36-8
翌日、ハジメの頭上が光っていた。
陽光を反射して見事にハゲたからであればある意味大事件だが、そうではない。
よく見ると光の正体は天使の輪のような光るリングであり、三層になったリングにはバーコードのような不規則な切れ目が所々にあり、それぞれがバラバラの速度で緩やかに回転している。
ハジメは朝の四時に朝食の仕込みをするために目を覚まして顔を洗っているときにそのことに気づいた。
「なんだこれは……」
剣の柄でつついてみるが、実体がないのかすり抜けるで何も起きない。
ハジメはしばし考え、ひとつの推測を導き出す。
「時間が来たらこのリングが爆発して俺の頭は吹き飛ぶ、とか」
「なーに一昔前のサンドラみたいなネガティブシンキングしてんのよ」
「カルマか。おはよう」
「はいはい、おはようさん」
後ろから姿を現したカルマは、気怠げに自分の頭上を指さす。
「アンタの頭の上にあんのは、セントエルモの聖火よ。具体的には発生装置から出た聖火から効果のみを抜き取ってあんたの頭上に転送してんの」
「何故そんな……いや、そうか。昨日言っていたことだな」
先日、ハジメがセントエルモの篝火台を背負って歩いてる姿が間抜け過ぎるとカルマが苦言を呈したことがあった。彼女はどうやらその後、主人の間抜けな姿を見ずに済む方法を考えてくれていたらしい。
「ま、ちょっと目立つけど昨日よりはマシっしょ?」
「確かに動きやすいので助かるよ。ありがとう。オンオフは端末からできるか?」
「察しが良いわね。あんたのそういう話が早いとこは悪くないわ」
面倒くさがりのカルマがオンオフ設定を自分で請け負うとは思えないという予想は当たっていたようだ。端末を取り出してオフ、オン、オフと切り替えると操作通りに光輪が出たり消えたりを繰り返した。
不思議と機嫌をよくしたカルマは壁にもたれかかって喋り出す。
「昨日説明した情報異性体ってさ、どう思う?」
「性質は違うが、物質と反物質みたいだなと思った。わざわざその状態を維持するのが大変そうだ」
「そーね。旧神共も技術的に情報異性体を作ることは出来ていたけど、するメリットがなんにもないからマニアなら知ってる知識程度の存在だったわ」
彼女らしくもない無駄話だが、彼女がわざわざ自分の自由時間を割いてハジメに話しかけるのには意図を感じる。
情報異性体という存在をハジメは聞いたこともなかった。
恐らく情報異性体の話をある程度理解していた面々も、概要が理解出来た程度で技術的な話となると別だろう。つまり、知識自体が世界に知られていない事実上のロストテクノロジーということになる。
「ただね、この技術は神代の末期まである場所でだけ使われていたのよ。どこだと思う?」
試すような彼女の視線には、答えられなかったら興味を失って話を打ち切りそうな気紛れさがあった。
実用的ではないということは、神獣や今の神を相手に使ってはいないだろう。保護した人間達に対して使ったとも思えない。情報そのものを分解してしまう力を何かに利用するとすれば、ものを消し去ることだ。
しかし、そうなると最初の「実用的ではない」という部分に話が戻ってしまう。
「はい、時間切れ」
答えが出ないままにカルマは意地悪な笑みを浮かべた横顔を見せて踵を返す。最初から正解が出る前に打ち切る意地悪だったようだ。
この身勝手さに旧神はとうとう制御を諦めて彼女を封印したそうだが、ハジメは別に制御するつもりはない。
ただ、問答自体には意味があると思える。
「今回の依頼が終わるまでに、推論で良いから考えておくか」
と――誰かの気配が拠点に近づいていることに気づいてハジメは無言で武器を構えると外に繋がる扉を開く。敵意や威圧感は感じない。移動速度は、恐らく木々を伝っているのでそれなりに速い。恐らくカルマも感知していた筈なので、素直に伝えずハジメが気づく距離に近づくまでお喋りしたのかもしれない。
