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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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32-10

「すかー……ぴー……」

(ウソでしょ師匠ぉぉぉぉオオオッッ!!)


 自分の晴れ姿を魅せたかったマリアン・ラファルその人である。ルミナスは腹の底から解き放たれる寸前だった絶叫を必死に噛み潰して堪えながらも、アンタなに考えてんじゃボケェ!! と内心で叫んだ。


(え? うそ? バカなの? 人の心ないの? ガチ寝? え? 眠かったん? 弟子の晴れ舞台眠くて仕方なかったん? 翌日眠くならないように早く寝なさいっていつも口を酸っぱくして言ってるのにここで唐突に限界迎えるん???)


 ある意味マリアンらしさはある。

 あるが、これは流石に余りにも、ない。

 ルミナスの全身を虚脱感と失望が襲った。


 ――実の所、マリアンは狸寝入りしているだけで完璧な演技をしつつ薄目でマリアンのことは見ていた。


(レビテイトを組み込むという発想と、レビテイトで軽量化したことを加味した風の調整、そしてなにより飛行の持続性……ルミナス以外で短期間にここまで仕上げられる人間はいなかったでしょうね。ホントによくやったわ、愛弟子)


 ルミナスはマリアンのように閃きに満ちた研究者ではないが、理解出来ない理論を理解するために自分の解釈に落し込む速度がとにかく速いというのがマリアンの評価だ。


 それは、頭の柔軟さというよりは計算能力だ。

 そも、魔法や科学というものは目の前で起きる事象を論理立てて説明するための受け取り方から始まるもの。大抵の人間は既に存在する学問を当たり前のものとして受け入れ、時に絶対視するが、ルミナスはそうではない。


 彼女は天才と同じ道を行くことを早々に諦め、学問として正しいかより自分が理解出来るかを優先して物事を解釈し、後で学問と摺り合わせるという手法をよく取っていた。


 リ=ティリの学び舎の視点からすれば非効率だ。

 しかし、ルミナスはマリアンが作ったような従来の魔法研究者が敬遠するような斬新な論文も自分なりに計算し、かみ砕いて吸収していた。マリアンはそこに彼女の才能を見出した。


 が、しかしである。


(レビテイトは軽くなる分格闘戦で不利だから最初から選択肢から除外してて思いつかなかったなんて絶ッッ対素直に言いたくない! かといって知ったかぶりもダサイ! よって、見てなかったものとする!! そしてルミナスが「なんで見てなかったんですか!」ってムキになる様を一通り堪能してからじゃないと褒めたくない!!)


 ダサイ方法を避ける為にもっとダサイ方法に頼ってまでプライドを守る最低な自称天才の姿がそこにあった。


 本当は素直に褒めてあげたい気持ちも彼女にはある。

 しかし、彼女の心の中のクソガキが「ここはイタズラしろ」と囁く。

 彼女自身、普通に素直に弟子を称賛することへの照れくささもあり、最終的に出た結論が狸寝入りである。

 ハジメもフェオもマリアン門下生全員が「ないわー」という顔をしていても、マリアンはやらずにはいられないのである。


(さあかわいい愛弟子よ! いつも通りムキになって突っ込みまくりなさい! そこまでして初めて褒めて使わす)

(このクソ師匠……もー怒りました。今回ばかりは完璧にプッツンしましたよ……!!)


 絶望を通り越して本当の怒りを宿したルミナスのアフォゲが殺意を込めた素振りのようなスウィング始めたが、残念なことにマリアンはそれを「怒ってる怒ってる。もーかわいいんだから」と軽く流してしまった。


(マリアン大師匠、もしかしてルミがガチで怒ってるの気付いてない?)

