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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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37-12 fin

 ハジメの武器を巡る騒動は一旦の収束を見たが、その中で生まれたいくつかの余談はまだ熱を帯びていた。


「ハジメさんに!! 花火大会デートに!! 誘われたッッ!!?」

「ボーナス確定~~~!! フィーバータイム突入~~~~~!!!」

「ハジメさん、自分から誘うなんて立派になって……!!」

「羨ましいですぅ!! ズルいですぅ!! 次は私もハジメさんに誘われてデート行きたいですぅ!!」

「それはそう」

「そ、そんな大声で言わないでくれ……!! は、恥ずかしい……!!」


 思わぬ大イベントに舞い上がるハジメハーレム実行委員会(自称)のウルとアマリリス、感動のあまりハンカチで目元を拭うフェオ、欲望ストレートなサンドラ、皆に余りにも囃し立てられて恥ずかしくなりもじもじするベニザクラ。


 少し先のことになる二人のデート計画を成功させる為、なにより己の欲望の為、愛だの恋だのが大好物名乙女達はデートの誘い方や日程、行先、準備などを根彫り葉掘り姦しくベニザクラに確認しまくるのであった。


 ――女性陣が騒ぐその一方、裏で密かに進行していた計画があった。


 クオン立案、ユーギア研究所試作機ゴーダツ計画である。


 ユーギアが首を縦に振らなければグレゴリオン・γプロトを強奪するのはクオンの中での決定事項。強奪は時間の問題化に思われたが、返ってきたのは予想外の反応だった。


「君、格納庫行ったときγプロトになんかしたでしょ。ログとカメラから逆算して君がやったとしか思えない」

「さ、さささ、触っただけダヨー?」

「嘘が下手ッ!!」


 これでも当社比で隠し事は上達したクオンであるが、誤差レベルの差異しか確認されなかった。

 ユーギアは困ったように頭を掻く。


「参ったな……よりにもよってγプロトかぁ。ゼノギアが欲しいって言われるのは全然いいんだけど、なんでよりにもよってあの機体なんだ?」

「それは……秘密」

「……」

「……」


 何かを必死に目で訴えるクオンに、ユーギアは顎に手を当てて思案すると、思わぬ提案を投げかけてきた。


「……前の量産型の発展じゃなく、君専用のゼノギアを開発する。それで満足してくれんかね?」

「!!」

「召喚術で君の出したいときに出せるようにする。整備も研究所で請け負おう。使う場所はくれぐれも気をつけて欲しいけど……注文があるなら今のうちにしてくれ」

「い、いいの!? やったぁ!! じゃあね、じゃあね――!!」


 クオンは己の思いつく限りの趣味と実用面の部分の要求をつけた。その要求内容からクオンのやりたいことがある程度逆算出来てしまうことにユーギアは苦笑したが、最後の「ママにはナイショ! 絶対、ぜーったい……じゃないけどナイショ!」という約束には指切りまでして同意した。

 何故絶対じゃないのかと聞くと、「絶対言うなよだと言うから!」という返答があった。そういう解釈の界隈はあるが、多分用法を間違っているとユーギアはやんわり指摘した。


 クオンによる試作機強奪計画、一旦白紙に戻る。

 完成したら改めて強奪するということで二人の間に合意コンセンサスが得られた。なお、事前に強奪されるのが分かっているのでは強奪と言わないという指摘は二人とも全く考えていなかった。


 ――この合意には一つの裏話がある。


 ユーギアがゼノギアに憧れてくれる子供を快く思っていたのは確かだが、同時に一つの懸念を抱いていた。クオンという野放しの神獣が暴走し、世界が終わってしまうことのリスクだ。

 

 ユーギアは最初から、万一クオンが暴走した際の対策となる《《神獣拘束用ゼノギア》》の図面に手を出していた。クオンに提供する予定の機体は、その設計図を流用しつつ手を加えたものとなる。

 正直に言えば、本気で暴れるクオンを押さえ込めるほどの機体に仕上げられるかユーギアには確証がない。しかし、リスクを考えると備えずにはいられない。そんな彼にとって、クオンからの要望は都合が良かった。


(名前も変えるか……うん、グレゴリオン・フェンサーとしよう。DDFよりは格好良いし)


 DDF――|Drag-in Dragon Fencer《ドラゴンを封じる囲い》ではあんまりだが、フェンサーは剣士という意味もある。彼女自身も暴走を防ぐ為のものという意識があるようだし、敢えてフェンサーという言葉だけを残すのは悪くない。

 流石に一度休んでから作業に移るつもりだが、彼の脳裏ではまだ見ぬグレゴリオン・フェンサーの構想が組み上げられつつあった。




 ◇ ◆




 キャバリィ王国の賑わいある城下町を歩く、一人の若い男性と子供。

 魔界への帰還前の自由時間を与えられたシノノメと、それに付きそうリベル・トラット将軍だ。二人に向けられる周囲の視線は温かい。


「お、将軍はまた姫のエスコートか?」

「姫さん、これ持っていきな。新作の焼き菓子なんだ」

「もうすっかり見慣れたもんだなぁ、姫の歩き方も堂に入ってきたよ」


 まるで親戚の子供を相手にするかのように気安い城下町の人々に、シノノメは短く感謝したりぺこりと頭を下げたりしている。少し前まではまだぎこちなさがあったが、今は心なしか無表情も柔らかく感じる。


 もちろん本来は現在のキャバリィ王国に姫はいないが、当の女王たるアトリーヌ・キャバリィが「シノちゃん可愛いから仕方ないよね!!」と姫呼びを容認しているため、周囲も何の疑問も無く姫呼びしている。

