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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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15-1 転生おじさん、ボランティア活動で散財する

 フェオの村が人口29人に達した。

 あと一人で当初の目標だった人口30人に差し掛かる。

 しかし今現在、村のスカウトは足踏み状態にある。


 フェオは今でも村民をスカウトしているのだが、村内にハジメが住んでいる事を知るや否やUターンしてしまうケースが多発しており、村に住むメリットもあと一歩の所が足りない。

 しかも、ハジメが王家より直々に人材スカウトを禁じられてしまったことも痛い。


「勇者の仲間候補を奪われるからスカウトするなと言われてもな。いくら何でも神経質になりすぎだろう」

「言えてますなぁ、今代の勇者は随分過保護に守られているようで。イヒヒヒヒ……」


 これには商人のヒヒも苦笑いらしい。

 何笑いであろうがイヒヒだが。

 あれ以来、緊急性の高い依頼は結局舞い込んでくるとはいえ、以前より仕事が減ったハジメは村で過ごす時間が多くなってきている。その分だけクオンと遊んであげたり、フェオに軽く訓練をつけてあげたり、ゆったりとした時間が増えたのは悪くないのかもしれないが。


 なお、性悪姫ルシュリアの一件以来ちょっとだけ古いロボットの如くギクシャクした動きをしていたフェオだったが、心の整理がついたのか今は元通りだ。今は武器を新調しに町へ行っている。


 村の端では子供たちがかけっこで遊んでいる。

 とはいえ恐ろしく強いフレイとフレイヤ、二人に及ばないとはいえ異様に強いヤーニーとクミラ、そして戦闘能力だけなら村最強のクオンと比べ、最近村に来たリリアンの弟ことルクスは苦戦どころじゃない差を強いられている。

 ハルピー自慢の飛行能力でも流石に相手が悪すぎて、運動会の長距離走で周回遅れの晒し者にされたデブのようである。別に太っていないが。


「ちくしょー!! 羽根生えてるのに何でだーーー!!」


 負けん気の強いルクスは翼を羽ばたかせて必死に食らいつくが、一番体力がなさそうなクミラにすら引き離されるばかりだ。いよいよ見かねた金豚のグリンが背を貸してなんとか追いつくが、今度は「なんで俺よりブタが速いんだーーー!」と叫んでいる。

 強く生きろ、ルクスよ、と心の中でエールを送っておいた。


「そういえばお客様。耳寄りな情報はいかがですかな?」

「聞こう」


 ヒヒに情報量1万Gを握らせると、彼は「毎度」とお金を仕舞う。転生者たちにはヤクの売人呼ばわりされるムーブだが、以前からこのやり方で情報の売買をしていたので冤罪はやめてほしい。


「最近、件の勇者レンヤが仲間を連れて地鉄軍団との交戦を開始したそうです。王国騎士団の支援も受け、道のりは順調なようで」


 地鉄軍団は魔王軍随一の堅牢さを誇る軍団だ。

 戦略はごくシンプルに制圧前進あるのみ。鉄の名を冠するだけあり、体が硬い皮膚、外殻で覆われた者が多かったり、鉄の装備に身を固めた者で構成される。

 当然、地属性魔法が大得意だ。

 普通なら強敵だが、ヒヒもハジメも抱いた感想は逆だった。


「結構なことではないか。目の付け所もいい。連中、対策が取りやすいからな」


 地鉄軍団は物理に偏りすぎて特定の魔法や属性に弱いというどうしようもない欠点があり、更には脳筋の傾向があるため色々と行動を予測しやすい。魔王五大軍団の中でも炎熱軍団に並んで付け入りやすい相手を選ぶのは堅実な選択だろう。


「それで、単なるめでたい話で終わりではないんだろう?」

「ええ。実はですね、地鉄軍団によって被害を受けて町を失った人々が困っているのです」

「それは確かに困るだろうが、何か特別な事情でもあるのか?」

「勇者レンヤはなかなかに効率主義なお方のようでして、被害によって家をなくした人々をほったらかしに進撃しているようなのです。そのため行き場をなくした人々が避難民としてどんどん地鉄軍団の反対方向に避難していき、受け皿がパンク寸前なのだそうです」

「何だと?」


 予想していなかった問題だ、とハジメは唸る。

 魔王軍の進撃で町が壊滅状態になるのは珍しい話ではないし、地鉄軍団のような破壊者たちの進撃ルートに町村があれば破壊されるのは当然なのだが、破壊されても町村の住民は町に残って再建しようとする傾向にある。

 にも拘わらず避難民が絶えない理由とは何だろう。

 ハジメの疑問を予想していたヒヒが続きを語る。


「本来、被害を受けた町村の人々に支援を行うのは地方を治める領主の役割です。これまでの歴史の中でも魔王軍の進撃を受けた町村は領主に支援を行っていました。ところが今回、領主はこれに対して沈黙を保っています」

「何故だ。魔王軍被害の支援は王国も推奨している。消費された財にしても後で王国から受け取れる補填等を考えれば、やらない手はあるまいに」


 魔王軍が侵略してくる中、身を削ってまで民の生活を守ろうという姿勢を見せた領主には、後に王国がその姿勢を評価して失った分以上の財の補填に加え、民を守ったことを評価して賞与を与えるのが慣例だ。しかし、支援をしなければむしろ逆に自らの保守しか考えない無能と見なされてもおかしくない。

