真・初仕事
「はぁ…そうなんですか…」
ぽっちゃり系のいかにも草食な青年。名前を山田という。簡単な経歴は見たが、これといって特筆すべき能力は無い。普通の青年だ。強いて特徴を言えば大食いということくらいだろうか。さて、一通りの説明はしたが理解してるのかしていないのか。さっきからずっとぼんやりとしている。まぁこんなことを即理解して対応しろと言うのも理不尽ではあるが。
「それを言うなら、田中は適応能力高いわよね。冷静に考えたらあの初対面、正直ドン引きだわ~」
「…否定出来ん」
こんなやり取りもぼんやりと眺めている転生者。これはこちらから話しかけないと話さないタイプか。面倒なことにならねばいいのだが。と嫌な予感がするも、そんなことはお構い無しにぐいぐいといくのが我が上司。
「そんで山田はさ、どんな能力欲しい?さっきのこと、黙ってくれるなら特別サービスで欲しいスキル付けてあげるわよ?」
人差し指を立ててウインク。さすが長命種。サービスの概念が古い。
「黙りなさい!リバイバルブームよ!一周回って需要あるわよ!たぶん」
少し表情は柔らかくなった… 気がする。が、こんなことばかりやっていてもしょうがない。転生についての話しを進めさせてもらうか。
「で、山田は趣味とかないの?」
「お前が聞くのかよ!」
思わず突っ込んでしまった。仕事して悪いかと怒るアーシア。そしてやっと笑う山田。
「息ぴったりですね。会って2日目なんて信じられないです。漫才みたいでおもしろいです」
「面白くしたいわけではないんだがな」
「どーでもいいわよ。そんなの。それよりも転生よ転生!思い入れのある物とか無いの?そーゆーのから特殊スキル発現!とかあるから聞かせてほしいんよね」
驚きだ。体裁を繕わなければここまで積極的に仕事に向かえるのか?いや、見返すとか宣言してたからな。それか?どちらにしろ良い傾向だ。
「特には無い、ですね。あ、趣味とは違うかもですが食べるのは好きです」
少し照れながら話す山田。やはり話しかければ返してはくれるようだ。コミュニケーション能力は及第点といったところか。
「食べること、か。たしかに履歴書には大食いとあったか。料理はしないのか?」
「やってはみたんですけど、逆に食費がかかるのでやめてしまいました」
「あ~物価高ってやつね。聞いたことあるわ」
「あ、いえ。自分の場合は…」
さらに照れながら話す山田。その内容は少し驚きで
「僕、食欲に際限が無いんですよ。本当にいくらでも食べられて。だからいろいろ作って作り置きしてって考えて食材を買ってきても、作った分はついついあるだけ食べてしまって… 外食のが財布に入ってるお金分しか食べられないので逆に節約になって」
「際限無くって、さすがにいつかは腹一杯にはなるだろ?」
「僕も自分の限界を知りたくて食べ放題も何回か行ったことあるんですけど、全部途中でもう帰ってくれって言われて出禁になってしまって。はは」
「食べてる途中で、か?」
「そりゃヤバいわ。てか、なら転生先も考えなきゃね~少なくとも荒廃した世界はね…」
「あ、でも空腹感がすごいとか代謝が悪いとかはないんで…」
アーシアが転生先候補が記載された資料を漁り、例の候補先を除外しようとする。山田は自身の食欲に対して弁解するが、私の考えもアーシアと同じだ。不向きと思われる世界にわざわざ転生させる必要は無い。違う転生先を探すだけだ。しかし、同時に私はひとつの可能性が思い浮かんでいた。
「アーシア、こういった感じのスキルはあるか?」
「ん?ん~あ、あるわね」
「そうか… ならば転生先はここで、与えるスキルはこれとこれで…」
「は?なんでよ?ん?あ!そっか!!」
「え?なになに?なんなんですか??」
こちらが勝手に盛り上がる中、一人放置され不安になる山田。自ら積極的に話すことはなくとも放置は嫌なのだなと苦笑い。それは一先ず置いておき、私のプランを提案させて頂く。
「とまあこんな感じなのだが…」
「ハマれば無双もあるし世界を救える!」
「ダメだったら一転。世界のお荷物、ですか…」
「いや~さすがにギャンブル要素が強すぎよね~大丈夫よ無理しなくても。こーゆーしんどそうなとこはそーゆーのが好きなヤツに任せとくのが一番…」
「あ… ぼ、僕は…」
数週間後
「またサボりか」
アーシアが机を出して読書中。いや、あれはおそらく漫画だな。
「サボり違うわよ~待機よ待機」
「ん? ああ、そういえば今日だったな」
転生した山田の定期報告の日。まともに転生させ、そして現地で活躍している者の報告はやはり楽しみなようだ。
「あ、きたわよ♪」
『あ!女神様!田中さんもお久し振りです!!』
すっかりたくましくなった山田が画面の前にいた。仲間を後ろに、にこやかに話す姿は転生前からは想像がつかない。
『今日はすごい報告があるんです!僕が頂いたスキル『捕食者』と『毒耐性』が進化した『毒吸収』と統合されて、なんやかんやでついに『万物喰者』になったんです!』
「やったじゃない!」
「順調なようだな」
『そして派生スキルも手に入れたのでこれで…』
「だああああ~ほんと~によかったあ~」
二人で机に突っ伏して暫し休む。あの純朴な青年が自分の人生の全てを賭けた大勝負。こんな性格のアーシアでも『失敗』への恐怖は大きかったようだ。そして私も人事のプロとしての責任とプライドがある。不安も倍以上だった。
「全くだ。スキル統合も派生スキルも運が絡むだけに不安でしょうがなかったからな。これで肩の荷が一つ下りたよ」
「てか、ほんとよく思い付いたわよね~あーしじゃ無理だったわ~」
「自分が行かなくてよくはなったが、早く手を打たねば本当に崩壊寸前の世界だったからな。私が行けば救えたわけではないが、責任は感じていたんだ。それでスキルの組み合わせやら何やらいろいろ考えていた。そこに相応しい人間が現れたのは奇跡としか言いようがないな」
彼の向かった世界は、始めに私が押し付けられそうになった世界。魔力の循環が狂い荒廃した世界で、生物を凶暴化させる花粉を放出する花が生まれ、しかもそれは繁殖力がやたら強く田畑を侵食し、雪山や海底にまで蔓延し、世界は風前の灯火。そこに現れた何でも食べることが出来る上に食欲に限界の無い男。オマケに付与した味覚調整という一見不要なザコスキルも相まって毒花を貪り続けた。
そして、その花が魔王によって人工的に生み出された物と突き止めた科学者、その友人であり次期勇者と名高い剣士、帝国から派遣された天才魔法使いに元王国騎士団団長らと出会い…
「勇者一行と出会ったのが大きかったな。勇者の運命改変スキルのおかげでスキル進化がほぼ確定になったからな」
「お仲間の科学者の研究で花が奪ってた魔力も世界に還元可能になったし、あとは魔王を倒したら万々歳ね。っしゃ!」
初の手柄まであと少し。興奮するのも仕方ない。だが、アーシアのことだ。調子に乗ってとんでもない失敗を、も考慮して釘を刺す。
「ま、たしかに魔王退治が一番しんどそうなんだけどさ。だって魔王って実は…」
「ネタバレはやめろ」