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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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断章-5

 魔導騎士戦隊、エクスマギカリッター。

 それは、魔界のマッドサイエンティストであるユーギアが孤児を集めて結成したグレゴリオンを操る為の専属パイロットである魔導騎士マギナイトたちだ。

 全員が少年少女で結成されており、グレゴリオンのような巨大人型機械ゼノギアを操る事に特化した訓練を受けている。


 赤髪の少年、ノーヴァ。

 青髪の少女、フェート。

 金髪の少女、テスラ。

 黒髪の少女、シノノメ。


 彼らはあるときユーギアの極めて趣味的な野望のために地上で戦い、そして地上のマッドサイエンティスト――ではなく希代の人形師トリプルブイ謹製のオートマン、カルパとの戦いで敗北した。

 以降、彼らはその際に迷惑をかけたキャバリィ王国に技術協力者として赴きながら地上の文化を体験して回っている。


 キャバリィ王国内では仲睦まじく子供の彼らは魔族ではあるが比較的明るく迎え入れられており、特に付き添いにやってくるリベル将軍はすっかり彼らに懐かれてしまっている。


 そんな彼らが敗れた後もある程度の自由を許されているのは、コモレビ村勢力の尽力があったことも無視できない。

 彼らは事件の収束、代表同士の会談、決闘、その後の処理の全てに関わっており、トリプルブイとカルパもこの村に身を置いている。


 と言うわけで、一度はきちんと挨拶をと菓子折つきで訪ねたのだが――。


「やーん、みんな可愛い~!」


 テンション高く魔導騎士たちを抱きしめて幸せそうな顔をしているのは、この村の魔族とのパイプ役の一人だというウルという女性。

 表向き人間として生活しているが、当然同じ魔族なら騙されはしない。

 ユーギアとリッターは即座に気付いた。


(ていうかこの人、魔王だ……)

(まおうさま……)

(良い匂いする……)

(きれい……)

(しあわせ……)


 ウルは転生特典を美貌を含め能力強化に全振りしている上に魔族に生まれたため、その美しさはもはや竜人にとってのクオンに匹敵すると言っても過言ではない。今は人の姿に変身して色々と抑制しているが、それさえ解いてしまえば恐らくノーヴァ辺りは刺激が強すぎて失神するだろう。


 しかも、魔族とは基本的に魔力が高い程にモテ、忠誠心を煽りやすい。

 よって、美しい上に強いというのは魔性の心を二重に鷲掴みしてしまう。


「貴方様におもてなしなせていただくことになるとは恐悦至極……」

「堅苦しいのはなしにしようよ。お菓子どーお?」

「おいしいです、まおうさま!」

「お茶も嗅いだことのないいい香りがします!」

「まおうさまが微笑んでいる様……素敵……」

「ま、まおうさまとお茶ができて光栄です……」


 魔導騎士たちはもれなくウルに夢中だ。

 特にテスラは既に陶酔しかけている。

 ウルは困ったような笑顔を見せた。


「うん、ここにいるのは魔王じゃなくてただのウルってことになってるからねー? だからその、あんまり魔王魔王連呼しちゃダメだよ?」

「「「「「はい、魔王さま」」」」」

「大丈夫かな~~~……」


 彼らは思った。

 もし自分たちが負けたら勇者がこの魔王を殺すかもしれないと思ったら、庇護欲が暴走して冷静な判断を下せなくなってしまうかも知れないと。そして彼女がここにいるということは魔王は勇者に殺されないで済むということに思えてほっとするのであった。




 ◆ ◇




 ハジメは様々なジョブにチェンジしてきた経験から、ジョブ知識が豊富だ。

 よってフェオは定期的に彼にジョブの勉強を頼んでいる。


「……で、ハジメさん。なんですかその謎の武器は」


 おもむろにハジメが取り出した謎の物体に、フェオは困惑する。ハジメはそれを掲げて説明を始める。


「占術師のお共、水晶スリングハンマーと名付けた」

「早速高度な情報戦を仕掛けてきましたね。大成功ですよハジメさん、全然意味分かりません」


 ハジメの手にはオリハルコンのチェーンを編んで作られた網の中に収まった水晶があった。

 スリングとはいわゆるスリングショットの原点で、重いものを布などでくるんで紐で支えるアイテムだ。石を遠くに投げる投石に使われる他、赤ん坊を抱える際の補助道具なんかにも使われる。この世界では武器として使われることは殆ど無いが。

