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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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30-1 散財おじさん、最恐心霊スポットの正体を暴きにヤカラと共に不法侵入する

 嘗てこの世界にはネクロマンサーというジョブが元々存在しなかったが、ある転生者の要望でネクロマンサーの概念が生まれた。


 とはいえ、使えるのはその転生者のみ。

 ライカゲがそうであるようにネクロマンサージョブを広めることは可能だったようだが、流石に外聞が悪すぎたのか広く知られるものではなく、ハジメも僅か数名しか出会ったことがない。


 最初はネクロマンサーの開祖も怨霊を操りゾンビやスケルトンを生み出して戦う方法を考えていたようなのだが、女神が「教会にブチ殺されますよ?」と遠回しに助言した結果、怨霊にフラストレーションを発散させて未練を薄める一種の浄化の形として世界に落とし込んだらしい。

 もちろん強烈な恨みや生前の未練から簡単に消えない怨霊はいるが、そういうのはネクロマンサーと出会う前に勝手に魔物化するので特定の霊魂が残り続けることはないらしい。


 ちなみにヤーニーとクミラも一部のネクロマンサーの術を使えるが、あれはダークエルフ故の特殊なスキル遺伝によるもので当人達はネクロマンサーではない。


「それで、そのネクロマンサーがどうしたんだ?」


 珍しくイスラから相談に乗って欲しいと頼まれたので聞いてみれば、イスラは神妙な面持ちで事情を説明した。


「ゼラニウム……という、ネクロマンサーがいるんです。正確にはいた、でしょうか。一言で説明が難しいな。長くなりますがいいですか?」

「構わない。俺を呼んだということは相応に事情があるんだろう」

「はい……教会の威信に関わる部分もあるので内密にお願いします」


 教会の中で向き合うイスラはいつになく真剣だった。


「ゼラニウムは僕の世代より五年上の世代の聖職者で、当時神童と称される天才でした。彼女はジョブを授かる前から既に生まれつきのネクロマンサーだったんです」

「ジョブはビショップの手でしか習得出来ない筈だ。もしや異能者……か?」

「あるいはそうだったのかもしれませんが、聖職だけは神の託宣で覚醒することもあるのでなんとも。ネクロマンサーは変則的な浄化の方法として教会で継承されていて、主に異端審問官の間で伝承されます。ゼラニウムは本人の要望もあり自然と異端審問官になり、目覚ましい活躍を見せました」

「ふむ……ん? じゃあマトフェイも使えるのか?」

「あー、マトフェイは適正皆無ということで早々に匙を投げられたそうです。怨霊を浄化するには一種の共感性が必要で、我の強すぎるマトフェイでは霊魂に寄り添えないのが原因だとか」

「まぁ、天使族が死霊使いというのは想像できないな」


 確かに彼女は声には感情を出さないがたまにものすごく分かりやすい。あんなにイスラにべったりで本当に異端審問官の仕事をしているのかと疑問に思うほどだ。

 尤も、彼女の場合はクマダ・チヨコ改めマルタの監視も任に入っているのだろうが。


「それはさて置いて……ゼラニウムは就任後暫くしてドルトスデル廃要塞という場所に除霊及び調査に赴き、行方不明になりました」

「ドルトスデル廃要塞……聞いたことがないな」

「余りにも危険な地なので教会が情報が広まらないよう秘匿した土地です。浄化したいと願い出ても危険すぎて許可が下りない怨霊の坩堝と化しています」

(願い出たことあるな、これは)


 そんなとんでもない土地なら噂の一つくらい耳にしたことがありそうなものだが、そこまで教会が危険視するということはダンジョンで言えば最高峰の難易度と見て良いだろう。隠しダンジョン的に存在するこの世界の古代遺跡には、お前魔王より強いだろと思うとんでもない怪物が眠っていることがある。いつぞやシルベル王国で戦った氷の巨人ヨートゥンもそうだ。


