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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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213/348

32-2

 さっそく記念受験組が追い払われ、マリアンの答案返しが続く。


「フレイ、フレイヤ兄妹は共に30点。ちょっとエルフの世界観反映しすぎでテストの趣旨と違う回答が多かったわね」

「赤点ではないか……」

「またあの小憎たらしい二人に馬鹿にされますわ……」


 二人揃ってそっくりな顔、同じポーズで答案を渋い顔で見つめている様がなんともシュールだが、マリアンは二人をフォローした。


「地頭はいいみたいだし今後の努力次第で全然伸びると思うわよ。まずはエルフの用語と考え方を現代魔法学に落し込むとこから始めるといいわ。エルヘイム自治区で人気の学術書があるから今度持ってきてあげる」

「「はい、先生!!」」

「んー、元気でよろしい」


 容姿の美しい二人に先生呼ばわりされてマリアンも悪い気はしないようだ。

 続いてノヤマの手元に風に乗った答案が飛来する。


「ノヤマくんは52点。そこそこ勉強してるみたいだけど、知識の偏りが大きいわねー。支援術士としてもっと大成したいなら苦手分野にも挑まないと駄目よ?」

「精進します、師匠の師匠!」

「ややこしっ」


 ノヤマは相変わらず一部の女に囲われているが支援術士としてかなりまともになってきて、最近は男相手にも転生特典のキスバフを使うために投げキッスという技を編み出したそうだ。

 ただ、女装してないと使えないため本人曰く捨身な上に女装抜きでも通用した場合は相手が同性愛者の可能性が高まる恐怖の技だと語っていた。女装投げキッスの発想に至ったノヤマの方が怖い。


 周囲の様子を見ていると、ハジメとフェオに同時に答案が届く。


「フェオちゃん68点。合格ラインまでもう少し! で、ハジメは75点。そこそこやるだろうとは思ってたけど仮にもゴリゴリの実践タイプが初見で合格ライン越えたのは意外ね。後は細かいコツとかを詰めていけば問題ないでしょ」

「私、あとちょっとかぁ」


 フェオは少しだけ残念そうだったが、合格ラインの壁が近いことに手応えを感じたようだった。後で一緒に答え合わせしよう。考えてみたら生前の学校でこういうのしたことないから失われた青春が少しだけ戻ってくるかもしれない。


「で、成績上位第二位! シオちゃん97点!!」

「うがぁぁぁ~~~あそこかぁ!!」


 ほぼ100点だったことではなく3点を漏らしたことを頭を抱えて悔しがるシオだが、既に筆記で師匠を超えている。

 ハジメモ研究記録と筆記に求められる知識は別物なので負けたことを悔しくは思わないが、やはり彼女は優秀である。このままさりげなくマリアンに押しつけられないだろうか。


「さてお待たせしました! 栄えある第一位はぁ!? ジャカジャカジャカジャカデケデケデケ……」

「いや引き延さないでも残り一人しかいないですよね師匠!? 恥ずかしいのでやめてくださいませんか!!」


 全力でふざける師匠にアホ毛をぶんぶん振り回して涙目で抗議するルミナスの反応を一通り楽しんだマリアンは、答案を全員に見せびらかす。


 そこには、堂々の100点の数字が踊っていた。

 流石はマリアンが一番弟子に認めた少女だ。

 この試験内容はこちらの世界における国家試験並の難しさであり97点のシオも驚異的な部類だというのに、それさえ越えるのは尋常ではない頭の良さである。


「ハジメの弟子に3点差まで迫られたときはどんな罰ゲーム受けさせようかとワクワクしてたけど、兄弟子の面目躍如ってところかしら?」

「ワクワク!? いまワクワクって言いましたよね!?」

「おらハジメとシオ、ルミナスにさんをつけて一歩後ろを歩くようにしなさい。ルミナスは上下関係に疎い相手にブチ切れるわよ」

「堂々と弟子の悪評を流布しないでくださいませんか!?」


 アホ毛がスウィングしてマリアンにぺしぺし当たっている。

 心なしかリーチが伸びてるが、ルミナスのアホ毛はどうやって動いているのだろう。もしかしてあそこだけ寄生生物だったりするのだろうかとハジメは疑問に思った。




 ◇ ◆




 マリアンは、元の選出候補三名に加えて二度目のテスト次第では他の人にも推薦状を出してもいいと宣言した。残念ながらノヤマは冒険者としての仕事の都合上去って行ったが、フェオ、フレイ、フレイヤの三人が残って勉強に励んだ。