 フェオからすぐツッコミが入る。


「色々質問したいですが、まず何故水晶を武器にするなんて意味不明なことを実行しようと思ったんですか?」

占術師せんじゅつしジョブの熟練度を上げるためには水晶で相手を殴るのが一番効率が良い」

「えぇ……確かに聞いた感じ占術師は戦闘で経験値稼ぐの難しそうですけども」


 占術師せんじゅつしというジョブは取っつき辛い。

 ハジメも数多くのジョブを習得してきたが、占術師せんじゅつしは支援特化だし、占術師の攻撃魔法は大技ばかりだったりディレイがあったりとにかくクセが強くて使いづらい。ジョブ解放の条件もなかなかハードルが高いのも難点だ。


 ちなみに利点はバリア等の障壁系魔法とフィールド効果魔法を高められること、バフデバフより回復魔法の方が適正が高いこと。

 欠点は強化が確率なことと、最適性武器が水晶玉であることだ。最後の一つがハジメにとっては最も辛かった。


 たとえば同じバフデバフでも踊り子ジョブは体術と相性がいいので戦える。魔法使い系列なら接近戦には向かずとも魔法攻撃で圧倒できる。

 しかし、占術師はそのどちらに対しても大きなアドバンテージがないため、レベリングの効率がとにかく悪い。効率を求めるハジメはこれに大いに頭を悩ませた。

 そして、考えた末の苦肉の策こそ水晶スリングハンマーだった。

 ただ、フェオはむしろそこが一番疑問だったのか呆れた顔をする。


「水晶製スリングハンマーなんて中の水晶の強度皆無みたいなものじゃないですか。中身カチ割れますよ?」

「そこは当然考慮し、聖遺物級アイテム、『亀裂水晶』を利用することで問題を回避してある。振り回して相手を殴り飛ばし、魔法を使いたいときは手元に戻す」

「『亀裂水晶』って……確か、既に割れているという属性を付与されているので逆にそれ以上壊れることはないとか図鑑に書かれてるあのトンチアイテムですか?」

「そうだ。トンチキアイテムとも言う」


 もう壊れてるから壊れない、というのは聖遺物級で最も下の扱いを受けるブロウクンシリーズと呼ばれる装備群の特徴だ。聖遺物なのに壊れてるので非常に使用感のクセが強く、使っているのはロマンに取り憑かれた転生者くらいだとハジメは思っている。


 元々打撃系の武器ではないので威力に関しては大したものではないが、今のハジメくらいのステータスになれば大抵の敵はごり押しで倒せる。

 しかもこの武器、実は複合属性武器でもある。

 レイピアが一部の槍スキルを使えたり、鎌が棒術スキルにも対応しているように、装備には時々複数の武器スキルに対応しているものがある。


「ハジメさん、努力の方向音痴だって言われません?」

「俺はいつだって真面目だ」

「真面目な顔して突拍子のないことを言うからこその努力の方向音痴なんですけど」

「……そうか」

(あっ、ちょっと落ち込んだ)


 ハジメの人生でも指折りの問題突破劇は、フェオの心には欠片も響かなかった。




 ◇ ◆




 バランギア竜皇国とクオンの親権を賭けて戦った大騒動から暫くして、レヴァンナが本当に嫌なのかレヴァンナは苦虫から抽出された汁を口の中にぶちまけられたような渋面をしてハジメの所にやってきた。