「問題は、そのドルトスデル要塞で行方不明になった筈のゼラニウムらしき人物が最近になって監視隊に目撃されたことです」

「生存していたのなら喜ばしいことだと思うが?」

「教会が何年も監視を続けていた、中に水も食料もない要塞で……しかもデッド・ウィザードのような危険な死霊モンスターが大量にいる場所で、ゼラニウムが今日まで生きていける筈がありません」

「確かに、な。彼女もそちら側の住民になったということか?」

「……教会の見解は違います」


 一拍間を置いて、イスラは重々しく告げる。


「彼女は異能者であるか、或いは最初から人間ではなく死霊側の存在であった。そしてドルトスデル要塞は彼女に掌握された。それが、異端審問会が下した結論です」


 この世で最もあの世に近い場所に渦巻く霊魂の全てを、一人の人間が手中に収めた。

 もしそれが真実であれば、歴史を動かす大問題となる。


「根拠を聞きたい」

「彼女が廃要塞内のデッド・ロードウィザードをネクロマンサーの術と別の何らかの術を併用して操っている姿が確認されたからです」

「浄化をし続けていたという可能性は?」

「教会も馬鹿じゃないので呪いが広まらないよう策を講じています。しかし彼女が廃要塞に入ってから内部の呪いの拡大が弱まったり止まった形跡がありません。中に十分な水と食料もあるとは思えないですし、そもそもそれなら彼女が出てこない理由がない」

「筋は通っているな」


 彼女が内部で死霊化したという可能性は、世界の法則を考えるとないだろう。

 アンデッド化すればその時点で元の姿を完全に失うのは女神が定めたルールだ。


「教会が見たのは彼女の姿を模倣した何者か、ないし未練の霊魂だったという可能性は?」


 ハジメの脳裏にドッペルゲンガーの事が過ったが、イスラは否定的だった。


「未練の霊魂に強力な霊魂を操る力があるとは考えづらいですね。それに姿形をコピーする術はありますが、数年前の姿を保存、保持し続け、更には能力まで真似るのはドッペルゲンガーでもないと不可能です。そして彼女が行方不明になった時期、まだ現魔王軍は活動を開始していなかった。ドッペルゲンガーは魔王軍に常に一人しかいないと過去の歴史も証明しているので複数のドッペルという線も消える。そもそも仮にドッペルゲンガーの仕業だったとして、勇者が魔王城に突入した後から動くのでは遅すぎるかと」

(転生者がドッペルゲンガーになることは想定していないか。だが、そうだとしても教会の言い分は通る)


 結局彼らの言う異能者――転生者であることに違いは無いので危険であることに変わりはない。


「ゼラニウムの存在を確認した聖職者はその後死霊に見つかり、這々の体で逃げ出して奇跡的に生き延びましたが、今もそのときの恐怖に震えるほどの呪詛を受けたそうです」

「彼女が聖職者であるならば、信仰を裏切った時点でネクロマンサージョブは失われる。それがないということは、彼女の中で信仰に矛盾がないか、もしくは理屈で図れない異能だからか……」

「或いは、教会の目を盗めるほどの人外の何かであったか」


 だとすると、教会はみすみす内部情報を人間側ではない何かに渡していたことになる。

 事情がどうあれ、教会にとってはすぐにでも消えて貰わなければ困る存在だ。

 イスラもそれを分かっているのだろう。

 だからこそ、彼の口から出たのは実に彼らしい言葉だった。


「教会は彼女を敵と認定しました。でも、僕はそう決めつけることは出来ないと思っています。彼女が仮に人外や異能者であったとしても、あの廃要塞の惨状を何とかしたくて、我々の想像も及ばない方法を使って内部で試行錯誤をしている可能性はある」