そして、何も言及しないと言うことは、恐らく害意ある存在ではない。
遠視スキルを駆使して相手を視界に捉えたハジメは、それがつい先日ギルドに送り返したラバールであることに気づく。少し待っていると、彼はラビットマンの持ち前の健脚で木々を飛び移りながら白い息を切らせてハジメの前に着地する。
着地の衝撃で散ったパウダースノーがハジメの全身に浴びせられるが、彼は全く気にせず「昨日ぶり!」と快活に挨拶した。
「……せっかく送り返したのにまた来るとは、遭難趣味でもあるのかお前」
「帰るときに道はしっかり確認したんで、もう迷わないよ。木の位置や地形の起伏を読み解くくらいぼくにとって訳はないさ。しかしあんた早起きだね……ぼかぁまだちょっと眠いよ」
「はぁ。一応聞くが、何しに来たんだ?」
「ぼくもね、正直この森にもう一回来るのはちょっと気が引けたんだ。また化物に出くわしたら命の保証がないからね。でも、よく考えたらぼくは最初の目的である村の遭難者を一人も見つけていない訳だし、村に帰ったところで村長にどの面下げて戻ってきたって尻を蹴飛ばされるハラスメントを受けるのが目に見えているんだ」
「俺が実力の無い者をここに置く気がないことも目に見えているぞ」
妙に話が長く小脱線を繰り返すラバールのマイペースさに呆れつつ端的な事実を突きつけると、ラバールは「勝手にこの辺でキャンプするから気にしないでいいよ」と堂々居座り宣言をした。明らかにこちらの見捨てる訳にはいかないという善意につけ込む気なので黙って無力化して巻物に詰めて、後でギルドに届けようと犯行計画を決定したところで不穏な気配を察したらしいラバールは「ジョークよジョーク」とぎこちない笑みで取り繕った。
「本当はおせっかいを焼きに来たんだ」
「ん? 俺たちの知らないところで何かあったか?」
「うん。多分あんたにとって悪いニュースだから」
善意による行動なので責めるのも酷だし有り難いが、それで危険地帯に遭難リスクを抱えてのこのこやってくる辺りに彼の人としてのバランスが見て取れる。目の前のことに夢中になりやすいが故の視野狭窄である。
――ただし、彼の齎した悪いニュースはハジメが思った以上に悪いものだったが。
「ミュルゼが凄い勢いでギルドや他の冒険者を説得して第三次捜索隊を結成しようとしてる。もしかしたら今日中に話が纏まって、周囲のギルドからも冒険者をかき集めた五〇人規模の大捜索が始まるかも……何人集めたってあの化物相手じゃ死ぬだけなのに」
物憂げに視線を逸らして呟くラバールの言葉に、ハジメは思わず呻いて顔に手を当てる。
「……一度引き返してギルドを説得しなければな」
五〇人規模ですぐ人が集まったと言うことは、殆どの冒険者が有象無象だろう。何故なら高位冒険者ほど仕事の都合がつきづらく、仕事がホームギルド外だと更にハードルが高まるからだ。
怪物のみならずバニッシュ属の存在が明らかになった今、数に頼った人海戦術は犠牲を増やす悪手以外の何者でもなかった。
ハジメはギルドを説得しに急遽インスタンツサモンによってアンジュを呼び出し自分の代理を頼むことにする。日の出すら未だ訪れぬ時間帯に極寒の地に呼び出されたアンジュは、流石にちょっと不機嫌そうだった。
「ウルリと二人ベッドの上で絡み合って気持ちよかったのに……」
「ただ添い寝してただけだろ。時間帯についてはすまんと思うが緊急なんだ」
「分かってるけどさぁ。こうなったら私への埋め合わせとして一緒にベッドで気持ちよくしてよね!」
「睡眠のことをいちいち婉曲に表現するな」
