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女主人公の世界で見守り隊  作者: 枝垂れ桜
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第1話 初めまして異世界

物心がついた年を皆は覚えているだろうか?俺の記憶の最も古い記憶はお母さんと一緒に練習した蝶々結びだ。


長い紐を足にくくりつけ、せっせと練習したのを覚えている。


そんな昔の記憶をなにかの拍子にふと思い出すことがよくある。それは、夜の枕の上であったり、缶コーヒーに口をつけた時だったり。


俺は畑仕事をしているときに思い出した。あーそういえば前世の記憶あるわ、と。


布団の上で見るバイト先からの電話履歴を見ながら思い出すような感覚だった


心臓がいきなりバクバクと音を立て始める。数学のテスト答案を回収してるときのような感覚。


休み時間に確認すると案の定計算ミスをしていることに気付き、絶望するのは最早お約束と言って良いだろう。


俺が転生したここは剣と魔法の世界。そして時代錯誤もいいところの中世くらいだ。そして中世というと、日本において平安や戦国時代あたりである。


なるほどだから、あの手の物語にはサムライがよく出てくるのか!


中世あたりに転生する物語を読むと高い確率で、極東の国からやってきた刀を持つヒロインが登場するのだが…あれはしっかりと時間軸的に筋が通っていることに驚く。


そんなわけで、ぬるりと前世を思い出して、遅刻したバイト先の店長に絞られるときのように今の自分を受け入れた。


前世を思い出したからと言って、気を失ったり、いきなりの頭痛に襲われたり、なんてことにはなかった。


それに関しては本当にありがたい。いくら転生を成し遂げた身といえども、痛いのは勘弁だ。


俺は別にM気質なわけではない。痛みを快感に昇格させるような特殊機能は特段持ち合わせていないのだ。


それに、今はまだ畑を耕している真っ最中である。今日中のノルマをこなせていない俺は、さっさとタスクを片付けなければいけない。


でも、ノルマをこなせないからと言って上司にどやされることもなければ、営業で契約をとれなかったがために、口うるさく人格否定じんかくひていされることもない。


しかし、今後の自分たちの食料事情に大きくかかわってくることだろう。


ある意味厳しいな…中世時代。


「お? 珍しいな、シアン。いつもみたいに遊びに行っているのかと思ってたぜ?」


後ろから声を掛けられたと思ったら、何歳くらいだろう?とにかく俺より一回りも二回りも大きな、人が話しかけてくる。


毎回疑問に感じていることなのだが、外見から年を判断するなんてことができるのだろうか?


いつも、その手の物語を読むと転生した直後に、何歳くらいの美少女が~とか、何歳くらいの妙齢の美女などという描写を見かけるが…少なくとも俺は年齢を外見から判断するなんて無理だ。


書類などで親の年齢をちらりと見る機会が時々あるが、へ~年取ったな、くらいしか感情が湧いてこない。


それと同じ理論で、人の身長も分かるはずがない。

実際、人に会っても、でかい、同じ、小さいの、使い古された〇ッチのマ〇コくらいがばがばな物差ししか持ち合わせていない俺は、相手が何センチかなんて日常生活で考えたことなんてない。


あ? もちろん身長の話だぞ? 決して雄ザルの下半身に汚らしくぶら下がってるお団子の事じゃないからね?


俺のような量産型人間は、身長の高いイケメンを見て劣等感を抱き、でも実際に比べなければ負けていないなどとシュレディンガーのネッコを誤用して精神を保つのだ。


そうやって、くだらない思考の海に沈んでいると、心配したように声が掛けられる。


「お~い、シアン?どうしたボ~として具合でも悪いのか?」

「え?あ、あぁ。ごめんなさい。考え事してた。」

「お、そうか~、シアンはかしこいな~」


なにが賢いのかはよく分からないが、褒められることは大歓迎だ。とりあえず受けとっておこう。


しかし、こうやって話すということは、俺の父親ということだろうか?この小さな頭を回転させて次は記憶の海に潜る。


どうやら父親であってるらしい。


「お父さんは何をしていたの?」


シアンが持ってる薄っすらとした記憶を思い出してみると、こんな感じで呼んでたはず。


「父さんは、狩りをしてきたぞ。今日は、肉が食べられるから、お手伝い頑張りなさい」


そう言って、俺の頭をなでると隣の畑を耕しに行ってしまった。


ここで少し雑談をするのだが、中世の結婚年齢は大体12歳から15歳だ。そしてその後、すぐに俺が生まれたと仮定するならば、今の俺の年齢である7歳を足して、20歳前半ということになる。


