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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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29-9

 時空がぐにゃりと大きく歪み、四つのゼノギアが降り立つ。

 これまでのソレと違い現れたゼノギアはそれぞれ人の形をしていなかった。


 一つは獅子の如き勇ましい姿。

 一つは鷹のようにの如き風を切る姿。

 一つは東洋龍のような神秘的な姿。

 最後の一つは亀のように重厚な姿。


 四つのゼノギアのうち三つのコクピットが開き、パイロットスーツに身を包んだ少年少女が姿を現す。


「獅子型ゼノギア、レオスガルブの魔導騎士! ノーヴァ!!」


 赤髪の魔族の少年が姿を現す。

 お漏らししてるという情報しかないノーヴァのようだ。


「鳥型ゼノギア、ヴァルケウンの魔導騎士! フェート!!」


 長い青髪を揺らす気の強そうな少女、フェート。

 よく暴れているそうなので多分喧嘩っ早い。


「龍型ゼノギア、ドラグネウスの魔導騎士ぃ! テスラぁ!!」


 いい意味でややふくよかな体をした金髪少女、テスラ。

 若干間延びした声でマイペースそうだが、多分魔導騎士で一番強いとハジメは感じた。


「四人揃って!!」

「揃ってないわよノーヴァ」

「シノノメちゃんいないもんねー」

「え、揃ってない時はどうすれば……? は、博士! 博士~!」

『問題ない!! おいトリプルブイ!!』


 通信機からユーギアの声がきんきん響き、トリプルブイはうんざりした顔でリベル将軍を見やる。

 彼は肩を竦ませると、その場に連れてきていたシノノメの肩を叩いた。

 戦いに彼女が参加することは、彼女自身の申告で既に決定している。

 シノノメは亀形ゼノギアに走り出し、一度止まってリベルたちを振り返り、未練を断ち切るようにまた走り出す。そして驚異的な身のこなしで亀形ゼノギアのコクピットらしき場所に飛び乗った彼女は叫ぶ。


「亀型ゼノギア、ガルタドールの魔導騎士! シノノメ!!」

「四人揃って……」


 カッ、と四人が目を見開く。


「「「「魔導騎士戦隊、エクスマギカリッターッ!!」」」」


 直後、特に意味も無く四人のゼノギアの後ろがドーン! と、爆発して鮮やかな煙が立ち上った。


 ハジメからしたら何だかもうどこから突っ込んで良いのやらという感じで、他の面々はもっと反応に困っている。なんならエクスマギカリッターも反応に困っている。満足そうなのは通信越しに「ヨシッ!」と叫んでいるユーギアのみである。


『魅せてやれ、エクスマギカリッター!! 我がユーギア研究所の究極にして始原の姿を!! フォーメーション・ゼノクロス、承ぉぉぉぉ認ッ!!』

「「「「ゼノクロス・フューーーーージョンッ!!」」」」


 全員がゼノギアのコクピットに飛び乗ったかと思いきや、四機が飛翔して巨大で円形の結界に吸い込まれていく。


「こ、これは!!」

「知っているのかノヤマ」

「ええ、いわゆるアレです! 『変身中に敵が攻撃してこないのは何故か』という身も蓋もない現実的意見に対抗するために考案された、合体中はなんか不思議なフィールドに守られていて妨害出来ないみたいなアレです!! そして合体中は効果があるのに合体終わると用済みになって戦闘ではフィールドは大体使われません!」

「ふむ。試しに攻撃をぶち込んで壊れるかどうか試して見るか?」

「それは万一あっさり貫いてしまった時に悲しいのでやめてあげてください!!」


 どこからともなく響き渡る何となく格好いい感じのBGMに合わせ、四機のゼノギアが空中で変形を開始した。幼少期にロボットアニメの素晴らしさに一切触れなかったハジメには高揚感のようなものは湧いてこないが、一部兵士やガブリエルが目を輝かせている。


(異世界でも通じるのか、こういうの)

(まぁゴーレムかっこいい勢がいるので当然かも?)


