女神二人
こちらの世界にも慣れてきた今日この頃。私の目の前には女神がいる。上司の駄女神ではない。他の、神々しいオーラを纏う力強くも美しい女神がいた。
「アーシアは御在宅かしら?」
そういえばアーシア以外の神を見るのはガンダルフ様以来。同僚?は初の出来事だ。同じ神でもこうも違うのかと呆気にとられる私に、呆れた女神は優しく、少し嫌みったらしく叱る。
「あのこは部下の教育もまともに出来てないのかしら? 相変わらず困ったものねぇ」
ハッと我に返った私は直ぐ様謝罪し、アーシアの元へと案内をする。
「失礼。教育はしっかりしていたようね。いえ、というよりは貴方自身に元々備わった能力かしら」
私の右斜め後ろを歩く女神。視界に入らずともわかるその気品。その神々しさ。我が上司とは女神としての位が違う。何しろ私は応接間に入ると同時に自然と振り返って片膝をついてひれ伏してしまったのだから。
「案内、感謝します。貴方、お名前は?」
「はっ!田中と申します」
「そう。ありがとう田中。下がっていいわよ」
「はっ!」
「じゃないわよ!!田中はあーしの部下よ!?誘惑しないでくんない?」
「あら、私は何もしていないわよ?部下が離れる原因があるとしたら、貴女自身にではなくて?」
「むっきー!!こんの悪女めー!!」
彼女の名はイザベル。二人は同期で同い年だ。本来なら互いに協力して未来の神界を担うはずの二人。らしい。しかし、ズボラな駄女神と自意識過剰完璧主義な悪女(駄女神談)。相性は最悪だ。それでも『こいつとは合わない』と距離を取り続けていれば問題も起きないのだが…
やはり同期だからなのか、何故か一定の間隔でどちらともなく近寄り、ちょっかいを出し、反発し、時には周囲を巻き込んだ一大イベントを巻き起こすらしい。(後日他神談)
(というか、そういうことは最初に言っておいてほしかった。わざとではないと信じていますよ?ガンダルフ様?)
さて、それはさておき。彼女らの恒例行事なのだろう。一通り言い争った後に割り込むタイミングがあったので、直ぐ様割り込み二人を制す。
「差し出がましいようですが、お二方、そろそろお止めくださいませ。貴女様も何か用事があっての御来訪だったのでは?」
アーシアは腰に手を当ててフンと一息。女神は少し驚いたような顔をし、そして口に指を当て微笑む。
「ほんとに優秀な部下ですこと。ねぇ、ほんとにアーシアは見限って私のとこに来る気はない?」
「だ~から誘惑すんなし!」
「あら?意外ね。あのアナタが人間ごときに御執心なんて。そんなにこのこが大事?」
「はあああ!?」
なるほど。途中で上手く止めようとも、次々とちょっかいを出してはぶつかる。それも彼女の方が隙あらば率先して行うのか。これは厄介だ。
「ふふっ」
そう思うと同時に女神が笑う。よもや心を読まれているのではなかろうか。
「じゃあそろそろ本題に入るわ。あの大会、今年も開催するわよ? 今回は…」
何故か一瞬、私の方見た。
「もちろん参加、するわよね? 一矢報いるチャンスですもの」
「言われなくてもそのつもりよ! 一矢どころか二度とナメた口きけないようにギッタギタにしてやんだからね!!」
「あら、それは楽しみですわ」
「てか、なんであんたがわざわざんなこと伝えに来てんのよ?」
「それは私が今回の主宰だからですわ」
「………ぅげ」
先程までの威勢は何処へやら。アーシアは呆れ青ざめ力が抜けた。そして様々な負の感情盛り盛りの顔で彼女を睨んでいた。
「では、ごきげんよう。貴女の参加、楽しみにさておりますわ」
何がなんだかわからないが女神様の帰宅だ。私はアーシアに目配せをし… 軽い舌打ちの後、目を反らされたが… 見送りのために後に付いて走り、そして前に出て扉を開け同行する。
「見送りなんて別にいいのよ?」
「いえ、そういうわけには」
そのまま互いに無言で転送室の前に着く。
「ふふっ、真面目なのね。ねぇ、本当に私のところに来る気はない? 少なくとも、ストレスを過剰に与えることはなくってよ?」
今度は私が「ふふっ」と笑う。「少なくとも」や「過剰に」という時点で私のこともそれなりにいじめるのは確定しているのだから。
「いえ、ありがたいお話しですが。それに私の一存では決められることでは…」
「貴方の意見、いえ、希望が聞きたいのですが?」
少しムッとした表情になるイザベル。私は少し返答に悩む。上司の立場云々もあるが、それ以上に私個人としても仲良くしていきたい、するべき相手だと思うのだから。
「私は生前、ひとつの会社で働き続けていました。そしてそれを、どちらかと言えば幸福に思っていました。性分なんでしょう。おいそれと職場を変えることは、今は望んでおりません」
イザベルは少し残念そうな顔で笑った。
「ほぼ満点の回答ね。でも『今は』だから期待してもいいのかしら?」
「………彼女次第、ですかね?」
今度は二人で笑った。
「ずいぶんと楽しそうだったじゃない」
部屋に戻ると不貞腐れた女神が一人。というよりも
「不貞腐れを理由にだらけているだけ、だよな?」
「バレたか」
うーん、と背伸びをして仕事用の机へと向かう。最近は言われる前に自然と仕事を始めることも多くなったが、今日は彼女の影響もあるか?
「そういえば、大会とは何だ?」
「あ~あれね… 毎年やってる運動会みたいなもんよ。部屋対抗の団体戦。今までは不参加だったんだけどさ」
「ああ、一人しかいなかったからか」
「ぼっちで悪かったわね! だから今回はさ… でもさっきはついあんなこと言っちゃったけど、参加は田中次第よ?」
む?いつになく引き気味だな。ぼっち云々ではなく大会自体に実は出たくない…?
「大会の内容は?」
「毎年主宰の好みで違うけど… はいこれ。去年のプログラム」
「二人三脚パルクールマラソン!? しかもなんだこの途中途中のアトラクションと称した筋トレは?」
「去年は筋肉バカが主宰だったからね~その前は料理対決だったわね」
「まだまともだな」
「食材回収で神同士や幻獣とバトルのが?」
「まともじゃないな…」
さらにその前は?などと聞くことも憚られる。何しろ今年は自分がこの神々の道楽に付き合わされることになるのだから…
「え?出るの?」
「挑発されっぱなしでいいのか?」
「ま、死ぬことはないし」
ニヤリと笑って拳を合わせる。ダークホースが大会を盛り上げてやろうではないか。
「大会は3ヶ月後。協議内容が決まってプログラムが配布されるまで2ヶ月。1ヶ月でどこまで準備が出来るかってとこね」
俺が出ることも考慮している以上、人間には不可能なものにはしないだろうが…
「とりあえず、仕事はなるたけ早く終わらせるべきだろうな」
「よね~(泣)」