(うわー……やったよこの人……うわー……)

(あいつマジでちょっと痛い目見た方がいいな)

(このひとママより駄目な人かも……)

(ブヒ)


 挙句、クオンにまで人間性でハジメ以下と認定される始末。

 マリアンが自業自得の末路を迎える未来までに残された時間はそう長くはないようだ。


 ちなみに、今現在マリアンと同レベルでダサイのが弟子の前で絶対成功しないと豪語した魔導十賢、光のバミンガン・シュテルムである。

 彼は据わった眼で魘されるように誰に向けたわけでもない言い訳を延々と呟いており、危ない幻覚が見えてそうな雰囲気さえあった。


「私が間違える筈がない。そうだ、マクスミリアンが古い論文を学会に提出して弟子には最新の研究を提供していたに違いない。いや、そもそも本当は三回以上魔法を使っていたのではないか? 出来なくはない。出来る筈だ。風の魔導十賢の権威と頭脳を以てすれば才能の無い弟子を才ある風に装うことも出来る筈。不正をしていたのだ、あ奴らは。恥知らず共め!」

「……」

「師匠……?」

「それは……」


 レニスは何かを察したように目を伏せ、ミーティは師の訳が分からない思い込みをどう受け取っていいか分からず困惑し、リューナは「流石に荒唐無稽では」という率直な意見を言い淀んだ。


 それは、三人の弟子たちが絶対の指標だと思っていた師の本性を見た瞬間だった。


「まったく、試験の質も落ちたものだ。少し考えればおかしいと気付く筈なのに何故皆拍手など……後日抗議の文章を送らなければなるまい。さすれば騙された連中もトリックに気付くだろ。あんな小娘がこのバミンガンを上回る部分がある筈などないのだと!」


 過ちを認められず思い込みで事実を曲解してプライドを守り、目の前の現実を拒絶する。誰の目から見ても不正はないし、不正を許す余地もないほど厳正な試験であることを彼は知っている筈なのに。


 弟子達は自分の師が目の前の出来事を理論ではなく()()で否定していることが暫く信じられなかった。ただ、レニスだけは自分の懸念が的中したとばかりに深い落胆と失望を込めたため息を漏らした。


(師匠はさっき魔法の成功について『考える必要すら無い』と断じていた……この人は育成能力はあるけれど――既に研究者ではなくなっていたのですね)


 『考えない』というのは、現代の実戦魔法使いが魔法理論を気にせず道具のように魔法を使っていることに対する侮蔑としてリ=ティリでよく使われる。

 その『考えない』人間に、嘗ては偉大だった筈の彼はいつしかなってしまっていた。


 リューナとミーティの肩が震えている。


(どうしよう……さっき、ルミナスが成功したらシュテルム門下を去ってもいいって言っちゃった……)

(同意してしまった。レニスは踏み留まっていたのに、師に同調しようとして……)


 彼女たちは自分たちの迂闊な発言で一門を追放されることを恐れて過ちを指摘することも出来ず、しかし自分の言葉を取り消すことも出来ずに途方に暮れていた。


 レニスは、二人を可哀想に思った。

 彼女たちはまだ気付いていないのだ。

 バミンガン・シュテルムが、既に研究者としては()()()であることに。


 ――ルミナスの前代未聞の飛行魔法に揺れた後は、試験は盛り上がりに欠ける経過を経た。あれほどの大成功を披露したケースは長い試験の歴史でも数少ないらしく、あとは消化試合のような雰囲気があった。


 しかし、それでも会場から人が去らないのはもう一つイベントが残っているからだ。


 今まで一人用だった練習場が突如として変形し、距離を離してもう一人分が出現した。試験官が説明を行なう


「ヴァーダルシュタイン家の申し込みにより、この試験のみ二人同時に行なうものとする。これは研究としても興味深いものであり、学術的に価値があるため特別に了承されたものである。よって、学問の平等性を脅かすものではないことを明言する」


 もう一つのメインイベント、それは前代未聞の威力比較。

 火属性最上位魔法、ボルカニックレイジの使い手による効率の競い合いである。

 シオが待ってましたとばかりに立ち上がる。


「来た来た来た、師匠の出番っ!! どいつもこいつも驚くぞぉ~!」

「ママの出番! グリンも一緒に見よ?」

「ブゥ」


 シオ、クオン、グリンという何とも言えない組み合わせが最前列の手すりにもたれる。

 グリンはさりげなく手すりに足がかかるサイズまで無音でモリッとでかくなっており、さっきよりちょっとでかくなってない? と正体を知らない周囲が「目の錯覚かなぁ。ネコとか意外と胴体長いし」と目を擦る。まさか本当にでかくなってるとは思わないので無理もない。

