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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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16-1 転生おじさんを監視する怪しい女の影

 今現在、フェオの村は急ピッチで開発が進行している。

 人口が30人を突破したことで、遂に計画が動き出したのだ。


 今まで少し纏まりのなかった通りがより大きく、より綺麗に、将来の拡張性を見越した構造に変更。それに際して今まで建てた建築物や木の位置も細かく調整されていく。普通ならこんな調整は莫大なお金と手間と時間がかかるが、この村にはショージという建築チート男がいるのでワンオフで出来てしまう。


 しかもショージは最近遂にこの世界での新ジョブ『ビルダー』を忍者と同じく他人に与えることが出来るようになった。ただし、このビルダージョブ習得はかなり条件が厳しいらしく、更に戦闘関連でのメリットがほぼ皆無であるため適正のある人の中でビルダーになったのは新住民のアマリリスのみである。


「区画整備た~のすぃ~~~!!」

「た~のすぃ~~~!!」

(変なのが一人増えた……)

(アマリリス様が楽しそうで何よりです……)


 ショージと二人で次々に建築物の位置を調整していくアマリリス。彼女は元々戦闘力がなく、農業や建築で力を見せていたのでビルダージョブとの相性が良かったようだ。しかも彼女は元が転生者なのでショージに物事を教わらずとも勝手に自分で発見していく。おかげでショージも先輩ぶれないようだが。


 ちなみに彼女が村に来た理由は、ハジメくらい強いのがいれば自分の悲劇回避できるんでね? という思いからだ。ついでに侍女のキャットマン、ナルカと執事のヒューマン、ロドリコ、そして護衛のリカント、マイルも早速村の改築の手伝いに参加してくれている。


 こうして改築する中で、新たな施設がこの町に生まれた。


 まずは図書館。

 フェオはまず図書館を建て、村に人口が増えてきたら本屋も建てようと思ったらしい。確かに今、村の人口は少ない。本を売っても買う人間が少ないなら、図書館のような公共性のある施設の方が合理的かも知れない。


 今は一部の住民が寄付した本が寂しく置いてあるだけだが、これから図書館の管理者になってくれる人材を探しつつ本を増やしていく予定である。


 他にも将来店にする予定の建物やその予定地、住宅地などを整備し、ついでに規模は小さいが牧場や農場になる区画も予定地として柵を建てた。

 また、ツリーハウス同士で行き来が容易になるように吊り橋などの足場も整備され、フェオの理想と現実問題を上手く折衷したデザインになっている。


 町の中心の噴水にあった水源『レヴィアタンの瞳』も場所を移動し、転送魔法であちこちに水を送るシステムにすることで上の住民の水汲みが大変という欠点をある程度克服した。ただ、その結果レヴィアタンの分霊が転送魔法を悪用して村のあちこちに出現できるようになってしまった。


 この間などサンドラが泣きながら下半身びちゃびちゃでいきなりハジメの家に駆け込んできて、何事かと思ったらトイレで用足ししようとした瞬間レヴィアタンにいたずらで便器内の水を噴射されたというのだ。

 お漏らししてるようにしか見えないからせめて拭いてから来た方が良かったのではと思ったハジメであった。案の定、村の子供たちからおもらし女呼ばわりされて泣いたので落ち着くまで慰めた。


「なんでわたしこんなに駄目な女なんですか、ハジメさぁん……」

「考えても答えなど出ない。そういうものだと受け入れろ。俺も受け入れてやるから」

「ハジメさんの手があったかいよぅ……昔トイレを通せんぼされてみんなの前で何度も漏らさせられたトラウマさえも癒えていくよう……」

「そんな下衆な目にまで遭わされていたのか……ところで今日は仕事の予定なのだが、俺はいつまで撫でていれば?」

「もっと撫でてくれなきゃ死にます! きっと心因性の疾患で!」


 手を離した瞬間ガチ泣きする顔をしているサンドラを見るに、当分解放されなさそうだ。子供たちの無邪気な罵りが開いた彼女のトラウマの痛みは当分癒えそうにない。

 この日だけライカゲが変化の術でハジメに化けて仕事を片付けてくれ、その後即座にフェオが村長主催の保護者会を開き、子供達に心ない言葉を口にさせないよう新たな道徳的教育方針を打ち出した。言葉の銃口は時に致命に至るのだ。