 ハジメも合格ライン越えとはいえあまり安心出来る点ではないので勉強を続行した。


 テストの採点を元に復習のためにテスト用紙と向き合い、メモを取る。

 隣にはフェオがおり、離れた場所ではシオが対抗意識からかややルミナスに睨みを利かせながら猛勉強し、ルミナスはその圧にたじたじで、マリアンは二人の面倒をみつつ適度に茶々をいれ、偶にこちらにやってくる。


 悪くない、と思う。

 少なくとも小中学校の環境が劣悪だったことを思い知らされる。


 ノートが捨てられたりぐちゃぐちゃに悪口を書き殴られたり、小便をかけられた状態で見つかったこともあった。盗まれて返ってこないノートもあったが、親は子供のために金を使うという発想がなかったのでとにかく捨てられた紙や裏が白紙の広告をノート替わりに利用していたこともあった。それも親にゴミ扱いされてテスト前に捨てられ、全ては水泡と帰したが。


(うん。よく考えなくても劣悪すぎる。フェオに聞かせたら泣くかも知れないから黙っておこう……)


 少なくとも今は楽しいのだからそれでいい。

 そういえば、村にハジメに用事がある女性が押しかけてきている件についてフェオは特に問題視していないのだろうか。ちらりと彼女の方を見ると、ばっちり目が合った。


「勿論疑ってます。私より付き合いの古い女性は全員容疑者です」

「……まだ何も言ってないが?」

「今の視線で全部分かりました。ハジメさんはこういうとき目が正直です」


 笑顔で「半分冗談ですけど」と続けたフェオが嫉妬を剥き出しにしないのは、偏にマリアンを尊敬しているからだろう。

 フェオよりは年上とはいえマリアンはまだ20歳に満たない天才魔法使いで、間違いなく最高位魔法使いの一角だ。向上心の高い彼女にとっては雲の上の存在で、しかも明確な人生の成功者。憧れを抱くのは自然ななりゆきだ。


「フェオは認定魔道士になりたいのか?」

「シオちゃんみたいに熱望している訳じゃないので、受けられなくても別に構いません。でも手が届くなら掴んでおきたいです。村長を始めてから熟々思い知ったんですけど、肩書きってあるのとないのじゃ大違いですもん」


 フェオは副村長アマリリスと一緒にコモレビ村代表として他の地域を視察したり商売の交渉を行なうことがあるが、その際に肩書きの違いを思い知らされるのだそうだ。


「冒険者ですって言った時は興味なさげなのに、ベテランクラスの証明を見せると急に腰が低くなる人とか、私のことはナメてるのにアマリリスちゃんのローゼシアの姓を聞いた途端に『あのローゼシアの!』ってヘコヘコし始めたり。もちろん村がエルヘイム自治区やバランギア竜皇国と繋がりがある話も効果はあるんですけど、それって私自身のパワーじゃないでしょ?」

「それで自力で勝ち取った実績が欲しいんだな。認定魔道士の資格ならベテランクラスの地位とで相乗効果もありそうだ。知識と実力、両方の証明だからな」

「でしょでしょ? ナメられたくないんですよ。冒険者としても村長としても……ハジメさんのパートナーとしても」


 ハジメは、もしもフェオと自分の立場が逆だったらと想像する。

 誰からも認められる圧倒的な実績を持つ人に対して、自分があまりにもちっぽけで無力だとしたら、周囲は不釣り合いな相手だとみるかも知れない。或いはちっぽけな自分を見て、選んだパートナーは見る目がないと言い出すかもしれない。