ウルリと二人暮らしのアンジュはダブルベッドで彼女と一緒に寝るのが日課で気持ちよく快眠しているというだけの話なのだが、最近のアンジュはちょくちょく語弊のある言い方でハジメにいたずらしてくる。
案の定いたずらだったようでアンジュはすぐ笑って矛を収めたが、「じゃ、いってらっしゃいのチューを」と絶対友人に要求するものではない行為を敢行しようとしたので彼女の近づいてくるキス顔を両手でブロックした。
「え? 友達同士だと同性でもふざけてチューするって聞いたけどなぁ」
「今の自分の性別を言って見ろ」
「あ、そうか。ハジメの姿になれば問題なしか」
「違う、そこじゃない。というか自分の面にキスされて喜ぶ奴なんぞギリシャ神話のナルキッソスくらいだぞ」
「……分かった! 次に女体化の能力者か薬を用意するね!」
我ながらナイスな発想とばかりに目を輝かせるアンジュは相変わらず友人との距離感がバグっていた。彼女の場合、一回やってみたいだけなパターンもあるので仕方なく「今回だけだぞ。あと唇はダメ」と妥協すると、アンジュは背伸びしてハジメの額にちゅっ、と軽いキスをして照れ混じりに微笑んだ。
「え、えへへぇ……やってみたはいいけど、ちょっとハズいかも」
隣でやりとりを見ているラバールが完全にアンジュのことを新妻か何かだと思っているのか「見てるこっちが恥ずかしい……ぼくは一体何を見せられてるんだ……」と羞恥で顔を押さえている。
誤解を解くのも面倒で、なによりアンジュの距離感を考えると説得力が無いのでハジメは無視してショージが作成したアイテムを取り出した。
一見して大きめのお中元サイズの金属製の箱を地面に放ると、雪に埋もれる直前に変形し、人一人が乗れるくらいのそりになる。このそりはフロートローリー、浮遊する台車なのだそうだ。要救助者を抱えたまま移動するのが困難な場合を想定したもので、見た目はフレーム剥き出しに見えても要救助者を安全に運ぶ為の機能が複数搭載されているらしい。
「乗れ、ラバール」
「え、ぼく朝飯抜きでここに来たばっかりで二度寝した……」
「ギルドの仮眠室を確保してやる。乗れ」
「はい……あんた話は分かるけど、それはそれとして頑固なひとだな」
渋々フロートローリーに乗ったラバールをベルトで固定すると、下部のエーテルアンカー維持装置を引き抜いてベルトに装着する。これでハジメが移動すればフロートローリーもアンカーに引かれて滑るように移動してくれる。
ハジメは全速力で大森林を駆け抜けた。
ラバールは最初こそ「ギャアアアアア!!」とか「おろっ、おろしてっ、いや今は下ろさないで!!」等とパニックになっていたが、思いのほか快適であることに気づくと落ち着きを取り戻していた。
「ラバール。お前が昨日言っていた地雷がどうこうというのは今回のことなのか?」
「多分ね。僕はこの数日間しかミュルゼと付き合いはなかったけど、最初の頃の彼女は正義感と慈愛に溢れた、なんというか、珍しいくらい出来た人間だったんだ。でも地雷ひとつで彼女は豹変した。ぼくがむきになったせいもあるかもしれないけれどね」
リシューナの研究所に避難したとき、彼女はラバールから見て非の打ち所がない立派な冒険者だったそうだ。気に入らない事に文句をいいがちなラバールも彼女が本当に義心で助けてくれたのは伝わったので不平不満はなるだけ口にしないようにしたという。
しかし、助けが来ない環境で一日二日と二人きりで過ごせば、不安はどうしても募る。二人は不安を紛らわせて時間を潰すために、ちょこちょこ私的な会話を繰り返していた。
その最中に、ラバールは地雷を踏み抜いた。
「彼女はかなり育ちがいいんだろうねぇ。政治やギルドの仕組みの話なんか詳しくてさぁ。ミュルゼが言うにはシャイナ王国の主要な組織はどこも新陳代謝が進んでいない、古い人間の意見や都合が成長性を阻害してるんだ、みたいなことを言ってたと思う」
