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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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37-7

 研究所の転送装置を使い、全員があっという間に都市の近くに転送された。

 地上で使われる転移陣や転移台より、天使族の使っていたそれに技術的には近いようだ。個人的には転移の際に自分が細かく分解されて行先で再構成されるような演出なのがちょっと怖いが、幻覚でそう見せているだけなのでスワンプマン問題はないそうだ。

 

 さて、件の魔界だが――。


 見た目には普通に地上の活気ある町と変わらないものの、やはり目につくのが魔法、魔法、あちこちに展開される魔法陣。強靭な肉体と高い魔力適合は様々なものの存在意義を消滅させたらしく、誰もが全ての物事を魔法で片付けている。

 そのため、地上ではよく見るものがない。


(馬車や滑車の類がひとつもない。魔法が極度に発達するとこうなるのか?)


 エルヘイム自治区も人々も同じく魔法を多用していたが、魔界は本当に「魔法があるから必要ない」を地で行っているのか大きな荷物も魔法で浮かせて自分たちも飛行している。きっと彼らからすれば乗り物を使う方が管理コスト等のデメリットが多いのだ。

 道具よりも自分自身が強くて効率的に魔法を使えるからこそ、本当に乗り物が必要ないのだろう。建築用の膨大な建材を鼻歌交じりに運んでいる者もおり、うっかり荷物の一部が飛行する魔族にぶつかって吹っ飛んだ。


「痛ぇ! もうちょっと気をつけて飛べよ!」

「悪い悪い、荷物のせいで前見えねえからよ」

「荷物抱えてんの頭上だろうが、嘘こけぇ!」

「悪かったって、マジで」


 やいのやいのと揉めている魔族たちだが、剣呑な空気は無くじゃれあいのようにどこか緊迫感が感じられないのを見るに日常茶飯事なのだろう。実際、普通の一般ヒューマンがあの衝突を受ければ骨が砕けるであろうに、吹っ飛ばされた側はけろりとしている。

 ブンゴが目を窄めて唸る。


「うお……反重力魔法、空間固定魔法、衝撃分散魔法とめんどくせぇ魔法を平気で多重展開してやがる。あれで飛行までしてんのにマジックアイテムも装備も媒介ゼロかよ。エルフは魔力を操る『場』を操るセンスなんだろうけど、魔族はそもそも魔力の伝導がヤベェんだな」


 超鑑定の応用で勝手に一人納得しているブンゴに、ソーンマルスが質問する。


「伝導……? それは我々とどう違うんだ?」

「ん~……地上の殆どの種族は魔法を使う作業を5人で分担してるものと過程する。つまり、魔法を使おうと思った際に体内から魔力を抽出、魔力の収束、術式の展開、使用条件を満たしているか否か、魔法発動のトリガー……までの過程だ」


 片手で五指を立てたブンゴは、親指と小指を折りたたんで三指にする。


「純血エルフなら特殊なセンスで抽出と収束を同時に行ない、術式の組成も直感で行えるので3人で事足りる。その分の余裕を活用して強力で複雑な魔法を簡単に使える」

「かなり絶対的な種族的優位性だな。では魔族は……?」

「抽出・収束・術式までの過程が直結してる上に速すぎて実質2人だな。マジでセンスの凄い奴なら1人分のリソースで全部やれるかも」


 すなわち、純然たる種族差による圧倒的優位性。

 地上で最も魔に優れたる純血エルフすら上回る魔力効率。

 これが魔力に適応した人間ということなのだろう。


「ただ、エルフはセンスのおかげで魔力量少なくても上手く立ち回る方法があるけど、魔族は各課程が繋がりすぎててそいつの魔力量が魔法の強さに直結することになる。上限と下限の差異はかなりデカそうだな」