 それは、悲しいし腹が立つことだ。

 ハジメはそっとフェオの手を握った。


「一緒に認定魔道士になろう。おそろいだ」

「……はい」

「あと言ってなかったが……マリアンは他人の色恋沙汰が結構好きだ」

「そのとーり!」

「え? わぁッ、いつの間に近くに!!」


 二人の対面の席からばっちりやりとりを見学してにやついているマリアンにフェオは動揺してガタッと椅子から立った。

 マリアンは悪びれもせずけらけら笑う。


「ちょっとハジメ~。指摘が早い早い。もうちょいじっくりイチャつくとこ見たかったのに~」

「いっ、いちゃっ、えっ、みみみ、見世物じゃないんですけど!?」


 ハジメへの愛を隠さない割にこんな形で見られると恥ずかしいのか、フェオは耳まで真っ赤だった。マリアンはと言うとフェオの抗議はどこ吹く風とばかりに答案を指摘して「ここちょっと書き方が不正確だから減点対象だよ」とハジメのメモに指摘を入れる。


 ちなみに、シオとルミナスは一切こちらを見ずに勉強している……かと思いきや鉛筆が一切動いていないのを見るに全力で聞き耳を立てているようだ。というかルミナスの耳が赤くくせっ毛がのびのびうねっているので全く隠せてない。

 マリアンは全く悪びれずにニヨニヨと笑う。


「遠慮せずに。ささ、お席に座って続きをどうぞ。師匠命令ですよー?」

「拒否っ、拒否します! 弟子のプライベートにまで口を出されるのは嫌です!」

「じゃあ口出ししないから続き見せてよ~」

「そんなにガン見されたらしたいものもしにくいでしょ!?」

「えーなにシたいのぉ? キス? 子供が見てるのにキスまでいっちゃうの?」

「もうヤダ、ハジメさん! この人たまにいる無限に色恋話に首突っ込んでくるタイプです! しかもアマリリスちゃん達と違って自分が満足するまで止まらない系!! マリアン・ラファルって誰に対してもこの距離感なんですか!?」

「気に入った相手だけよ♪」

「なら気に入られたくなかったっ!! ハジメさぁん……」


 涙目でなんとかしてくれと訴えてくるフェオに、ハジメは「過剰反応してると思うつぼだぞ」とアドバイスした。マリアンはイジり甲斐のある相手が大好物だ。

 認定魔道士試験は筆記以外の意味で早速前途多難である。




 ◇ ◆




 ルミナス・グアリ・ラファルはグアリ家出身の魔法研究者だ。

 グアリ家は魔導十賢を中心とする研究集団の中では木っ端の家系で、歴代を振り返っても華々しい活躍をした者は数える程しかいない。唯一珍しいものと言えば、刻印型魔法【アンチフォーゲット】を代々継承しているくらいだろう。


 【アンチフォーゲット】は世にも珍しい魔法生命体を宿す魔法であり、発動主の髪の一部と融合してくせっ毛として反り立つ。

 この魔法生命体は発動者の集中力を高める効果があるが、魔力を通して持ち主の感情に強く反応してしまうためルミナスのように感情の分かりやすい人間が装備すると暴れ回って師匠をはたいたりしてしまうという欠点がある。


 ルミナスはそんなグアリ家の中でも数百年ぶりに見込みの高い逸材ということで幼少期に頭角を現した途端に当主から【アンチフォーゲット】を託されるというプレッシャーを押しつけられてきた。


 そんな彼女はあるとき研究所にてアンチフォーゲット――ルミナスは煩わしさを込めてアフォゲと呼んでいる――をマリアンに気に入られ、そのままなし崩し的にラファル家の養子にされてしまった。


『あははは、ほんと面白いくせっ毛! 毎日見てられるわね。貴方を弟子にした理由の三分の一はこの毛と言っても過言ではないわ!』

『ヒドイ!!』


 ルミナスから見たマリアン・ラファルは可愛らしくて困った天才だ。

 師匠としては全く以て申し分ないどころか、こんな凄い人物の弟子になってしまっていいのかと今でも疑問に思うほどの才能の塊。

 にも拘わらず、この師匠の心は子供のままだ。

 とにかく悪ガキ気質というか、自由奔放というか……。


 でも、ルミナスはマリアンについていく。

 戦いになると本当に強くて格好良いし、研究者としても卓越した着眼点とひらめきの持ち主で、百日かかる筈の研究をわずか数日で終わらせたこともある。

 弟子入りして今年で四年になるが、その間にマリアンは実に多くの知識と経験を与えてくれた。それらは彼女に弟子にされなかったら決して得られなかった貴重な宝の数々だ。


 尤も、フィールドワークに連れ出されて冒険者の真似事をし続けたせいで魔法研究者の同期からは「俗人っぽくなった」と悪気なく心に刺さることを言われもするが、別に辛くはない。彼らは一般人を俗人と呼ぶ悪癖があるだけだ。