すめら……っていうか、エゼキエルに毎日手紙送ってくるのやめろって遠回しに伝えて欲しいんだけど」

「えぇ……」


 エゼキエルはレヴァンナを后にしようとしたことがあったが、まさか諦めていなかったのだろうか。


「最初は謝罪に始まって、次に意識を失ってるところを助けてくれたお礼、そして身勝手な自分を助けてくれたその優しさが~とかなんとか褒め言葉の雨霰。挙げ句に『貴方だけには知っていて欲しい』とか言って自分の本名を書き綴ってるし。いらんいらん、そういうのいらんのよ。翌日以降は身の回りにあったことと、また褒め言葉の嵐と『貴方に会いたい』のラブコール連打だし。だから解呪の件で恩感じられるとめんどくさいの。あんた全部一人でやったことにして誤魔化してよ」


 エゼキエルがここまでベッタベタなのは、彼の母にかけられた目覚めぬ呪いの解呪にレヴァンナが関わったこともあるのだろう。今更誤解だと嘘を言っても遅い気がするし、別の懸念もある。


「嘘がばれたとき皇の好感度が今まで以上に伸びるかもしれんぞ、『なんと謙虚な』とか言って。どうにも思い込みの激しいところがあるように思うな、あの皇は」

「うげぇぇぇ……」

「あ、皇と言えば……今朝、ガルバラエルから手紙が届いていたな」


 バランギア最強の兵、熾四聖天のリーダーから直々の手紙とは珍しく、レヴァンナの来訪で後回しにしていたのを思い出して話題の種にでもなればと手紙を開ける。

 しかし、その内容にハジメは思わず今まで出したことのない唸り声を上げる。


「……ぅおぉ」

「……なに?」

「……皇がレヴァンナの名前を呟いてため息をつきながら黄昏れたり手紙を書くのに毎日一時間はかけて清書しているせいでバランシュネイル復興計画が進まないと愚痴が書いてある」

「ゲロきっつ……」


 結局、巻き込まれる国民が気の毒だからとレヴァンナは定期的にエゼキエルの元を訪ねることになり、それが余計にエゼキエルの初恋を拗らせまくることになる。

 極めて無責任なことを言うなら、そのままくっついてくれたら面倒がないと思うハジメとガルバラエルだった。




◆ ◇




 これは、本編二十六章の235話で起きたものの、ちょっと台無しすぎるなという理由でやむなくカットされた戦いの記録――。



 激しい魔物との戦いの中で、ハジメは当初の自分の予想が間違いではなかったという自信を深めていく。凶暴化した魔物達を操る存在はほぼ確定していた。


(ヴァンパイア。それも、それなりに濃い血統だろうな)


 この世界のヴァンパイアはいわゆる魔族の一種である。

 教会には悪魔と並んでかなり目の敵にされており、基本的に血統が濃いほど強い。

 ざっくり分ければ眷属種、原種、始祖種の三つに分類され、真に吸血鬼と言えるのは原種と始祖種の二つ。眷属種はヴァンパイアから血を分け与えられた純度の低いヴァンパイアということになる。


 リアル世界に伝わるヴァンパイアとの違いは、彼らにとって血は嗜好品であり、生きる為にやむなく血を吸っている訳ではないということ。日光や十字架、にんにくといった弱点は個体差や程度の違いこそあれ有効であること。そして人間界に殆ど姿を現さないことだ。


 ハジメが相手がヴァンパイアであることに気付けたのは、森から出てくる魔物たちの目だ。一見するとただ血走っているように見えたが、あれはヴァンパイアに洗脳された者特有の赤みだった。以前にもヴァンパイアと戦ったことのあるハジメにはそれがすぐに分かった。


(あれだけの数の魔物を支配するのは、気まぐれに生み出された眷属種には不可能だ。恐らく森の水源に自分の血を混ぜて、相応に時間をかけてこれだけの戦力を用意したのだろう)


 理由は分らないが、ヴァンパイアの中には時折その戦闘力を持て余して人間界に攻め込もうとする輩が出るものらしい。中には嘗て一国を築きかけた者もいたそうだ。だから、今回のこれも似たようなパターンだろうとハジメは当たりをつけていた。


