経過報告
「お?また覗き見か?」
デスクに座り、真剣な顔でモニターを見ているアーシア。あまりに真面目にやっているので少しからかいつつお茶を淹れてやる。
「覗き見とは失礼ね」
アーシアが見ているのは先日転生させた神原たちの状況である。彼らのここでの一連の出来事の記憶は抹消した。が、何がきっかけで記憶の扉が開くかわからない。なので、こうして一方的に監視している方が多いという現状である。
「そういえば聞いてなかったが、仮に記憶が戻った場合はどうなる?」
お茶がお腹を刺激し小腹が空いたのか、言葉には出さずモニターから目を離さずに手で茶菓子を催促する。少々行儀が悪いが仕事熱心なのは良いこと。それに私も欲しくなったので黙って従う
「無いわね。神の力、ナメんなし。これ、マニュアルでやってっことだから。万が一?アイツが神以上の力を得たならワンチャン? んでも、記憶が甦ったとしても、あーしとラミちゃんとで再消去すっし。なんなら存在ごと消すし」
なにやら不穏な単語が出た様な気がしたが… そもそも転生後に神は手出し不可能のはずだが… ともかく問題は無いらしい。うむ。問題なしだ。
「あんたも大概ゆるくなってきたわね」
肩肘をついてこちらを見て、煎餅をパリパリと食べながらニヤニヤと言う。
「かなり侮辱的な言葉なのだが?」
「あーしとしてはかなり褒め称えてるつもりですが? そもそも堅物過ぎてめんどいうざいだった田中がさ、最近は話しが通じるようになって?仕事が捗るってもんですわよ?」
ものすごく侮辱されてる気がする。仕事が捗るならば良しとするか。
しかし、堅物過ぎという言葉には聞き覚えがある。生前に勤めていた会社。良い企業だった。そこの社長に何度か個人的な呑みに誘われたこともあった。その時の記憶…
「田中は人を見る目がある。育てる力もある。お前さんのおかげで我が社の業績がアップしたまである!」
「いえ、そんな… 全ては各々の能力の賜物。そして社長の人望あってのこと」
「ん~つまらんの~」
「え!?」
「お前さん、仕事は出来るがやはり堅物が過ぎる。そんなことではいつまで経っても片腕と呼べるような部下は出来ぬぞ?あと女も」
「しかしながら類は友を呼ぶ、と申します。ならば私にも同じ志を持った部下が集まる、ということもあるのでは…」
実際、面接官を務めた時にはそういう人物を推した。だが、当然そういう人物ばかりが採用ということはなかった。その辺の不満もあったのだろう。あの時の私はその言葉に不機嫌な顔をしてしまった。しかし、あの時の社長は本当にデキの悪い、それでいてこの上なく愛らしい我が子を見るような顔をしていた。そして笑って流して諭してくださった。
「ぶわっはっは! お前、けっこう早熟してるやつだと思っとったが… ぶわっはっは! 歳不相応に未熟じゃな!」
「えっと…」
「単純な話じゃて。お前だって同じだろ?真面目でお堅いだけのユーモアのカケラもない、機械のような人間に好んで着くか? あと女にも」
そう言われて気付いた。私がこの会社を選んだのは私のような堅物の上司がいたからではない。会社説明会、あの時に社長のこの人格に触れたから。そして憧れたから。この人のために、この人の会社のために役に立ちたいと思ったこと。そしてそう思うあまりに、いつの間にかそれを忘れていたこと…
「ユーモアはともかく、ツッコミのセンスはある方と思うけどね~」
人が昔を思い出して物思いに耽っているというのに失礼な事を抜かして引き戻す。腹立たしい。もしかしたらわざとやっているのではないか? そう思うと返す言葉を自然と強くなる。
「だとすれば、お前がツッコミ甲斐のあるボケだということだな」
「誰がボケか!あんたまだ見下してんのか!?」
「いや、本当に見下していたら共に仕事はしていないな」
「えへへ~」
