表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/348

13-7 fin

 ――レイザンが偶然露店で購入したという『インデックスリング』は、大昔に転生者だったとおぼしき男、ライモンドが作り上げた装備の一つだ。


 類い希なる錬金術と鍛冶技術を持っていたというライモンドは『習得していない高位スキルを使える剣』や『放てば絶対に命中する弓矢』、『虚空を蹴って飛ぶことが出来る靴』など、今の技術から見ても異常としか言いようのない数多の高性能装備を世に送り出したという。


 ところが、それらが世に放たれて暫くして、ライモンド装備は大きく世を乱すこととなる。


 上位冒険者としての実力と実績がないのに装備品の性能頼りで出世した冒険者が、戦闘以外の初歩的なミスで周囲を巻き添えに死亡する。


 絶対命中の弓矢が暗殺者に奪われ、国の要人が次々に暗殺される。


 空を飛ぶ靴の所持者が、その靴を装備していないのに癖で装備時と同じように崖から飛び出し、転落死する。


 ライモンド装備は便利すぎて、そして使用者を選ばなすぎた。

 分不相応な者に地位を与え、利用者に慢心を生み出し、そしていつしかライモンド装備は次々に犯罪者や魔王軍の手に渡り始めたのだ。


 当時の王国は即座に各国と連携を取り、ライモンド装備の回収に乗り出した。ライモンド自身も責任を感じたのか装備回収に尽力し、最終的には殆どの装備が回収されたという。ただし、回収までに流れた血はあまりにも多く、ライモンドは終生そのことを悔んだそうだ。


 『インデックスリング』は、そんな中で回収を偶然にも免れたものだった。


 ハジメは昔、自分の師とも言える人物からそのことを聞き、王立図書館で調べたことがあったので彼の指輪に見覚えがあった。インデックスリングの力があれば、使い勝手の悪い魅了魔法を悪魔のように器用に使いこなせるだろう。


 だが、さしものハジメも彼がそれを実際に悪用してるかどうか、いやそもそも指輪が本物なのか確認する術がなかった。彼を無理矢理気絶させて指輪を奪い取れば鑑定ではっきりするが、かもしれないで人を拘束するのは無法者のやることだ。確信がない間は手出し出来ない。


 そこでハジメは、嘘を暴く特殊な道具『ライアーファインド』の所持権限を持つ異端審問官のマトフェイ、及び自分以上に確実な鑑定能力を持つブンゴを呼び出すことにした。そしてレイザンの容疑が濃厚になってきたため、ギルドと衛兵にも話を通してレイザンを待ち伏せしたのだ。


 これが大まかな事件の流れである。


 ただ、ここからが大変だった。


 レイザンに心酔していたユユは散々に泣きじゃくり、もう男じゃなくて女がいいとシオに付いて離れなくなってしまった。


「シオちゃん……もうシオちゃんしか信じられない。シオちゃんは裏切らないよね……? ね、シオちゃん。シオちゃぁん……」

「ちょっと、失恋の反動で変な性癖発現させてないでしょうね!? カウンセラー、カウンセラーはいませんかー!!」


 足まで絡めてしっとりとした抱きつき方をしてくるユユに流石のシオも身の危険を感じたのか、助けを求める視線をこちらに向ける。


「なんとかしなさいよ師匠!!」

「師匠ではない」


 シオもシオで問題が発生していた。


「仮に師匠だったとしてもそれは目上の人にする態度でもないだろう」

「うっさいわね私を弟子に出来るんだから名誉に思いなさいよ! こちとらレイザンみたいな馬鹿に付き合ってたせいで育成遅れてんだから藁にも縋る思いなのよッ!」

「仮にも師と仰ぐ人間を藁に例えるのはどうかと思うぞ。認めてもないし」


 シオはハジメが隔絶した魔法使いであることを知るや否や、勝手に人のことを師匠呼ばわりし始めた。弟子入りは受け付けていないので断っているのだが、「レイザンの悪事に気付いていながら一週間も放置してたんだから魔法のアドバイスくらいしなさいよ!!」と微妙に反論しづらい主張で強引に押し切られてしまった。

 金ならいくらでもあるので慰謝料で勘弁して貰えないだろうか。


「なんとかしろと言われてもな……心を癒やせるゆったりとした場所、かつカウンセリングが出来そうな場所など……、……あるな」

「あるんかーいっ!?」


 シオの突っ込みが入るが、都合のいいことにフェオの村があった。

 人が少なくのどかで、医者のクリストフもいるし悩みを解決に導く聖職者も身近に存在する。しかも男女比で言うと女性が多い。まさに療養にぴったりの場所である。

 また理由も分からずフェオに責められそうな気がしてならないが、人助けと思って諦めて怒られよう。


 ちなみにシオとハジメを見捨ててマンティコラから逃げ出したリリアンだが、後に意外な事実が判明した。


「うちの家は両親も頼れる親戚もいなくて、弟と私の二人だけなんです……絶対に、弟を残して死ねなかったんです……レイザンが悪い男なのは知ってましたけど、女手一人で弟を養うには媚びるしかなくて……」

