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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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27-3

 犯人の名前はアイラ・シュトローゼン――名門シュトローゼン家の貴族令嬢。


 とにかく美少年好きで、自分基準で外見が残念だと判断した男を次々に美少年化し、子供になって記憶も退行し判断力が低下しているのをいいことに自分の屋敷に囲って暮らしていたらしい。

 本人は「世の中にブサイクを生むブサイク遺伝子が減るんだから広い目で見れば社会奉仕よ!」と滅茶苦茶な理論を展開していたらしい。果てしなく傍迷惑かつ失礼な女だ。


 しかし、三人娘がはじめをあれだけ可愛がったのははじめが美少年になっていたからであるというのは100%ないとは言えない。

 村の面々にしても同じことが言える。

 どんな言い訳をしても人は見た目の印象に惑わされる。

 実際、シオは初対面の頃のハジメを完全に見た目で判断していた。


「とはいえ、それを理由にじぶんを正当化するのは違うとおもう。罪は罪だ」

「ですよねー。流石は師匠、五歳の時点で考えがしっかりしていらっしゃる!」

「べ、べつに普通のこと……だとおもうし」


 まだシオが弟子である実感がないのでやや照れている子供ハジメ。

 あの鉄面皮おっさんにも可愛い時期があったんだなとシオは思った。

 思い返せばはじめは5歳児には理解が難しそうな言葉も普通に理解していた。自分の記憶が二重になっていることに気付いてからは更に理知的になっている。

 とはいえ、見た目が子供なので周囲はついつい子供扱いしてしまうが。


 アイラ・シュトローゼンがどうやってハジメを子供化させたのは既に判明している。

 彼女の異能は発動条件が難しく、相手の肌に一定時間以上触れながら詠唱をしないといけない上に対象は一度に一人、そして使用する際魔力を全て消費する上にこの異能で消費した魔力はエーテルやエリクシールでは回復出来ず自然回復が完了するまで一切魔法を使えなくなる。

 彼女は足をくじいたなどの言い訳を用いて相手に触れ、背負われている間にこっそり呪文を唱えて男達を美少年化させてきた。


 初見殺しではあるが一度ネタが割れれば対策は容易で、しかもデメリットもきつめだ。実際には他にも何やら様々な細かいデバフが付与されるそうだが、これは能力と容姿の良さを神に両立してもらうために無理矢理作ったデメリットらしい。

 魔力回復が終わるまでステータス状態異常耐性が下がる、経験値も入らなくなる、冷え性になる、便秘になる、生理のサイクルが回復時間分乱れる……冒険者でもないなら死活問題ではないが、まあまあ嫌なデメリットである。


 閑話休題。

 ハジメは一度は彼女の言い分を信じたものの寸での所で彼女の様子がおかしいことき気付き、咄嗟に突き飛ばして昏倒させた。


「30歳のぼくは相手を倒しても異変が止まらないことに気付いて、せめてこの事態を誰かに伝えようとしたのかもしれない」

「極限状態にあって無駄のない合理的な判断と行動! お見事です、師匠!」

「シオお姉ちゃんはぼくの太鼓持ちだったの?」


 ツッコミ方におっさんハジメの面影を感じるシオであったがそれはさておき、本来ならハジメを子供にした後に屋敷に連れて帰るつもりだったアイラが目を覚ました頃にはハジメは三人娘に保護されていた。そんな彼女の手元に残されたのは逃げた際にハジメが落としていった荷物だけだった。

 ハジメは全てを忘れ、アイラはハジメの装備が非常に価値あるものだと気付いて売り払うことにしたようだ。


 当人は「ショタたちを養うのも安くないのよ……よよよ」などと言っていたが、あながち嘘でもないのか屋敷で保護していた子供達はアイラによく懐いていた。彼らをこのままでいさせるべきか、元に戻してやるべきか……どちらが幸せなのかは不明だが、アイラの自己申告では自ら若返りを望んでやってきた者もいるそうなので慎重に検討することになった。


 シオは結果的に尊敬するハジメの世話をしていたので嬉しさが、リリアンは他二人ほど子供ハジメに感情移入していなかったので珍しい体験が、そしてユユは実はおっさんだった男にデレデレ世話をしていたという非常に複雑な胸中が残った。