 ともかく、師が認定魔道士になれと言うなら否やはない。

 数多の弟子候補の中からルミナスを選んでくれたマリアンの目に狂いがなかったと証明したい気持ちは、確かに胸の内にある。


 でもだからといって冒険者の知人とその弟子を自分の弟子扱いにするのは豪腕過ぎません!? ……と、ルミナスは切実に思う。


(見てるぅ……シオネレジアさんがめっちゃ見てるぅ……!)


 僅差でテストの点数が勝ってしまったばかりにルミナスは完全にシオによくない感情を向けられているようだ。


(だから素直に新しく弟子を育てましょうって言ったのに、手抜きするから関係拗れちゃってしわ寄せがウチに来るんじゃないですかぁ!!)


 最初に『死神ハジメ』とその弟子を弟子にするという正気を疑う計画を知らされたとき、ルミナスはこの師匠の悪いところが出たと内心で呻いた。彼女はそんなの無理だと思うようなことをでも理屈をパワーで押しのけて通してしまう所がある。

 そこで上手く行かせてしまうのがマリアンの紙一重なところだ。

 バカと天才の。他意は無い。


(ていうか、こっちは戸惑ってるのに死神のおじさん素直すぎない!?)


 ルミナスは自分より10歳以上年上の冒険者を弟子にすると言い出したマリアンにも驚いたが、まさか大してもめ事にもならないのは予想外だった。

 ちらりと講義室の後ろに視線をやると、ルミナスより少し年上のエルフ、フェオと仲良く並んで勉強に励む『死神ハジメ』の姿があった。


 無表情で何を考えているのか分からないが、時折フェオとやりとりしては優しく微笑んでいる。ロリコンなのだろうか。純愛なのだろうか。ルミナス視点だとロリコン側に傾いているが、その割にマリアンにもルミナスにも特に反応がないのは、好みじゃないからかムッツリなのか判別がつかない。


「フェオさんは師匠の第一夫人なの。勝手に変な誤解しないでくれる」

「ぅひゃいっ!?」


 気付けばハジメの弟子だというシオネレジアに睨まれていた。


 ルミナスは彼女を知っている。

 ファウスト家の放蕩令嬢シオネレジア。

 名門ファウスト家に生まれ偉大な魔法学者を祖父に持ちながら。その祖父が経歴を捨てて俗世で育てたという異色の経歴はそちらの界隈ではそこそこ有名な話だ。悪く言えばそこで話が終わった存在だと思っていたので、普通に優秀で驚いた。


 そんなシオネレジアはふん、と鼻を鳴らす。


「ロリコンだと思ったでしょ、師匠のこと」

「くく、く、口に出てました……?」

「出さなくても感じるのよ。いいこと? 師匠は実践魔法の生き字引でそんな下半身で動くような俗物的思想の持ち主じゃないんだからね!」

「冒険者なんて多かれ少なかれ俗物的なのでは……」

「師匠にそんなものはない! 家から億単位のGを持ち出しても理由を説明すれば二つ返事でOKしてくれるくらいにお金に頓着がないんだから!」

「アッこれ弟子の方が俗物だ!! 金目当てで弟子入りしたんですか!?」

「失礼な、弟子の肩書き知識と経験と強さと人脈と富と名声目当てよ!!」

「強欲ッ!!」


 流石は異色の経歴をもつシオネレジアというべきか、オープンに俗物だ。

 こんなんでもマリアンの出したテストであとちょっとで満点だったのだから、世の中分からないことだらけだ。


 そんなシオネレジアは既に予習はばっちりとばかりにペンを置いて大きく伸びをすると、謎の手描きノートを取り出す。片方は年期が入っており、少し変色していた。彼女は古いノートを見ながら自分のノートに何か書き出そうとし、不意に思いついたように古いノートをルミナスに見せつける。


