アーシアも何かしらを司っているのか?

「当然でしょ?神なんだから。あーしは… なんでしょう?」

突然のクイズタイム。ニヤつく顔が憎たらしい。

「怠惰」

「違うわ!そして憎たらしいとはなんだ! まったくもー」

「アーシアは再生を司る女神である!故に転生の神殿を任されているのだ!」

「なんと!?」

意外な事実に驚きを隠せない。だがアーシアは偉ぶることもなくさらりと卑下する。

「たいしたもんじゃないわよ。ぶっちゃけ、転生なんて魂をちょいといじくって移動させるだけの簡単なお仕事なんだし」

「そんなことはないだろう?」

「うむ!そんなことはないぞ!!魂に触れるとこ、そしてそのちょいといじくることが他の神にとってどれだけ難しいことか!!」

「才能というやつか…」

「才能って言葉きら~い」

ぶすっとして机に突っ伏した。何か問題があっただろうか? たしかに努力を才能と一言で流されるのに納得いかない者は多数いるが、そもそもアーシアは言うほど努力は…

「やかましいわ」

「ちなみに人間!貴様が会った中ではガンダルフ様は全知全能を!イザベルは知と美を司る!」

「ほう」

知と美、か。彼女の性格と合わせて、そこから競技内容の予想は出来るか?アーシアと相談…

「プロメ!要件が済んだならさっさと帰りなさい!ウザったらしい!」

男二人、婦女子の怒号に金縛りにあってしまった。怒りっぽい彼女だが、ガチギレに近い怒り方はなかっただけに本当に驚いた。

「うむ。では邪魔したな。田中よ、我は何時如何なる時でも構わぬぞ?」

一段階音量を落としたプロメテウスが力こぶを見せつつ話す。苦笑いしつつ、見送りにと動くが

「か弱き婦女子ならともかく、我には不要よ。扉は領収書を送ってくれ」

と留めさせられてしまった。

(アーシアをよろしく頼むぞ)

去り際、凡そ彼の物とは思えぬ小声が耳に残る。


「おお!そうだ!忘れておったわ!!」


一瞬の静けさに包まれていた部屋に再びの大声。二人とも耳に直撃してしまい脳が揺れる。


「まさに!貴様がちょいといじくって送っただけの凡夫だが!いよいよ再転生するぞ!?」


強烈な耳鳴りを残して今度こそ立ち去るプロメ。そして大きなダメージを受けて浮かない表情のアーシア。それはもちろん大声によるものだけではないはずだ。再転生者。どんな男だろうか? おそらくは彼女の失態による被害者なのだろうが…

「お察しの通り、最初の頃にあーしがテキトー転生でひどい目にあったやつよ」

机に肘をついて、手に顎を乗せ、視線は真っ直ぐでこちらを見ることもなく、思い出にふけるように語り出す。

「あん時は女神研修が終わって、ここに配属されて間もない時期で、ま~いろいろあって頭ん中がぐちゃぐちゃしててさ。強スキル付与っとけばどーせなんとかなるんでしょ?くらいに思ってて」

はあ~と大きなため息。そして頭を抱える。

「今考えると、なんであんなことしちゃったのか… その後の連絡もめんどくさくなって放置して… んで大問題になって処分を受けて、プロメに管理権を譲渡して…」

まさか私と出会った時はまだまともな状況だったとは予想外だった。しかし、先程のやり取りからは仲間からは疎ましく思われている様子はなかったな。

「プロメも同期でさ。みんなして無駄に守ってくれちゃって。あーしはもーどーしていーかわかんなくて、ふて腐れて引きこもって、もう50年以上前の話しよ」

人間界での会社でもありそうな話しだと思って聞いていたが、さすがに神々。時間の感覚が狂うな。それよりも

「転生のやり直しは不可能。スキル追加付与も違反行為、か…」

ルールブックの一文を思い出した。会社での事なら転職や補償はいくらでも可能だが…

「転生後は神は手出し無用。てか不可能。世界全体にわずかなきっかけを、とか助言くらいは出来るけど、一人だけえこひーきはダメって設定。おまけに自死しちゃったら再転生も不可って決まりがあるじゃない?」

それも見た。魂の力が弱まるとか、使命を投げ出すことはタブーとか。つまり、この度やっと再転生が決まったということは

「しかも、ちょっと特殊な転生になっちゃってさ。勇者として転生したはずが世界から大バッシング。そんな状況で50年。あーしをどれだけ恨んでるのかって…」

「キツいな」

「はあ~」

いっそのこと気の済むまで殴る蹴るが許されればいいのだが、暴力行為は厳罰。いや、それでもいいとやるかもしれないが、止めないわけにもいかない。

「はああ~」

「いろいろ、山積みだな」

「はああああ~」

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