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初仕事?

「ふぅ。まあこんなものか。資料が増えたら、その都度棚を追加可能、なのだろう?」

「ええそうよ。追加は随時可能。あと普段は消しといて~使いたい時だけ呼び出す~って感じね。そのスペースはちゃんと確保しとかないとだけど」

それは身をもって体験したばかりだ。なにしろこの大掃除と資料整理。しまい消した棚が汚部屋のせいで呼び出せずから始まったのだから。そしてどうせなら私が使いやすいようにと強制的に資料整理と模様替えをしたわけだ。

「我ながら、いい仕事をした」

「うへ~ な~にいい汗輝かせてキメゼリフかましてんのよ。潔癖エリートのジコマンきっつ~」

いつの間にやらドデカいビーズソファーに体を沈め冷たいドリンクを飲みながらこちらに冷たい視線を送っている我が上司。その怠惰のせいで始まった無駄な時間だと言うのに。

(気楽なもんだな)

逆に冷たい視線を送る。と同時に先程までのことを思い出す。



「次に来るやつの資料?真面目ね~もう準備すんの?まぁいいわ。あーしが楽できんなら。もちろんちゃんと取ってあるわよ。ええ~っとね… ん~とね… あ、そうそうここだわ! ちょっと待ちなさい」

そう言って足元に散乱している雑誌と衣類を蹴り飛ばす。ある程度のスペースが出来ると手を掲げて、おそらくは資料が収めてある本棚的な物を呼び出そうとする。のだが…

「あれ?出ない?なんで?あれ~?ここじゃなかったっけか? あ!そうよそうよ!こっちのは前に腐って壊れたから移動したんだったわ。んであっちにやって… あれ?こっちか?そもそも資料棚って今いくつあったっけ?」

こちらに助けを求める目。昨日今日来たばかりの私が知るはずもない。ふざけているのかと一喝したくなるのを抑える。それにしてもいちいちよく喋る。独りの時もこうだったのかと思うと哀れになるのでそれ以上は考えるのを止めた。

「やるしかないな」

「な、なにをよ…」

「片付けだ。徹底的にやるぞ」

「うへぇ…」

私は何処に何があるのかわからない。故に彼女も動かざるを得ない。最初こそいやいやではあったが、ゴミ袋を用意したり、雑巾を持ってきたり、私物に関してはこれはあちらに片付けてとかこれは自分がやっておくとか、明日は何ゴミの日だと聞く前に言ってきたり、彼女は労働そのものが嫌いというわけではなさそうだ。問題なのは持続力か。

(そういえば昨日会った時も最初は良い女神を演じようとしていたな)

と思い出す。そして張り切って動いた分、燃料が切れるのも早いらしい。なんという燃費の悪さ。「ちょっとひと休み」とその場に座り、からの現在に至る。



「なによ?」

「いや...」

この駄女神をまともにするには、根性論は逆効果なのは明白だ。飽きてだらける前に違う作業に切り替えたり「称賛」などの燃料を随時投入するなどして少しずつ…

「先は長いなと」

「ん?そうでもないわよ。ここまで片付ければ、ほいさ!」

そっちの話ではない、などと余計な突っ込みは入れない。率先して何かをしようとしているのだ。先ずはやらせて、成功すれば褒めて…

(子供か!?)

こちらの脳内問答は意にも介せず、再び手を掲げると、今度こそ隠されていた資料棚たちが次々とその姿を表す。まさに魔法。驚きと感動で… それらよりも大きな怒りと絶望で私は暫く動けなかった。

「………ご、ごめんなさい?」

さっきの話しから嫌な予感はしていた。棚がどうやったら腐るのだと。つまり彼女は、その辺に置ききれなくなったゴミを深く考えずに消していたのだ。『消す』とはいってもそれは視界に映らないように別空間に移動するだけであり、見えない部屋に飛ばすだけのこと。それ即ち、押し入れにオモチャを押し込んで後に雪崩を起こす悪ガキの如し。結果、飲み残しや食べかすからカビやら何やらが発生したりと…

「部長? もちろん貴女もやりますよね?」

私は叫んで殴りたくなる衝動を抑えてなるべく優しく語りかけた。

「も、もちろんであります!ですからなにとぞその拳をおしまいくださいませえ!その顔もやめて~」

駄女神がクッションから飛び下りて土下座し何度も謝罪する。本当に先は長そうだ。


さて、そんな午前の慌ただしさは何処へやら。大掃除を終えて疲れた私たち、もとい私は早めの昼食を取り、長い昼休みに入っていた。というか本当に長い。

「いつもこんなに暇なのか?」

今日は転生予定者が一名の来店?の予定だ。だが、資料を準備して目を通していくつかのスキルプランを用意して… と事前準備はあっという間に終わってしまった。あとは転生者待ちである。

「そうね~だいたい暇よ~田中が手際いいから準備そっこー終わるし。実はあーしらの仕事ってさ、転生後のサポートがメインだったりするしね~」

裏を返せばサポートする人がいないということ。つまりはこの駄女神は今まで誰も転生を…

「駄女神言うなし!何人かは転生させてるし!