「これは師匠が記録していた貴重な実践魔法研究記録よ! 研究者でもないのに綿密に記録されたこの偉大なデータを目に焼き付けなさい!!」


 そのノートには、周辺に落雷を発生させるサンダークラスターという魔法に対する考察が延々と綴られていた。

 サンダークラスターを習得しやすいジョブと関連魔法との関係性、属性、効果範囲、バフやデバフ、詠唱破棄、分割した際の効果や消費魔力の変化、更にはサンダークラスターと類似した魔法として扱われるエレクトボルテックスとの比較まで様々な情報が書き込まれていた。


 ルミナスからすれば、かなり異質な記録だ。

 魔法学ならば属性や前段階、発展段階魔法との比較、魔力の運用、術式、系統などの話が先に出る。実際に発動した魔法の効果は個人差として片付けられるし、戦う為ではなく学問として学ぶのでこのような実戦に基づいた記録は取らない。

 ルミナスはその中にひときわ理解不能な文章を見つけて困惑する。


「サンダークラスターからエレクトボルテックスに繋げても変化はないが、エレクトボルテックスの後にサンダークラスターを発動するとサンダークラスターの追尾性が僅かに上昇する……???」


 全然意味が分からない。

 同じく雷を多数落とす魔法が、何故順番で効果が変わるのか。

 そもそも本当にそんな事が発生するのか。

 困惑しきりのルミナスに、シオネレジアはどや顔をかました。


「どーよ。研究所じゃこんなデータ逆立ちしたって用意できやしないわ。でも師匠はこの理由について、エレクトボルテックスに追尾性があるのにサンダークラスターはランダム性が高いことが関係していると考えていくつかの実験をしているわ。そして、結論から言えば雷属性魔法は先に追尾性の高い魔法や雷属性のデバフを相手にかけるのが絶対にアド! あ、アドってのはお得ってことね」

「それは、魔力同士の融合性質が関係しているからですか……?」

「そゆこと。炎と炎が互いを高め合ったり、炎と風が相性良かったり。魔力は属性によって惹かれ合ったり弱め合ったりする。でも雷属性の惹かれ合う性質が追尾性にまで波及するという論文は学会にはないでしょ」

「確かに……聞いたことないです。あ、でもそういえば師匠は雷と風の複合魔法を使う前には先制で雷を使ってたような?」


 風属性は複合属性しやすいという特性があり、雷属性もその一つだが、過去のマリアンの戦闘を思い出すと大抵雷属性初歩で相手をある程度追尾する『ライトニング』を挨拶代わりにお見舞いし、それを起点にしていた。


「そーなのよねぇ。遂に秘密がバレちゃったか」

「わっ、師匠!?」


 いつの間にか隣にやってきていたマリアンが肩をすくめる。


「実はね、雷属性の命中率の性質は冒険者の間では半ば都市伝説気味に昔から囁かれてたの。アタシとしては最初に牽制叩き込んだ方が相手の出方を見極めやすいからやってたんだと思ってたけど、やってみると本当にちょっとだけ命中率が上がるのよねぇ」


 マリアンは視線をノートに逸らし、興味深げにふむふむと呟く。


「マメねぇ~。アタシはやりたいこと色々あるからこういうデータコツコツ集めて纏めるのは苦手なのよ。しかも専門外魔法やスキルとの相乗まで行くと、多方面の魔法を高レベルで習得したハジメくらいしか出来ないんじゃないかしら?」

「でしょう、そうでしょう! 流石はマリアン大師匠! 師匠の凄さを正確に理解していらっしゃる!!」

「あらあら、ルミナスが師匠自慢してるときとソックリのにんまり顔だこと」

「えっ、ウチこんな感じなんですか……?」

「ちょっとアンタそれどういう意味ぃ!?」

「い、いえっ、だって鏡で見る訳じゃないし……う、ウチら意外と似たもの同士なのかもしれません……ね? し、シオネレジアさん……」

「うわっ、ちょっとやめてよソッチの名前で呼ぶの! 嫌~な記憶が蘇るから! シオでいいわよシオで!!」


 果たして何があったのか、シオは極めて渋い顔で魔名呼びを拒んだ。

 一体何があったのか聞くと、思ったより嫌というかキモイ記憶で同情した。あの見るからに臭そうな純潔派に子供を産めと要求されるなど悪夢である。


 少なくともこの機を境にルミナスとシオは段々と距離が縮まっていった。

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