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異世界転生は断固拒否する

あれから二週間が経った。

アーシアとも特段何かあるわけでもなく通常通りに接していた。まぁ、転生後にも多少はやり取りがあるのは知っているのだから、そこまでしんみりする必要もない。逆に今後の業務が大変になると泣きつかれでもしたら厄介だった。彼女の性格上それはないだろうと思ってはいたが。

「田中さん。田中さ~ん」

「あ、はい!」

今は転生に伴い、各部署への手続きを行っている真っ最中だ。それにしても、ここだけでも待たされた時間がおよそ三時間。これで今までで最短なのだから呆れる。判子一つ貰うためにだ。大きなため息を一つ、次の部署へと向かう。


転生を決めて翌々日から引継ぎ業務に入った。資料を整理し、細かな注意事項もアーシアに伝え(ウザがられはしたが)、そこまではよかった。先週から各部署を回っているが、いや、一つ一つ回らざるを得ないようにされているが、だ。無駄に時間がかかっている。人間界でもお役所仕事でたらい回しというのがあったが… もちろん慎重に事を進めねばならない事情はある。何しろ大切な個人情報を扱うのだから雑になってはいけないのだ。しかしながらこれは長すぎる。私が人間だから、神々との時間の感覚が違うから起こっている弊害だろうか。日本人と外国人とでもいろいろ異なるらしいからな。別に急ぎというわけでもないのだ。もう少し心に余裕を持っていかねばだ。転生先でもこういうことがあるか…


『本日の業務は終了致しました』


二度あることは三度ある。てか四度目だ。今週だけでだ。明日?明日は休みだろが。ふざけとんのか?


「で、俺っちを呼んだってか? まったくしゃーねーなー田中っちはー」

イライラを治めるべく酒を飲みに来た。一人では酷いやけ酒になりそうだったのでジュロを呼んだのだが嬉しがってくれてよかった。最初こそ嫌なヤツかと思ったが、その本性は場を盛り上げるのが好きな気のいいヤツで、普段はむしろ陰キャの部類に入るだろう地味キャラだったのがウケた。

(あの姿を見て一気に怒りが消え失せたのだったな)

しかし、今回の怒りはジュロの軽快なトークでも薄まらない。待たされ続けるだけの一週間。効率化を常に考えて働いていた私にはさすがに堪える。例えるならば地獄の刑罰を受け続けているが如く。

「そこまでかよ! でもまぁわかるけどな。俺らでも長すぎね?って思うことあるし」

「思っているのならな! そういうこを進言してだな! 業務の改善をするのがお客様のみならず自分のたらめら…」

「はいはい、もう呂律ヤベえじゃんよ。少し落ち着け」

「落ち着いてきてたら! 一週間がらぞ! ほんじゃらわれ、んとらが…」

「うんうん。だけどほら、神って基本的にユルいから。そうじゃねえとさ、いろいろダメじゃん? その場のノリで一発で決めまくってたら人間も困るじゃん?」

ジョッキをグイグイと飲んで机に叩きつけて叫ぶ。

「心のユルさとひごとのほくだまらへいはらくら…」

「うんうん。俺もちょっと進言してみるよ。一気には無理だろうけど、少しずつ頑張ってみるからさ」

酒に溺れて愚痴る人間と、それを介抱して宥める神。なんともおかしな光景だったろう。とにもかくにも、ジュロのおかげで少しは気が晴れて、そして無事に部屋までは帰ってこれた(らしい)。

「……っ」

「田中~起きてる~?」

「…あぁ、なんとか」

「よかった~かなりヤバかったわよ? ジュロにお礼言っときなよ~」

「だな。了解した」

「あと、そこ、すんごい混むからさっさと行った方がいいわよ?」

「む… もうこんな時間だったか。では、着替え次第行ってくる」

「ん~ご武運を~」



頭が痛い。二日酔いもあるだろう。だが、それ以上に、この雰囲気が良くない。ダラダラと仕事をして一つの作業にかかる時間が無駄に長く、なんならせっかく設置されている整理券も意味を成していない流れ。そして名前を呼ばれるも聞いてはいない客の神々。ここは特に酷い。私が上司なら説教に減給に異動、むしろ左遷を、いやクビにしたいレベルだ。働き方改革クソ食らえだ! なんなら客も一列に正座させて説教したい。