 衝撃の瞬間を見逃したフェオは、来る禁忌魔法の炸裂を憂う。


「ハジメさんの魔法に耐えられるのかな、この設備って」


 ハジメの地形を変えるほどの大魔法の痕を見たことがあるが故の不安に、狸寝入りをやめたマリアンが「大丈夫でしょ」と軽く返す。


「いくら禁忌魔法でも装備のせいで出せる火力に限界があるからね。命中させるあのブラックモノリス自体にも魔力を吸収、拡散させる性質があるし会場自体見えないマジックバリアとシールドの複合障壁で守ってるし」

「へー、全然見えないのにあるんですね……あ、そういえばあの人――アグラとかいう人とハジメさんが賭けしてるんですよね? シオちゃんの将来を賭けてとかなんとか」

「師匠は引き分けに賭けてるけど、私はもちろん師匠の勝利に賭けてますんで」


 自信満々のシオだが、マリアンは顎をさすって考える。


「アグラニールが相手かぁ。あれは実際かなり優秀よ? 魔法の使役の才能の点で言えばアタシにだって引けを取らない。火属性魔法に限定すればハジメより使える魔法量多くてもおかしくないわ」

「え、あのハジメさんと……!? ちょ、シオちゃん本当に大丈夫!?」


 当のシオは、後ろからこっそり様子を窺っているレニスがまばゆさに目を覆いたくなるほど自信満々に笑う。


「だいじょーぶだいじょーぶ。ざっと調べたけど、アイツまだ気付いてないわ」

「気付いてないって、何に……?」

「そりゃもう、ハジメ師匠以外誰も気付かなかった重大な見落としに、ね」


 皆の視線の先で、アグラとハジメが同時に同じ杖を受け取る。

 【死神ハジメ】、対、【知恵の実喰らいのアグラニール】。

 真に最良のボルカニックレイジの使い手が今、決定する。




 ◆ ◇




 勝利と成功のイメージは挑戦に必要だ。

 敗北や失敗の恐怖は時としては有用だが、力を与えてはくれない。

 圧倒的なポジティブさは逆にパフォーマンスを向上させることが出来る。


 だから、アグラニール・ヴァーダルスタインは思い描く未来をいつも断言する。


「貴方はこれから私に敗北して弟子の前で恥を掻くことになるでしょうが、どうか恨まないでくださいね」

「三〇年も生きてると人間なんてどいつもこいつも恥塗れだぞ」


 感情の見えないハジメの返し。

 一分の緊張も動揺も見えない様は、言葉とは裏腹に自信に満ちあふれた証だとアグラは判断した。

 浅はかな、如何にも能力の低い大人らしい小手先の対応だ。


「なるほど? 最初から気にしていない風を装えば負けたときに自己正当化が出来る。大人の処世術というものですか?」

「この勝負は勝ち負けなのか? 俺は答え合わせかと思っていたんだが」

「それも処世術ですね。勉強になります」


 アグラにはハジメの言葉は「正解は揺るぎなく己の側にある」という宣言、自分は上に立つ者であるというマウント取りに聞こえた。

 相手のプライドを傷つけないための処世術、その皮を被ったプライドの堅持なのだろう。そういえばこの男は勝負は引き分けに終わると言っていた気がする。


(己は傷つきたくない。かといって相手に敵意を向けられるのも面倒なのでおべっかで誤魔化して見下す。成程、この男の底は見えたな)

(なんか会話が噛み合わないな……人の話を聞く気がないのか、それとも勝手に考えすぎて空回っているのか……)


