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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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29-10

 グレゴリオンの魔導騎士たちには少なからず動揺が走っていた。

 フェートが動揺から冷汗を垂らし、ノーヴァに怒鳴る。


「ちょっと、なんなのあのメイド……ノーヴァ! 出力調整ミスってんじゃないでしょうね!」

「ずっと70%だよ! これでも高位魔族相手でも充分に対応出来る筈なんだ!」

「と言うことはぁ~……メイドさん、高位魔族より強いの? シノノメちゃん、どう?」

「強いか、弱いかなんて関係ない」


 テスラの問いを、シノノメは切り捨てた。

 シノノメはまっすぐに、ただひたすら真っ直ぐにカルパをモニター越しに凝視しながら操縦桿を握る手に力を込める。


「空間すら断ち切る博士のグレゴリオンを信じる。全力で戦い抜けば、その先に答えは待っている」

「シノちゃん……」


 三人とも、これほど強い感情を露にしたシノノメの姿を初めて見る。

 そもそも、グレゴリオンは全員操縦技術はほぼ互角だが、普段のメインパイロットはノーヴァだ。

 ノーヴァのミスにいらついたフェートが操縦を替われと騒ぐことはあるが、シノノメが自ら操縦すると言い出した時には全員が耳を疑った。

 彼女は四人の魔導騎士の中でも一際主義主張がなく、いつも淡々とユーギア博士に従っているだけだった。それが今はどうだ。普段なら冷静に状況を分析して身も蓋もない回答をするだけの彼女が、明らかに熱くなっている。


(シノ、何があんたをそこまで……)

「……シノ、出力を100%まで上げよう」


 彼女の意を汲んだノーヴァの提案に、フェートとテスラは息を呑む。

 グレゴリオンは出力調整、火器管制、慣性制御、そしてメイン操縦の四つを四人で分割して運用している。だが、出力が100%に到達するともはや口頭でやりとりをする余裕はなく、四人の心を一つにしなければ力をコントロール出来なくなる。


 彼らは今までに訓練で出力100%を出したことはあるが、その状態で実戦など一度もしたことがない。その訓練ですら彼らは悪戦苦闘した。だというのに、ノーヴァはそれをぶっつけ本番でやろうと言うのだ。


「シノが勝つにはそれしかないと思う。大丈夫、博士はいつだって言ってただろ? 戦いは常に熱血必中。燃えさかる心を理性で束ね、四つの心を一つにすれば魔導騎士は神魔すら超える存在になれるって。」


 普段は頼りない彼の言葉に、テスラが頷く。


「……シノちゃんを勝たせたい、一緒に勝ちたい。その思いは一緒だもの。賛成するわ」

「当方も異論は無い」

「アンタたち……もう、どうなっても知らないわよ!」


 ヤケクソ気味に叫んだフェートに、シノノメが珍しく微笑みかけた。


「覚悟を決めたフェートはいつも最大のパフォーマンスを発揮する。心強い」

「ばっ、バカ! いいから操縦に集中なさい!!」


 顔を赤くしてつっけんどんな態度を取るフェートだが、それが彼女のチャームポイントだということはこの場の皆が知っている。


「「「「グレゴリオン・フルパワー!!」」」」


 ここまではウォーミングアップに過ぎない

 戦いはまだ、始まったばかりだ。




 ◆ ◇




 カルパとグレゴリオンの戦いは激化の一途を辿る。


 小手調べは終わりとばかりに出力を上昇させたグレゴリオンは、巨体に見合わぬ凄まじい高機動でカルパと渡り合う。


『ファンタジスタ・ドリル!!』


 背中のブースターが腕に連結した途端、その先端からドリルが展開されてカルパを襲う。これに対してカルパは両腕部のステークを神業的なタイミングと角度で弾きながら互いに高速で空中を飛び回る。

 ドリルは途中でジェット推進で拳からロケットパンチの如く発射され、更に腰部から歯車を中心に回転ノコギリの刃が複数噛み合って形成されたディスク状の投擲武器が射出される。


『ドリルブーストスマッシュ! プラス! 超回転スピナァァァーーー!!』


 正面からは二つのドリル、そしてスピナーは弧を描いて別々の角度からカルパに迫る。

 彼女はまたケースユニットを交換し、今度は両腕に巨大な剣を携える。

 複数の刃がケースから展開、連結することで生まれた剣を振り翳したカルパは逆にドリルに急速接近する。


「ふっ!!」


 突き出した剣が、スピナーに接触して僅かに弾道を変えた。

 更に前に出たことでスピナーも空振りに終わり、逆にグレゴリオンは接近を許す。


「切断、開始!!」


 直後、右手の剣が変形して巨大な斧の形状になる。

 カルパは自らの体を回転させ、遠心力を乗せた斧を上から振り下ろした。


『させない! グレゴリーセイバー!!』


 グレゴリオンの肩装甲が展開し、中から飛び出した剣の柄を抜くとクリスタルのように淡い光の刃の剣が姿を現す。虚空でカルパとグレゴリオンの刃が激突し、大気が唸った。


「まだ終わりはしません!!」


 カルパはそのまま体を回転させ続け、斧、剣、斧、剣とそれぞれの武器を容赦なく叩き込んでグレゴリオンの姿勢を崩そうとする。しかし、グレゴリオンも負けじと堪え、そして一瞬の隙を見て反撃を叩き込む。