「……アンタ、博士と同じでふざけてる割に頭良いのね」


 ブンゴの分析をフェートは否定しなかった。

 これこそが、魔界に於いて魔力量の差が重視される要因のようだ。

 フェートは嘆息し、自分の武器である鞭に目を落とす。


「本当に強い魔族には武器なんて必要ない。武器を扱うセンスがあれば話は別だけど、大抵はそうじゃない。魔法を封じる手段への対抗策だって沢山あるのよ、貴族達にはね」


 そうした知恵も上位魔族が独占しているということだろう。

 ともすれば、と、ハジメは疑問を抱く。


「……貴族であるにも拘らず乗り物や武器に情熱を注ぐユーギアの魔界における異端性は、もしや魔界一クラスなのでは?」


 フェートはすっと目を逸らした。

 正直な子である。


「そんなやつがどこから研究予算を確保してるんだ? 実家か?」

「採掘会社とか建築会社とか、マジックアイテムの製造会社とかの大本の権利を持ってて、そこから色々捻出してるって言ってた。実際、博士の経営する会社はこの町――ダンディリオンの発展にかなり貢献してるの」

「あいつ魔界ではマトモな所もあるんだな」

「いーや、絶対打算よ。実際、博士はこの辺で結構変なゼノギア試験して何回か怒られてるんだけど、みんな博士の都市への貢献が小さくないのを知ってるから怒りづらそうだもん。案の定博士は適当にあしらってるし」

「前言撤回、第一印象のときのままだ」

 

 流石は自分の趣味で地上にロボット大戦を起こそうとした男である。

 やっぱり魔界でも周囲に迷惑をかけていた。

 フェートは肩をすくめる。


「ま、貴族にいちゃもんつけられる度にゼノギア持ち出してぶちのめす様子が面白いとか、研究所での平民の待遇がいいとかで、あれで意外とファンも多かったりするの。正直アタシも博士に拾われてなかったら山猿みたいな生活だし。変な人だけど、悪い人じゃないんだ」


 そう付け加えながら前へと突き進むフェートは、少し照れ混じりにはにかんでいた。

 が、リベル、ブンゴ、ベニザクラが「かわいい」「今の見た?」「見た見た」「かわいいな」「シノもフェートはかわいいって言ってたけど、確かにだわ」「いや、かわいすぎでは?」とひそひそ会話している事に気付いたフェートは耳を赤くして恥ずかしさを紛らわすように足を早める。

 確かに子供を可愛く思う気持ちは分かるが、なんとなくフェートのような性格の子を相手にそういう言い方は大人達のよくないところが出ている気のするハジメであった。


 と――町の中心部にほど近いところで、先日楽しんだ花人は違う荒々しい爆発の光が見える。フェートは「やってるやってる」とそちらに向いだした。


「貴族同士の決闘よ。魔界の娯楽。見ていくでしょ?」


 一同は言われるがまま、フェートに導かれてダンディリオンの中心部へ歩みを進める。

 近づくにつれ、貴族同士の決闘の詳細が明らかになってくる。


「人の屋敷の冷蔵庫を漁ってプリン食べたぁぁぁぁぁぁッ!! 犯罪者ぁ!! ばか!! うんち!!」

「うんちって言ったやつがうんちなんだよぉ!! だいたいプリン一個で暴れるお前の方が犯罪者だろいッ!!」

「言い訳すんなぁぁぁっ!! うわ゛ぁぁぁぁぁぁばかばかうんちぃぃぃ!!」


 果てしなく品性と知性に乏しい罵り合いをしているのは、豪奢な衣服に身を包んだ魔族の令嬢と悪魔の子弟と思しき人物達。

 決闘のきっかけのしょうもなさを除けば、二人とも高速で空中戦闘を繰り広げ、一秒に十発近い魔法による砲撃の応酬を繰り広げている。地上の種族ではこのようなことは起きないだろう。余りにも難易度が高すぎる。


 基本攻撃が魔法ばかりなので必然的に空は色鮮やかな魔力光に溢れ、結果的に迫力ある熱戦のようになっている。


「……戦闘センスや経験はなさげだが、速度と火力だけならマリアンと遜色ないな」

「マリアン……『風天要塞』マクシミリアン・ラファルのことか!?」


 ハジメの所感にソーンマルスが驚く。

 最高位の魔法使いであり冒険者、そして魔法学者である天才マリアンの名はシルベル王国にも当然の如く轟いていた。確かに最上位冒険者の一角たるマリアンに部分的にでも並ぶというのは大したものだし、まだ十代前半といった年齢の子供がそれほどの力を持つというのは驚愕に値する。

