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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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27-7 fin

 これは終わりが最初から分かっていたストーリーだ。

 冒険者タクトを見た者が誰もいない、それが答えだ。


「世の中、上手くは行かない。残念だが、最奥に潜んでいた敵との戦いであいつは……」


 呆気ない結末だ。

 身も蓋もなければ救いもない。

 長い長い思い出話の終わりが見えてきた。


 クオンが悲しそうに顔を伏せるのを見て、ハジメは安堵する。

 タクトとクオンが戦った敵は当時の二人が相対するには余りにも強く、戦いは凄惨なものだった。いままでの話も残酷な描写は避けて簡潔にクオンに伝えてきたが、最後の戦いの詳細に彼女が興味を持たなくて良かったと思う。


 何せあのとき、ハジメは()()()()()()()()鮮血を床に落としながら戦ったのだから。腕がなくとも戦う術を渇望したハジメは、そこで力を覚醒させ、タクトが戦闘開始前に手に入れた星屑の大牙だいがを振るった。


「……俺はタクトを死なすまいと必死に戦って敵を追い詰めた。『攻性魂殻アスラガイスト』を覚えたのも戦いの最中だった。タクトを生きて帰す為に戦い続けなければいけないと自分に言い聞かせた。だが、全力を尽くしたのがいけなかった。あと少しのところで体力が限界を迎えた」


 当時のハジメが『攻性魂殻アスラガイスト』で武器を自在に操るのは二つで精一杯だった。両腕を切り落とされた激痛と大量出血の中ではむしろ頑張った方だったのだろう。


「……倒せなかったの?」

「タクトがとどめを刺した。でも激しい戦いで崩落が起きて……タクトは助からなかった」


 最後の瞬間、タクトは自分の大剣を()()の腹に突き立てた。ハジメも腕がないまま『攻性魂殻』で援護し、刃は()()を床ごと貫いた。天井の崩落が起きたのはそのときで、タクトは脇目も振らずに逃げれば助かるかも知れないところだった。


『俺、もういいわ。お宝はお前の好きにしな』


 何の未練も無い笑みと共にタクトは足下に落ちていた腕――切断されたハジメの両腕を投げてよこした。この世界では千切れたり切り落とされた四肢は状態次第でポーション等で接合することが出来る。

 タクトは自分が逃げるのではなく、ハジメの未来に腕が必要だと考えてそれを投げた。

 自分はもう満足したから、と。


 『攻性魂殻』の力があるのに、余力を使い切ったハジメはただ見ていることしか出来なかった。最後の力を振り絞って腕を接合したが、あの衰弱した状態で生きて帰ることが出来たのは客観的には幸運と言えただろう。

 ハジメの手には、誰も助けられない孤独な戦いの力と、星屑の大牙だいがだけが残った。


「……そういうわけでな。遺言を残したやつが好きにしろと言ったんだ。あいつの生き様を覚えている冒険者も俺以外に沢山いる。いずれ勇者レンヤも星屑の大牙の謂れを知るだろう。それでいいんだ」


 二人を追い詰めた()()の正体は今も分からない。

 実は、動けなくなっただけでその後も()()は生きていた。

 一年後にタクトの弔いに訪れた際に出くわし『攻性魂殻』を使いこなせるようになったハジメによって熾烈な戦いの末に今度こそ完全にトドメを刺したが、30歳になった今もあれと同じモンスターの類には一度も出くわしていない。


 そして、ギルドに詳細を報告したその日の夜に総ギルド長と当時の十三円卓の議長、そして教会のトップである教皇の連名で()()の口外を固く禁じられた。恐らく彼らは()()の正体を知っていたのだろうが、知ったところでタクトはもう満足して逝った後だ。

 ならば、もうどうでもいいことだとハジメは思った。


 クオンには言わなかったが、この一件はハジメに纏わり付く死神の異名を広める大きなきっかけとなった。箝口令が敷かれたことで不自然に情報が途切れ、ハジメ自身も詳しい話をしないことが周囲の猜疑心を煽る結果となった。

