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部下と癖《へき》と

少しも予想していなかった。ここに知り合いが、どちらかと言えば使えない部類だった部下と

『生前に、善行が特に多かった者、特別優れた知力体力を持つ者』

がやって来るはずのこの場所で再会することになるなど…


「あれ?あ!もしかして田中さんすか!?え?マジで?え?え?つか、異世界転生てマジあるんだ!

で田中さんいるとかマジウケる!ぱね~」

ああ… まさかと思ったがやっぱりこいつだった。無造作ヘアと言い張る相変わらず寝癖のひどい髪。寝てるのか起きてるのかわからん細目。そして今時の若者もドン引きの何世代か前のチャラい言葉遣い。ほら見ろ。うちの駄女神を。さっそく意気投合してやがる。

「え?なになに?田中の部下だったん?ウケる~

上司と部下、二人して転生とか聞いたことないし」

「マジすか?レア?俺、レア者?ヤッバ!つかやった!これ、俺の時代来ちゃった?死んだけど」

「来ちゃったんじゃね?死んだけど」

ウェーイと互いに手を高く掲げてハイタッチ。何という中身の全く無い会話。無駄な時間。仕事が出来ないわけではないのだが、これのせいでどの部署でも上司と合わず、取引先にも当然受け入れられず、最終的に私の下に押し付けられたという経緯。思い出すと胃が痛くなる。死んでいるのだが。

(というか、なんとかは死ななきゃ直らんと言うが、ついに変わることはかったか。いや、それよりもこいつの何処にそういう才能が… いや、そう考える時点で私の目もまだまだだったということか…)

頭を抱えて、呆れ、巡らせ、自戒する。が、そんな私の気も知らず

「つか田中さん、さっきからどしたんすか?相変わらずノリ悪いっすね。便秘すか?」

「やっぱ相変わらずなんだ。ほんとノリ悪いわよね~そういうのって死んでも直らないのね~」

「っすね~ウケる~」

と笑う二人。なんとも楽しそうに笑っているが、私には某アニメで呪霊二体が主人公を嘲笑していた姿と被って仕方ない。

「私のノリが悪いのではない。お前たちの悪ふざけが過ぎるんだ。まったく…」

深いため息をついて襟を正す私にきょとんとして二人見合って「さあ」とポーズ。本当にこいつらときたら… いかん。ペースが乱されている。相乗効果で口調にも影響が出てきた。さっさと済ませてしまおう。

「さあ、いつまでも無駄話ばかりしてもいられん。転生先だが… 希望はあるか?」

「いやいや、どんな世界があるかもわかんね~のに希望とか言われても」

「よね~ちょっとせっかちすぎ。なになに?部下が来て嬉し恥ずかしドッキドキ?」

あぁ… こちらが何か行動する度にいちいち食いついて掻き乱す… 本当に調子が狂う。

「たしかに知ってる人間が相手というのは不思議な感覚になるな。とはいえ、忖度はしないぞ」

「とか言って~ めっちゃ真剣に考えてたくせに~部下想いなんだかっら~」

「マジすか?照れるっすね~」

「茶化すな。お前と同じでダメダメだから悩みまくっていただけだ。もう遠慮はせん!戸谷とや!死んでからも俺に手間をかけさせるな!俺が選出した候補だ。まずはこれを見て自分に合うか考えろ!それくらいは出来るだろ!」

大喝一声。堪忍袋の緒が完全に切れる前に強く叱り場を引き締める。生前はもう少し穏やかに修正していたはずなのだが…

女神の方を見ると、直ぐ様姿勢を正して視線をそらす。元部下と現上司の一番の違いはここだな。戸谷に見習ってほしいとは思わんが。



さて、小一時間が経った。コーヒーのおかわりに手を伸ばすことも無い程に集中して資料に目を通す戸谷。いつになく真剣な様子に少し嬉しくなる。

「ふ~っは~疲れた~」

緊張の糸が切れたように背伸びをしてテーブルに突っ伏す。そしてコーヒーを一気に飲み干す。忙しないやつだ。ま、今回はしっかり頑張ったようだから別に咎めはしないが。

「で、どうだった?」

「ん~田中さんには悪いんすけど、正直どこもパッとしないっすね~なんつーか、ちょい魅力に欠けるつーか、自分には合わねーつーか…?」

なんとも歯切れが悪い。戸谷の性格上、どんなことでもはっきりと言うはずなのだが…

「そう?あーしも少し見たけど、悪くない感じだったけど?実際会ってみての戸谷っちの印象とも合うじゃんって思ったし?」

「…んすけどね~」

うむ。やはり何かが納得いかないらしい。たぶんどの世界も悪いわけではない。元の世界に未練があるわけでもない。それは間違い無いだろう。だが、どれも決め手に欠ける、そしてそれは決して譲れないのだが口にも出しづらい、といった感じだろうか。人生に於いて大きなウェイトを持つ何か。戸谷の場合は…