 ハジメは微かに首を傾げたが、気にしても仕方ないかと気を取り直す。

 それをアグラは皮肉が伝わらなかったと解釈して内心で嘲笑した。


「貴方の勇名は私も耳にしています。貴方は冒険者としては最強でしょう。現場で培った冒険者特有の経験も多く蓄えてきたことと思います。しかし、貴方はそれ以上を求めましたか? 満ち足りて足を止めてしまったのではないですか?」


 ここまでくれば、もういいや。

 これ以上鍛えても使い道がない。

 そもそも自分は魔法専門ではない。

 彼が妥協する道は山のようにあり、事実、ここ最近は彼の冒険者としての活動回数は大きく減っているという。下らない下々の依頼までこなしてスケジュールを埋め尽くしていた頃から、余裕ができて指名依頼をえり好みする立場に彼はなっている筈だ。


 彼は、強さへの飽くなき欲求に果てを感じ、まだ先があるにも拘わらず勝手に満足して身を引いたのだ。


 これはそこそこ才ある者でさえ陥ることで、年齢とともに研究以外のことばかり考えるようになったバミンガン・シュテルムがいい例だった。最後まで足掻くことを辞めたバミンガンは身なりにばかり気を遣っている。

 タイプは違えど、この男も半端に立ち止まった者だろう。


 アグラにとっては他人が探求を辞めることに興味は無いが、シオという自分の理解者になってくれるかもしれない人物が興ざめな遠回りをするのは見過ごせない。

 アグラの問いかけに対し、ハジメはますます首を傾げる。


「俺は結果的に強くなっただけで求めた訳ではないのだが……満ち足りたというのは分からないでもないが、戦いや研究以外にも世の中には沢山の物事がある。挑戦すれば新発見があるものだ」

「ではやはり魔法の道は途切れているようですね」

「だからそういう訳では……うーん、まぁいいか」


 そうやって大人ぶって物わかりの良いふりで身を引く。

 明瞭で論理的な反論が出来ないと悟った半端な知恵者が使う逃げの手段だ。

 アグラはますます自分の勝利を確信した。


「両者とも、杖を」

「「はい」」


 差し出された特別製の杖を握り、二人は並び立つ。

 フィールドバフ魔法が互いに干渉しないように距離を置いた二人は、試験官の合図と同時に全く同じ魔法を使用した。


「暗雲を晴らし、彷徨える者に道を示せ――」

「燃ゆる星より差す一筋の光芒――」

「「サンオブライト!」」


 詠唱と同時、光属性の魔力が渦巻いて二人をスポットライトのよう空から照らす。


 サンオブライトは聖職者が習得するホーリーテリトリーには一歩劣るが、通常の魔法使いが覚えることの出来る光属性フィールドバフの中では最上位だ。


(まぁ、流石にここは当然か)


 アグラにとっては意外でもないことだ。

 風属性のバフも火を高める効果があるが、実は明確に照準があって発射するタイプとそうでないタイプでバフの乗りが違い、発射系以外では少し倍率が低い。

 また、地属性はそもそも風に比べて倍率が低いため、この魔法も使わない。


(決着が着くのは次の魔法だが……まぁ、結果は見えている)


 火属性を強めるのは同じ火属性フィールドが最も倍率が高い。

 理論上最も高い火力を出すには、火属性上位のバフフィールドである『フレイムテリトリー』だろう。

 だが、それではアグラの勝利は決して揺るがない。


(さあ、聞かせろ! お前の敗北を決定づける一言を!!)


 果たして、彼の口から出たのは――。


「万物流転を司りし大気の流れよ――」

(ウィンドフィールドの詠唱!! 愚か者め、火属性ですらない属性を選ぶとは!!)