 噂には尾ひれがつき、曖昧にされ、今ではタクトはハジメが持つ存在すらしない前科に加えられた名も知らない犠牲者の一人ということにされている。


 元々タクトたちの捜索願を出していた彼の幼なじみだという女性は、彼が冒険で死んだと聞いて半狂乱だった。彼の葬式に参列したハジメは彼女にヒステリックに散々なじられ、彼の遺品として差し出した星屑の大牙も「冒険者の証なんて見たくもない」と床に叩き落とされたほどだ。


 ハジメ自身、あれほど守ろうと決めたのに守れなかったのは自分が死すべき存在だからだと悪い方に自己完結し、余計に人と深く関わらないよう意識的に行動するようになった。彼に教えて貰ったコミュニケーションの術も、フェオとの付き合いの内に思い出すまですっかり錆び付いていた。


 クオンは暫く悲しみの涙を袖で拭って鼻を啜っていたが、やがて拳を握る。少しだけ泣きはらした目には、子供特有の曇りなき決心が宿っていた。


「わたし、いつかその剣を取り戻すよ。ママは優しいから遠慮していいんだって言うけど、なんか納得いかないもん!!」

「クオン……そんなにいきり立つな。無理に取り返すことなどない」

「ある!! タクトさんだってママと勇者とならママの方に持ってて欲しいと思う筈だもん!!」


 珍しくクオンはムキになっていた。

 悲しいストーリーに感化されてそう思うのかも知れない。

 説得しようかと思ったが、これはクオンが過去を通して抱いた感想だ。

 彼女の感性を無理に訂正せずに認めるのもまた親の在り方だろう。


「クオンくらい可愛い子に握って貰えるなら案外タクトは喜ぶかもな」

「そういうことじゃないんですけどー! はー、なんでママってこういうときに人を持ち上げるフリして自分を落とすのかなー!」

「なかなか痛い指摘だな」

「分かってるんならちょっとは改めてよー!!」


 クオンはハジメに剣を返したいのだろう。

 椅子を飛び降りると彼女は抗議するようにハジメをぽかぽかと叩いた。子供らしい威力に抑えたけなげな拳だ。しかし少しするとクオンはハジメにぎゅっと抱きついた。


「ママは……いなくならないよね?」


 立て続けに死の話を聞き、更に過去のハジメの命の危機を耳にしたクオンは急に不安になったようだった。これからもずっと一緒にいられると思っていた人の命が有限であることに、彼女は気付いたのだ。

 ハジメは笑って、彼女を優しく抱き返した。


「ああ、ずっと一緒だ」


 エンシェントドラゴンである彼女の寿命は無限かもしれない。

 きっとハジメが先に他界するだろう。

 しかし、ハジメはそれほど未来を悲観していない。


 たとえ命が絶えてもタクトとの思い出が今もハジメの心に根付いているように、クオンの心にもハジメはきっと根付く。

 だから今は、少しでも長くクオンの幸せな日を守り続ける。

 愛した女性と、愛すべき隣人と、すっかり居心地が良くなってしまったこの村とともに。




 ◇ ◆




 大剣・星屑の大牙がハジメの過去の友人の形見だったという話は、気付けば村中に広がっていた。誰かの盗み聞きか、或いはクオンの話が爆発的に広まったのかは定かではない。


 そして何が起こったかというと。


「勇者マジ最低だな」

「せめて戦いが終わるまで借りるとかそういう返しするよねー普通」

「ハジメとの会話さえ屁理屈こねて拒否したんだろ? もはや煽りだろ」


 犯罪に巻き込まれて手放した恩人の形見の剣――すなわち盗品を買った挙げ句、事情を説明して対価を用意しても頑として譲らない男の評価が高い筈がない。

 ハジメは別に勇者を責める気はないのだが、逆にその謙虚さがいたたまれないとレンヤの好感度は激減。更にハジメの弟子のシオが勇者の余りの態度の悪さに村のあちこちで文句をぶちまけたためにレンヤを擁護する余地がなくなってしまったのもある。


