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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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16-2

 悪魔のマオマオは世にも珍しい人造悪魔だ。

 消滅しかけのところを偶然回収されたアンデッドを素体に様々な因子を取り込ませ、奇跡的に美しい形と生物的な機能を保った状態で仕上がった、奇蹟の悪魔であるそうだ。

 しかし、魔界においても異端的であったその人造悪魔研究は多大なリスクを伴うものであり、マオマオが意識をはっきりと持った頃には彼女のいた研究所はバイオハザードで壊滅。マオマオは幼い体を引きずり、右も左も分からない魔界に放り出された。


 辛かったし、心細かった。

 苦しみのあまり、自分で自分の首を切ったが、デュラハン因子の濃さのせいで頭が取れ、またくっついただけに終わった。そうして魔界を彷徨い続けた末に、マオマオはウルに出会った。


『おいで』


 ウルが薄汚れた人造悪魔に向けたのは、その一言と微笑みながら差し出された手だけだった。たったそれだけのことなのに、マオマオの心には暗中を切り裂く一筋の光の道が生まれていた。気付けば高揚する心と共にウルの手を取っていた。


 彼女は別に誰かを理解しようとしているわけではない。

 ただ、そうすべきだと思ったら迷いなく他者を導くだけだ。

 このひとに着いていきたい――そう思わせるものがウルにはある。


 ウルが魔王の責務から逃げたのは、マオマオにとってどうでもいい。ウルがどこでどんな立場を取ったとしても、マオマオにとってウルは永遠の魔王様だ。優しく、美しく、強く、可愛く、そしてとんでもないヘタレな面もまた愛おしい。

 ただ、これから行く村は小さな村だと聞いている。

 ウルにべったり張り付いていたいが、そうもいかない。

 村で共同生活を送る以上、他の人間と関わらなければならない。


(でも、ウルちゃん様との出会いを経てしまうと他のどんな出会いでも退屈しそうですねぇ……)


 村に案内されて歩きながら、マオマオは内心そんなことを考えていた。

 ふと、村の中に小規模ながら立派な教会を見つけた。

 悪魔の仲介で悪魔を引き入れてる割に信神深いのか――と思っていると、教会の入り口から聖職者らしき男が近づいてきた。


「初めまして。村の住民のイスラです。聖職者の身ではありますが、事情はお聞きしているので従者の悪魔さんに不当な扱いはしないと神に誓います」


 嫌味を感じない爽やかな好青年。

 その瞬間、マオマオの脳裏に電流が迸った。


「イスラさん。私はマオマオと申します」

「マオマオさんですね。これからよろしくお願いしま――」


 イスラが言い終わるより前に、マオマオは膝を突いて首を差し出した。


「イスラさん!! 是非とも私を斬首してください!!」

「エエエエエエエエエエッ!? なんでェ!?」


 まさか自ら首を差し出すとは欠片も思っていなかったイスラが全力で困惑する中、ハジメの呆れた視線がウルへ向く。


「おい、ウル。なんなんだこれは。新手の逆脅しか?」

「マオマオちゃんデュラハン要素で首が取れてもくっつくので、逆に斬首されて楽しむ癖があるんです。なんかいつにも増してテンションが高いですけど」

「特殊性癖にも程がある」


 マオマオとしては『死神』と呼ばれるハジメの斬首もどんな癖のある斬首なのか気になっていたのだが、イスラを見た瞬間にその好奇心も霞んでしまった。心の奥底が彼からの斬首を望み、打ち震えている。

 こんな衝撃はウルと出会ったとき以来だ。

 運命に違いない、とマオマオは確信した。


「一目見た瞬間にビビっと来ました!! マオマオはきっとイスラさんに斬首されるために生まれてきたのだと!!」

「やめてください! いくら悪魔でも斬って欲しいからって理由で首を飛ばせますか! しかもなんか顔立ちが死んだ幼なじみに似てて余計にやりづらいですよ!!」

「なおのこと運命では!?」

「そんな運命イヤですよ!?」


 結局、イスラは最後まで首を縦に振らなかったが、マオマオはこの村で一つの大きな目標が出来たとやる気を漲らせたという。




 ◇ ◆




 フェオの村の大改築が終了した翌日、ハジメはとある依頼を受ける。

 依頼主は富豪貴族領主モノモチー。

 貴族でありながら優秀な商人でもあるやり手だ。

 噂ではビスカ島に行く際にハジメたちが世話になったゼニトリオン商会の会長ゼニトリオンとは古くからのライバルであるというが、今回の件はそれとは関係ない。


「改めて、今回の依頼をお聞きしたい」

「はい。魔王軍に占拠された城を取り戻して欲しいのです」


 モノモチーは餅のように膨れた艶のある肌に汗を浮かべる。

 曰く、その城は嘗て魔王軍との戦いで拠点として扱われた戦のための城であったが、時代が移ろうにつれて使い道がなくなり実質放置されていた。

 それが、ここ最近活動を活発化させた魔王軍氷河軍団に占拠されてしまい、拠点として利用されているという。


「迷惑な話だ」

「なにぶん大きな城ですので最低限の管理以外はあまり人がおらず、あっという間に……」

「犠牲が出たのか?」

「いえ、城の管理を任せた者たちは逃げおおせて無事でした。死ぬまで戦えなどと無体なことは言えませんから。しかし、あそこが拠点とされたことで周辺の村々への襲撃が始まっています」