『隙あり! ブレスト・バーニング!!』


 グレゴリオンの胸部の獅子が勇ましく口を開き、その中央から超高熱エネルギーを発射し、一瞬で大気を燃やし尽くす。ボルカニックレイジに匹敵する熱量は明らかに殺傷級の威力だが、その不意打ちにすらカルパは反応する。

 瞬時にケースユニットを腕からパージして下方に躱したカルパは、今度はケースユニットを変形させて盾を手にする。その盾にグレゴリオンの蹴りが直撃した。カルパは後方に吹き飛ばされるが、サイズ差の割にカルパはしっかりとした姿勢で衝撃を受け流していた。盾に衝撃を吸収する秘密があるのだろう。


『このまま撃ち合いをするッ!!』

「臨む所です。こちらの火砲はガトリングだけではありませんよ!」


 グレゴリオンが脚部からミサイルを、指から砲撃を、更に目からビームを次々に発射するのに対し、カルパは今度はケースユニットを腕につけずに背部で展開する。六門のガドリングだけでなく別のケースも開き、中から規則正しくずらりと並んだマイクロミサイルが姿を現した。


 カルパが空中でバレルロールしながら順次ミサイルを発射し、同時にガドリングも一斉射撃を開始。更にカルパは別のユニットを腕部に装着し、エネルギー砲を発射し始める。


 あっという間に空中は火線と爆炎で彩られ、その中をグレゴリオンとカルパが踊る。

 凄まじい空中戦はいっそ美しくさえあり、地上の人々は夢中で双眼鏡を使って二者を追い続ける。


 ――そんな様子を、ハジメは『攻性魂殻アスラガイスト飛天フェアゼッツェン』で擬似的に飛びながら見つめていた。彼の隣には自力で飛べるサリーサもいる。彼は目の前の光景に素直に感動していた。


「凄いな。本当に凄い。レベルで言えば90かそれ以上はあるんじゃないか?」

「もし降伏宣言があれば俺と二人で止めるんだから覚えておけよ。俺がカルパを止める。彼女には恐らく魅了は効かないだろう」

「えぇぇ、僕がグレゴリオンかぁ……あれ、パワーだけならレベル100はあるよ?」

「工夫しろ。お前の弟のリサーリは工夫して俺を足止めして見せたぞ。それに比べれば大した力の差じゃないだろ」

「君をかい!? リサーリ、立派になったんだな……お兄ちゃん嬉しいぞ!」


 感涙にむせぶサリーサに、こいつ面倒臭いなとハジメは思った。

 どうやらブラコンらしい。オルトリンドと衝突させたら気が合うだろうかと思ったが、どっちの兄弟が優れているかで喧嘩を始める可能性があるのでやめておこうと心に決める。


「しかしハジメくん。君はこの戦い、どんな風に決着が着くと思う?」

「……俺の見立てではカルパにはまだ余裕がある。しかしグレゴリオンにも恐らく切り札の一つや二つはあるだろう。互いにこれ以上の力を発揮すれば、いずれ力を制御しきれず惨事になりかねない。特にグレゴリオンの切り札は、恐らくこの周囲に貼った結界を一撃で破壊するレベルだと思っていいだろう」

「止める僕らも命懸けになるね」

「だがまぁ……そうなる前に別の誰かが止めるかもな」


 いずれにせよ、当てられないグレゴリオンと効いていないカルパは互いに同じ結論を下すだろう。

 今出来る最大の一撃を叩き込むことでしか、この戦いは終わらないと。

 二人の天才の傑作同士の戦いは、最終局面に雪崩れ込む。




 ◆ ◇




 カルパとグレゴリオンが空中で睨み合う。

 相当の激戦であったにも拘わらず、カルパは無傷で、グレゴリオンも装甲の表面が少し傷ついた程度の損耗しかない。しかし両者の間に張り詰める緊張感は増すばかりだった。


(アーリアーの機動力と火力を以てして、ダメージがこの程度とは……大口を叩きはしましたが、ユーギアという技術者の博士の称号は伊達ではないようですね)


 カルパは途中からかなり本気でグレゴリオンを破壊するつもりでぶつかったが、グレゴリオンは機体スペックのみならずパイロットも優秀で、僅かな腕の角度で衝撃を逸らしたり予測の難しい弾幕を張って追い詰めようとしたり常に冷静だった。