 飛び交うゼノギアたちはもうどれがどんな名前だったか覚えていないが、とにかく亀は足から腰までに、獅子は胴体に、龍は両腕部に、そして鳥が背中のフライトユニットらしき形状に変形していく、無駄に火花を散らし、無駄にウィーンガションガションと音を立てて煙をぶしーっと吹き出し、分離したパーツ立ちが次々に組み上がった後、いつしか四機のゼノギアは一機の巨大なゼノギアへと変貌していた。


 最後に無駄にぐるぐる回りながら腕を振り上げ、ガシィィィン!! と、関節に無駄に負荷がかかりそうな外連味あるポーズを取ったそれは、ギュビィィィン!! と、迸るエネルギーが漏れるように目を輝かせた。


「「「「断界魔神!! グレゴリオーンッッ!!!」」」」


 そこには巨大な――ハジメでさえそうそうお目にかかったことのない、本当に巨大な鋼鉄の機神が顕現していた。


 が、そこでハジメがノヤマにしか聞こえない小さな声である種とんでもない一言を放つ。


(おお、でかいガンダムになったぞ)


 ハジメのあまりにもあんまりな呟きにノヤマは膝から崩れ落ちそうになった。


(いやあの、師匠。これは多分ユーシャロボとか言われる系列です)

(そうなのか? ガンダムって合体しないんだな)

(いや、することもあるけど系統が多分違うというか。ともかくユーギア博士には絶対その感想言わない方がいいかと思いますね)

(……? 分かったが、今のは何かまずかったのか……)


 余りにもロボットアニメに無知すぎるハジメの発言に、ノヤマは「この人もしかしたらマジンガーもトランスフォーマーも素でガンダムって言っちゃうかも」と危機感を募らせるのであった。


 ハジメを除いて如何にも男の子が好きそうな感じのロボットの威容に多くの者が気圧される中、ユーギアは狂ったように高笑いする。


『ヒャヒャヒャヒャヒャ!! アヒャーッヒャッヒャッヒャッヒャ!! これこそユーギア研究所が開発した救世の決戦兵器、断界魔神グレゴリオンだッ!! 全高57メートル、体重550トン!! に、しようとしたが流石に軽量化に無理があって700トンくらいあるがそんなこたぁどうでもいい!! これが計画の最終段階で人類にゼノギアの威光を知らしめる超弩級スーパーロボォォォット!! だ!!!』


 どう見ても完全に趣味の産物である。

 しかもタチの悪い事に、四機分のゼノギアの動力は量産型より遙かに性能が良く、それが四つも直結しているので魔力の濃度が途轍もない。あの魔力濃度では魔法に付与した法則が散逸してしまい、禁術レベルの魔法でなければまともにダメージが通らないだろう。


 量産型ゼノギアたちとは違って完全な飛行能力があるのか、平然と空中で静止しながら腕を組んだグレゴリオンがカルパを見下ろす。さらっと言ったが全高57メートルの物体が浮いているというのは現実世界で言うと二〇階建てくらいのビルが浮遊しているようなものなので洒落にならない大きさだ。

 太陽を背負って逆光の空に佇むグレゴリオンの迫力に兵士達が気圧される。

 その反応がまた心地よいのかユーギアのテンションが更に高まる。


『貴様のちんけな作品も何やらチャラチャラした装備を身に付けているようだが、世の中デカければデカいほどいいという真理を叩き付けてくれるわッ!! 降参するなら今のうちだぞ、トリプルブイ!!』

「動物型である必要も四機合体である必要もなくね?」

『貴様ぁぁぁあああぁぁぁッ!! 浪漫だよ浪漫に決まってんだろなのにお前みたいなクソリプ野郎なんざ全員ネットに二度とアクセス出来ない収容施設に送りつけられちまえばいいんだぁあぁぁぁ!!』


 ユーギアは精神が心配になるくらいに狂乱している。

 実は無駄が多くないかとはハジメも内心思ったことだが、トリプルブイはわざと挑発したようだ。

 カルパは余りにも巨大な敵を前に、微塵も動揺した様子はない。

 立ち会い人のサリーサが二者の間に割って入るように立つ。


「戦いのルールを再度確認する。戦いはグレゴリオン対カルパちゃん。横やりは僕とハジメくんが許さない。決闘と関係ない人物への攻撃は厳禁。相手の降伏、ないし無力化、ないし双方のマスターによりこれ以上の自陣営の戦闘続行に危険があると判断した際の降参宣言にて勝敗を決する。これは誇りをかけた戦いなので騙し撃ちや無駄な甚振いたぶりなど誇りを捨てた行為あらば厳しくいくよ」

「こちらカルパ、異論ありません」

『こちらグレゴリオン。協議により当方、つまりシノノメ・ユーギアデクタデバイスがメインパイロットとして判断を下すことが決定しました。他三名が降伏しても当方が降伏しない場合は無効。逆に他三名が継戦を主張しても当方が降伏を宣言すれば当方の判断が優先されるものと認識していただきたい』