「田中さ~ん」

「む? はい!」

やっと呼ばれた。このイライラともやっとおさらばだ。

「書類に不備があったので、書き直して判子、もらい直して来てくださいね~」

「は?」

「んと次は… 休憩してからでいっか~」

「そうしとけ~」

「俺も休憩にするか~」

「は?」


「おい…」


「おおいっ!!」

「へ?はい?ちょ!?」

完全にブチギレた私はいつの間にか半分机に乗り上げて担当の神の胸ぐらを掴み、睨み付けて低い声で怒りをぶつけていた。らしい。

「俺はなぁ、昨日は門前払いでなぁ、今日も二日酔いで頭が痛え中よぉ、どれだけ待たされたと思う?」

「いや、あの」

「俺をたかが人間とナメてんのかぁ? そういうことじゃねえだろ仕事ってのはよぉ。うちのアーシアですらもう少しまともにやんぞぉあ?」

「あ!アーシア様んとこの!あ!?」

「あ!?じゃねえんだよ。不備だのなんだのその程度の判断はちゃっちゃと出来んだろが! 他の連中もだ!!」

「「ひえっ!?」」

「神の人間とは時間の感覚がとか言い訳してんじゃねえ。無能を性質のせいにするな。やれ! 今すぐにだ! それと!!」

「ひっ!?」

「待ってる連中もよ、人の話はちゃんと聞け。さっさと動け。業務の邪魔をするな。でなきゃ来んじゃねえ!!」

「はいぃ」

と、後日聞いたところによると、凡そこんな感じだったようだ。我を忘れてキレてしまったのであまり覚えていないが、神々に対して盛大に説教をしていたそうだ。そして


「転生は止めだ」


「へ?あの?」


「こんな状態を放置しておちおち転生などしていられるか!! 異動だ!異動届けに変更だ!何処からだ?何処に出す?何処から改正する!?」


とか言っていたそうな…


「じゃないわよ! まったく。まぁなんとなく予想はしてたけどさ」

「してたのかよ」

「神々のユルさ、ナメてたっしょ。運動会でイザベルがキレ気味だった理由、わかった?」

「身をもって」

「はい」

「これは?」

アーシアが一部の書類を差し出す。

「異動届けよ。予想してたって言ったっしょ。異動先は好きに決めなさいな。あーしの推薦状付きだし、優先的に通すように圧力かけとくから」

「圧力か。それはそれで問題なんだがな」

思わず笑いがこぼれる。なんとも用意がいい。本当にあのズボラがここまで成長したものだ。

「やかましいわよ。あと、覚悟しときなさい」

「何をだ?」

「何処に行こうが、何処も大概ゆっる~いわよ。あと、こことの関わりは無くならないからね? 他部署の上司として『適切な対応』をさせて頂きますのでお覚悟を」

ニヤリと笑うアーシア。これは間違いない。宣戦布告というやつである。

「ふふ。ふはははは!面白い!こちらとて容赦はせんぞ!私の本気を貴様に、そしてこの神界に見せてやろう!改革だ!!」

アーシアの発言で私のテンションはマックスだ。

「いや~田中っちよ、いなくならね~のは嬉しいけどよ、お前が行くはずだったこの転生先はど~すんだよ?」

「ふっ、今のアーシアなら2日もあれば適正人物を探し出せる。先んじて各部署に伝達だ」

「それが出来たら苦労しねぇんよ?」

「それが出来るように苦労するのが仕事だ!行くぞ!」

「へいへい。てか、俺っちいつの間に田中っちの部下ポジ?」

ジュロを引き連れて私は次の配属希望先へと向かう

「田中~転生したくなったらいつでもおいでよ~」

「ふん!この不肖田中、まだまだやるべきことがある! 異世界転生は断固拒否する!!」

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