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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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15-7

 遂にアマリリス・ローゼシアの情報を掴んだジライヤ、それを受け取ったハジメ、そしてベアトリスは、屋敷の執務室で会合を行っていた。


「以上が報告内容にゴザル」


 ジライヤは直接的な証拠こそ掴めなかったものの、情報の確度はかなりのものであり、もはやアマリリスがベアトリスを嵌めようとしていたことは確定したも同然だった。情報を聞いたベアトリスの表情は、無。彼女からすれば予想通り過ぎて反応する必要もないのだろう。


 そして、ハジメはアマリリスは転生者だという確信めいたものを持っていた。


(それはいいとして、問題は『+α』の有無か……)


 恐らく、彼女の転生特典は言葉通りだろう。

 しかし、それだけとは限らない。

 ハジメはベアトリスに気になることを確認する為に、彼女と向かい合った。

 ローゼシア家の過去の情報にも一通り目を通させて貰ったが、やはり当事者から話を聞きたいと思ったハジメはベアトリスに確認を取る。


「アマリリスについて、幾つか聞かせてくれ。アマリリスは事件や災害をあらかじめ予期しているかのような行動を取る。これは間違いないか?」

「間違いありません。お父様が姉に目をかけていた一番の理由がそれです」


 ベアトリスは無表情のまま過去の話を振り返る。


「姉が六歳の頃にあった水害が、姉の才覚発揮の始まりだったように思います。偶然一度通りかかっただけの道で、姉は馬車のなかから川の堤防を指さし、あの堤防は脆いと言い出したのです。そして、書斎から様々な川や水害、堤防に関連する本を引っ張り出して父上を説き伏せました。当時は私も幼かったので『姉は凄いのだな』くらいにしか思いませんでしたが……今になって思うと、異常ですよね」


 それを皮切りに、ベアトリスは姉の行動を一つ一つ思い出していく。

 屋敷の外に散歩に行った際、浮浪者を連れてきて「この者を登用すべき」と言うから試験を受けさせれば、その悉くが何らかの秀でた才能の持ち主だったこと。


 町の犯罪の解決率は凄まじく、連続放火事件では被害場所を先読みして住民を避難させた挙げ句に決定的瞬間を捉えて捕縛したこと。


 大干ばつが襲った時は、その一年前から既に貯水池や乾燥に強い作物の導入を進め、被害を最小限に抑えて見せたこと。


「姉は誰も予想がつかない筈の出来事に対して、常に事前に行動していました。それだけではありません。私が父上に褒めて貰いたくて何か物を作ったり事を為そうとすると、姉は必ず一歩先に私以上の結果を父に用意し、執拗に面子を潰しにきました。どんなに隠れて物事を行ってもです。一度二度なら偶然もあるでしょうが、ずっと……ずっとですよ。異常じゃありませんか?」


 無表情だったベアトリスの顔には、いつの間にか嫌悪感が宿っていた。

 最初にハジメが出会った時にはおくびにも出さなかったものだ。


「私が何か少しでも事実と逸れた発言をすると、やんわりたしなめつつもより正確な事実を語って周囲の注目を集める。流石アマリリス様、流石天才、未来が見えるかのような先見の明の持ち主……私は次第に姉を身内だと感じなくなっていきました。いえ、これは本筋から逸れていますね」

「いや、そういった個人的印象も参考にしたい。言いたくないなら無理強いはしないが、よければ続けてくれ」

「……よく、分からないのです。姉は別に特別な事をせずともローゼシア家の次期当主の座は約束されているようなものです。なのに何故こんなに妹を貶めるようなことばかりするのか? 姉が屋敷の外の世界を話す時は憧れや尊敬を覚えることもありましたが、その気持ちもいつも裏切られました。屋敷の中では教えて貰えない平民の仕事などをを教えて欲しいと頼むと、『ベアトリスは立派な貴族だから学ぶ必要はない、人に任せれば良い』と……諭すような言い方はしていましたが、いつも突き放されたような気分にさせられました。ここに告白します……私は姉のことを好きになれませんでした」


 正直そりゃそうだろという話だ。

 隙あらば馬乗り並の全力マウントを取ってくるヤバイ身内と一緒にいたい人はそうそういないことは、コミュ障のハジメにだって想像出来る。何故なら、そこには相手を尊重する敬意というものが存在しない。気遣いだとか空気を読むだとか以前に、真っ当にコミュニケーションを取る気がないのだ。