『シノノメちゃんがこんなにやる気なの珍しいよね~』

『フンだ、地上で色気づいちゃって! アンタの判断ミスで負けたら承知しないわよ!』

『フェートが一番シノのこと心配してたくせに……』

『なんか言った、ノーヴァ!?』


 なんかごちゃごちゃ言っているが、仲が良さそうで結構なことだ。


 果たして勝つのは男の浪漫か、はたまた芸術家の理想か。

 ノヤマは腕を組んで複雑そうな顔をする。


「方向性の違う変態技術者同士、ぼくのかんがえたさいきょうロボットVSおれの理想のメイドロボ対決かー……」

「そう言われるとだいぶ台無しだな」


 しかし、おふざけもそこまでだった。

 誰が何と言おうとこれは真剣勝負なのだ。

 次第に人々の口数は減り、張り詰めた気配が荒野を支配する。


 片や巨大すぎて大きさの感覚が麻痺するほどの鋼鉄の巨人。

 片や精緻すぎて人との判別が出来ないほどの優美な人形。

 どちらも形は違えどロマンの結晶達が睨み合う。


「それでは両者、構えて――」


 サリーサが頭上に掲げた人差指からカラフルな魔力弾を上空に打ち上げ、上空で花火のように美しく弾けた。


 それが、戦闘開始の合図だった。


 開幕と同時にグレゴリオンが両手を正面に突き出すと、指先が変形して砲塔が顔を出す。


『グレゴリー・バァァァルカンッ!!』


 それ構造どうなってんだと聞きたくなる謎の十の砲塔が一斉に火を吹き、凄まじい量の弾丸が雨霰と地上に降り注ぐ。大地がクッキーのように砕け散っていく中、カルパはそれに焦った様子もなく凄まじい俊敏性で次々に躱しながら両腕を背の方に曲げる。


 すると、背中のケースユニットがガコン、と音を立ててせり出し、カルパの腕部ジョイントに接続された。カルパがそのまま両腕を正面に突き出すと、ケースユニットがガパリと展開され、中からそれぞれ三連装ガトリングガンが黒鉄の輝きと共に姿を現した。


「照準固定、砲塔回転開始……ファイア」


 冷酷な言葉とともに唸りを上げた計六つのガトリングガンが順次火を吹き、秒間六十発にも及ぶ大量の弾丸と薬莢を撒き散らす。照準は恐ろしく正確で、殆ど無駄弾なくグレゴリオンに命中する。


 可憐な女性がいかつい重火器を振り回すミスマッチな光景だが、見る者によっては興奮するかもしれない。高速移動しながら一切重心をブレさせずに迎撃するカルパのガトリングはしかし、グレゴリオンの装甲の表面を傷つける程度でしかない。

 だが、シノノメの反応は異なった。


『博士以外にガトリングを製造する技術を持つ存在がいたとは予想外です。しかもそのガトリング、一定弾数発射後の強制再充填の欠点を解消するために順次発射することで常にどこかの砲塔が発射を続けることが出来るよう設計されていると分析。グレゴリオンの力場障壁を貫通する威力、命中精度、どれをとっても人では効率的に運用することが困難な重量と反動である筈……見事です』

「当然です。マスターの作った銃をこの私が扱うのですから」


 グレゴリオンの砲撃とカルパの砲撃が同時に止む。

 互いに砲塔から硝煙を立ち上らせる。

 カルパの足下には大量の空薬莢が散らばっていた。

 弾丸は用意しなくて良いのに薬莢は出るこの世界特有の謎システムだ。


 今のは互いに小手調べに過ぎない。


 グレゴリオンは人間が小虫に思えるほど巨大な拳を握りしめ、徒手空拳の構えを取ると地上に降りてくる。700トンの重量を生かした格闘戦の構えである。


 カルパは臆することなくガトリングのケースユニットを背に戻し、別のケースユニットを腕部に装着する。


「ステーク、セットアップ」


 ケースから姿を現したのは、巨大なリボルバー機構が搭載された巨大な杭だった。

 杭と言っても先端は尖っておらず平たいが、トリプルブイの拘りなのか杭一つにも手は抜かないとばかりに随所に装飾や文字が彫り込まれおり、無骨さと芸術性という相反する要素が一つに纏められていた。