 氷河軍団に占拠された城からは毎日のように人里に向けて強烈な指向性の冷気が放たれ、農作物は大被害。更に襲撃してくる魔物は人を無視して食料を徹底的に潰される。


「人間側の食料を潰して冬を越せなくする気か」

「このままでは足りない食料を買うためにゼニトリオンのヤツにこってり搾り取られそうですよ……」

(その脂肪の多さを見るとこってりの意味が変わって聞こえる……)


 既に金勘定を気にしているが、それでも民の為に食料を買おうとしているのだから領主としてはまともな部類だろう。

 モノモチーは困った顔で額の汗を拭く。


「既に冒険者が何組か突入を試みたのですが、城壁の出入り口から強烈な冷気が吹き荒れており侵入すらままならないとのことです」

「城壁の破壊は可能か?」

「いやいや、破壊されないからこその城壁ですよ? 攻城兵器を持ち出した者が攻撃を試みもしましたが、城壁の表面を氷が覆っており、割っても割っても再生する二重の堅牢さになっているとのことです」

「城の上空からの侵入も難しいのか?」

「彼奴ら氷で作った固定弓台などの迎撃装備を揃えており、しかも例の冷気の風も容赦なく飛ばして来ます。難しいでしょう」

「なるほど」


 氷壁の要塞と化した城を鑑みるに、城の中に住まう魔物は魔王軍内でもかなりの実力者だろう。流石に幹部がいることはないだろうが、いつぞやの自称幹部候補くらいはあるかもしれない。

 更に、城を中心に周辺の大地が段々と凍結しており、このままでは氷河軍団による本格進行の足がかりにされてしまうだろう。


 状況は逼迫している。

 それはそれとして、ハジメは一つ確認したいことがあった。


「城を取り戻すと言ったが、城は極力破壊しない方がいいだろうか?」

「え? ええと……別に。普段使いするような城じゃないですし、魔王軍に占拠されて縁起も悪くなりましたし、持ってるだけで無駄に税金取られるのに取り壊しに手間がかかりすぎてめんどくさいので逆に更地になってくれた方が……」


 後半辺りに若干の本音が漏れていたが、とにかく壊れてもいいらしい。

 壊れてもいいということは、『壊してもいい』ということだ。


「諒解した。さっそく現場に向かおう」


 モノモチーの依頼を正式に受諾したハジメは、現場へ向かった。




 ◇ ◆




 ――突然だが、この世界には『使い捨て武器』なるものが存在する。

 勿論、現実世界の使い捨て武器とは微妙に意味が違う特殊な武器だ。


 使い捨て武器はアイテム職人によって特殊な処置が施された投擲武器で、一度使うと完全に壊れてしまう代わりに敵を自動追尾して使用者のステータスを無視した強力な威力を発揮する。


(……今更ながらこれ、使い捨てテントとどこか原理が似ている気がするな。いらぬ謎を解いてしまった)


 閑話休題。

 例えば石ころに使い捨て処置を施して懐に忍ばせておけば、投げた瞬間に石ころは剛速球と化して弱小魔物程度なら粉々に打ち砕くだろう。ナイフなら更に威力は増すし、エンチャントを付与されたならば魔法を覚えてなくても属性攻撃を相手にかますことが出来る。


 自動追尾と言っても限度はあるが、下級~中級下位あたりまでの魔物を倒したり怯ませるには十分な威力がある。そのため初級冒険者はいくつかこれを懐に忍ばせ、どうしようもなくピンチな時や急ぎの時に相手にぶん投げるのが慣例になっている。


 ただし、使い捨て処置の技術は超一流の職人にしか扱えないため、たとえ石ころとて店頭ではなかなかのお値段に化ける。しかも先に言った通り一回使えば粉々になるので、威力を上げるために原価の高い代物を使い捨てにすればお値段も倍々ゲームだ。


 おまけに、使い捨て武器は使用者本人のステータスが上乗せされないので初心者の頃や敵が弱い時しか役に立たないという致命的な欠点もある。自力のエンチャント付与も当然出来ない。