「まぁ、組織というのは安定化するとそうした問題に直面しがちだな」
「でもぼくは田舎の人間でそんなシステムはよく分からない。長く生きて多く経験を蓄積した人間がより大きな地位にいるのは当たり前なんじゃないかなって思うんだ。村の長老がまさにそうだし」
「それもまた正論だな」
この世界では長老というシステムは田舎に行けば行くほど健在だが、同じ土地で長く生きればそれだけその土地のことをよく理解できるという側面もある。実際、その土地特有の環境や事情というのははただ頭の回転が速いだけの余所者では決して知り得ない。全てが正しい訳ではないにせよ、重ねてきた歴史と努力の中には真実たりうるものもある。
「長老は馬鹿にできないし、凄い。その話をしてからミュルゼの態度が段々変わっていったよ。やたらとぼくの考えを捨てさせるに誘導しようとしてきた。でもぼくは考えを変える必要性は感じなかったからそのまま突き進んだら、もうアレさ」
「肘鉄か」
「あそこまで露骨な暴力はあれが初めてだけど、まぁ、態度はずっとあんな感じ。既得権益に隷従する奴隷だとかなんとか、小難しい言葉を嫌味みたいにちくちく刺してきたよ」
何をそんなにムキになることが、と自分が悪かったとはまるで考えないラバールだが、彼にも原因があったかと問われると微妙なところだ。
ラバールはよくも悪くもマイペースそうだから、それと気づかず彼女の地雷原とやらに猛然と突き進んでしまったのだろう。そしてミュルゼーヌは意識が高すぎてラバールを受け付けなかった。
年上の人物に対するものの考え方ひとつで二人の関係は破綻してしまった。
「ミュルゼは本当は優しい子なのに、なんで心の中は地雷だらけなんだろう。損してるよ、彼女」
寂しげなラバールのついたため息が、白く口から漏れる。
彼の煩悩は尾を引いてフロートローリーの高速移動に置き去りにされた。
ラバールはあれほど辛辣な扱いを受けても尚、自分を助けてくれたミュルゼーヌを性善説的に見ているらしい。人を悪と決め込んで疑わないような連中よりはマシだが、そうした地雷を心に抱える人間は普段はまともでも時として心の病を疑うほどの異常な執着を見せる。
「俺はなんの地雷を踏んだんだ? 俺が年上で指図したのが気に入らなかったのか?」
「さあ。でも彼女はなんというか、正義の信奉者って感じだからさ。彼女の正義とあんたの指図がでっかく食い違ったんだろうね」
なんとなく、元勇者レンヤのことを思い出す。
ミュルゼーヌを説得できれば、レンヤがハジメを厭うようになった理由も分かるのだろうか――。
気づけば、森を抜けてバルグテール支部に辿り着くのも時間の問題だった。
結論から言うと、そこからハジメは一時間を無駄にした。
ギルドは緊急時の為に常駐の職員がいて緊急対応を求めれば応じてくれる仕組みになっているのだが、バルグテール支部の末端職員はそうした経験がまったくないのか呼び出しても爆睡したまま起きず、なんとか男性職員を起こしても寝ぼけ気味の職員は何もかも対応が遅くてひたすらにもたついた。
確かに午前四時過ぎに駆け込んだハジメにも非はあるのかもしれないが、ここまで弛んだ対応をされることは珍しい。なんなら対応中に「うちはうち、よそはよそだっての……」というギルドの職務規定をねじ曲げるような発言まで飛び出たくらいだ。ハジメは直感的にバルグテール支部がいわゆる《《左遷先》》であると気づいた。
そこからギルド長でないと話はできない、ギルド長の家への道の雪掻きが済んでいない、雪掻きが始まるのは6時から、などと時間を先延ばしする話が延々と続いたのでハジメは彼に見切りをつけてギルド長本人に会いに行くと背を向けたところで、職員の頭が漸くまともに動き出した。