・・・別に賢いと言われて、嬉しかったわけではないことをここに明記しておく。判断はできないが推測は出来るのだ。

僕賢いから…


いつまで引っ張るんだよこの話題…



さて、俺は異世界転生という超常的出来事に遭遇した訳だが…ここがなんの世界であるかに関しては分からずじまいだ。


鬱に溢れた世界なのか、それともコメディーに溢れた世界か


「ここが、どのような世界であるかは、結構重要だよな…」


なんせ、これからの身の振り方を考えなければいけない。しかし、この世界には魔法が存在しているようなので、タイムリープであるとは考えずらい。


「そのうちわかるか…未来の俺に任せよ」


さすがに、そろそろ農作業を再開しないとまずい。日が暮れそうだ


俺はいったん考えることを止め、作業に集中し始めた。







§








この世界に、来てから2か月くらいたった。その間にいろいろと情報をかき集めてみたところ、転生してきた世界が判明した。


なんとこれは原作がラノベである世界だった。その題名は忘れてしまったが、主人公が女主人公で、王道ものであったと記憶している。


主人公の名前はハツネ、どこにでもいる村の平民の女の子であるといった設定だった。


そして、ある日、溢れかえった魔物の群れに村が襲われてしまい、唯一残った生き残りが彼女であるという設定もある。


つまり何が言いたいかというと、ラノベの表紙でよく見かけた人物。水色髪の、平凡な村でこれでもかというくらい顔が整っていて、名前をハツネと呼ばれている女の子が存在するこの村に将来はないということである。


こんな酷い余命宣告があってたまるかと、思わず笑いがこぼれる。

実際の話、医師とは余命宣告なんてしないらしい。どのくらい後にどのくらいの確率で生存しているのか、教えてくれるのはそのようなことだという。


村の子供たちの遊び場である広場の隅で自虐に浸っていると、いきなり太陽が隠され、俺に影が落ちる。


「シアン君? どうしたの?」


いきなり笑ったからだろう。隣りにいたハツネが覗き込む


「ん~?思い出し笑い」

「え!?なんの?!なんの?!」


とりあえず適当にあしらおうと、適当に答えると、教えて教えてと食い下がってくる。


体を揺さぶられて、木のベンチから落ちそうになる。



昨日耕した畑は、いつの日か魔物たちにに荒らされる未来が待っていることになる。そう思うと、虚しさが半端ない。


これからどう身を振ろうかな……


別にハツネと恋仲になりたいわけではないし……その他のヒロインたちをおとしたいわけではない。


でも、彼女たちが悲しむのをわかっていてただ過ごすというのもなんか違うしな…


違う違うと、自分が考えたことをどんどん消去していくと必然的に俺がしたいことが浮かび上がって来る。


よし!俺は《《彼女たちを》》見守ろう!


彼女たちが、悲しまないように、そして同時に成長を見守ろう!


俺が関わることでどんな結末になるのか、それを見てみたい!



……………


思い返してみれば、この日下した判断が俺の人生を決めたのだろう。人生は選択の連続であり、選択した結果によって歩む人生が変化する。


歩んだ人生は、性格を形作り、加えて自分の立ち位置すらも決めてしまうことになる。


この選んだ選択肢が正しいかなんて、人生2週目の俺ですら分からない。それだと言うのに安直に、考えなしに決定してしまった。


転生した直後の全能感に身を任せて安直に


既に賽は振られてしまった。それは、コーヒーに入れたミルクのように、俺の人生の色を味を変えてしまう。




願わくば、この選んだ人生が良きものである事と思い、



__________________________



鏖殺した魔物の死体を見下ろしながら…






嗤った



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