「……まぁ、絶対にないとまでは言えないが」


 可能性は低いのではないか、と言おうと思って、やめた。

 イスラはそんなことは百も承知で、それでも可能性はあると主張したいのだ。

 彼は、そういう人間なのだから。


「今、教会内部でドルトスデル廃要塞の殲滅作戦が計画されています。僕の知り合いの司祭も過去に前例がない凄まじい規模だと口にするほどで、シャイナ王国の外の教会からも戦力をかき集めていると言います。殲滅作戦が始まれば、ゼラニウムの真意を知ることは出来ないでしょう。だから……ハジメさん。無礼無作法を承知の上で貴方に頼みたい」


 彼は彼の信仰を貫くために教会を離れた。

 そんな彼がこの状況で望むものなど決まっている。


「教会に先んじて要塞跡に突入し、ゼラニウムが本当に教会を裏切ったのかどうかを知りたいんです! そのために、力を貸してください!!」


 これは、教会の内部情報を勝手に仕入れて、教会が秘匿する場所に、教会の決定に反して行われる行為だ。教会に敵視されて然るべき重大な背信行為と言える。それに巻き込まれることは、イコール、ハジメに犯罪の片棒を担げと言っているようなものだ。


 ハジメは――世界にとって正しくあるべきハジメは、躊躇いなく応えた。


「非合法の方法になるから多少の悪事には目をつぶってくれよ」


 教会全体の都合の為に一人の善意の行動が潰される可能性があるのを黙って見過ごすのは正しくなく、そして、教会より先に問題を解決することは良いことである。


(決して、断じて、絶対に、散財になりそうとかそういう理由ではない)

『汝、転生者ハジメよ……もしやツッコミ待ちなのですか……? まぁ理由が理由なので咎めはしませんけどね? いいんですけども、なんかなぁ……』


 神の託宣は電波が悪いのかよく聞こえない。

 それはそれとして、用意に幾らかかるか話し合って準備をしよう。

 恐らく世界一の心霊スポットなので、限界まで金をかけても用意しすぎるということはない。

 他意は無い。無いと言ったら無いのだ。




 ◇ ◆




 最近もはや恒例になってきたメンバー選択の時間である。


 まず依頼主のイスラは確定し、彼が行くならマトフェイも自動で確定し、そして二人が独断専行することを読んでいたスーが「とどめを刺す必要があるときはおれがやる」とやってきて、早々に確定。ちなみにスーが来たことでウルもついてこようとしたが、ウルの強すぎる魔力で霊が活性化する可能性があるとスーに言われてとぼとぼ帰った。


「後で慰めてやれよ、スー」

「知らん、あんな女のこと! いつも馴れ馴れしくベタベタ触ってきて!」


 スーはぷいっと顔を逸らしたが、その後少しだけウルの背中をちら見していた。


 他、侵入のプロである怪盗ダンと、自称彼の未来の奥様であるドメルニ帝国皇女アルエーニャをアドバイザー兼後方支援要員として呼ぶ。アルエーニャを呼んだのはこの件に邪悪王女ルシュリアを手伝わせるが直接会いたくないので仲立ちして貰う為だ。それでホイホイやってくる皇女もどうかと思うが。


 NINJA旅団も呼びたかったが、生憎全員忙しくて捕まらなかった。

 代わりに珍しくマルタが「ガキ共の面倒見てばっかだから気分転換したい」と参入。

 最後に装備品の用意と鑑定係にショージとブンゴも呼んだ。

 この二人セット便利だなと最近思い始めたのは秘密である。


 戦力的にはハジメとマルタが並んでいる時点で過剰戦力と言って過言ではなく、これ以上下手に人数を増やすと護衛対象が増えることになりかねないのでハジメはメンバーを確定させた。