 フェオはというと、「ハジメさんの5歳頃って多分荒んでたと思うので、これくらいの幸せがあっていいんじゃないですか?」と笑顔で回答。

 仕事で遠出していたためにデレデレできていなかったベニザクラは、せめて彼が元に戻るまではと全力でハジメを甘やかして子供ハジメは赤面していた。

 サンドラはまた大失敗をして子供ハジメにまで慰められていた。


 まだ知らぬ25年後の自分の人間関係にハジメは困惑しきりだ。


「年下の女の子に囲われて竜人の子供のママになり、弟子も女の子……30歳のぼくはいったいどういう生活をしていたんだ……!?」

「30歳になってからモテ期に突入したみたいですよ、師匠?」

「とうてい信じられない。元にもどるのが怖くなってきた……」


 もしかして自分はとんでもなくだらしない男になったのではないかと勝手に戦慄するハジメの様子がまたおかしい。そして、どことなくシオの知るハジメの片鱗がそこには感じられた。


 最終的に、ハジメの子供化は『力の無効』の異能を持つ囚人により減刑を条件に解除され――この囚人はバランギアの王の母の呪いも解呪したそうだ――無事に元のおっさんになって戻ってきた。


 そして、数日間家に引きこもった。


「恥ずかしい……子供化していた頃にあった全てのことが恥ずかしい……! この年になってこんな辱めを受けることになるだなんて、酷い話じゃあないか……!」


 ハジメにとっては耐え難い恥辱だったらしい。

 フェオはその反応もまた可愛がっていたが。

 いい年して引きこもるなと思う反面、感情を露にするハジメをフェオがかわいいと言う理由がちょっとだけ分かった気がしたシオであった。


「ところで師匠、金庫のお金をあるだけ持って行きますよ?」

「いいが……何に使う気だ?」

「売り払われた師匠の武器の行方、ヒヒのじいさんが追いかけてくれてたみたいなんでじいさんと一緒に可能な限り買い戻してきます。弟子のお姉ちゃんに任せちゃってよね♪」

「そのネタはやめろ、今の俺にはとても効く」

「今の師匠もかわいいですよ!」

「フェオに散々(さんざっ)ぱら弄られたのにお前までそれを言うか。ぜんぜん嬉しくない」


 師匠がダメなときは弟子がしっかりするもの。

 シオはハジメの売り払われた武器や装備品を必死にかき集めた。

 時には快諾を受け、時には渋られた挙げ句に買い戻しの金を取られ、時には逆に要求を突きつけてきたので村の男達やガブリエルを引き連れて脅迫し……億を超えて兆に届く程の金を使い、シオは殆どの武器を回収することに成功した。


 ところが、最後の一つでつまづいた。

 勇者レンヤが質屋で購入したハジメ愛用の大剣である。

 ハジメをもって「あれは出来れば手放したくない。思い出の品だ」と言わしめた代物だ。


「こっちは人類の為に魔王軍と戦うのに必要だから求めたんだ! お金を払ったて手に入れた以上、所有権は僕にある! だいたい本人が直接来ないってことは大して本気で取り返すつもりもないんだろ! 交渉はファーストインプレッションが大事なんだ! 直接本人がやってくれば考えもしたが、そういう態度でいるのならこれを返す気にはなれないな!!」

(なにこいつウッザ……)

(イヒヒ、拗らせ方が半端ではないですなぁ)


 勇者レンヤは想像以上に鬱陶しい男だった。

 彼のファーストインプレッション理論で言えば本人が0点対応である。

 彼の仲間達に視線をやるが、全員「こうなると手がつけられなくて……」とばかりに困り顔で目を逸らすばかり。唯一、黒髪の小さな魔法使いのみ「代わりの武器用意して貰ったら?」と折衷案を出すが、「僕らは一日たりとも時間を無駄にできないんだぞ!?」と、やや的外れな発言で突っぱねる。


 善意はなし、お金では売らない、代わりの武器は受け取らない。

 挙げ句、ヒートアップした彼はとうとう私情を隠さなくなってきた。


「ハジメ・ナナジマなんて犯罪者紛いの真似をして稼いだ金で遊んでいる道楽冒険者だろう!! 彼が独占していた武器が世間に流れたなら均衡が取れて結構なことじゃないか!! だいたい思い出の武器だかなんだか知らないけど、そんなの性能が同じ武器でも作ればいいだけだろ!?」