「わ、私がギルド長へ話をつけてくるのでしばしお待ちを!!」
「しばしとはどれほどだ?」
「三〇分以内に!!」
職員は慌ててブーツを履くともたつきながらもギルドの外へ駆け出した。
多分、彼は同じ手で何度か冒険者を追い返した上で偶然咎められなかった。
しかし、本当にギルド長に冒険者が会いにいったら言い出しっぺが自分であることが露呈しかねないことに気づいたのだろう。別にこれまでの行為も告発されれば処分される可能性は充分あるが、あの職員一人を罰する為に別の支部まで走るほど暇な人間はそうそういないという事実がまたタチが悪かった。
仕方ないのでハジメは彼が帰ってくるまでの間、ギルド周辺の雪掻きを手伝って待った。その後、ギリギリ三〇分以内で犬ぞりを走らせたギルド長がギルドに駆けつけた頃にはすっかりギルド周辺は雪掻きが済んでいた。
外の冷気で耳や鼻がすっかり赤らんだギルド長は、話を聞くと困ったように項垂れた。
「第三次捜索隊ですが、恐らくギルドが止めても強行されます」
「馬鹿な。無許可の依頼を五〇人規模で行なえば処罰は免れないんだぞ。だいたい誰が依頼料を出すんだ?」
「ミュルゼーヌくんはこの近辺のギルドでは抜きん出て人望があるのです。貴方の対応をした職員もミュルゼーヌくんにぞっこんです。何度か、私の許可なしにギルド長の印鑑が無断で使われて彼女関連の書類が勝手に通されたことさえありました」
「……ギルド支部としては既に崩壊状態だな」
歯に衣着せぬ物言いに、ギルド長は更に沈痛な面持ちで項垂れた。
ギルド支部は稀に上下関係や浄化作用が機能不全に陥っていることがある。理由は様々だが、このギルドの場合はミュルゼーヌのカリスマが支部長への信頼を大きく上回った状態――冒険者に主導権を奪われたケースだろう。現場で動く人間に反旗を翻されると支部長クラスではどうしようもない。厳しい言い方をすれば、そうなる前に対策を打たなかったがための手遅れだ。
「そもそも、実は第二次捜索隊の有無でもたついていたギルドを強烈に後推ししたのがミュルゼーヌくんでした。どうやら貴族の子女だそうで、彼女の話術は卓越したものがあります」
彼女は熱心な政治家のように地元の人間とよくコミュニケーションを取り、飲みに付き合い相手の偽らざる本音を受け止めながら自らの理念や情熱を語って皆を奮い立たせたという。
普通は若い娘の青臭い理論など一笑に付されるが、彼女の言葉には力と正義があった。目見麗しく上品そうな雰囲気も注目を集め、地方で腐っていた連中を中心にミュルゼーヌの理念に同調する者やファンは膨れ上がった。
それが今になってギルド長の頭を悩ませている。
「今までは彼女の熱心さはいい方に働いていましたし、第二次捜索隊自体はもともと必要なものでした。第三次捜索隊の概要も、筋は通っているので拒否しづらいものとなっています。もし拒否された場合、捜索隊はミュルゼーヌくんとその支持者によるボランティアという形で強行されると私は見ています」
本当に突破口が見つからないのだろう。
説明する支部長の声は疲労と諦観に満ちていた。
彼にこれ以上追い打ちをかけるような真似をするのは酷だが、ハジメもギルドの仕事を請け負う人間として事実は告げなければならない。
「森での捜索中に、今まで確認されたこともないまったく未知の魔物と数度遭遇した。どこから現れてどう分布を広げているのかは不明だが、接触するだけで武器や生物を崩壊させる力を持つ極めて危険な存在だ。対策なしに捜索を決行すれば、最悪の場合は全滅するぞ」
「……やれるだけは、やってみます」
(あれは、失敗するな)
重い腰を上げたギルド長の背中は、体格不相応に小さく哀愁が漂っていた。




