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第1話『Serial killer』 <20>

 管制官のサポートを得られないことはよくわかった。こうなったら僕とアルペジオ、二人でこの難局を乗り切るしかない。

 魔法の使えない僕にできることは、アルペジオを消耗させないように余計な戦闘を回避すること。そして、僕自身が戦うことだ。

 僕自身が戦うと言っても徒手空拳で魔法生命体ゴーレムと渡り合えるとは思えない。身を守る唯一の武器は警察官の象徴の一つ、拳銃だ。


 ニューナンブM60。日本の警察官が装備する拳銃の代表格である。

 ミネベアミツミ社製の回転式拳銃で1960年から日本警察の主力武器として採用されている。S&Wスミス・アンド・ウェッソン社のリボルバーを参考に開発された5発装填の38口径。警察庁以外にも皇宮警察や厚生省麻薬取締官、海上保安庁などでも採用されたモデルである。かく言う魔法捜査官の僕も、このニューナンブM60を携行している。しかし、よもや実戦でこれを使用することになろうとは。


「おや? どうしたのですか、捜査官殿。そんな物騒なものを取り出して」


 こんな小さな拳銃よりもよほど物騒な魔法を使用できるアルペジオが、目を見開いて大げさに両手を上げて降参のポーズをしてみせる。


「僕も戦います」


「おやおや。捜査官殿は存外武闘派でしたか」


「そういうわけではありませんが、これ以上あなたが消耗しないようにするには僕も戦うしかないでしょう」


「うーん。お気持ちは大変ありがたいのですが、それはあまり得策とは言えませんねぇ」


「どうしてですか? 魔法生命体ゴーレムには銃弾が効かないとか……?」


「いえ。CODEデスはともかく、魔法生命体ゴーレムやCODEレッドには銃弾は有効ですよ。もちろん、生身の人間である魔法使いにもね」


「だったら――」


「捜査官殿は射撃の腕に自信がおありで?」


「一応、警察学校時代の成績はトップでした」


「おお、それは素晴らしい。ですが、捜査官殿。実戦では相手は止まってくれているわけではありませんし、反撃もしてきます。ましてや相手は魔法使いや魔法生命体ゴーレムです。銃弾を静止させたり、弾き返したり、溶かしたりするかもしれない。下手をすれば、弾を無駄撃ちしたうえに銃声で敵を呼び寄せることにもなりかねません」


 アルペジオの畳みかけるような正論にぐぅの音も出ない。止まっている的に命中させるのと、動いている生物に命中させるのとでは、実戦で射撃したことがない僕でも想像はつく。 その上、銃弾すらも弾き返す魔法を使ってくる可能性まであるとあっては、もはや手も足も出ない。


「もっと言わせていただくなら……、捜査官殿が所有している弾の数は5発だけでしょう」


「それは……。……はい」


 日本の警察官が発砲することは極めて稀である。そのため、海外の治安の悪い国の警察官のように予備の弾倉を持ち合わせてはいないのだ。


「……わかりました。拳銃を使用するのは、どうしても必要な場合、しかも確実に相手にダメージを与えられると確信できたときに限定することにします」


「そうしてください。できればそのときが来ないことを願っていますし、そのときが来るまでは私が捜査官殿の銃となり盾となり、お守りしますよ」


 疲労の色を隠しきれていないことにも気づかず、アルペジオがニコリと笑ってウインクして見せる。

 元はと言えば、彼の消耗が心配だから拳銃の使用を決心したのに、諫められたうえに僕の銃となり盾となり守るとまで言われてしまった。僕が女性だったら、ここで惚れてしまうに違いない。

 自分よりも他人を優先するのは簡単ではない。思えば被害者の父親に殴られた場面でも、彼は避けようとしなかった。それは自分の身体よりも被害者遺族の心情を慮った結果だったのではないか。


 魔法使いは怪物と言われている。

 確かに彼らの持つ能力は脅威であり、怪物と呼ぶに相応しいかもしれない。しかし、その能力は使う人間次第で恐ろしい武器にもなれば、平和をもたらす盾にもなり得る。

 怪物の中にも人間と心を通わせることができる心優しい怪物だっているはずだ。そして、この相棒がそうであると僕は信じている。

次回更新は来週金曜日12:00を予定しています。

どうぞお楽しみに。

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