 シノノメ・ユーギアデクタデバイスはユーギアの作ったグレゴリオンに全幅の信頼を寄せている。


(それはこちらも同じですが……このままではいけない)


 マスター・トリプルブイのオーダーは圧倒的な勝利だ。

 このような小競り合いでは到底目標を達成出来ない。

 それに、相手も埒があかないと考えているところだろう。

 切り札があるなら、間違いなく使ってくる。


(ならば……アクセラレート・クロックを使うしかありませんね)


 それは元々、カルパが強敵から逃れるための装備としてトリプルブイが内蔵していたもので、戦闘に応用するのは難しい機能だった。だが、戦闘用装備『アーリアー』を纏った今は違う。トリプルブイはこのことを想定した上でこれを設計している。


(果たして貴方方は追いつけますか? 加速する世界に)


 ――一方のグレゴリオンでは、カルパの予想通りの話が繰り広げられていた。


「リミッターを解除する」

「それしか……ないわよね」


 シノノメの判断にフェートは口ごもる。

 グレゴリオンには限界を突破した出力を発揮するハイパードライブという機能が存在する。

 ハイパードライブの出力上限は瞬間的なものを含めれば300%。

 そこまで行けば確実にカルパに勝つ事が出来る。

 しかし、フェートだけでなくノーヴァもテスラもそのことを知っていて言い出せなかったのには理由がある。


 リミッターを解除すれば各パイロットは限界を超えた操作を求められるが、その反動を最大限に受けるのは発動時のメインパイロット――すなわちシノノメ自身だ。出力を上げれば上げるほど壮絶な反動が待っており、試験で200%を発揮した際は魔導騎士で最も体が頑丈なテスラでさえ試験終了後は自力でコクピットから降りることが出来ないほど消耗した。


「シノ……今からでもパイロットを替えた方がいいんじゃないか? 僕やテスラの方がまだ……」

「そうよシノちゃん。貴方の体は私たちの中で一番、その」

「いやだ。当方が戦う。それがシノノメの自由だから」

「じゆう……?」


 シノノメは決めていた。

 皆と一緒にチョコアイスを当然のように食べられる、そんな自由の為に魔界と地上の道を拓くと。先に自由を知ったシノノメがそうしたいと願ったのだ。願ったことのない者が、初めて願ったのだ。


 グレゴリオンの二つ名は『断界魔神』。

 その真の意味は、世界と世界の狭間を断ち、繋ぐ者――それは神にしか為し得なかったこと。

 今こそ神魔を超えるその力を示す時だ。


「メインパイロットの決定です! 《《わたし》》は戦う!」


 魔神の心臓が唸りを上げる。


 カルパの心臓も、唸りを上げる。


「アクセラレート・クロック発動」


『エネルギー充填限界突破、ハイパードライブモーーーードッ!!』


 二つの力が、激突する。


 瞬間――二つの力が今までのそれとは比べものにならない程の威力を以て虚空で激突した。


 カルパは全身に青白い光を放ち、歴戦の戦士でさえ見失うほどの圧倒的な速度で縦横無尽に空を飛び回る。対してグレゴリオンは全身を虹色に輝かせ、カルパに速度に猛追する。これまでなら反応が間に合わなかったようなきつい角度からの攻撃にも悠々と反応するどころが反撃にまで転じている。


