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シンプルな転生とシンプルなトラブル

「ようこそいらっしゃいました。ここは転生の神殿。貴方は選ばれました…」


名前は佐藤。名前も普通だ。が、その人柄はそこまで普通ではなかった。清廉潔白。聖人君子。明るく優しく、だが時には厳しく。過度な自己犠牲はせず自分も家族も大切にし、そして地域のために尽力した。運動神経もバツグンで若い頃はもちろんマスターズでも活躍していたという。

「で、女にもモテて?でも生涯一人の女性しか愛さなかった?うわ!子供も多っ!?」

「はは。お恥ずかしい。さすがに夢だった家族で野球チーム、は作れませんでしたが」

「家事育児も率先して行われていたようで。まさに男の鏡ですね」

その内容も奥様がうっとりする程のもの。というかずっとラブラブだったらしい。

「んで、奥様を看取って… 子供を庇っての事故死?」

「はい。飛び出した子供をトラックから守ろうと」

「ベタな… っと失礼」

「いやいや。昔なら余裕だったのですが、お恥ずかしいかぎりで。それにしても、あの子供がトラウマを抱えなければ良いのですが…」

資料を確認する。守られた少年のその後、簡単にだが記載されていた。

「怪我もPTSDもなく、むしろ貴方のような人になると息巻いているようですね」

「それはよかった!いや、あまり縛られてほしくもないのですが」

そうは言うものの、やはりそれはそれで嬉しいようだ。照れて頭を掻く姿は若く美しく輝いており、たしかにカリスマ性を纏っていた。

「んじゃ、話進めるわね。この転生はあくまでも転生であって転移ではありません。よって、赤ん坊からやり直しになります。で、前世の記憶は途中で戻ったり戻らなかったりします」

「なるほど。そこは確定ではないのですね」

「戻らないのは稀ですけどね。人によっては予め記憶が目覚める時期を設定することも可能です。貴方の場合は赤ん坊の時点で記憶がある、という設定も可能です」

「ほほぅ」

「記憶の話は一先ず置いておきまして、先ずは転生先についての説明ですが…」



「では、こういう組み合わせは可能ですか? こういうことをしてみたいのですが…」

なかなかに理解が速い。転生先の世界も奇抜な世界ではなく普通… と言っていいのだろうか、よくある剣と魔法の世界だ。魔王が侵攻していて人間の国も腐敗政治があり、というやつだ。それらを正しい方向に導くのが役目である。彼ならば問題無いだろう。そして今はスキルの話。人生経験が豊富だからか、スキルの構築も面白い組み合わせを考える。

「魂のレベルが高いからそこそこのスキルを所有出来ますが、それでもこの全ては無理ですね。いくつかカットしないと…」

「さすがに欲張りすぎましたね。ならば… これと、これと…」

「うん。ぴったり収まったわ。やっぱすごいわねあんた」

「ははは。恐縮です」

綺麗な女神を演じていたはずのアーシアも、つい素が出てしまう程にスムーズに進んだ。おかげで時間が余ったので三人でティータイムとなる。何処に隠し持っていたのか、アーシアがとっておきのやつだと高級な菓子を出してきたので、私もいつもよりお高い紅茶を開封した。

「うはーのろけのろけー胸焼けするわーてか他にもすんごい言い寄られたべ?」

「まぁそれなりには。ですが自分は不器用なので複数同時にお付き合いなどとてもとても」

「不器用じゃなかったらやるんかーい」

「まぁ、そんなことを考えることもなく運命の人に巡り会えたので」

「はーいはいはい。ごちそうさまー てか、田中も転生したら頑張んなさいよ?」

「失礼だな。女性経験が無いわけではないぞ。たしかに死んだ時にはいなかったが」

「うそだ~」

「ははは」



そんなアホな話をして気持ちよく転生となった。他部署の手続きも滞りなく進み無事に転生。向こうでもサポートの必要など無いだろうと思っていた。だが…

「マジか~」

「まさか色に屈してしまうとは…」

モニターに写し出された光景に我が目を疑った。そこには女に囲まれて悪政を強いる領主と結託して贅沢三昧の乱れた姿があった。前世の記憶は転生直後から持ち、前世同様に好青年として成長していた。故に安心してしばらく交信をしていなかったために発覚が遅れてしまった。しかしだ…

「あれ程の人物がこうも簡単に堕ちるとは…」

がっかりというか、ショックだった。自分の人生が間違っていたとまでは思わないが、この人の在り方こそが目指すべき理想の人物像だと…

「田中、うざい。てかあれね。誘惑のスキルにヤられてるわこれ」

「誘惑の?」

そういうスキルがあることは知っている。それについては驚きはない。驚いたのは彼がスキルとはいえ誘惑の術にかかったということだ。

「前世の記憶を持ち合わせて尚このような… うわ!マジか!?うわ… ひでぇ…」

「田中、ショックで口調がヤバい。落ち着けし」

そうは言われてもこれは、なんというか心の整理が追い付かない。信頼する者の裏切りとはこのような感覚なのだろうか。にしてもこれは

「ったく。一回切るわよ」

そう言ってモニターを落とす。真っ暗になった画面には呆れるアーシアと酷い顔の自分が写し出され、そこでやっと我に返る。

「む、すまん」

「ま、しゃーないわ。あーしもアレはショックデカいもん」

「と、あまり悠長なことも言ってられんな。どう対処すべきか。術の解除、いや先ずは交信をして話をするか? 最悪は他の神の助けを…」

「落ち着け~」

「とにかく非常事態だ。ガンダルフ様に報告を」

「だ~から落ち着けっての!」

頭を丸めた資料でスパンと叩かれた。何をするか。この期に及んで上司に報告されるのが恐いというのか。駄女神にも程がある。

「だからマジ一旦落ち着けし。対処不可能だったら助け求めっけど、この程度で慌てんなし。それこそ無能呼ばわりされるわ」

私は驚いた。そこそこに詰みな状況に見えるが故に先手をと思ったのだが、まだ慌てる状況ではないというのか?それとも単なる思い込みか?

「あんた、まだあーしをナメすぎ。一応さ、こーゆー事態も考慮してたりすんのよね~」

そう言って本棚で何かを探す。そして何かを見つけたようだ。

「あったあった。ほれ、このスキル書」

スキルの追加付与か。しかし転生時にはスキルの枠はフルに使ったはずだ。スキルを剥奪するには彼のの力が大きくなりすぎている。アーシア単体での行使は難しいだろう。やはり他の神々の助けが必要になるだろう。

「いやいや、ちゃんと見てみ?」

「バッドスキル辞典?」

「そ。実はガチガチのフルじゃなくてほんの少し空きは残ってるんよ。んで、バッドスキルは枠を物凄く使うやつもあるけど、だいたいは超低コストで地味に邪魔なやつがほとんど。付与は剥奪と違って相手の抵抗も受けないし」

「で、誘惑というバッドステータスな状況に何を追加するんだ?」

「それはね~」

アーシアがページを捲り指差す。

「……なるほど」

「いけそうっしょ?」

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