 ちなみにレヴィアタンの分霊はその後、神のアヴァターことメーガスに捕まりものすごく説教され、その後数日間噴水の前で首から「私は悪い神獣で、罰を受けています。えさを与えないでください」と書いたプレートをぶら下げて正座させられていた。


『妾だって暇だったんじゃもん……出番全然ないし、ちょっと存在感醸し出したかったんじゃもん……クオンたちの遊び相手とかちょこちょこしてたのに皆が感謝してくれなくて寂しかったんじゃもん……』

「用事が終わったらさっさと水の中に戻って消えてしまうから褒めるタイミングが分からないのでは?」

『はぐぁッ!? それが原因かぁ……! い、いや知ってたぞ!? 神獣はとってもかしこいからしってたんじゃもん!!』


 相変わらずどこか抜けている彼女の微笑ましい嘘は、周囲の笑いを誘った。

 後日、流石に可哀想だからとアマリリス発案で、村に彼女を祀るささやかな日本風のやしろが出来た。


「その優しさをもう少し妹にも発揮してやればよかったのにな」

「オホホホナンデデキナカッタンデショーネー」


 余計なことを言ってしまい睨まれた。


 さて、実は住民増加はなおも止まらない。

 村の設備が整ってきたことで娼婦たちの養う家族等が引っ越してきた他、最近になってあの『大魔の忍館』の主であるキャロラインから二人と一匹の新入居者を預かる約束をした。


 曰く、その入居者とは旧知の間柄で、魔界で少々面倒ごとに巻き込まれたためにフェオの村でかくまって欲しいとのことだった。悪魔式のかなり本格的な契約書まで書かされたので、相当大切にしているのだろう。


 ただ、契約の担保としてあんなものを要求され、あんなことをさせられるとは思っていなかったが。絶対に彼女の趣味である。信頼関係があったから応じたが、普通は絶対に受けないし、フェオにも全力で黙っておこう。


(しかしそれだけ大事にしているのなら、こちらも一番いい護衛を揃えるか)


 これから件の入居者と合流するハジメは、いますぐ用意出来る最高の人選――護衛に偶然スケジュールの空いていたライカゲと、場を和ませる効果も狙ってクオンを連れて約束の場所に赴いた。


 ――まさかそれが相手にとって最悪の人選であるとはつゆ知らず。


 入居予定の少女――ウルル・ジューダス(偽名であり、本名は契約により伏せられている)はこっちを見た瞬間盛大にちょろちょろ失禁して土下座した。


「ヒィィィィィィィィ!! 死ぬ死ぬ絶対殺されますのことよウギョェアアアアアアアっ!! 靴舐めます頑張って奉仕しますどんなことでもしますから殺さないでぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

「殺さないし奉仕しなくてもいいが……キャロラインときちんと君の扱いについては契約で取り決めているし」

「……ほんと? うる、ころされないの?」

(幼児退行まで始まっている……)


 ウルルの魔族としての姿はクオンに勝るとも劣らない美しさだったが、涙と鼻水と子鹿のようにぷるぷる震える足から滴る液体が全てをざんねんな生き物という印象に変えていた。


 あられもない姿になってしまったウルルをキャロラインがたっぷり慰めて説得し、着替えさせ、やっと落ち着きを取り戻した彼女は人間の姿に変身した。


「改めて、ウルルです。気軽にウルと呼んでください。洗濯、水汲み、トイレ掃除何でもします。だから暴力だけは……暴力だけはご勘弁を……もうマジでリアルに死んでしまいますから……風に手折られる葦ですから……ホラ、ぽちもお座り! マオマオも!」