「おまえ、ねーちゃんをいじめる気だろ!! ぼくが絶対ゆるさないんだからな!!」


 敵愾心剥き出しの7歳くらいの弟を連れたリリアンは、そう言って深々とハジメたちに頭を下げた。彼女は彼女で深く辛い事情があったのである。これにはシオも責め辛く、「まぁ……別に」と許さざるを得なくなった。マトフェイが無言でライアーファインドを取り出すが、真実の錘が重なるのみで嘘はないようだった。


「レイザンがいなくなった今、一人で弟の世話を見続けるには限界が……どこか弟の世話を見てくれて、お金がかからなくて、心機一転で活動できる拠点があれば……」

「そんなことを言っても、そんな都合のいい場所は……、……あるな」

「あるんですかっ!! 是非そこにっ!!」


 リリアンがハジメの両手を掴んでぶんぶん振る。

 フェオの村には分別を弁えた大人が多く、少ないながら子供もいる。不在時に子供の面倒を見て貰うのは簡単だし、村民募集中なので家も簡単に手に入るし、転移台で最寄りの町とも繋がっており、更に言えばショージの野菜はタダなので食費も浮きまくりだ。


 リリアンの弟であるルクスに「ねーちゃんに触んな、近づくな!」と執拗にふくらはぎを蹴られながら、ハジメはもう開き直ってフェオに怒られようと決意した。


(これも全てレイザンのせいか……腹いせに散財してくれるっ!!)

『汝、転生者ハジメよ……そういうの良くないぞー……依存の始まりだぞー……だぞー……』


 ハジメはフラストレーションをぶつけるように善行に金を注ぎ込んだ。


 森でマンティコラに襲われ死亡した冒険者の葬儀代金を全額負担し、地元農家の人が欲しがっていた新品農具を配り散らし、レイザンにハメられて酔い潰された冒険者のピノとリオンには惜しみないギガエリクシールを浴びせ、森の小屋の再建及び強化資金を全額提供し、町中の店を練り歩いてフェオの村全員分のお土産を買い、トドメとばかりにギルドに対してレイザンに被害を受けた人たちを探し出して賠償金を払うよう約束させたうえで100億Gの基金を預けた。


「計111億Gの消費か……半端な散財にはなってしまったが、ロムランで稼いだ分は景気よく吹き飛んで財産的にはマイナスになったし、気晴らしにもなったのでよしとするか」

「おっさん金銭感覚ぶっ壊れすぎでは?」


 ツッコミつつも全ての手続きを終えた受付嬢のアイビーは、手続き終了直後にぽつりと漏らす。


「おっさん大金持ちだったのな」

「ああ」

「可愛い娘いるのよな」

「ああ」

「未婚なんだよな」

「遺産目当てに結婚しないかとか言い出すなよ。しないからな」

「やだーーーーっ! 結婚して養ってーーーーっ!! 仕事辞めて悠々自適なセレブになって札束風呂でワイン乾杯したーーーーいっ!!」

「そこに愛はあるのか……?」


 ある意味レイザン以上の煩悩に塗れた発言である。

 流石にアイビーも冗談のつもりだったが、彼女も何かしらにあやかりたいのか「娘ちゃん紹介してくれる約束忘れんじゃねーぞ!! こうなったら娘ちゃん存分に堪能するんだかんな!!」と謎の執着を見せつけてきた。


 ――後に約束を守るために文句なしの美少女であるクオンを連れてロムラン支部を訪れたハジメは『爆速爆買い勝ち組おじさん』、略して『爆おじ』の名で長らく親しまれることになる。これには爆発しろの意も籠ってるのだとか。


「いぎゃあああああ!! 可愛い、可愛すぎるぞおっさんの娘ぇぇぇぇぇぇ!!」

「やん、くすぐったいよぉ! ママ、このお姉ちゃんちょっとヘンな人だね!」

「俺の周りの大半が変な人の気もするが」

「おっさんがその代表だと思うけどぉ!?」


 ちなみにフェオにはやっぱり「また行く先で女の子を誑し込んで!!」と怒られた。いや、今回連れてきた全員は別にハジメを慕っている訳ではないと思うのだが――余計な一言と怒られるのを警戒してお説教を受け入れるハジメであった。

 嬶天下カカアでんかとか言ったら怒るだろうか。

分割の都合上ちょっと短くて申し訳ない。


緩めに評価、感想をお待ちしております。


なお、以前にも伝えましたがカクヨムの方が結構先行して投稿されてるので、続きの読みたい人はあっちで読んだ方が早いかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >人が少なくのどかで、医者のクリストフもいるし悩みを解決に導く聖職者も身近に存在する …人が少ないが、のどかだろうか。まぁ、のどかかなぁ…あと、クリストフの腕はいいけれど、サイコセラピーし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