 結果、勇者レンヤの評価は地面をアンチマテリアルしすぎてマントルに突入した。

 よほど高い徳を積まなければ二度と浮上出来ず燃え尽きるだろう。

 そんな中、一番便乗して盛り上がりそうなのにノれなかった男が二人。

 いつもの病気コンビ、ショージとブンゴである。


 なにやらいつの間にか村に出来た屋台おでん――ショージが作って従業員を育てた、何気に人気の高い店だ――でおでんと酒をちびちび嗜む二人はいま、自分たちの器の小ささを痛感していた。


「ブンゴさぁ。俺ぁ正直ビックリしたよ。シズクとオオミツのクソっぷりにも大分ハラワタ煮えくり返ったけど、勇者の話は純粋に胸くそ悪くて腹立ったんだよ」

「俺もそうだよショージ」

「あんなん誰だって腹立つし、どう考えても勇者許せねぇだろ!?」

「あたぼうよ! 俺なら四六時中悪口を町で言いふらして回るわ!」


 ブンゴも大分クソだがここにはツッコミ役がいない。

 そうだろ! と吠えてほかほかの牛スジを頬張るショージ。

 おでんダシと牛の甘みとコクのある油のコンビネーションが口いっぱいに広がり、ほろほろになるまで煮込んだ牛の食感が舌を満たす。しかし、ショージの心は満たされない。


「そんなクソ相手なら流石にハジメも怒ると思ったのに、流石ハジメだよ。全然堪えてねえよ。むしろ悪評の広まりようにそこまで責めなくてもって顔してんだよ。俺なら絶対キレるのに」

「俺も100キレる。なんなら勇者のせいじゃないことまで勇者のせいにするくらいキレる」

「そうだよなぁ。でもハジメは責める責めないという所にすら思考が行き着かない訳で。器だよ、器の違いなんだよこれが。俺たちの器がおちょこなら、ハジメの器はもう樽だよ樽」

「なんなんあの人。ここまで差を見せつけられるとなんも言えねぇ。ハジメなんでモテるんだもげろとか思ってたけど、やっぱモテる理由があるんだよ。美少年化してチヤホヤされもするよ」


 フェオ辺りがここにいたら「あれたぶん器に穴空いてるだけですよ」と冷静に突っ込むところだろうが、やっぱりツッコミ役がいない。


 ともあれ、どんな形であれ二人は自分たちの卑小さを思い知り、深く悔恨した。こんなちっぽけな人間性で女性にモテようなど言語道断。人を許せる懐の深さがないのにどうして人の愛を受けることなど出来ようか。


 ブンゴはたっぷりダシの染みた大根を箸で割ってはふはふしながら食べる。そしてちびりと酒を飲むと、はぁ、とため息を漏らした。


「俺、明日からもうちょい堅実な道を歩むわ。ちゃんとした現地の友達作れるよう、数打ちゃ当たるじゃなくて人間性を深めるような関係を持ちたい」

「俺も町のムキムキ大工共にもう少しちゃんと接してやろうかな……」


 嘗てボランティアで訪れたシュベルの町で知り合ったむくつけき筋肉大工達を思い出したショージは、ちくわを囓って口の中に広がる練り物特有の甘みを味わいながら考える。


 実は筋肉大工たちは以前から領主ベアトリスを通じ、ショージに師事を乞うていた。あのむさ苦しい空間が嫌でずっと避けていたショージだが、ただ嫌だから避けるのでは人間関係が始まらない。せっかく自分を慕ってくれる人さえ無碍に扱っていては、本当に好きな人が現れても繋がりを持つことも出来ないだろう。