 イスラとスーは相変わらず口げんかかと思いきや、今回はもう語ることはないとばかりに互いに互いを無視しており、マトフェイがため息をついている。


「殺すべきと判断したスーは速やかに殺すでしょう。イスラはそれを警戒してます。つまり、互いにゼラニウムの所に辿り着く分には何の心配もしていないということです」

「俺たちもついているからな。それはそれとして……」


 ハジメの視線の先では、ノリノリで幽霊退治装置を作るショージに注文をつけるダンの姿があった。


「幽霊退治の映画と言えば~!? 電話コール、ゴーストバスターズ!!」

「よく分からんけどゴーストバスターズ!!」

「あれだろ? マシュマロ焼いて食うんだよな」

「あぁぁぁぁ嘆かわしい! あの名作コメディを知らないとは、これだから現代っ子は!!」


 当然ハジメは知らない。というかこの場でゴーストバスターズという洋画をちゃんと知っているのはダン以外ではマルタのみである。流石は古い女だが、熱弁するダンに協力する様子はなく欠伸をしている。ダンは鼻ホジしてるブンゴとショージに異様な熱意で詰め寄る。


「いいかブンゴ、ショージィ? こういうのは形だけでも大事なんだ! 幽霊を拘束して吸い込む装置が必要なんだよ!」

「ああ、オバキュームね」

「なるほどオバキュームか」

「違っ、捕獲装置と拘束装置は別……ああもう、いいよオバキュームでもそれっぽくなるなら! ただし形はゴツくて四角いバックパック型! これは譲れねえ!!」


 別に実力でゴリ押しすればよくないかとハジメ的には思うのだが、どうしても装置が欲しいダンの熱意に負けて開発資金は提供することにする。散財になるからではなく必要経費だ。断じて散財になるからではない。


 閑話休題。


「そうして出来上がったのがこいつ! 濃縮聖水を浴びせた上に聖なる光を照射して弱らせた死霊系モンスターを石碑のある忍者製巻物カートリッジ内の異空間に強制的に送りつけてじわじわ成仏させる聖なる強制死霊浄化装置!! 名付けてフォトニックパッケージ!!」


 ショージが突き出した自信作は、この世界に似つかわしくないくらい機械的だった。


 完成したフォトニックパッケージは無茶な要求を押し通す為に貴重な素材を惜しげ無く投入したオーパーツ的技術の結晶であり、付属品も含めて一つ8000万G、四つで3億2000万Gの散財となった。ハジメ的にはもっと吊り上がって欲しかったが、「そもそも報酬が碌に出ない仕事に3億G以上のお金かけて準備するのがおかしいんですよ?」とフェオにしょうがないダメダメ夫を諭す口調で言われてしまった。


 深夜を乗り越えてテンションのおかしいショージはぎょろっとした瞳で参加メンバーを見回す。


「で!! 四つ作れって言われたから目バッキバキにして四台作ったけどこれ誰が装備するの!?」

「教会組は対死霊には慣れてますのでいりません」

「ん。鎧の上からつけるには邪魔だ」

「というか個人的にちょっと霊の扱いが雑で思うところが……」


 教会組に即座に拒否られ、マルタはそもそも見てすらいない。

 ハジメも正直今回の案件は手強そうなのでつける気がない。

 ということは、消去法でブンゴ、ショージ、ダン……。


「アルエーニャにはでかすぎるから一個余るなぁ」

「というかだんな様なら必要な……いえ、アルエーニャは空気の読める女。ここはぐっと黙ってだんな様の背を押します」


 そしてブンゴもショージも正直な所必要かと言われると微妙である。

 なんとも言えない空気が漂う中、マルタがショージの肩をぽんぽん叩いてトドメを刺す。


「別にいらなかったわね。無駄な徹夜ご苦労さん」

「う……う……うわぁぁぁぁあぁ! 徹夜したのにぃぃぃぃぃぃッ!!」

 

 現実を突きつけられたショージは白目を剥いてガクガク震えながら泡を吹いて倒れ伏した。

 エクソシストで悪霊に取り憑かれた人みてぇ、とダンが呟いた。

 ちなみに、四つ作れと言ったのはダンなのでダンが全面的に悪い。

前回から間を開けた分、今回は章として最長になると思います。

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