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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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32-3

 シオとルミナス。

 一見して太極に見える二人の交流は、引っ込み思案だったルミナスに知らずしてプラスの影響を与えていた。

 シオはマリアンとは違う方向性に自分に正直で、冒険で得た彼女の知識やハジメから伝授されたという思わぬ魔法の特徴についての語らいは夜分まで及び、遂には戦闘訓練まで共にするほどになった。


 互いに鮮やかな風魔法と火魔法を訓練場で応酬する二人は活き活きしており、実戦で鍛えた攻撃的なシオとそれを上手くいなして逆転を狙うルミナスの応酬はいつしか村人の間でも評判になっていた。

 勝敗はルミナスがやや押され気味だったが、戦う度に発見があって彼女は新鮮味を感じていた。


「シオちゃんは炎系なんだね」

「元々は光メインだけど、師匠が炎強いし、光と炎って相乗だから伸ばしてんの。そーゆールミは堂々の風ねぇ」

「すぐそばに世界一のお手本がいるんだもん。にまだ自力飛行は安定しないけど、いつか飛んでみせるんだ」


 二人は魔法使いの弟子として初めて対等な交友関係になっていった。


「うんうん、仲よきことは美しきかな……若い世代が育つっていいわね~」

「19歳がじじくさいことを言うなマリアン。老けたこと言ってると早く老けるぞ」

「あんたはちょっと若返ったんじゃない、ハジメ?」

「顔ヨガで表情筋が死なないよう努力している」

「本当に要因それで合ってる? 若奥様との夜の営みのせいとかじゃない?」

「やかましいわ。大体、クオンがいるのに気軽に出来るか」

「やってないとは言わないハジメであった……、……あれ、反論が来ない」

「はぁ~……そういう話は暫く聞きたくない」


 ハジメのガチため息を聞くに、何かあったようだ。

 試験前に弟子のモチベーションを下げるべきではないので今は追求しないでおいてあげるマリアンだった。

 無論、興味は深々であるが。


 そうこうしている間に時は経ち、マリアン率いる弟子たちは試験の準備を整えた。


 真弟子ルミナスと仮弟子シオは既に準備万端。

 偽弟子ハジメは勿論のこと、フェオ、フレイ、フレイヤの三人も期間内にばっちり合格圏内に仕上げてきた。フレイとフレイヤはまだ子供だけどアリなのかという懸念があったが、能力さえあれば年齢は関係ないらしい。


「これでヤーニーとクミラに優位に立てる! 見ていろ性悪姉弟め!」

「お兄様と私の溢れ出る知性に溺れさせてあげましょう!」


 ハジメとしてはあの二人にそんな可愛げがあるとは思えないのだが、二人が楽しそうなので特に何も言わなかった。

 全員が魔法使いの学士然とした服にマリアンの弟子の証として風をイメージした薄緑とマリアンの髪をイメージしたピンクが螺旋を描いたような刺繍を入れている。正装なのかと聞いたら、別にそうでもないけどノリで入れたと悪びれもせず言われた。


 ちなみに制服は全部ハジメが自腹で特注した最高級素材で装備品として一級品で、全員分で合計2600万Gの制作費用がかかっている。フレイとフレイヤは成長すればサイズが合わなくなるのでその都度自腹で新しいものを作ってあげるつもりである。


(……とか頭のネジの代わりに竹串突っ込んだようなこと考えてるんだろうなぁハジメさん。かわいいからいいけど)

(フェオの視線が生暖かい。何故だ……)

「んじゃ、試験行くよ。事前に説明した通り、一次試験は筆記。これは場に飲まれて緊張しなきゃ余裕でしょ」

「ママたち頑張ってね~! クオンもマリアンと一緒に応援してるから!」

「頼もしいな。じゃあマリアン、そしてグリン。俺たちが試験してる間はクオンを頼むぞ」


 ハジメ、フェオ、フレイ、フレイヤの四人はクオンが最も共に過ごす時間の長い人間トップ4だ。流石に一度にいなくなるとクオンも寂しいだろうし社会見学がてら連れて行くことにした。当然クオンにも同じ衣装を用意してある。