 しかし、ソーンマルスの驚きは別の角度を向いていた。


「あんなにしょうもない理由で力を振るっているのに……!?」

「それはそう」


 上空では完全に意地になった子供達が「うんちうんちうんち!!」と低俗すぎてIQが下がりそうな罵り合い以下の口撃の応酬を繰り広げており、これほど幼稚な理由で決闘をすることが地上の感覚としては驚きだ。

 まぁ、先述のマリアンも未だに弟子のルミナスに低レベルな悪戯をしているのだが――という天才と何とかが紙一重な話はさておき、決闘とは名ばかりの子供の喧嘩は観衆の耳目を集めている。


「おう、やれやれ!」

「がんばれ~!」

「そこだ、やれ! ……ああ、惜しい!」


 やいのやいのと騒ぎ立てる様はまるで騒ぎがあれば勝手に野次馬が集まる江戸っ子の如し。たまに巻き添えの魔法が飛んできて吹っ飛んでいるが、当然のようにけろりとしている。建物や道路にもちょくちょく命中しているが、対魔力に優れた素材なのか焦げひとつない。やたら建築技術が発達しているのはこの辺りの事情が影響していそうだ。

 ただ、戦い自体はハジメとしては見所がなかった。


(……確かに闘技場の決闘より派手な見世物だが、あれでは二人がかりでもマリアンに一撃と与えられまい)


 上空で戦う二人は技術も碌になく派手に暴れているだけだ。

 マリアンなら二人がかりで挑まれてもかすり傷ひとつなく勝てるだろう。


 ハジメはこれまで魔王軍所属の魔族と何人も相対し屠ってきたが、上空の二人の戦い方に魔王軍魔族たちの戦いの源流が見える気がした。もちろん魔王軍側の方がもう少し実戦を前提としてマシな立ち回りをしているが、自分の力を過信して攻撃に偏重したり防御への配慮がいまいち足りないのは、彼らの決闘方法が下地になっていたからと思われる。


 魔界の戦いとは恐らく、どこでもこういうものなのだ。

 命を奪うほどの敵もいなければ理由もないから、力押しのみで決める。

 上空の決闘はやがてプリンを食べられたと主張する令嬢の猛攻に子弟が押しきられて爆散する形で終結した。当然爆散というのは魔力が炸裂する様であり、喰らった当人は髪がチリチリになってふらふらと落ちていった。


 決着の瞬間に観衆が沸き、そして終わったので散っていく。

 フェートがつまらなそうに首を振り、こちらを見る。


「貴族ってあんな感じでしょうもないことで対立する度に決闘やるの。もっとベテランの魔族だと流石にもう少し見応えがあったりするけど、でも中身はほぼ一緒。わざわざ平民の目があるところでやる理由は色々説があるらしいけど……ま、見物人はこうして面白がってる訳だからいいガス抜きなんじゃない?」

「そういうものか。しかしあの調子だとゼノギアが出てきたら平民視点ではさぞ物珍しかろうな。あいつが好かれる理由が分かる気がするよ」


 命を消費してまで争うことはなく、必死になる必要も無い世界。

 気楽に生きられはするが、平民にしてみれば貴族の地位、魔力、財の壁は越えられない。当然、彼らが独占する贅沢も殆ど手に入らない。

 だから決闘の見物が娯楽になるし、子供に半ばサバイバル生活のようなこともさせる。多分、彼らはそれを苦にも思っていない。魔族だからそうなったのか、システムによる制約でそういう人格になりやすいのかは分からないが、少なくとも一定の満足感の中で生きている。


 それを平和と呼んでよいのなら、魔界は地上よりもよほど平和だ。

 たとえその世界をよく思わない魔族が定期的に生け贄として地上に出荷されることでその平和が維持されているとしても――その生け贄を「名誉」と思い込まされているとしても――天秤が導くのは残酷な結果だ。


 そんな彼らの心に残る一廉の変化を求める心を、ゼノギアは呼び覚ます。


 しかし、それは平民視点の話だ。

 己の力こそ全てと思う貴族階級とユーギアが揉めてきたということは、変化を厭う者もいるということ。貴族からするとゼノギアの存在はルール違反のようで面白くないのではないか。


