断章-2 変人異聞譚コモレビ
これは、いつあったのかは定かではないが最近あった話――。
「コモレビ村のランキング!」
「トップスリーを決定する!!」
村唯一のバーの席で突然そんなことを言い出した酔っ払いブンゴとショージに、偶然同席していたアマリリスが「いえーい!」と何故か乗り、バーのマスターのロドリコは「またなんか始まったなぁ」と思った。
ちなみにロドリコというのはアマリリス専属執事の糸使いとして割と前から村に住んでいた人物で、今はバーのマスターを兼任している。
余談だが、随分前にヤオフーとかいう転生者がハジメを殺そうとして返り討ちに遭った際に彼を糸で拘束していたのがロドリコだったりする。
「ではまず、料理美味いランキング!!」
「それ一位どう考えてもハマオ以外考えられなくない?」
アマリリスの突っ込みは尤もで、料理人として最高の才能を与えられたハマオは基本超えられない。
ロドリコがグラスを磨く手を止めて質問する。
「では二位は?」
「俺ぇぇぇ~~~!!」
ショージが両手の親指で自分を示して腹の立つ顔で宣言する。
物作りの才能に特化したショージはハマオの代理を務めることもあるくらいには料理上手だから、異存はない。
「まぁ確かにそうなんだけど。でもウザいな」
「うん、今のはウザかった」
「慎みに欠けます」
「ひどいやつらだよ君らは。たまには俺にもイキらせてくれ……」
「で、三位誰なん?」
このランキング、鑑定能力チートのブンゴが決めるので割と異論の余地がない。
なので、ふざけたノリとはいえみな多かれ少なかれ興味はあった。
「どう思うよ?」
「ハジメとか? 今も偶に炊き出しやってるし、フェオちゃんが自分より上手いとか言ってた気がする」
「アマリリスお嬢様も料理はお得意ですよ。ビルダーなるジョブになってから更に磨きがかかっております」
「マトフェイちゃんもお料理上手よね。イスラくんのために随分腕を磨いたみたい」
各々が候補を挙げる中、ブンゴは一つ一つに頷いた上で結果発表する。
「では、注目の第三位は! トリプルブイ!!」
「「「料理振る舞ってない(ねぇ)……」」」
やれば出来るがやらないので誰にも料理の腕前を知られないトリプルブイであった。ちなみに彼の料理の力量はショージと紙一重の所まで迫っていたが、勝敗を分けたのは造型全振りのトリプルブイでは僅かに味でショージに勝てなかったかららしい。
と、ここでアマリリスが禁断のランキングに手を出す。
「じゃあメシマズランキングは?」
「聞いちゃう? 事実陳列罪で処される可能性あるけど」
「でも確かに気になるな」
ショージに乗せられ、ブンゴはすぐ白状する。
「メシマズにも種類があるが、まず第三位はメーガスさんだな。あれは終わってる」
「え、うそだぁ。あんなぽわぽわ巨乳美人が!?」
「あんなに家庭的なママみに溢れてるのに!?」
アマリリスもショージも酒が入ってるのを良いことにキモイことを言っているが、ロドリコも結果自体には意外そうだった。
「終わっているというのは一体……?」
「いやね、前に自炊してるとこ見たことあるんだけど、必要な栄養素全部磨りつぶして鍋に流し込んで煮て混ぜて固めててさ。出来上がったのは食の楽しみを無視したディストピア飯だったわ。平気な顔でソースもかけずパクパク食ってた」
「うわ、効率が全てなんだ……」
「知りとうなかった……」
学校の先生も務める美魔女の恐ろしい真実に一同ドン引きだった。
「二位はねぇ。サンドラちゃんかな。理由は変なアレンジするくせに味見しないから」
「あー」
「あー」
なんか分かるみたいな感じで流される辺りが実にサンドラという感じである。
ワックワク顔でクソマズ飯を出してくるというのが彼らの中で解釈一致過ぎた。
「して一位は?」
「でけでけでけでけ……デデン! 一位はツナデちゃん! あれはこの世界のポイズンクッキングの使い手だよ。すげーよ。食パントーストして失敗するって言ったら普通黒焦げじゃん。あの子錬金術で魔獣作ったみたいなモザイク必須の代物出してくるから」
「え、ツナデちゃんそれ食べるの……?」
「NINJA全員胃を鍛える為に定期的に食ってるらしい」
「ストイックの方向性発揮それでいいのかあいつら?」
「たまにNINJA旅団の支部から妙な臭いが出ていると思ったらまさかそれが……」
流石NINJAは格が違った。
なお、ダメージの反動で防御力とステータスデバフ耐性は上がりやすくなるとのこと。
ただ、元々悪食のツナデとジライヤは平気で食べるがオロチとライカゲはちょっと辛そうにしているようだ。というか彼らは特殊な訓練を受けているからちょっとで済むが、万一子供が食べればショック死ないし病院直行間違いなしである。
閑話休題。
「でも番付って話になるなら強さランキングとか普通しない?」
アマリリスの純粋な疑問に、ブンゴは難しい顔をする。
「クオンちゃんとグリンとカルマちゃんが同率で測定不能だから番付不能なのよな」