 マリアンはクオンとも既に仲良くなっているので特に抵抗なく受け入れている。


「任せなさいって。どーせこっちは暇だし。ねー、グリン。うはー毛並み気持ちいい~……」

「ブゥ」


 わしゃわしゃと短い金毛を撫でられるグリンは無抵抗だ。

 グリンは双子が行くなら当然ついてくるとばかりにしれっといたが、マリアンはグリンの正体は知らない。唯の豚ではないことは百も承知のようなので敢えて言わないのはちょっとした意地悪だ。


 しかし、グリンの毛並みは金色でクオンの角なども金色なことを考えると、神獣は金色の要素が必ず入るのだろうか。未だ分霊姿でしか見たことのないレヴィアタンの本体を見てみたくなったハジメであった。




 ◆ ◇




 魔法学術都市リ=ティリ――世界中の魔法研究者が集い、世界最大の魔法学院『パレット』が存在する、この世の魔法の生まれ故郷。


 地理的にはシャイナ王国と東のドメルニ帝国、そして北のシルベル王国の三国の国境が接する緩衝地帯に当たる独立都市で、どの国家にも属していない代わりに魔法の研究成果を世界に公開している。

 緩衝地帯と言っても三国の関係はかなり良好なのでさほど政治的な意味は無いが、貿易や人の行き来で重要な場所ではあり、ハジメも何度か通ったことがあるが、見物した印象は『奇妙な都市』だった。


 商人が盛んに活動する陸路の拠点として発展した街道沿いのエリアと学問に勤しむ魔法使いが住むエリアの間を巨大な外壁が隔てているのだ。別に出入り自体は出来るが、一般的な商売が行なわれる壁外と研究者たちの一族がひしめく壁内は別世界と言って過言ではない。


 魔法使いたちにとって壁の外は俗世であり、あの壁は神聖な学びの都を汚されないための結界。それがハジメの抱いた感想であり、都市の出身者曰くそれは間違っていないという。


「なっつかし~~……実家にずっと帰ってなかったから三年ぶりかなぁ」


 首が痛くなりそうなほど高い壁を見上げるシオに、ルミナスは首をかしげる。


「そんなに帰ってなかったの、シオ?」

「まぁ発表したい論文があったわけでもないし、おじいちゃんが死んだ今となっては会いたいってほどの人がいないから。兄弟いとこは顔も知らないの何人かいるし」

「ふぅん。名家すぎると家族関係が希薄になるって、不思議」

「こっちがハブられてるだけかもしれないけどねー」


 生みの親すら会いたいカウントに入らない辺りに彼女の育ちの特殊さが覗えるが、マリアンがすたこら壁の出入り口に近づいていくので全員それに従う。マリアンが出入り口の脇に立つオートゴーレムに何かを示すと、門の脇にある別の小さな門が開く。

 あちらは魔法使い用ということだろう。

 全員が門をくぐると、その先に学術都市リ=ティリの真の姿が待っていた。

 フレイとフレイヤが興味深げに町を見渡す。


「これは……バランシュネイルとは違った迫力に満ちているな」

「町の中心に立ち並ぶ巨大な聖堂のような学び舎に屋敷たち……こんなに高くする必要があるのかというくらいの高さが格式を表わしているのでしょうか」


 ハジメも詳しくはないが、リ=ティリの町並みはゴシック様式を彷彿とさせる高く尖った建物が比較的多く感じる。町並みもどこか他の都市に比べると古式だが美しく整えられており、まさに格式に拘った町であることが感じられた。


 通行人達の服にも魔法使いであることを喧伝するかのような意匠が感じられ、外では少し悪目立ちした弟子制服たちもこの都市では違和感がない。

 通行人がそこそこ多いのは、認定魔道士試験のために人が活発に動いているからで、普段はもう少し静かだとシオは語った。


「住めば都なんて言いますけど、ここの都は住むとジミ~なとこですよ。都市に籠もりきりの連中が口を開けば師匠自慢にお家自慢、あとは魔法研究の話ばかり。ねーマリアン師匠?」

