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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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断章-5(3/3)fin

 友好都市協定はハジメの予想通りフェオからあっさり許可が下り、三日後にはモノアイマンの里とコモレビ村は晴れて姉妹都市になった。厳密には都市ではないが、友好協定の締結という繋がりは大きい。


 朗らかに笑うフェオの差し出した手を里長が握り、友好の握手を交わす


「よりよい未来の為に様々な分野で手を組んでいきましょう!」

「ええ! なるべく貰うものが多いといいですが!」


 こんな時も里長は自分の利益しか考えていないが、この後罰を受けるのを知っているフェオはちょっと笑いを堪えている。


 一応フェオ以外にも村の代表数名と職人が正装で並んでいるが、モノアイマンの里はこうした堅苦しい会議や協議に余り経験がないのか里長以外はラフな格好だ。その里長の礼服もハジメのプレゼントであるが、これは不真面目とかではなく彼らの文化性もあるのだろう。


 隣のサンドラがじとっとした目で里長を睨む。


「結局自分にとって都合の良い道を選んでるんですけど。鋭い石踏んで靴底を貫通して足裏に突き刺されば良いのに」

「どうどう」


 サンドラはこう言うが、向こうからすれば断る理由もないから当然の成り行きではある。

 コモレビ村から提供するのは街道を作る資金と物資の大半に、職人の派遣。

 職人はみなショージたちから物作りを教わったビルダーだ。

 彼らには技術の伝授や現場監修などを行なって貰う。

 その他、他の産業についても順次技術交流を行なう予定だ。


 モノアイマンの里の側も資金と物資は出すが、コモレビ村側に比べれば極めて軽微だ。

 技術交流生の予定もあるが、コモレビ村が里から学ぶことはそれほどなさそうだ。

 一応は互いに災害など大きな被害があればすぐ助け合えるよう対等な協定を結んでいるが、実質的には里が困ったときにコモレビ村が助ける以外ないくらいの経済力の差がある。


 つまり、この協定は一見して一方的にモノアイマンの里が得をするように見える。


「だがこれでいい。そもそもモノアイマンの里が発展しないのは周囲から差別を受けているからで、全てが彼らのせいではない。里が成長すれば村へのリターンも出てくるし、モノアイマンの社会参画にも繋がるだろう」

「モノアイマンが出せる見返りなんて本当にありえますかねぇ。この辺本当になーんにもないですよ?」

「だが人はいて恩は売れる。里長は極端だったが、里の人間は皆が皆利権に取り憑かれている訳じゃないだろ?」


 二人の視線の先では、一緒に連れてきたクオンら村の子供たちを珍しがって集まるモノアイマンの子供達との間で交流が生まれつつある。事情をよく分かっていない彼らも、大きな変化でこの田舎の閉塞した現状が変わるかもしれないという期待を偉大でいた。全員が全員ではないが、彼らはポジティブだった。


(それに……コモレビ村には一人でも多くの味方が必要だからな)


 今は膠着状態だが、十三円卓の村への嫌がらせが簡単に終わるとは思えない。

 もっと強行的で理不尽な手段に訴えてくる可能性もある。

 そんなとき、コモレビ村に味方が多いほどに対抗手段も増え、何を考えてるのか分からない十三円卓も手を出しづらくなっていくだろう。


 そんな思惑をおくびにも出さず、ハジメは表面上の話をする。


「里が賑わって経済が回り始めれば恩恵を一番に受けられるのはコモレビ村だ。これは未来への投資さ」

「そういえばハジメさんはビスカ諸島でも投資したんですよね? 帰りに船乗りさんに聞きました」

「今も定期的にしているが、あそこは軌道に乗って随分立派になったそうだ。今度また行ってみるか?」

「私たちの出会った場所に、ハジメさんと……えへへ、いいですね」


 何を想像しているのか口元の緩むサンドラだが、あそこはフェオとサンドラの出会いの場所でもあるのになんか二人で行く感じになってないだろうか。二人で行きたいんだろうなぁという気がしたハジメはそのことを覚えておくことにした。


「さて、そろそろ着工開始式だ。行こう、サンドラ」

「はい! 里長へのおしお……むぐ」

「大声で言うと里長にバレるぞ」

「ん? おいハジメさん、こんな大切な日にその子に暴発なんてさせんでくれよ?」

「承知している」


 幸い周囲はサンドラのいつもの奇行ということで気にしなかった。


 さて、大詰めの時間が近づいてきた。

 最後は里長が地鎮式を行なう予定になっている。

 地鎮式はリアルで言う地鎮祭や着工式などをひとつに纏めたようなもので、事業の関係者代表が集まって工程を確認した上で工事の無事完遂を願って神に祈りを捧げる。

 モノアイマンは大地の神獣ガイアと女神の習合信仰らしく、ハジメには見慣れない式典は興味深かった。儀式は最後に神殿代わりのガイア像に供え物をしてお酒を大地に振りまくことで無事終了した。