 ところが、ハジメはこの道具を色々と試して抜け道があることを発見した。


 使い捨て武器はどんなに全力で投擲しても自動追尾効果が干渉して威力を増させることが殆ど出来ないのだが、どうやら重力加速だけは加算される仕組みになっているらしい。つまり、猛烈に山なりで投擲すれば威力を加算させることが可能なのだ。


 具体的には角度をつけて1キロくらい上空に投げ、そこから重力加速での落下と追尾機能が合わさると相当な威力になる。もちろん通常に投げた場合の着弾点が目的とズレていなければいないほど威力は増す。

 ……そんな馬鹿な使い方をするのは多分ハジメくらいだが。


 普通なら、今すぐ敵に攻撃を当てたいのに山なりに投げても敵に当たるまで時間がかかりすぎてメリットはあまりない。しかし、ハジメはこれをどうにか応用できないかと無駄にものすごく研究した結果、なんと射程範囲500メートルでほぼピンポイントな狙い撃ちが出来ることを突き止めた。風と光のエンチャントを施したものは特に精度がいい。無駄すぎる研究成果である。


 そして、ハジメは無駄な財力を利用して、性能は悪くないが余っていて使わない武器たちを強化した上で使い捨て処置を施して貰うという狂気の方法で弾を揃えていた。

 そんな装備を強化して使い捨て処置施してもコスパ悪すぎるだろうという話なのだが、ハジメは自分の無駄な武器の数と強化素材と金を同時に減らす為に何の躊躇いもなくこれを実行した。


 強化材料費、原価で2億G。

 武器費、原価で10億G。

 エンチャント及び使い捨て加工費は600億G。


 ちなみにこれを依頼された職人は余りにも仕事量が果てしなさ過ぎるので追い払うつもりで「100億Gだ。払えねぇなら帰りな」と言ったが、ハジメが100億Gを用意したので妙な怒りの琴線に触れて「やっぱり120億だ!!」とか言ってしまい、それもハジメが目の前でドサドサ出して用意するので引っ込みがつかず最終的に600億で折れたらしい。これが四年ほど前の話だ。

 その職人は今は豪邸に住んでいるが、一生分の使い捨て処理をしたので二度とやりたくないと語っているという。あと死神マジ許さんとも。


 こうして出来上がったのが炎、雷、水、風、氷、地、光、闇の八属性全て合わせて1000個以上という余りにも膨大な使い捨て武器だ。


 なお、作るだけ作ったもののハジメ的には結局自力で突っ込んで荒らし回った方が早いので盛大に持て余した無駄武器でもある。今更誰かに売っても買い手はつかないだろうし、ずっと使う機会を窺っていた。


(ついでに余った爆弾も使うか)


 購入したが結局使わなかったり、犯罪者から押収したら何故か依頼主に回収して貰えず抱える羽目になったりで貯まったヴィンテージ品だ。現実世界ならとっくに火薬が湿気ているところだが、そこは異世界なので問題ない。いつか使うかもしれないので一定数は残しておくが、残りは炎エンチャントや雷エンチャントの武器に無理矢理括り付けて起爆装置にする。

 使い捨て武器に比べれば数は些細だが、それでも数十個はある。


「さて、在庫一掃セールといくか」


 今回は相手の属性を考慮して水と氷の属性は除外し、残りの大量の武器を城からおおよそ1キロ離れた場所に並べる。


 ハジメは半径500メートルならピンポイントで狙い撃ち出来るが、今回は相手が城なのでそこまで精密である必要はない。全身のオーラを全開にして最強のパーソナルスキルを使う。


攻性魂殻アスラガイスト


 オーラを極めた先に存在する神通力の如き力。

 ハジメの周囲の使い捨て武器、およそ20近くがひとりでに浮き上がり、ハジメ自身の投擲の構えと全く同じ方向に切っ先を向けて宙を舞う。


 そして、すべての武器が全く同じ角度と威力で一斉に上空に投げ飛ばされた。

 ハジメは投げ終わるやいなや再びアスラガイストで同じ数の武器を抱え、また投げる。幾重にも重なっていく大量の使い捨て武器は山なりに上空へ飛び、そして重力に従って一斉に城の方へとその刃を向ける。


 ――ちなみに言い忘れたがこの投擲方法、特にハンマーや槍は威力が重力加速で上昇する傾向にあり、投擲物の多くがその二種である。

 きっとうっかり自分の頭のネジを一緒に投げても彼は気付かないだろう。今更ネジの一本や二本でどうにかなるほど無事な頭ではないし。

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― 新着の感想 ―
[一言] 特殊な隕石群での圧潰作戦とでもいうべきか。 デュラハンがクビ斬られたがるのはなんなんでしょうね…クビを斬られたら死んでしまうような種族だった時の名残りで、クビチョンパに人生一度きりな経験と…
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