「そーそー。とにかく刺激が無いもんねぇ。冒険してた方が心の美容にいいわ」

「確かに行動派のマリアンには退屈そうだ」

「ハジメ、マリアンし・しょ・う・ね?」

「かしこまりました、師匠」

「わー心が籠もってなーい。敬語はいらないわよ二番弟子。別に弟子がタメ口な研究者くらいここじゃそんなに珍しくないわ。プライドより研究が大事な奴は特にね」


 鬱陶しそうにひらひら手を振られたのでハジメは師匠呼び以外いつも通りにすることにした。


「それにしても……魔導十賢ともなるとここでは当然人気者、か」


 都に入ってすぐ、集団の先頭を堂々と歩くマリアンの存在に住民が気付いた。

 羨望、好機、怪訝、様々な視線と言葉がぐるりと周囲を囲む。


(風の賢者マクスミリアン……本物だ)

(あの若さで研究者としても一流とは、敬服する他ないな)

(想像以上にお美しい方だ。何故普段は俗世におられるのだろう)

(認定試験に弟子を送り込みにきたか。今まで再三の忠言を無視しておいて今更どこから用意してきたんだ?)


 マクスミリアンというのは恐らくマリアンの魔名だろう。

 多くは好意的な印象だが、これまで弟子をまるで輩出しなかったことに対する不信感もなくはないようだ。無論マリアンはそんなことを気にするほどかわいい性格をしていないが、弟子のルミナスはプレッシャーを感じてるのかくせっ毛が垂れまくっている。


 と、シオが彼女の背をぱしっと叩いた。


「しゃきっとなさいよルミー。一番弟子だから偉くて当然って顔してりゃいいのよ。下々がなんか言ってるなって感じで」

「シオは得意そうだけどさぁ」

「得意とかじゃなくてやるの。弟子がふにゃふにゃしてると師匠がナメられるわよ? 尊敬する人」

「うぅ……頑張るっ」


 偉大な人物の弟子になることに拘るシオならではの激励だ。

 ルミナスは彼女の言葉に力を貰ったのか、くせっ毛の角度が30度ほど持ち直した。なるほど、機嫌が全部くせっ毛に出てしまうのは嫌だと言っていたが確かにこれは出過ぎなくらい出ている。


 あれは本人の精神力が足りなくてくせっ毛を御せてないらしいので、あれで機嫌が計れなくなって初めて彼女は一人前になれそうだ。

 なお、今の所御せそうな気配は一切ない。




 ◆ ◇




 認定魔道士試験会場となる世界一の魔法学院【パレット】の巨大な校舎のホールには、既に100人近い魔法使いが集結していた。


 談笑する者、ティータイムに洒落込む者、本にかじりつく者、様相は様々だ。

 ただ、マリアンが受付で名前を名乗ると流石に全員が視線を向けてきた。


「マリアン・ラファル。魔導十賢の名の下、弟子連れてきたわよ」

「……確認しました」


 気怠げだった受付がぴしりと姿勢を正して受験者の証のバッジを渡す。

 そして渡した瞬間爆速で気怠げに戻った。

 まだマリアンが目の前にいるのになかなか個性的な受付のようだ。

 マリアンは特に気にせず弟子たちにバッジを渡す。


「このバッジは一種のカースドアイテムで試験に不合格ないし失格になった側から勝手に外れて手元を去って行くわ。最後までくっつけてれば呪いが解けて認定魔道士の証明になるの」

「聞いた事のないアイテムだな。ここのオリジナルか?」

「なんせ歴史の古い都だからねぇ。特にシルベル王国とは関わりが深いんだって。壁の出入り口のオートゴーレムもシルベル王国産だし」


 全員の服に勝手にバッジが装着されていく。

 フレイとフレイヤはクオンに自慢げに見せつけ、クオンはうらやましがっていた。


「いーなーいーなー!」

「ふふふ、いいだろう。欲しければクオンも次の試験を狙ってみたらどうだ? いくらでも勉強に付き合うぞ! ヤーニーとクミラとは違って!」

「えぇぇ、勉強かぁ……」

「クオンも不思議ですわねぇ。以前に村のお手伝いで売店のお仕事をしたときは完璧にこなすほど知識がありましたのに、勉強と名がつくと途端にものぐさになるなんて」

「あれはだって、孵化する前は雑貨屋にいたから……」


 クオンはハジメの手で孵化するまでは雑貨屋の珍品として売られていたという衝撃の経歴を持つ。そのため生まれながらにして言葉はなかなか流暢だが、知っている知識に結構な偏りがある。実際、クオンの商品陳列、接客、金勘定は下手な従業員よりこなれていると村では評判だ。