 ハジメの予想を裏付けるように、さっき撃ち落とされた魔族の子弟を拾いにきた別の貴族がフェートの存在に気づき、侮蔑の視線を露に嫌みったらしく絡んでくる。


「おやおや、卑怯者のユーギア・マルファハスのデクタデバイスの小娘じゃないか」

「奇怪なゴーレムに頼らなければ何も出来ない惰弱な男! その僕ともなればちっぽけさに拍車がかかるなぁ! また玩具でも振り回しに来たのか?」

「産まれながらに何も持たない哀れは平民にはお似合いだ! ハハハハハ!」

「あら、その奇怪な玩具ひとつどうにも出来ずにまぬけな姿を晒し、負けるのが怖くて再戦もしようとしないお貴族様の言葉は重みが違いますわね」

「……調子に乗るなよ、デクタデバイスの分際で」

「主に喧嘩を売る気概がないから子分で憂さを晴らすってこと? あらやだ、まるでチンピラみたい~! お貴族様は演劇もお上手なんですのね?」


 いきなり気配は一触即発。

 負けん気の強そうなフェートは一歩も引く気配を見せないが、放つ魔力の気配は明らかに貴族が上だ。彼らの侮蔑の視線は後ろのハジメたちにも向く。


「今日は数が多いので気も大きくなっているようだな。無教養な平民らしい原始的なものの考え方よ。おや、年下のお友達が増え……て……」


 一番小さなクオンに矛先を向けた貴族は急に威勢をなくしてゆき、視線が上へ上へと上がっていく。


 振り返るとそこには、今まで一度も見たことがない程巨大で凶悪な姿へと変貌したぽちの爛々と輝く相貌が見下ろしていた。口元から火の粉混じりの吐息を漏らすぽちは、ライオンのような深紅のたてがみをざわめかせて嗤う。


『続けてくれよ。喧嘩って好きなんだ。見てるのも、やるのも……』

「ヒッ……『ゾムド山の怪物』オルトロスッ!? ま、ま、魔王様の直属の僕がなんでこんな所に!?」

「う……うわぁぁぁぁぁ!! 死にたくないぃぃぃぃぃぃ!!」

「おい、待て置いて行くなぁっ!!」


 巨大になったぽちの姿を見た貴族達はみっともなく尻尾を巻いて――本当に巻いてる――逃げ出した。

 フェートがしばし唖然とし、やがて振り向いた先でしたり顔をするぽちの威容に圧倒される。現在のぽちの大きさは神獣の眷属アロも子犬に見える程で、地上で出現したら間違いなくアデプトクラス案件になるほどの戦闘能力が覗える。


 一部様子を見ていた民衆が色めき立つ。


「魔王様の僕だ! ありがたや、ありがたや!」

「リヴィエレイア家の紋章、間違いない!!」

「あれが魔界貴族も手出しが出来なかった制御不能怪物オーバータイランツ……」

「おれ、オーバータイランツなんて初めて見た! すっげー!」


 貴族達は喧嘩を売ったので報復を恐れたが、民衆からすると魔界で最も高貴な貴族の僕で見る機会もないためか、恐怖よりも興味や好奇が勝っている。

 ぽちはパフォーマンスとばかりに軽く空にブレスを放ち、目撃者から悲鳴や歓声が挙がる。一通り周囲の反応を楽しんだぽちは、先ほどまでのサイズに戻った。

 クオンがその顎を遠慮なくわしゃわしゃしながら驚く。


「ぽちってあんなに大きかったんだー! でも、オルトロスって呼ばれてたのはなんで?」

『元々はそういう名前なんだ。ぽちはウル様から貰ったもんだから』

「そうなんだ。クオンの名前もママから貰った名前だよ~!」

『いい名前貰えて良かったな。いや、ぽちが悪い訳じゃ無いけど』

「その、ぽち。迷惑掛けちゃったかしら……」


 フェートが気まずそうな顔をするが、ぽちは「久々にちやほやされて嬉しかったからいいって」と冗談だか本音だか分からないことを言って笑う。実際ぽちは自分の存在感がイマイチなことを気にしている上に最近村にインパクト抜群の巨犬アロがやってきたので本音の割合が多そうだ。