「神クラスが二人と一匹かぁ……確かにそりゃ分かんないわよねぇ」
鑑定出来ない以上は既存の情報を整理して考えるしかないのだが、クオンの伝聞の戦闘力が余りにも桁違いすぎてもはやブンゴの想像の範疇を超えすぎている。そのクオンと互角だったグリンを含めて互いに本気を出していなかったらしいし、カルマも旧神の技術の粋を集めたオートマンなので全く底が知れない。
「ま、測定不能の三人を除外するならハジメとジライヤが同率一位、三位はウルちゃんかな。アンジュは誰にでもなれるから例外ね」
「マルタちゃんは? レベルで言えば一番じゃない?」
「不死身までは勘定に入れられないからな。それにマルタはレベル最高だけど戦闘スタイルが歪すぎて、純粋な力量を切り抜いて考えるとイマイチなんだよなぁ」
どうにもこの最強ランキングは上手く行かないようなのでアマリリスが話を変える。
「はいはい! じゃあ歌上手いランキング聞きたいでーす!」
「歌? 歌なら三位はズバリ、アマリリスちゃんだけど」
「え、マジ!? ランクインイエーイ!」
「おめでとうございますお嬢様」
こっそり地下にカラオケボックスを作って転生者間で使っているアマリリス、見事三位を獲得。アマリリスは貴族として教育を受けていたので歌だけでなく楽器スキルが全般的に高かったりする。
「第二位! リリアンちゃん!」
「ああ、シオちゃんユユちゃんと一緒にいるハルピーの?」
「彼女の歌でしたら耳にしたことがあります」
ロドリコが思い出したように最近の出来事を口にする。
「子供達の歌の練習にたまに呼ばれているようなのですが、ハルピー特有の歌唱なのか、なんとも透き通る美しい声で歌うのですよ。弟君のルクスくんもかなりお上手で、二人でデュエットを歌うと呼吸がぴったりでした」
「へー、知らんかった。歌のお姉さんか……トテモイイ」
「スゴクイイ」
「イイコイイコシテ貰イタイ」
転生者三名が「うへへへ……」「いひひ……」と謎の妄想に囚われるが、ロドリコが咳払いしたので全員気を取り直す。
「歌上手第一位! レヴィアたん!」
「意外ッ、それは神獣の分霊ッ!!」
「えー、レヴィアたんが歌ってるとこなんて聞いたことないけど」
「私も初耳です」
イタズラ残念神獣として知られるレヴィアタンの分霊がまさかのランクイン。
これには異論が噴出したが、ブンゴはまぁまぁと手で制す。
「レヴィアたんはねぇ、歌で人を狂わせるくらいのこと簡単にできるらしいよ。暴力的なまでに高い歌唱力が聞いた相手の感性を暴走させちゃうんだってさ。だから他のイタズラはしても歌だけは意地でも本気では歌わないって」
「単にジャイアン声なだけじゃねーの?」
「確かにそれなら見分けがつかないかも」
「いんや、マジだと思う。レヴィアタンってそもそもセイレーン――この世界では人魚の祖らしいしね」
セイレーンは美しい歌声で船人を魅了する怪物として転生前の世界では有名だ。
原点では鳥人間として扱われたが後世では人魚の一種として描かれることも多く、少なくともこの世界ではセイレーンは人魚の別名である。
余談だが、この世界の人魚は海中に住むため大陸の人間とは殆ど接点がないが非友好的という訳でもなく、海上で遭難した商船がたまに遭遇する人魚は陸に船を案内してくれる。
ただし、彼らはそれと引き換えに海にないものを要求してくる。
なので船乗りは絶対に船に人魚が気に入る品を一定数置いているのがこの世界の常識だ。
特に人魚が好きなものの鉄板は酒と貴金属とのことだ。
「じゃ、歌下手ランキングも一応行くか。三位、クリストフさん! 純粋に下手! 二位、ベニザクラちゃん! 歌うのが恥ずかしくてどうしてもちゃんと歌えない! そして一位はぁ~~~~!!」
「「「一位は……!?」」」
「………」
「「「………」」」
「……上手すぎる歌を誤魔化すために全力で下手を極めたレヴィアたんのジャイアンシャウトが二冠ッ!!」
「「「そんなのありかぁ!?」」」
どっちにしろレヴィアタンの歌は破壊力抜群のようだ。
こうして、四人のつまらないラインキングはやがておっぱいの大きさランキングや恋愛遍歴ランキングと段々プライベートダダ漏れで下品なものになっていき、これ以上主が自分で品位を落とす様を見ていられないロドリコが店締めを宣言するまで続いたという。
「俺はなぁ! その気になりゃあ村全員の経験数もムラムラ度もなんれもしらう゛ぇられるんらよ! 村一のドスケベも知ってんらよ! れも、れもぉ……そんなこと知れたってうぉれに春はこねぇんらよぉぉぉ~~~~!! う゛ぉぉおおおおッ!!」
「そんなこと喋ってモテる訳あるかっちゅーのぉ!! きゃはははははは!!」
「俺はぁ、俺はぁぁ……ユーレイが怖いッ!! 草薙ちゃんとプラネアちゃんに囲まれてないと夜も眠れないッ!!」
「あのー、皆さんもう帰ってください!? お嬢様もこれ以上は明日に響いてしまいますよ!?」
コモレビ村のバーの深夜は、まぁまぁの頻度でこうなることで有名だった。
酒の肴になる番付候補募集中である。