 竜の卵を大枚はたいて無理矢理購入したときはまさか中に未来の義娘が入っているとは欠片も思っていなかったことをしみじみ思い出していると、会場の奥からマリアンめがけてずけずけと歩み寄ってくる集団が目につく。


「これはこれは、風のマクスミリアン殿。ご機嫌麗しゅうございますか」

「特になんもないわね」

「それはそれは結構なことで」


 やたら言葉を繰り返す相手は壮齢の男性だった。

 表情はにこやかだが口元の笑みに微かな敵意を滲ませている辺り、あまりマリアンと良好な仲ではないらしい。が、そんなことよりバリバリに視線を引くのが教科書で見かけるクラシック音楽家たちの髪をド派手にしたようなビッグロールである。

 頭の両サイドにバズーカでも仕込んでいるのかと聞きたくなるロールの存在感に元々彼を知っている人以外の面子は視線を釘付けにされた。


 クラシック音楽家達の特徴的な髪は多くがウィッグだと聞いているが、果たしてあれは本物なのだろうか。困惑していると、シオがこっそり耳打ちしてくる。


(あれは魔導十賢の一角、光を受け継ぐシュテルム家のバミンガン・シュテルムです。髪型はシュテルム家の家訓かなんかで巻かないといけないらしいですよ。ほら、弟子たちもみんな巻いてるでしょ?)


 確かにバミンガンの後ろに控える弟子らしき人物たちは皆多かれ少なかれ特徴的なロール髪に仕上げている。


「私の弟子たちと顔合わせは初めてだったね。いやぁ、将来有望な弟子たちのなかから十人に絞り込むには大いに悩まされましたよ」


 バミンガンに促されて弟子達が一斉にマリアンに礼をする。

 弟子達の中にはマリアンの後ろにいるハジメたちを値踏みしたり下に見る目が少なからず含まれていた。

 特に圧が強いのがロールが目立つ先頭の三人娘だ。


(知ってるか?)

(ドリルロールとビッグロールは多分。あの一人だけ小さいのは分かんないです)


 曰く、ドリルロールはレニス――魔名レニングスタ。

 年齢は20歳。金の長髪を幾つもドリル型にロールさせた彼女はこの中でも一番ロールの数が多く、もみあげ辺りから伸びてるドリルが一対に、背中に垂れるドリルが二対の計6つのドリル髪を揺らしている。


 シュテルム家の神童と呼ばれ当時の世代では頭ひとつ抜けた存在だったが、後から出てきたマリアンに全てにおいて追い抜かれたせいでえげつないプレッシャーがかかっているらしい。

 あんなにキリッとした顔をしているのに裏で吐きそうになっているとは可哀想な子だ。


 次がビッグロールはミーティ――魔名フォルミティオス。

 年齢21歳。女性にしてはなかなか長身で、後頭から下がるブラウンがかった赤い二つの巨大ロールはまさにビッグロール。鈍器として殴打攻撃が出来そうなくらいだ。

 レニスと並んで将来を有望視されていたそうだが、あまりいい噂を聞かないのに師からの覚えだけはいいタイプらしい。

 割と敵意を隠していないがその生き方はしんどくないのだろうか。


 最後の一人はまだ十代前半の少女で、薄紫色の髪をサイドテールで綺麗に垂らしている。他の二人は質量勝負といった感じだったが、この少女はセットの美しさと重力への逆らい具合では負けておらず、中に針金でも入っているのか聞きたくなるほど綺麗な逆三角形ロールだ。

 ルミナスがこっそり耳打ちしてくる。


(噂程度ですが、多分シュテルム家に養子入りした子でブリューナクって子じゃないかと。本名はリューナだったかな……)


 ちなみに今ハジメたちを見て鼻で笑ったのでプライドは高そうだ。挫折したときに立ち直れるかやや心配だし、しなかったとしたらそれはそれでちゃんとした大人になるか心配だ。


 ハジメの総評。


(大丈夫かなこの子達……)

(師匠、視点が保護者すぎます)


 紛うことなき保護者である。

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