『えぇ……あー、ウル様のペットのぽちである。本当はオルトロスという魔物だ。主は少々天然なところがあるので、どうか多少の粗相は許していただきたい』

「従者のマオマオです。一応悪魔の端くれです。ウルちゃん様が何かやらかしたときは私が責任取って首を刎ねられる所存ですので何卒よろしくお願いします!!」

「刎ねられても困るし刎ねる予定もないが……というかちゃんと様を重ねては敬意と親しみとどちらを優先しているのか分からんぞ」

「どっちもです!! ウルちゃん様は尊いのです!!」

「そ、そうか」


 申し訳程度の悪魔要素を主張する二本角が生えたマオマオは、鼻息荒く忠誠心を主張した。おでこを強調した髪型のせいもあってか幼い印象を覚えるが、これでハジメより年上らしい。


「ちなみに実はデュラハンの因子が入った人造悪魔なので首を刎ねられてもくっつきます。御気軽に斬首ください!」

「刎ねて欲しそうな顔をするな。そんなことをしたい特殊性癖持ちはこの村には多分いない」


 悪魔の考えることは分からない、と悪魔全体にレッテルを貼るハジメ。

 何故ウルがハジメたち護衛をこんなに怖がったのか、理由は口が裂けても言えないそうだ。あまり素性を詮索しないよう契約にあったのでしなかったが、以降ウルは異常なまでの低姿勢を変えなかった。


 もしかして彼女は相手のレベルが分かるタイプだろうか。

 確かに見知らぬ土地に引っ越しに行ってみたらレベル100台の存在三人に囲われたら不安の一つや二つを抱いても不思議ではない。少なくとも彼女の性格が戦い向きではないのは確かだろう。

 もしかしてサンドラの精神的同類だろうか。


 キャロラインがそっと、そして自然にねっとり絡みつくように胸や太ももを押し当てて密着しながら耳元で囁く。


「ごめん、私もちょっとこの展開は予想してなかったわ。ウルちゃん潜在能力が凄いから私の魅了で落ち着かせることも出来ないし、どうにか面倒を見てあげて。元々ちょっとおてんばな性格だったんだけど、最近色々あって苦労してるの。元娼婦の子たちにもよろしく言っておいてるけど、この様子を見るとちょっと心配だわ。私も定期的に様子を見に行くから、ね?」

「分かったが余り密着するのはやめてくれ。反対サイドで対抗心を燃やしたクオンが全力でしがみついてくるから」


 ハジメの腕を抱きしめ両足でハジメの片足をがっちりホールドしたクオンが構って欲しそうに見つめている。キャロラインはそんなクオンを微笑ましそうに見て、そっと離れた。


「むー」

「ふふふ、たまに貴方のママを借りるけど許してね? たまによ、たまに」

「……いいけど。でもママはクオンのママなんだからね!」


 ふくれっ面のクオンだが、一応納得したのか頷く。


 最近、クオンの独占欲が高まってきた気がする。

 こないだ行楽に連れて行ったりしてあげたばかりだが、楽しい思い出を作れば作るほどにハジメと離れるのが嫌になってきているらしい。友達と遊んだりすることで退屈は紛れるが、ハジメが村にいない日はやっぱり一抹の寂しさが消えないようだ。


 別に反抗的になった訳ではないし、暴れる訳でもないが、ずっと寂しい思いをさせ続けるのも、この依存心が高まり続けるのもよくない。ハジメは前々から少し考えていたプランを真剣に検討する段階に入ったと感じた。


 村の人口、諸々含めて一気に41人と1匹にまで増加。

 新生フェオの村の評判は、微かにだが高まりを見せた。


「時に――気付いているな、ハジメ」


 不意にライカゲからかけられた言葉に頷く。


「正体と要件はおおよそ察している。問題はない」

「ならば何も言わぬ」


 彼は気付いていたようだ。

 護送の途中からずっと何者かがハジメを監視していたことを。


「……護送対象に脅迫ないし強要の可能性。悪魔及び指定警戒人物ライカゲとの交流を確認。娘クオンへのネグレクトの可能性……要検証……」 


 何者かは、ぼそぼそと呟いては手帳に何かを書き込み、その場を去って行った。

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