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謁見

「うん。いいよ。問題なし。彼女をよろしくね」


転生の女神の上司、つまりは最高神からの予想外のあっけない一言。ここに来るまで終始ビクビクオドオド、部屋に入るのも暫し躊躇していたのだから拍子抜けにも程がある。かく言う私も「神の仕事をナメるな!」と逆鱗に触れて処されないかと不安もあり、必死にプレゼンを考えていた。故にあまりにもあけっなさ過ぎて駄女神が逆に意見する。

「へ? な、なんで!?ちょっとガンダルフ様!? 少しあっさりしすぎじゃないですか? こういうのって、ほらけっこう大きな問題なんじゃないの?前例もないですよね??」

女神の言葉に先程まで穏やかなお爺ちゃん風だった神様が怒りの表情になる。そして溢れ出る怒りのオーラというヤツか、視線を向けられていない私も恐怖し直立不動になってしまう。

「普通なら、な。だがなアーシアよ、貴様ときたらいつまでもグータラで何一つまともに出来た試しがない。今の仕事もまともな結果を残せとらん。とうとう上からは見捨てられ、同僚からは呆れられ、下からは蔑まれ…」

「そこまでですかー!?」

私もそこまでとは思わなかった。半泣きでわめく女神だが、むしろ泣きたいのは私の方だ。とんでもない事案に足を突っ込んでしまったのではと少し後悔すらし始める。

「過言ではないな。そんな貴様を少しでもまともにしようと手伝ってくれる者が現れたのだ。それが人間であっても、そんな貴重な存在を無下には扱えんだろう」

むしろ私には、厄介事を押し付けられる奴が来たと喜んでいるようにさえ思うのだが?

「そ、そりゃもちろん? 助けてくれる人がいるのは有難いですよ? でもほら~男女が二人でずっと同じ空間にって~ もうわかるでしょ?いやん♪」

「…だそうだが?」

ぶりっ子、と呼んでいいのだろうか。女神の言動に呆れて私に振る神。それにしても表情や態度がコロコロ変わるヤツだ。本当はこの状況を楽しんでいるのではないか? それはさておき、私の答えは昨日と同じである。

「あんな汚部屋の主に欲情する男はおらんでしょ」

本心である。あのような部屋を快適と言っているのだから私にとってはGと同じである。殺虫剤もとい殺女神剤があったら散布してやりたいものだ。神もまた同様だったか、私の言葉に過剰に反応する。

「アーシア!貴様、また性懲りもなく怠惰な生活をしとったのか!!」

「ぎゃああ!!田中!あんた、なにさらっと告げ口してんのよお!?」

立ち上がり怒鳴りいかずちを落とす神に対して背中を見せて逃げ回り、あろうことか人間である私を盾に隠れて丸くなる。哀れだ。それにしても、これだけ騒いでいても警備員的な連中すらやって来ないところを見ると日常茶飯事なのだろう。だが、このままでは私も巻き込まれて黒焦げにならないとも限らない。というか既にアーシアが巻き添えにしてくるに決まっている。それに、あとでネチネチ言われるのも面倒だ。軽くため息をついてガンダルフ様の怒りをおさめようと試みる。

「お気持ちは察しますが今は何卒」

「何を察するのよ!現況作っといて偉そーに!」

「そもそもの現況は貴女自身だ。やれやれ、これではむしろ今まで私にはなかった感情が芽生えやしないか、という心配はありますがね」

「「というと?」」

「殺意」

最高神を前に背中から怒り散らす駄女神を尻目に、その最高神はブフッとふきだし、大笑いし、真顔に戻って私へと歩み寄る。そして神と私は固い握手を交わす。短い時間ではあるが、種族と年齢を超えた友情が殺意よりも先に芽生えのは確かだ。新時代の幕開けである。

「うっさいわよ!二人してあーしを悪者にして!」

「悪者だろう?」

「悪者でなければ愚か者じゃな」

「きいいいい! ムカつく~!ほんっと頭きた!絶対に見返してやりますからね!行くわよ田中!」

組織のトップに対してこのような振る舞い。ユルかった元我が社でもさすがに懲罰モノだぞ…

心配になり振り返ると「頼むぞ」と言わんばかりの優しい目でこちらを見ていた。二人の関係性、よくはわからんが仲が悪いわけではないようだ。むしろその身を案じてくれてすらいるのは間違いない。なのにこの駄女神ときたら…

「駄女神うっさいわよ!あーしにはアーシアという立派で素敵で麗しい名前があるんですからね!部下になる以上、今後はアーシア様とお呼びなさい!」

その名前を汚しているのは他ならぬ自分自身だろうという突っ込みは自重した。

「………では、部長。さっそく明日午後に転生予定者が来訪しますが、転生先候補はお決まりで?」

「部長て!? はぁ…まぁ当面はそれでもいいわ。転生予定者の前で駄女神呼ばれるより遥かマシ」

頭を抱えながら、愚痴りながら歩き、転送部屋に辿り着いた。この部屋は殺風景ではあるが、中央に魔法のパネルが設置されており、それに乗ることで予め設定されている別の部屋へと移動することが可能というものだ。ゲームでよくあるワープ装置と言えば話しが早いか。原動力は魔法なだけに理解は難しいが、その仕組みはなかなかに興味深い。

「んなもんに興味あるとか意味不明なんですけど~

人間の社会のがよっぽど面白い物、そこらに乱雑してるでしょ~ あ、あーし、あのかわいい顔したロボット好き~田中、あれ作れない?」

「作れるか! 設計図に部品に組み立てに、あとプログラムもだな。それぞれの専門家が必要だ。簡単に出来るものではない。というか、神からはそう見えるのか。私のいた世界は魔法があるのかどうかもわからん世界だったからな。電力との違いも…」

「ま~た難しいこと考えて。脳ミソ疲れない? そんな物よりも少しはこっちに興味持てばいいのにぃ」

おそらくは色気で和ませようとしているのだろう。体をくねくねと怪しげな動きをしている。頭が悪くなる前にさっさと戻るとしよう。

「失礼!!あ、ちょっと待ちなさい!少しは欲情しなさいよ!もちろん返り討ちにしてやるんだけど」

「そう言われて欲情する馬鹿がいるか。そもそも好み云々以前の問題で問題外だ」

「むっき~!いつか絶対に泣かせてやるんだから覚悟しときなさい!あ、こら!待ちなさいってば!

た~な~か~!!」

そのいつかが来ないことを祈る。そしてそこまで長くここにいることがないことも…


というか、あまりの駄女神っぷりに思わずサポートを買って出たが、そもそも私は死んでいて転生を先送りしている状況だった。自分に合う転生先も探さねばならない。まさに私の力が試される時、だな。

「職権乱用で取り置きはダメよ?」

「お前が言うな」


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