「ふっ…」
「って、なにやらしとんのじゃい! 漫才がしたいわけじゃないんよ!」
漫才まで網羅しているこの女神。やはり人間界の文化が大好きらしい。というかサボって見まくっていたからだろう。それはともかく
「実際のところ、神原たちの現状はどうなのだ? 私はたまに送られてくる資料でしか確認できていないのだが…」
仕事量にムラのあるこの部署。忙しい時はものすごく忙しいのだが、暇な時は本当に誰も来ない。暇な時こそこれまでにあった転生の資料を見て学ぶ。
しかしながら、閲覧自由に資料化されているのは全て終わった過去の事。現在進行形の事案はこの女神アーシアを通してしか知り得ない。いろいろ仕事にツッコミは入れてはいるが、資料作成は転生の女神の重要な仕事。人間である私は全てに関われているわけではない。情報の全てが与えられているわけではないのだ。人間が人間の魂を編纂することはつまりは…
「はいはいクソ真面目! てか、ん~そ~ね~ 田中が予想した通りけっこう早めに神原は魔王になった、までは話したわね。おかげで好き勝手に暴れてた八大災厄の連中もすんなり配下になって世界崩壊は予定通り免れたし。問題は勇者たちね~」
「というと?」
「あいつらさ~さっさと合流したのはいいんだけど、目に入った困ってる人?それ全部助けようとすんのよ。だから全然先に進まない。クソゲーなRPGのプレー動画見されられてる気分!」
「クソゲーのプレー動画を見てる余裕があって何よりだ」
「しまった!? いや、昔の話よ?ダラダラしてた時のことよ?」
しまったと叫んでからの言い訳とは、ボケているのか本当に呆けているのか…
「誰が呆けか! こちとら現役!若くてピチピチの美女神様じゃい!」
「言葉選びに既に老いを感じるが、まあいい。それで、介入の必要は有りそうなのか?」
「老いだとくそこら! ん、とりま介入の必要は無い程度の誤差ね。寄り道で新たな力や武具、知識や技能は習得してるから全くの無駄ではないし。ただ、寄り道が過ぎるってのがね。ほら、寿命的な?」
確かに人間の寿命、そして全盛期というものを考えればさっさと先に進んでもらいたいという思いは理解出来る。というか…
「あのグータラ女神が人間時間で物事を見られるようになったとはな…」
「バカにひすぎ!ほわはちゃっぱらひ!」
「物を口に入れて叫ぶな!今のは俺が悪かった」
まったく。成長しているんだかいないんだか。手渡したタオルで口元を拭くアーシアと、テーブルを拭いて片付ける私。遥か年上はずなのに時折子供の面倒を見ているような気持ちになる。
「ついに子供扱いかよ」
「伸び代があるということだ。頑張ってくれ」
「ったく。ナマイキなんだから。ん? なんかメッセージきたわ」
「む?珍しいな」
普段は担当官が書類を持ってやって来る。それが確実だからだ。こと、アーシアの場合はメッセージを送ったところで未読スルーがデフォだったせいでもあるのだが。
「認められつつある、ということか?まさか…」
「異常に驚くなし! てか、中身は普通に転生依頼ね。転生者も普通」
私も見せてもらう。確かに普通だ。あまりにも普通。だからこそ万が一未読スルーされても問題が少なそうな事案でお試しということか!と納得する。
「だから異常に納得すんなし! てかさ」
「うむ」
「「普通過ぎて恐い」」
声が揃ったことで顔を見合わせて大笑いしてしまった。なにしろ個性的な転生者があまりにも多かった。それだけに、普通に優秀な人間が普通にやって来るのは逆に珍しくなってしまった。むしろ異常事態とすら思ってしまったのだ。仕方ない。
「さ~て、気を抜かずにがんばりましょうかね」
「気を引き締めて、ではなくか?」
「しっかり締めてたっしょ!」
「だな。失礼」
田中の転生補佐官として最後の転生者がやって来る