 と、カルマが声を上げる。


「はい、ストップよベニザクラ。ドクタストーップ。今のアンタにゃここが限界」

「離せっ、私はっ、まだぁ……げほっ、ごほっ!!」

「だーめ。ほら呼吸を整えて。吸ってー、吐いてー」


 ベニザクラはカルマに抱きしめられて動きを封じられ、遂に体を支える精神の糸が途切れたらしい。悔しそうに涙を流しながらカルマにもたれかかる彼女の背をさすって呼吸を整えさせるカルマの姿は絵になる。性格があれでなければ聖女とか呼ばれそうなくらいだ。


(聖女か……そういえばもうすぐ聖女戦争の時期だな)


 今年も仲裁に呼び出されるのだろうかと思うと面倒極まりないが、あれは戦争とは名ばかりの推しを崇めたいファンたちによるお祭りコンテストなのでクオンを連れていくのもいいだろう。


 閑話休題。

 ハジメの予想はすぐさま的中する。

 ヴァンパイアの親玉の出現だ。

 威厳ある男の声が周囲に響き渡った。


『……時間をかけてこしらえた可愛い子分達を、随分と可愛がってくれたようだな……愚かなる人間よ!!』


 どこからともなく大量のコウモリが集まってきて、ハジメの目の前で形を為す――のをぼうっと見ている筈もなく、ハジメは普通に剣に光属性のエンチャントをかけてコウモリを殲滅しに動く。


「アストロジカルピアッサー」

『でぇぇぇぇぇ!? ちょ、顕現するまで待アバババババババババ!?』


 太陽が弱点のヴァンパイアに光属性は致命とはいかずともかなり効く。

 せっかく人型になろうとしていたのに自分の体の一部を情け容赦なく刺突で一体一体心臓を貫いて殺していくという執拗な顕現妨害にヴァンパイアは悲鳴をあげるが、この男相手に余裕ぶっこいて登場シーンを演出しようとしたのがそもそもの間違いである。


『いやもういい加減やめんかぁぁぁーーーーッ!!』

「む」


 それでも何とか合体を果たしたヴァンパイアは血の刃を周囲に放ってハジメをなんとか押し返す。しかし大分体積が減ってしまったヴァンパイアは、最初の威厳がありそうな声から大分若返り、顕現したときにはぶっかぶかの服を着せられた少年にしか見えない状態だった。


 勿論、ヴァンパイアはマジギレである。


「なに考えとんじゃお前ーーー!! なに考えとんじゃお前ーーー!! 警戒して近づかないみたいなお約束とかそういうものを何だと思ってるんじゃお前ぇぇぇーーーーー!!!」

「なにと言われても、お前に警戒するほど俺は弱くないし、お前と何か約束を交わしたこともないし」

「って言いながら狙ってくるんじゃねぇぇぇーーーーッ!!!」


 ハジメ、一切合切容赦なくこどもヴァンパイアの心臓を執拗に狙って突きまくる。ヴァンパイアも流石高位の存在と言うべきか抵抗を続けるが、如何せん小さくなってパワーダウンしているのか負けるのも時間の問題そうだった。


 ヴァンパイアはその矛先を後ろでベニザクラを庇いながら欠伸混じりで事の成り行きを見守るカルマに向ける。


「貴様、そこの人界にあるまじき美しさの貴様!! こんなか弱い命に容赦なく斬りかかるとかこいつ頭おかしいと思わんのか!?」

「はーーー? なんでお前みたいなクッソ低脳のことでこのアタシが情緒を感じなきゃいけないワケ?」


 ヴァンパイア少年の表情がかちんと凍り付く。

 疲労困憊でそれどころではないベニザクラの額の汗を優しい手つきで拭いながら、カルマはまったく優しさを感じない侮蔑の声をぶつける。 


「見てくれだけガキでもねぇ。こっちが見てんのは魂の年齢だしぃ~。中身おっさんとか完全に興味の対象外だわ~」


 そういえばそんな話もあったな、と思い出しつつ、ハジメはとうとうヴァンパイア少年を捉えた。ヴァンパイアは再生能力もかなり高いので、己の使える最高峰のスキルでまったく容赦なく切り刻む。