 二人の反省会は暫く続き、以降彼らは以前にも増して病気の発症頻度が減っていったという。




 ◇ ◆




 人の噂には尾ひれがつくものだ。

 最初はそこそこ正確な情報でも、段々と大事な情報が削られたり誇張されていくうちに変容していく。

 ハジメ子供化事件を知らない世間は断片的な情報しか知らないため、世間は珍しいハジメのドジをネタにした。


「死神ハジメから盗まれた武器が売りに出されて、それを勇者が買ったらしいぜ」

「ははは、あの死神もヘマするんだなぁ」

「勇者は返してくれなかったらしい。まぁ一流冒険者の武器だもんなぁ、いい武器に決まってるよ」


 人は人から聞いた話を他の人との話のネタにする。

 その際、相手を面白がらせようとちょっとした脚色を加えることがある。


「勇者レンヤはそりゃあもう全力で断り倒したらしいぜ、武器の返却」

「そこまで嫌がるってことは、前々からずっと狙ってたんじゃない? その武器を」

「じゃあハジメが武器を手放したのは渡りに船だったって事か!」


 そして、知り合いの知り合いという段階まで話が飛んだ頃にはいつの間にか原形を留めていない、なんてこともある。


「最初から勇者レンヤはハジメをハメるつもりだったのさ! 刺客を放って上手いこと武器を手放させた!」

「返したがらねぇ筈だよなぁ! 犯罪紛いのことしてまで手に入れたんだもんな」

「勇者のイメージ崩れるわぁ。死神はなんで力尽くで取り返さないの?」

「王家と不仲だからなぁ。逆に勇者からの頼みで議会から圧力かけて貰ってるんじゃない?」


 別に世間は勇者レンヤを低く評価しているわけではない。

 しかし、そもそも勇者というのはよくも悪くも目立つ存在だ。

 勇者ならばやっていて当たり前、勇者のくせにやっていない……勇者というシステムが普遍的になっているこの世界では、ただ世界を救う為に魔王軍を倒すだけでは人々の記憶に深く根付きづらい。


 付け加えるなら、やや効率に偏重したレンヤの行動指針も彼を勇者という以上の存在として人々の記憶に留めるのを阻害していた。誰かを手厚く助ける時間を魔王を倒す為に当てればもっと多くの人を救えると割り切ったレンヤは、効率の面から見れば間違ってはいない。


 勇者レンヤは、何も間違っていない。

 なのに世間からの評価が芳しくない。

 そのタイミングになってのこの黒い噂だ。


 勇者というのは神器に選ばれた人間にしかなれないくせに、時折出来の悪い勇者や悪徳な勇者も生み出してきた、レンヤの印象が薄かった世間に飛び込んできた悪い噂を、人々は勝手に「ああ、いい噂を聞かないのはそういうことか」と誤った受け入れ方をしてしまった。


 防音魔法を貼った宿屋の一室で、レンヤは何度も床に拳を叩き付ける。


「うわぁぁぁぁぁッ!! クソッ、クソォッ!! どいつもこいつもどうして本当に頑張ってる人間に目を向けないんだよッ!! 僕が魔王軍幹部を倒しただろ!? 悪魔による野望を打ち砕いただろ!? 僕がいなかったらもっと犠牲の出てた町もあっただろぉッ!!」


 勇者レンヤは頑張っている。

 それに感謝してくれた人間も多くいる。

 にも拘らず、レンヤの居合わせた主たる魔王軍との戦いの場以外の場所で、レンヤの評価はいつも微妙だった。彼が寄り道をしないから、彼がどんな人間なのか知る者が少ないのだ。しかも寄り道をしないので人助けも当然していないため、いい噂が蔓延しづらい。


「僕は褒め称えられたいだなんて思わない!! 特別扱いしろとも言わない!! でも、なんで僕の覚悟が、意志が、情熱が!! 世間にまったく伝わらないんだッ!!」


 実際には、王都を中心とした都心部では勇者は比較的評判が良い。

 これは十三円卓が彼を後押しする形でいい噂を流しているからだ。

 しかし、平和な世界にいる彼らは平和な場所から出てこないので都心部でしか評価が上がらない。なので、魔王軍幹部を倒す為に方々に向かうレンヤたちの行き先にまでいい噂が伝わらない。そして行き先で効率を重視して人助けをしないので地方ではいい噂の循環がなく、逆に悪い噂はよく広まる。


 レンヤの評価が低いのは大体レンヤ自身に原因がある。

 レンヤ自身はなにも悪いことをしていないし、本人も基本的に善良で使命感溢れる好青年である。しかし、どんなに頑張っても人々が自分の覚悟や人柄を分かってくれないという疎外感が彼の心に淀みを生んだ。