 それはそれとして、ハジメは気になることもあって疑問を呈す。


「魔王の僕が堂々と歩いていても誰も疑問に思わないんだな。一緒に地上に行ったんじゃないのか、とか。魔界ではいま魔王っていまどういう扱いなんだ? 死んでることになってるのか?」

『考えてもないんじゃないか。魔王軍は送られたらそれっきりだからな。ま、帰ってきた魔王とかも歴代にはいたみたいだけど、選ばれたことに意義があるから別に逃げ帰っても責められたりはしないんだとさ』

「だから魔王の僕がどこで何をしていても違和感は覚えないということか」


 意外とそういう逃げ道はあったのだなとも思うが、やはりシステムに縛られると逃げるという選択肢も取らなくなるのだろう。


「それにしても、どうやらお前は野良時代ずいぶんやんちゃしてたようだな」

『いやいやいや……ただ貴族の私有地の山を縄張りにして周りの都市から宝をふんだくって生意気な貴族を30人ばかり半殺しにしただけなんですよぉ』

「思ってたよりガッツリ悪行働いてる」


 てへぺろポーズを取ってお茶を濁そうとしているが、『ゾムド山の怪物』という通り名や制御不能怪物オーバータイランツなどという物騒な言葉の響きで括られていたことからもその暴れぶりが覗える。

 と、フェートがいきなり間に入って興奮気味に説明する。


「そうなの、オルトロスは魔界貴族連盟も討伐隊を送ったのに二回も失敗して頭を悩ませた凄い魔物なの! それを当時魔王ではなかったウルシュミ・リヴィエレイア様が単身向かい、あっさりと屈服させて戻ってきたのよ!! あたしよりちょっと年上くらいの年齢でよ!! 凄いでしょう、魔王様って!!」

『ビンタ一発で沈みました。ビンタ……ビンタかあれ? 目玉飛び出て首取れるかと思ったんだけどぉ……?』


 屈服させられた当時を思い出したのかぷるぷる震えるぽち。

 得意の絶頂からの大転落は彼の心に未だ癒えぬ傷を刻んでいた。

 道理でウルに全く逆らえない従順な犬をしている筈である。

 魔王への尊敬の念を抑え切れず頬を紅潮させるフェートとのコントラストが酷い。


 というか、先ほど見た感じオルトロスを一撃で沈めるにはレベル100近く必要そうなので、それが何年も前の話ということは……。


(ウルは実はレベル100以上あるのに魔王軍システムで100に制約されているんじゃないだろうか???)


 魔王を辞めて無限魔力やその他の特殊耐性を失った時、ウルの真の実力が発揮されるのかもしれない。

 彼女が魔族に産まれたのは種族ガチャで自分が選んだわけではないらしいので、つくづく運命に愛された女である。なんか、魔王に選ばれたり逃げた先で漏らしたりでよくない愛され方をしている気もするが。


 ……そういえばそんな魔王のお漏らしパンツを売ったやつが魔王軍にいて、マオマオの代理として自分はそれを購入したことがあったのを思い出す。できれば永遠に封印したい記憶だが、そういえばあのパンツをマオマオはどうしたんだろうか。


(いや、よそう。何をどう考えてもろくな結論に達しない)


 ハジメは深く考えてはいけない気がして真実の追求から目を逸らした。


「そういえばアタシ、魔王様の直属の僕から魔王様のお漏らしパンツ見せてもらったことがあるの! ケースを開けてちょっとだけ触らせて貰えたわ! 凄いでしょ!?」

(知りたくなかった)


 目を逸らした筈の真実がノータイムで回り込んできた。

 出来ればそれを凄いとか嬉しいと思う感性はシステムで生み出されたものであって欲しいハジメであったが、魔界基準だとウルは桁外れの美形らしいので結局は残酷な真実が待っているかも知れない。

 ちなみに地上組の半数はパンツ話にちょっと引いていた。

 幾度目を逸らしても、真実は消えることなくいつまでも追い縋ってくるようだ。

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