「ストリームモーメント」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」


 残像の見える速度であらゆる角度からズタズタに引き裂かれたヴァンパイアは、断末魔の悲鳴を上げて微塵に切り裂かれ尽くし、最後には力の維持すら出来ないとばかりに肉体が全て血となり溶けて地面のシミになった。

 ハジメはそのシミに情け容赦なく聖水をぶっかける。

 すると、シミからジュウジュウと何かを浄化する音と悲鳴が響き渡る。


『ビギィィィィィィ!? ちょっとぉ!? そこは『今度こそ完全に死んだか』って油断するところじゃないのぉぉぉぉぉ!?』

「油断するところがあると困るだろう、冒険者は」


 ヴァンパイアは死んだフリをして場を乗り切ろうとすることがある。

 ハジメは前にヴァンパイアと戦った経験上、彼らがこの手を使うことを知っていたので普通に念のためかけただけなのだが、いよいよ少年ヴァンパイアは力がなくなりすぎてヘリウムガスでも吸ったかのような無駄に甲高い声になってしまっていた。


「前に戦ったやつもそうだったが、お前らヴァンパイアは自分の中で勝手に展開や演出を考える妙な癖があるな」

『だって様式に拘らないだなんて美しくな……オギョエエエエエエ!? 追加で聖水かけるなぁぁぁぁぁ!!』


 本当は聖なる武器で倒した方が早いのだが、相変わらず余りまくっている聖水を処理するのに丁度いいとばかりにぶっかけまくるハジメ。結局ヴァンパイアは聖水で血を使い尽くし、最後には理性も知性もないただの野生のコウモリにまでなってしまった。


 こうなるとヴァンパイアはもう元には戻れない。

 知能まで退行し、ただのコウモリとして一生を終えるのみである。


 ハジメ達は無事に依頼を達成した。


(出来ればこのまま次の仕事に移りたいが……)


 ハジメの視線の先では、未だに疲労で声も発せられずカルマに水をちびちび与えられるベニザクラの姿があった。


 今回は敵の数がとにかく多かったので、広域攻撃の手が少ないベニザクラには辛い戦いだったろう。ハジメのスタミナがおかしいだけで、本来ならあのレベルの数に攻められれば大抵の冒険者は殺されてしまう。最後まで食らいついただけでも彼女の実力は冒険者内でも上の下くらいには食らいついていると言える。


 ただし、彼女が追いつかなければいけない相手は上の上。

 或いはそれも一つ突き抜けた逸脱者かもしれない。

 一度のレベリングの度にここまで疲労困憊になられては何度も休息が必要になってしまう。


(……いや、今回の戦いでベニザクラは一気に数レベルは上がった筈だ。休息を挟みつつの続行でも十分すぎるほど成長ペースは確保できる。無茶しすぎれば幾らポーションだの何だのと回復を施しても人は壊れてしまう)


 問題は、目覚めた彼女が素直に言うことを聞いてくれるか、だ。


(……クサズ温泉の女将による超マッサージにかけて骨抜きにするか)


 即座にマッサージの快楽で思考能力を奪うことを決定したハジメの判断力、まさに外道である。


 翌日、寝ている間にいつの間にか旅館に連れ込まれていたベニザクラは即座に女将オトナシの餌食になり、眠りにつきながらも堪えきれない妙に官能的な嬌声が旅館に響き渡ったとか。




 ――ちなみに、ベニザクラは騒動の終結後にカルマによってこの話を聞かされて恥ずかしさに悶え苦しんだという。


「ひ、ひどい……ひどいぞハジメ……もうお嫁さんにいけない……」

「大丈夫だ。俺が貰う」

「うー! ずるいずるいずるい! それはずるいー!!」


 フェオがオーケーサインを出したために開き直ってそう言うと、ベニザクラは余計にかわいい生き物と化した。

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