 自分を邪魔する要因が外部にいるに違いない。

 その名前を、自分は何度も聞いているに違いない。


「冒険者ハジメ!! ハジメ、ハジメ、ハジメ!! いつもあいつの名前が僕の周囲に付きまとう!! 僕のやったいい事の評価をアイツが下げていく!! 僕をあんなに応援してくれる十三円卓の一人もあいつのせいで失脚したって聞いたし、僕の手柄を掠め取るようなことも何度もした!! どうせ今回の件もあいつが僕を嵌めたんだろう!? なのに尻尾を見せやしない!! なんでだよ!! 悪いことしてる奴が罰を受けるのが世の中ってものじゃないのかよぉぉぉぉぉッ!!」


 ちょっと調べれば、ハジメがそんなことはしていないことなど容易に判明する。しかしレンヤは魔王軍を早く滅ぼさなければいけないという使命感から私情でしかないハジメへの調査をやらなかった。

 有耶無耶にして己を誤魔化すうちに溜まった心の淀みはいつしか彼の思考を狭め、気づけばハジメは自分の敵だと思うようになり、そして今や顔もろくに会わせたことのないハジメをよく知っているかのように当然として悪人扱いしている。


「人殺しの悪党!! 周囲に迷惑を振りまく!! 女癖の悪さ!! 魔王軍に通じる裏切り者!! 金にものを言わせる拝金主義者!! 王家を侮辱する不忠者!! 誰もが奴の悪事を知っているのに、何で僕が悪党扱いなんだァァァッッ!!!」


 たった数回しか出会わず、まともに会話すらしていない男を、レンヤは諸悪の根源のように憎み始める。


 レンヤもハジメも自分の手柄を言いふらすタイプではない。

 しかし悪評まみれだったハジメはここ最近世間にそういうキャラクターとして受け入れられはじめ、逆に最初から正しさを求められるレンヤはプラスの印象要素がないので評価がじりじりと下がり続ける。


 頭を乱雑に掻き毟るレンヤは怒りで充血した目をギョロリと剥く。


「許さない……許さない!! 絶対にお前の尻尾を掴んで白実の下に引きずり出してやるッッ!!!」


 レンヤには、ハジメが自分の評価を吸い取っているように思えた。

 床に叩き付けた拳が、床板を粉砕した。


 ――もはやレンヤの様子を心配するほどの愛想も尽きた勇者一行のイングは、別の部屋で落ち込むヨモギを励ましていた。


「魔王軍との戦いが終わったら、あいつを引きずってフェオの村に行こう。本人をちゃんと知れば少しは目が覚めるさ」

「でも……レンヤさん、もう私の声も届かない。聖水もカームの魔法も効果がないくらい強力な念に囚われてます」

(はぁ……レンヤの野郎、逆恨みに夢中で自分が好きな女さえ忘れてんのかよ。いい加減気付かないかねぇ)


 レンヤはハジメを敵視しているが、ハジメはレンヤのことを特になんとも思っていないだろう。邪魔されたことなどイングの目から見ても一度も無い。最初から交わってないのに、レンヤは本人を無視して勝手に作り出したハジメの幻影へ勝手に憎しみを募らせる。


(……もしあいつの目が覚めなかったら、俺も流石に付き合い切れねぇな)


 他の仲間はもう魔王軍を壊滅させたらそのまま解散するつもりだろう。

 レンヤが最近仲間にしたアンジュは彼を上手く誘導してパーティの崩壊を防いでいるが、彼女は何が目的なのか分からないところがある。イングに言わせれば彼女の方がハジメよりよっぽど疑わしかった。


 普段はまともなのにハジメが絡んだ瞬間に荒れ狂うレンヤに、パーティメンバーは「これさえなければまだ付き合ったが、これがあるからもう付き合えない」という共通の思いを抱えていた。


 そして、勇者一行の様子を報告で受けたルシュリア姫は恍惚の笑みでこうコメントした。


「無限に味のなくならないガムのようですわ~~~!!」


 ……この世界、大丈夫だろうか。

書いてるときおでん食べたくなったのはここだけのヒミツ。

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