 ベアトリスを気遣うように、彼女の目の前にカエルのフローレンスがぴょんと飛んだ。するとベアトリスは硬い表情を少しだけ綻ばせ、フローレンスの頭を撫でる。


「そういえば姉は虫は平気でもヘビやカエルは苦手でしたわね。ふふふ、姉に初めて勝ってるかも」

「ゲコ」

「良い子ね、フローレンス。あとでおやつをあげますからね」


 カエルをかわいがる貴族令嬢。

 非常にシュールな光景である。

 それはそれとして、ハジメはもう少し聞きたいことがあった。


「アマリリスは、何か予想外の事態に慌てふためいたりすることはあったか?」

「記憶には殆どありませんね。社交界だとか、メイドとのやりとりでたまにあったかもしれませんが……ああ、勇者レンヤが歴代最速で魔王軍幹部を仕留めた報せが届いた際には随分と驚いていたように見えましたが」

「ありがとう、参考になった」

「ハジメ殿、一体どのような参考になったのでゴザルか?」


 ジライヤの問いに、ハジメは答える。


「アマリリスは転生者……わかりやすく言えば異能者だ。彼女は多分、『自分がこれから辿るであろう一本の人生の記憶』をあらかじめ所持した状態で生まれてきた。そういうタイプの異能だろう」


 正確には、漫画やゲームのキャラクターの足跡を知った状態でそのキャラに転生する、的なことなのだろう。転生者は楽をしたがる傾向にあるので、本当に一回人生を送ったあともう一回繰り返しているというのは考えづらい。


 ハジメの懸念として、彼女が絶対に失敗をしたくないが為に『セーブ&ロード』や『コンティニュー』、『未来予知』などを持っているのではないかと予想していたのだが、恐らくそこまでインチキめいた力までは持っていない。

 ただ、相手のステータスや潜在能力が可視化出来るなどの副次的な力は持っているかもしれない。でないと有能な人材を次々に見つけて登用するのは難しい。


 ジライヤはぽかんとしている。

 転生者案件に余り関わったことがないからだろう。


「あの賞金首……鳥葬のガルダに比べれば可愛いものだろ?」

「あ、確かにあの不死身の女より……いやしかし、その発想はなかったでゴザル」

「彼女は二度目の人生と口にしたのだろう。未来予知なら未来が見えると言った方がまだ占い師的な説明がつくが、二度目という言葉は未来予知に相応しくない。彼女には『一度目』があるのだ。だから一度目になかった出来事や人間関係で驚いてしまう」

「そんなの、受ける恩恵の量に比べれば些細なものでしょう! むしろ今しがた納得がいきました! 姉様、なんという卑怯な……! ずるい、ずるい、ずるいですわッ!!」


 地団駄を踏むベアトリスだが、彼女の言う通りだ。

 転生者はずるいのである。


 自分の才能を生まれつき正確に把握していて、しかも才能の大きさが途方もない。幼い頃に持ち得ない筈の理性と計画性もある。だから真っ当に生きる人間よりも遙かに安易に大成出来る。この絡繰りを知れば、誰だってずるいと思うだろう。


 だが、どんなに破格の力を持っていても、扱うのは所詮人間。

 アマリリスは自分の都合以外を軽視しすぎて、状況を見誤った。


「アマリリスが一体何を恐れているのかは知らない。だが、彼女はしてはならないことをしたと俺は思う」

「人生というものに対しての冒涜……ですか?」


 一度きりの平等な人生という現実を踏みにじる。

 転生者全般に言えるそれは、確かに人生への冒涜だ。

 しかし、ハジメはもっと大きな罪があると考える。


「未来の自分のために、彼女は多くの人間の不幸を防ぎもせずに利用した。しかも、それを防げる立場にあったにも拘わらずだ。当人はそれで目的を達せられれば満足なのかもしれないが、その責任から逃げ切らせてはいけないと俺は思う」


 一握りの人間の幸せの為に助けられる筈の他人を遠くから傍観し、全て終わった後に素知らぬ顔で他人に負債を押しつけて地位を掠め取る。政治の世界で失脚狙いはよくあることだが、その間に煽りを受けて苦しむのは全く別の人々だ。


 責任を取らずとも許される人間がトップに立てば、やがて誰一人まともに責任を取らない社会が訪れる。それは、少なくともハジメからすれば良い社会とは言えない。


「ただ、脅したり貶めるようなことをすれば結局俺たちもアマリリスと同じ次元に留まってしまう。だから俺たちは特別なことをする必要はない。ただ誠実であればいい」


 アマリリスは戦わないことによって敗北する。

 それが、未来の見えないハジメの脳が弾き出した予測である。

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