 リベルは時折かけられる声に短く返事しつつ、シノノメの荷物持ちを務める。貰い物もあるが、普通に購入したものもそれなりだ。受け取ってはシノノメ用の道具袋にものを突っ込みながら、リベルは笑う。


「段々勝手知ったる土地になってきたな、姫」

「ん」


 シノノメはリベルに結構重い感情を向けてきたが、リベルとしては彼女のことは妹くらいに思っている。彼女も多分、まだ恋愛感情を抱いてはいないだろう。それでもちょっと重いのは将来が心配だが、彼女が一緒に暮らしたいと言いだしたら頷いてもいいくらいには彼はシノノメを気に入っている。


 そんなシノノメがリベルと一緒にいるのはデートという訳ではなく、用事を終えての帰りのこと。というのも、今回はユーギア研究所とキャバリィ王国の間で書類のやりとりがあったのだ。


 魔王軍が去った今、傭兵業に力を入れるキャバリィ王国の収入はどうしても減少する。その埋め合わせの為の成長戦略の一つとして以前からゼノギアが挙げられていた。

 具体的には、ゼノギアの技術を応用した乗り物やオートゴーレムを研究所の技術提供によって独自に開発し、これを売り物にするというものだ。

 オートゴーレムの生産と輸出はシルベル王国の一強だが、それは競争相手がいなかったからという側面もある。その独占的な地位もあってか、シルベル王国産のオートゴーレムは高級品かつマイナーチェンジ機ばかりで既存のゴーレム観を変えるような大きな変化は今まで起きていない。


 今の所は農業用ゴーレムや工事用ゴーレムが検討されている他、シルベル王国から仕入れたオートゴーレムに独自の改良を加え、付加価値分高く売るといった計画も存在する。上手く行けばゴーレム市場の一部の確保に加え、労働力を補い国内の生産性を高めることが出来るだろう。


 ちなみにシノノメはそういった大人の計画には関心が無い。

 彼女が関心を寄せるのは、そうした産業にユーギア研究所が協力することで、更に彼女やその仲間達が気軽にキャバリィ王国に来られるようになる点だろう。

 リベルは自分の予想が当たっているかどうか、訊ねてみる。


「姫。この国が好きか?」

「好き、に、分類される」

「魔界よりも?」

「肯定」


 彼女は素直に回答した。


「魔界は確かに生まれ故郷。だけど、自由ではない……と、感じる」

「魔界は魔界で結構気楽そうにも見えたけど、姫の考えは違うみたいだな」

「ユーギア博士は好きなことを好きなだけしているけれど、それは下級とは言え貴族の地位――一定以上の魔力と財力があるから始められたこと。そして魔王軍システムに選ばれないからそれを続けられている」


 シノノメは思いのほか俯瞰的でドライに状況を見ていた。

 確かに彼女の指摘は的を射ている。

 魔界に限らず大多数の人間はユーギアのように世襲で大きな地位を手に入れることは出来ない。最初から大きな力を持たない人間が大きな自由を行使しようとすれば、ハードルは大きなものになる。


 シノノメは掌を太陽に翳し、掴み取ろうとするように指を曲げる。


「博士はなんでも自由に出来るようになればそれはそれで大変だって言ってたけど……わたしは、魔界にもう少し自由が欲しい。魔界にも地上にあるような店舗が出来たり、魔界の人間が地上でもっと気楽に遊べるようになったり……そういう生き方も出来る、選択肢が欲しい」

「いい目標じゃないか。今日は目標に近づく新たな一歩って訳だ」

「……」


 シノノメは何故か不機嫌になり、リベルの手をつねった。


「いたっ、どしたぁ?」

「他人事」

「え?」

「リベルが押しつけた自由の使い方なのに、他人事」

「……マジ? それ俺のせいってことになってんの!?」

「リベルのせい。確定的な事実」


 無表情なシノノメの目が心なしかじとっと睨んでいる気がする。

 確かに自由を持て余していた彼女に構ってあげられるよう一番時間を割いたのはリベルだが、別に決定そのものはリベルが主導だった訳ではない。ところがこの姫の中では全部がリベルに端を発する事象ということにされているらしい。


 姫扱いしている手前「そこまで責任取れないよ」とは言えず、またシノノメが以前より成長したとは言え依然世間知らずの子供であることを考えると、彼女自身が違うと気付かない限り指摘しても意味は薄いだろう。


「姫、分かった。分かったらもうつねるのはやめてくれ」

「ならいい」


 ふんすと鼻を鳴らしたシノノメは、しっかりリベルの手を握って再度歩き始める。魔界全土の将来にまで関心はないリベルだったが、この子がそのために頑張る支えが欲しいというならそれもいい。

 ……いいの、だが。


(ま、まぁいずれ世間を知れば全部俺理論は違うって事に気付くだろ。気付く……よな?)


 子供の成長は早い。育ち盛りのシノノメも、あと数年もすれば大人らしい体つきに成長していくだろう。そうなった後も今の調子でひっつかれると、彼女はオジサン好きの重い女になってしまうんじゃないだろうか。

 それが兄に甘える妹の感覚にせよ、異性にとして意識しているにせよ、確かにもう少し彼女の自由を増やして視野を広げる必要はあるのかも知れない。


 じゃないと、最終的にアトリーヌが「シノちゃん私の養子にしたから、リベル責任取ってくっついてね」等と言い出し、シノノメも「自由の責任を取って貰う」とか歪んだ認知をしかねない。


 ……実際のところシノノメは親兄弟と過ごした記憶が無いので自覚なくしてリベルに父性を求めてるというのが父親役失格保護者ユーギアの妥当な分析なのだが、それはそれとして重い女の資質があるのは事実なのであった。

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