 この疑問に、ヒヒは肩をすくめる。


「それがですねぇ。地鉄軍団の本格進行直前にお家騒動でもあったのか、本来家督を継ぐ筈だった後継者が家の側近を連れて出奔。現当主は急病で倒れてまともに仕事が出来ず、残された家督相続者は要職の家臣が軒並みいなくなってすっかりカカシだそうで」

「……酷いな」

「ええ、まったく」


 この大変な時期に一体何をやっているのかと問いただしたい悲惨な状況だ。

 しかも、こういうとき民を纏めるべき勇者が騎士団を引き連れてガンガン前進するものだから、置き去りにされた民は困り果てるばかり。もう少し何か民にしてやれることが勇者にはあったのではと思ってしまうが、彼の理論も間違っている訳ではないので口を出しづらい。


 ――さて、少々脱線するが、この世界の物流について語っておこう。

 転移陣や転移台を利用すれば、人々はワープで離れた地域を行き来できる。そして人々はこの世界の荷物袋のおかげである程度質量を無視した物資を運ぶ出来る。これは革新的な速度の物流だ。


 ところが、道具袋に入らないサイズの物体はこの転移の恩恵を一切受けることが出来ない。また、実は道具袋にも個数制限という欠点がある。100キロあるハンマー99個とロールパン99個が平等な扱いを受け、なおかつ99個に達したアイテムはそれ以上袋に入らないと言えばその欠点が分かるだろうか。しかも道具袋はこの世界の不思議な法則により一人につき同時に一つまでしか所有できないことになっている。出し入れの際も袋の口の広さに依存するため出し入れも大変だ。


 また、実は言っていなかったが、転移陣や転移台を連続使用すると段々と気分が悪くなる。転移酔いと呼ばれるそれは3、4回ほど連続転移すると年齢やレベルに関係なく訪れ、一度酔うとどんな魔法や薬を使っても酔い覚ましに数時間はかかる。

 これは世界の仕様だ。恐らく「転移出来るなら船とか馬車とかいらなくね?」的な突っ込みを避ける為に女神が全力で仕込んだのだろう。  

 つまり何が言いたいかというと……。


「王国が事態を把握して補給物資を送るにも時間がかかるな」

「えぇ、えぇ、そうなのです。避難民の数は多く、商人や教会の手回しにも限度があり、このままでは王国の救援を待たずして死者が出るやもしれません」

「……そういうことか」


 やっとヒヒが何故その話を自分にしたのか、漸く理解できた。


「人道支援は善行、かつこのケースでは問題が一時的だから金をつぎ込んでも後腐れがない……!」

「流石はお察しがよろしいようで。イヒヒヒヒ……!」


 今こそ散財、ハジメの財布が火を吹く時だ。

 ちなみにこの後フェオに、まだ事情も話していないのに「頭のネジの捜索願出しときます?」と呆れ顔で言われた。実は彼女も人の心が読める転生者なのだろうか。いや、呆れられる心当たりはないが。


 さて、一言に支援物資と言っても、実際に現地で何が不足しているのかはその人の声を直接聞かなければ分からない。SNSのある世界ならガセに気をつければ簡単に知ることは可能だが、ここは伝書鳩が現役のファンタジー世界。すぐに情報は手に入らない。


 ただ、話を聞くに避難民の住まいは確実に不足している筈だ。

 また、医薬品、食料、水などは少なくとも満足にはないだろう。

 こんな時、全力で役に立つ男が一人。


「ショージ、このリストにあるものを用意してくれ。テントは使い捨てじゃなくてちゃんと設営する奴で頼む。報酬は前金100億だ」

「ぬわぁーーお金の暴力ーー!? やりますーー!!」


 ショージの転生スキル「ビルダー」は相当強い。

 彼の建築能力に関しては「その場で即座建築出来るんだから材料は全部ポケットに入るだろ!」と意味不明な理論を振りかざすが如くこの世界の道具袋の常識を凌駕した格納能力を誇る。何せ「一つの物体」とカウントされるからと立派な針葉樹がポケットに格納できるのだ。割と何でもありである。

 しかも、設備に関しても普通なら難しいであろう加工を物理法則ねじ曲げ気味にささっと製造してしまう。多少の制限はあるが、多少がなんだと言い切れるほどの優位性だ。


 次に案内人の確保。

 今回向かう地域は仕事で行ったことはあるが、風土についてまではハジメも詳しくはない。これに関しては、襲撃場所が元故郷に近いからとベニザクラが買って出てくれた。


「地鉄軍団は正面からの白兵戦を好む鬼人にとって相性が最悪の相手だ。無茶をしていないといいが……」

「優しいな、ベニザクラ」

「なっ、なんだ急に……べつに普通だろっ」


 故郷に戻る気はなくとも、心配なのは心配なのか、図星を突かれたベニザクラは白い肌をかぁっと赤く染めた。最近二刀流にも手を出し始めた彼女としては、勇者のことも気になるのかも知れない。


 最後に、いると何かと便利かなと忍者に声をかけたら今回は末弟子ジライヤが抜擢された。ライカゲ曰く、ジライヤの召喚術は情報収集や調査能力にうってつけだとのことだ。


「僕の場合はカエル召喚が基本でゴザル。分身には劣るけど、数が沢山用意出来るので長期調査ならお任せあれ! 大型カエルなら簡単な作業も出来るでゴザルよ!」

「頼りにしよう」


 これ以上のメンツを集めるかは状況次第だ。

 最後にヒヒから現地で活動する商人への紹介状を受け取り、被害調査チームは直ちに現地へと出発した。

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[一言] 「このブツどうです?」「言い値で買おう」なやりとりなのに、そのブツが散財自体になるだけでなぜこう締まらなくなるのか…
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