てかそもそもさ~転生ってのは~元々の世界にそぐわない?別の世界での活躍が見込まれる…魂?そなんつーか、異質な輝きを放つ魂。それをふさわしいとこに送るってわけじゃん?裏を返せばそんなのがわんさかいたら大変って話しっしょ」

なるほど。言われてみれば確かにそうだ。先ほど読んだ書物によれば、本来、魂は世界という大きな存在から生まれ落ち、肉体が朽ちれば再び世界の中に戻り、その世界の中で輪廻転生を繰り返す。とされている。その枠から外れることは世界の一部が消失すること。それだけでも大変なことだ。

「まーねー世界にとっては大切な子供でもさ~そのまま家に置いてたら?自分がえらい目に合うかもって話しだし。ま、良くも悪くも、異物は外で活躍してもらわないとねって…」

異物。その言葉に少し引っかかった。というか腹が立った。私のいた人事部には投書がよく来た。匿名の異動願いだ。『匿名での異動願い』で察するだろう。つまりは他人を追い出すお願いだ。私が平社員の頃は

「どうせ嫌いなヤツを追い出したいだけだろ」

と上司は笑って取り扱わなかった。その後、何度か投書があっても無視した。結果、その部署の業績は悪化し、異動を願われた人物は心の病を発症して弊社を去る。その部署の上司は業績悪化等の責任を問われて辞した。私の上司も投書を無視していたことが発覚し処分を受けた。私はお咎め無しだったが、あの時しっかりと投書に向き合っていれば、ちゃんと調査して相応しい場所に就かせてあげられていたらと…

「おーい、ちゃんと聞いてる?せっかくあーしが丁寧に説明してんのに~」

私の顔を心配顔で覗き込むアーシア。説明中に思い出にふけり無視したように思わせてしまったことを素直に申し訳なく思う。しかしまあなんというか、間近で見るとさすが女神。本当に顔だけはいい。

「ん、すまない。確かに丁寧な説明だった。言葉遣いは悪かったがな」

「いーのよ。言葉だけきれいでも伝わんなきゃ無意味だし。まだプライベートだから無理せんわよ」

そう言って大あくび。言ってることはそれなりに的を射ているだけに勿体無い。

「だーめだ。真面目に説明したら疲れて眠くなってきたわ。ちょい仮眠」

「おい!ふざけるな!もうすぐで転生者が来るんだぞ?せめて最初だけでもいてくれんと困る!」

「いや~げんかい~ てか最初だけってなによ~あーしがいなくてもやれるってマジで思ってんの?」

「そうは言ってない。休むなら話しを繋いでいるからその間にしてくれ」

「もし専門的なこと聞かれたら~あんた答えられんの~?」

(あの…)

「む、それはそうだが…いやだからといってだな」

「間を繋ぐよりも~?最初から待たせとけばい~のよ~。こっちの事情優先。てきとーでい~のよ。面接なんてそんなもんしょ~?」

「あ“あ“? おい、さすがに今のはカチンときたぞ。下手な妥協案で甘やかそうとすべきではなかった。さっさと立て!身だしなみを整えろ!」

「あんた上司になに偉そーに命令してんのよ!」

「ならばもっと上司らしくだな!」

「あの~?」

「「何!?」」

「わあ!?す、すみません… その、道に迷った…のかな?ここ、何処なんでしょうか?」

「あぁ… やってしまった…」

アホみたいな口論をしてるうちに面接予定者、もとい転生者が来てしまっていた。上が知れば懲罰もあるかもしれない。

「あ~あ、やっちゃったわね~まぁいいわ。下手に演技する必要がなくなってむしろ楽だわ」

「お気楽なもんだ。ま、俺も同罪だからな。バレんことを祈るか」

「え…と…?」


「「ようこそ。転生の神殿へ」」

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