 ちなみに供え物は供え終わったら即食べるのがモノアイマンの常識らしいが、ハジメは即座に供え物に手を伸ばそうとした里長を捕まえて引きずる。


「では里長、これが最後の用事です。工事着工開始に付き合い願います」

「え? あ、あぁそうだったっけか……?」


 偉い人が最初に一回だけ地面を小突いて後は職人がやる的なものだろうと里長は納得したようなので、彼を所定の位置に立たせる。

 しかし立たされてすぐ、里長は何かがおかしいと気付く。


「あの、ハジメ殿? なんで記念すべき着工開始を前に貴方の後ろでサンドラがうきうきで構えているのですか?」

「いいか、サンドラ、角度は……そう。その角度だ。思い切りぶっ放せ」

「は? 今なんと――」


 瞬間、サンドラの装備するメジエドグラスが完全展開されて彼女の瞳から莫大なエネルギーが注ぎ込まれ、膨大な術式が瞬時に展開する。

 この時を待っていたとばかりにサンドラは恨みとそれを晴らす喜びに満ちた嗜虐的な笑顔で叫ぶ。


「散々私とハジメさんを小馬鹿にした挙げ句、苦労せずお金だけ受け取ろうと詐欺まがいのことをした罰を受けてもらいますからねッ!!」

『使用者保護機能、オン』

『敵味方識別機能、オン』

『余剰魔力循環機構、オン』

『敵性体シングルロック機能、オン。ロックオン完了』

『擬似魔力バレル、敵性体の位置とリンクさせ多重展開』

『周辺地形との発射角、及び弾道の調整完了』

『ファイナルセーフティ解除』


 これは魔王城で試射を行なったときとは違ってたった一人を対象にしたものだ。

 それでいて、少しだけ地面を削るように予め調整してある。

 ついでに言うと、ハジメが里長に貸したに礼服をはこの砲撃で死なない為の特殊装備だ。


 嘘は何もついていない。

 この一撃があって初めて工事は着工を開始する。

 そのついでに里長にちょっと痛い目を見て貰う、ただそれだけのことだ。


 乙女心を心ない言葉で散々傷つけた挙げ句に好きな相手に悪事を働いた挙げ句開き直った男の因果が、サンドラの目によって応報となる。


「いっぺん死んでこいクソジジイッ!! イヴィルバスタービィィィーーーームッッ!!!」

『ファイア』

「やっ、やめ――」


 それは、今まで彼女が放ったどんなビームより憤怒に染まった極大出力のビームだった。里長は咄嗟に逃げようとしたが、ビームの速度も幅も一般人の彼には到底避けきれるものではなく、光は呆気なく里長を呑み込んだ。


 荒ぶる光はそのまま直進を続けるかと思いきや、地形に沿ってまるで道を示すかの如く地面を抉りながら数百メートル先mまで綺麗な一本の曲がりくねった線を描いて地面を抉り、最後に空目がけて方向転換すると同時に大爆発を起こした。

 純粋な魔力の爆発であるそれは精緻なコントロールによって花火のように弾け、空を美しく彩った。


 ややあって、その花火からひとつの塊が白い煙の尾を引いてハジメ達の近くに落下した。

 言わずもがな、里長である。


「は、はぎ……か……」


 光属性軽減スーツはボロボロになり、鼻と口から煙を上げて白目を剥いているが、足が痙攣しているあたりちゃんと生きている。

 ハジメは一応の情けと雑に彼に安ポーションをかけると式の見学者たちを振り返る。


「今しがたサンドラが里長と共同でビームで抉ったところが丁度これから道の出来る場所になります。抉れたことで掘り返す必要性がなくなったので、サンドラのおかげで工事も大分時間を短縮出来るでしょう」

「里のために力になれてウレシイデスー!」


 憑きものが落ちたようにスッキリ顔のサンドラが途轍もない棒読み台詞を披露するが、モノアイマン達も綺麗な花火やら道やら供え物を貪るやらに夢中で気分が良いのか「よっ、里一番!」とか煽てている。

 というか里長を誰も起こしにいかないし心配もしていない。

 多分彼を助けたら供え物の取り分が減るからだろう。


 サンドラの家族であるカドラ家に関しては、弟と姉以外「あの世界一役立たずなサンドラがあんなに綺麗にビームをコントロールするなんて……!」と感涙すらしていたが、余計な一言が入っている辺りがやっぱり失礼の一族である。

 弟と姉はただサンドラの圧倒的な力に口を半開きにして呆然としていた。

 開放感と優越感に浸ったサンドラは腰に手を当てて威張った顔で笑う。


「ざまーみろです!」


 イキるサンドラだが、普段の陰気くささが消し飛んだ快活な笑顔はハジメも見たことがない新たな表情で、やっぱりやる価値はあったなと彼はひとり納得した。


 こうして、コモレビ村は初めての図々しい姉妹都市と手を結んだのであった。




 ――さて、この話には少しだけ続きがある。


「モノアイマン族をすべて懐柔するつもりか!?」

「おのれハジメ・ナナジマ!! 我々がモノアイマンを冷遇してきた理由に気付いたというのか!!」

「ならん、ならんぞ!! モノアイマンの全てが我らの敵に回れば……!!」


 工事が始まって暫くしてからこの都市協定を知った十三円卓は、何故か大慌てで国内に存在する他のモノアイマン族の里と一斉に連絡を取り、公共事業の一環という名分で彼らの里に無料で街道を作る指示を出して恩を売り始めたという。


 が、急ごしらえで作ったシャイナ王国指示の街道はサンドラたち南西の里に比べて出来が悪いと後に悪評が立ち、余計にコモレビ村の土木技術の評価を高めることになったという。

 円卓の勝手な自滅にフェオは喜んだが、一方で首を傾げてもいた。


「なんで十三円卓はあんなに焦ったんですかね、ハジメさん?」

「さあ……モノアイマンのビーム能力が一斉に敵に回ればそれは確かに脅威だろうが、現実にそんなことが起きるかと言われると微妙だしな」


 十三円卓がそれほどまでにモノアイマンとコモレビ村が近づくことに焦ったのか、その理由をハジメたちが正確に知るのはまだ先の出来事である。

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