「やはり切り札を切ってきましたか。ですがッ!!」


 カルパはケースユニットのうち射撃武器を全て背中で展開し、近接武器で殴りかかる。

 これまでも相当な破壊力のあった武器が、初めてグレゴリオンの装甲を抉る程の衝撃を放った。


 地上ではガブリエルが度肝を抜かれ、トリプルブイに問い詰める。


「なんすかあのパワーは! レベル100以上いっちゃってません!?」

「カルパの加速装置、アクセラレート・クロックだ。速度は時間であり重さにもなるんだよ」

「いや、すんません、分かりません」

「そだな。例えばだが……君が一秒間箱を押すのと二秒間箱を押すの、どっちの方が箱を遠くに運べる?」

「そりゃ2秒でしょうけど」

「そうだ。二倍の時間をかけてるから二倍の力が使える。例えるならカルパは今、その二秒の力を一秒で発揮出来るような状態なのさ」


 辛うじて理解できたのはノヤマのみだったが、トリプルブイは特段気にした様子もなく見学に戻る。


「カルパがオートマンで、しかもアーリアーを装備してるからこそ出来ることだ」


 ガブリエルは、とりあえず自分にあの力は使えないということだけ認識した。

 代わりにシャルアが疑問を呈する。


「では、そのカルパお嬢さんに尚も食らいつくシノノメちゃんも同じことをしているのでしょうか?」

「いや、あれはもっと物理的にゴリ押ししてる筈だ。多分魔族にしか出来ないタイプの強化だろうな」


 グレゴリオンもカルパも加速し、剣や拳が衝突する度に結界がビリビリと揺れる。

 たまにミシ、とかベキ、とか嫌な音がするほどにだ。

 互いにどんどん加速を続け、戦いはもういつ決着が着いてもおかしくないように周囲は見えた。

 だが、トリプルブイは戦いの結末を確信していた。


「この戦い、どう足掻いてもカルパの勝ちだ。オートマンのカルパはアクセラレート・クロックの反動を最小限に抑えられるが、あっちは魔族とはいえ生身なんだからな」


 トリプルブイの宣言を証明するように、空の戦いは段々とグレゴリオンの被弾、損傷に傾いていく。グレゴリオンのパワーやスピードの上がり幅に限界が見え始めたのだ。


 ――グレゴリオンのコクピット内で、シノノメは全身から滝のような汗を流しながら操縦桿を握っていた。


 今までに一度たりとて経験したことのない負荷が全身を苛む。

 今現在、ハイパードライブモードは出力250%、まだ最大ではない。


(これほどの負荷がかかるとは……予想、外ッ)


 奥歯が砕けるほどの力で歯を噛み締める。

 ハイパードライブモードはその圧倒的な性能にパイロットの反応速度がついていけないため、機体を動かす魔力とメインパイロットの魔力をシンクロさせて、グレゴリオンとメインパイロットの感覚を一体化させることでこれに対応する。ただし、機体にパイロットがついて行くという本来は逆の状態であるため、出力を上げれば上げるほどパイロットとグレゴリオンの乖離は加速し、その乖離はパイロットへの負荷という形でのしかかる。


 今、シノノメは全身の筋肉が引き千切られんばかりに軋み、骨や関節が悲鳴をあげ、頭は焼き切れそうなほどに熱く、全身を魔力が逆流するような耐え難い不快感を必死で堪えていた。自分が耐えることさえ出来れば、グレゴリオンは加速するカルパをいつか必ず捉えられる筈だから。


 ミサイルの迎撃が間に合わず胸部に被弾。


「づッ!!」


 激痛が全身を苛んだ。


 ステークの連打に拳で対応した際にグレゴリーバルカンが破損し、使用不能。


「ぐ、あぁッ!!」


 指が疼き、本当に自分のそれが千切れたかのように錯覚した。


 脚部のミサイル発射口から弾丸が侵入、誘爆。


「ま、だ、まだ……ッ!!」


 全身が揺さぶられ、意識が飛びそうになった。


 戦闘しながらシノノメの体内には安全装置の一種でリアルタイムでポーションが注がれているが、いくら身体を再生させても消耗は絶対に避けられず、時間稼ぎにしかならない。

 シノノメは精神力だけでグレゴリオンを操縦していた。

 自分さえ耐え抜けば、博士のグレゴリオンは負けないから。


「ドライブ出力、300%に……福音剣の発動、を……」

「む、無茶だ!! 今意識を保っているのだってやっとの筈だ!! これ以上出力を上げれば――!」

「やめて、シノ!! あんたが死んじゃうわよ!!」

「博士には皆で謝るから! だからもう降伏しましょお!!」


 仲間達が身を案じているのが伝わってくる。

 今更ながら、シノノメは自分で思っていた以上に仲間を大事に思っていたようだ。

 だからこそ、初めて抱いた自由を皆と分かち合いたかった。


「一緒に……アイスを……」


 キャバリィ王国の公園のベンチで、四人並んで冷たく甘い自由の味を。

 たったそれだけのことを、したいだけだから。


「だから……命令、です。出力を、300%に……!!」

「「シノッ!!」」

「シノちゃんッ!!」


 グレゴリオンの力は、こんなものでは――。


『止まれ、シノノメ。戦いは中止……研究所長の権限で、棄権を宣言する』


 最後の抵抗を止めたのは、逆らうことの出来ない主の一声だった。

 シノノメは、極度の疲労に震える声で、初めて博士に懇願する。


「はか、せ。シノノメ、は……まだ、戦え……」

『……私の意地のために、魔導騎士を死なせる訳には……いかない。これは命令だ』

「はかせ……!!」

『宣言、受理したよ。双方そこまで!! この勝負、カルパちゃんの勝利ぃッ!!!』


 緊急安全装置が急速に機体の出力を弱め、シノノメとの魔力の結びつきが解かれていく。


 全てを出し切ることなく、戦いは終わった。

 視界がじわりとにじみ、膝に水滴が落ちる。


「うぅ……ひっぐ、はっ、はかせ……なんで……なんでぇぇ……!」


 それが涙で、抱いた感情が悔しさだと知ったのは、それから暫く後のことだった。

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