 ――アグラの勝利を確信させる、致命的な間違いだった。


 ウィンドフィールドは風のバフフィールドとして極めて優秀ではあるし、他のバフと比べてもボルカニックレイジへの配慮はしているのが覗える。だが、火属性以外のバフフィールドを選ぶ時点で愚かだ。


 火山の近くなど元々火属性のマナが充満した場所ならまだしも、この何もない場所でそれはただ効率が悪いだけのこと。周囲も彼の愚かな選択にすぐに気付き、首を振っている。

 せめてもの情け、アグラは彼によく聞こえるよう後れて詠唱を始める。

 もはや別の魔法でも勝利は揺るがないが、より深い恥と才の差を見せつけるために。

 そして、シオネレジアに己の価値を示す為に。


渾沌まろかれの大地、海なき海! はじまりより出でし形は須くはじまりに還るべし! 有情を焼き尽くせ、解放のほむら――焦熱灰燼、カオスインフェルノッッ!!!」


 瞬間、アグラの周囲が漆黒の炎を吹き出した。


「新魔法ッ!?」


 シオが目を輝かせて叫ぶ、その声が心地よい。

 これはボルカニックレイジで満足したハジメと違い極めることに拘ったアグラの成果。新魔法というそれだけで論文級の価値がある、この世に存在する火属性バフフィールド魔法の最上位だ。


 もしこの炎の下に有機物があらば全て塵になるまで燃え尽くし、無機物は形を失い大地の一部へと回帰するだろう。この世のはじまり、形なき世界――全てがただ一つの塊だった混沌の時代を再現するような炎だ。

 禁忌には及ばないが、これは攻撃であると同時にバフフィールドでもある。

 そして、恐らくこの世にこれほどの魔法を扱えるのはアグラのみ。

 ハジメは既にウィンドフィールドの詠唱を終えているため、勝敗は揺るがない。


(邪魔な凡人を蹴落とす瞬間とは、いつ見ても胸がすっとするな)


 横目で垣間見たハジメの表情は驚きと、そして落ち込むような感情が見えた。

 さあ、終わらせよう――結果の分かりきった茶番を。

 今度は二人同時にボルカニックレイジの詠唱に入る。


「怒れ、怒れ、怒れ!! 其は許されざる咎を負う者なり!!」

「滾れ星脈の激憤、沸き立て地より湧く熱血!!」

「星の御名を借り、今、あるべからざりきを滅却する!!」

「過去、未来、現在に於いて、汝に今生の器なし!!」


「「万象融解――ボルカニックレイジッッ!!!」」


 瞬間――恐らくは長い人類の歴史の中で初めて、全く同時に二つの灼熱の炎塊が解き放たれた。炎塊は文字通り万象を飲み込み、効果範囲に存在するもの全てに地獄すら生温い怒りの炎を浴びせ尽くした。


 大気のマナさえ焼き尽くす驚くほど低い異音が止んだとき――そこには魔力に反応して変色する素材の全てが真っ白に染まった神秘的なまでの灼熱の痕跡が残っていた。


 だが、二人のボルカニックレイジには、確かな優劣があった。

 見物人の一人、リューナは我を忘れて呆然とするバミンガンの肩を揺さぶる。


「どうして……ねぇどうして! 師匠、これは一体何が起ったのですか!!」

「……」


 バミンガンは答えない。

 否、答えられない。

 兄弟弟子のレニスとミーティも信じられなかった。


「どうして……どうして火属性フィールド魔法を使わなかったハジメ・ナナジマの方が白の範囲が広いのですか!!」

「……」


 アグラのボルカニックレイジは殆どの素材を白く染め上げていた。

 そして、ハジメのボルカニックレイジは――全てを白く染め上げていた。

 特に顕著なのが的のモノリスであり、アグラのモノリスはほぼ白いものの裏側や角に僅かに赤みが残っているのに対し、ハジメのそれはムラ無く真っ白に染まっている。それは、ハジメのボルカニックレイジの方が高い威力を発揮していることを証明するものだった。


 周囲が結果に困惑しざわめく中、杖の構えを解いたハジメもまた周囲の反応に困惑していた。


「……もしや、本当に誰も気付いてなかったのか? 魔法学術都市のエリート研究者の集まりが、誰一人として? そんなことがあるのか……?」


 それは、ボルカニックレイジを使える魔法使いなら誰でも簡単に確認出来ることだと、少なくともハジメだけは思っていたことだった。しかし、他の誰も考えつかなかったのならば、それは世紀の発見なのだというシンプルな事実をハジメは理解できていなかったようだ。

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