生前の姿を思い出す。あまり思い出したいようなことではなかったが仕方ない。これも仕事と割り切り元部下の日常生活を暫し振り返る。


「そういえば、戸谷は動物が好きだったな? 動物園のイベントに有給を取るくらいに。それと関係があるのか? 例えば好きな動物がいないとか」

「うえ!?い、いやいやんなことねーですし?」

「おんやぁ?」

アーシアも気付く程に焦りだす戸谷。どうやら動物関係で間違い無い。

「そ~いや戸谷っち、さっきも種族表のことだけガッツリ見てたけど、もしかして…」

「ちょ!ストップ!タンマタンマ!!」

焦り方が尋常ではない。あの細い目を見開いて…

私はアーシアと見合い、そして互いに頷いた。どうやら同じ結論に達したようだ。

「戸谷、お前、さては」

「戸谷っち、あんたさては」


「「ケモナーだな?」」


戸谷が今にも発火しそうな程に顔を赤くしてプルプルと震えている。何か悪いことをした気もするが、こちらにも事情がある。なによりこいつ自身のためでもある。

「で、何処も『パッとしない』というのは好みの種族がいない、ということでいいのか?」

「ノーマルのあーしが見てもかわいーのいっぱいいるんだけどね~戸谷っち超メンクイ?」

いや、こういうのは前の世界と変わらないはずだ。フォーマットは同じでも個人差が大きく出る。つまりはそういうことではない。もっと根本的な…

「獣人型ではない? もっと人より… いや、逆に四足歩行で人語を解する…」

全て言い終わらないうちに戸谷が壁に頭を打ち付けまくる。正解らしい。なんかすまん…

「あ~そっちに目覚めたタイプのこだったか~言い出しづらいよね~んでも気にすんなし。ニーズがあればシーズもあるんよ。ね、田中?」




広大なる大自然。そこに不似合いな超高度文明の廃墟群。かつて栄華を極めた種は滅び、変わりに彼らの実験により産み出された高い知能を持った獣たちの子孫が生きる世界。今は猿型の一族の長が猿王エンオウを名乗り、超古代文明の遺産を使い世界を支配しようと…

「長いわよ。喋る動物の国で暴れてる猿を人間が懲らしめるって話しっしょ」

「要約し過ぎだ。で、あいつの様子はどうだ?」

「百聞はなんちゃら~」

アーシアが右手を振るうと、向こうの世界と通信が繋がる。空中に浮かぶ画面に戸谷の姿が…

「うわぉ… 絶賛お取り込みちゅ…」

現地住民とイチャイチャしている戸谷。何も知らない人が見れば、飼い犬と過剰にじゃれ合っているとしか思えないだろうが、あいつの性癖を知っている私たちにはなんともはや…

『げ!?ちょ!なに覗いてんすか!?』

「通信が入るのは知っていただろう。まったく…」

「楽しくやってるみたいじゃん?」

『ま~なんとか?猿以上に超古代文明ってやつ?操れるもんだから勇者超えて神扱いっすよ』

鼻の下を伸ばして有頂天ではあるが、体つきも逞しくなっており、しっかりやっているようだ。

「使命も終えて、あとは神として長めの余生か?」

「神サマも楽じゃないわよ~」

「お前が言うな!」

『はは。相変わらずっすね。実は余生の前にちょい目的が出来たんすよ。探し物』

「というと?」

戸谷が隣の犬型の原住民の娘と目を合わせて頷く。

『俺の姿をこいつと同じに変えたくて。遺産の中にそういうこと出来る物があんじゃねーかって』

「そんなのあんの!?」

『わかりません。しかし、伝承の中には姿を自在に変えて世界を駆け回り、そして飛び回った神々の話はあるのです』

と娘が語る。

『ま~やるだけやってみますわ。どーせ他にやること、あんまねーし』

「ふっ。にしてはヤル気満々ないい顔だ」

『あざっす』



「見つかるといいわね~」

「実際、あるのか?そういう機械は」

「さ~てど~だかね~ あーしも資料以上のことは知らんし~」

そう言ってニヤニヤするアーシアを見て、私も少しだけ口角が弛んだ。

「見つけられると、いいな」

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