 ノヤマが興奮しすぎて一週回ってスンとした顔になる。


「え、かっこよ。こんなん男の子を喜ばせるためだけの武器じゃん」


 どうやら彼の感性には刺さったようだ。

 実はさっきガトリングが出てきた時点で結構テンションが上がっていた。

 そんな中顔色が悪いのがガブリエルだ。


「どうした」

「いや、カルパの姐さんのゲンコツは唯でさえ鬼のように痛ぇのにあんなもんで殴られたら死ぬって……」

「まぁそうだが。しかし打撃武器なのに何故リボルバーが?」


 リボルバーは銃についているものではないのかというハジメの疑問に、ノヤマが何かがキマった目で逆質問してくる。


「師匠、パイルバンカーって言う漢の武器を知ってますか」

「あぁ~……」


 つまり、あのリボルバーの中で炸薬が破裂するとその衝撃が杭を伝わって相手は死ぬようだ。

 ハジメの脳の中でカルパに殴られたガブリエルが粉微塵に砕け散った。哀れガブリエル。死んでないが。


 先に仕掛けるのはカルパ。

 背中のケースユニットから謎の推進剤を噴射して空を飛んだカルパは全身の関節を躍動させ、ステークを振り抜いた。


「破砕、開始!」

『させない。マグナム・パァァァンチ!!』


 グレゴリオンの腕が光り、拳を突き出す。

 衝突の瞬間、一瞬音が消え、直後に凄まじい轟音と衝撃が大地に響いた。

 57メートル700トンの巨体が放った光の拳とカルパのステークは拮抗していた。


 正確にはグレゴリオンのパンチに完璧に合わせて接触の瞬間ジャストにリボルバーが炸裂したことで、カルパのステークの破壊力が瞬間的にグレゴリオンに拮抗したのだ。神懸かり的なタイミングが必要な上に腕力でもベストの攻撃力を発揮しなければ出来ない神業的芸当だ。


 互いに互いの拳の反動で腕が弾かれるが、互いに足は一歩も引かない。


『マグナムラッシュ!! ラッシュラッシュラァァッシュ!!』

「ハァアァァァッ!!」


 拳とステークが空中で幾度となく衝突を繰り返し、激突の衝撃が大地を揺るがす。

 余りの衝撃に地面は何度もめくれ上がり、砂埃が舞い散り、遠く離れた応援たちの中でさえ衝撃と風に姿勢を崩す者が出てくる。


 だが、このラッシュはカルパが負けてしまうことにハジメは気付く。


「まずいな。リボルバーの弾薬を使い切ったらリロードが始まるんじゃないか?」


 その言葉にシャルアがはっとする。


「確かに! もはや両腕を次々に放たなければ対応出来ない拳の応酬、カルパ殿には残弾を調整する余裕がない!!」


 リボルバーは見たところ装填数は六発なので両腕で十二発。

 ハジメの見た中で既に二者の拳のぶつけ合いは十二合。

 次の拳は純粋な腕力が試されるが、グレゴリオンを操るシノノメはそのことに気付いていたとばかりにこれまで以上の輝きを纏った拳を振り翳していた。


『この一撃で沈みなさい!!』

「ふっ……私のマスターをあまり舐めないことです!」


 瞬間、カルパの両腕のステークがジャカリ、と小気味のよい音を立ててリボルバーごと引っ込む。

 彼女は両腕を腰だめに構え、迫るグレゴリオンのフィニッシュブローに対して同時に叩き付ける。


「二点同時のステーク、耐えられますかッ!!」

『な――!?』


 リボルバー機構の後ろに隠されていたばねの存在――すなわち、火薬式ではなく純粋な破壊エネルギー増幅機構としてのバンカーが二点同時に炸裂し、耳を劈く衝突音が響く。


 互いに本気の一撃。

 だが――。


『700トンのグレゴリオンがパワー負けする……!?』


 腕を弾き飛ばされたグレゴリオンの巨体が後方によろめき、後ずさる。

 このラッシュに勝利したのはカルパだった。

 肩の装甲らしき部分の隙間から冷却用と思われる白煙を噴出してステークを構え直したカルパは、次第に高揚してきたのか好戦的な微笑を浮かべる。


「さあ、お次は剣ですか? 火力勝負ですか? なんであれ、満足のゆくまで存分にお付き合いしますよ」


 これが当然の結果であると揺るぎない確信を抱くかの如く、悠然と。

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