 この言葉に、勇者パーティーの魔法使いを除く全員の表情が凍り付いた。

 仲間達の不穏な空気――ヒーラーでレンヤと最も長い付き合いのヨモギに至っては涙まで流していることに気付いたレンヤは、苛立ちと困惑の入り交じった顔をした。


「な、なんだよ……」


 真っ先に口を開いたのは弓使いのエルフ、イングだった。


「レンヤ、お前……親父の形見の剣は『金や性能の問題じゃない』ってあれだけ大事に扱ってるのに、本当に俺らがなに考えてるのか分からないのか?」

「……? 形見の剣なんだから大事にするのは当然だろ」

「じゃあお前の持ってるその剣がハジメにとって誰かの形見だったら、とか考えないのか?」

「あの男にそんな殊勝な心があるわけないだろ? ありえないよ。適当な嘘だっていうのがバレバレなんだよ」


 レンヤの言葉には、一切の迷いがなかった。

 イングは、これだけ言っても何も響かないなら無駄だとばかりに部屋を後にした。

 続いてヨモギが「どうして、こんな……」と呟き、耐えられないとばかりに部屋を後に。他数人もため息をついていなくなり、残ったのは黒髪の魔法使いだけだった。

 レンヤは黒髪の魔法使いに困惑の問いかけをする。


「どうしたっていうんだよ皆。アンジュ、どういうことなんだ?」

「どういうことか分からないって事は、大したことじゃないんじゃないか?」

「……そうかな。うん、ありがとうアンジュ。気が楽になったよ」


 シオはアンジュという魔法使いの真意に気付いていた。

 アンジュは、骨の髄までとことんレンヤに興味が無いのだ。

 自分の思い出は大事だといいながら他人の思い出は価値がないと勝手に決め付け踏み躙るレンヤの矛盾に対しての自覚のなさに、彼女は一切興味が無いのだ。

 恐らくは、このパーティの行く末にさえも。


 シオもこれ以上レンヤと言葉を交わす気分にはなれなかった。

 ヒヒが助け船を寄越してくれなければ、そのまま醜い罵り合いになっただろう。


 ハジメにありのまま起きたことを報告すると、彼は静かに目を閉じ、「あいつも世界の為に勇者に使われるなら文句は言わないと思う」とだけ言って話を終わらせた。

 今まで一度も聞いたこともない、寂しそうな声で。


 ――それから、色々あった。


 ルシュリアからハジメあてに「大変腹をかかえました」とだけ書いた手紙を送りつけてきて暫くハジメが不機嫌になったり、勇者レンヤに対して弟子の非礼を詫びると言ってハジメが彼の元に向かったのち門前払いを受けたと帰ってきたり、暫くユユとハジメが気まずかったり、色々だ。


 しかし、同居状態のフェオ、シオ、クオンの三名からすると今のハジメは少しだけ元気がないように見えた。間接的とはいえ結果的に久々の兆クラスの大散財を達成――財産が多すぎてあまり減ったように見えないのが玉に瑕だが――したにも関わらず、それを喜びもしなかった。


 そんなある日の昼、クオンがふとハジメに訪ねた。


「ねえママ。ママがゆーしゃに渡しちゃった剣って、どんな剣なの?」

「……あれは、星屑の大牙(だいが)と呼ばれる剣だ」


 クオンは知らないが、その剣はフェオもシオも見たことがある。

 飾り気はないが見るからに頑丈そうで迫力のある刃を軽々と振り回すハジメの姿が印象で、質実剛健なハジメらしい剣だった。


「これといって尖った力は無いが、相手の属性の影響を受けづらく防御を崩すのに優れていた。一番ではないが、使えば間違いは無い。準聖遺物級……まぁ、勇者のお眼鏡に適うほどにはいい剣だ」

「なのにあげちゃったんだ」

「武器には困っていない。似たような武器はある」

「でもお気に入りのものはなくなると寂しくなぁい?」

「……そうだな」


 ハジメはしばし沈黙し、おもむろに口を開く。


「たまには昔話でもしよう。星屑の大牙だいがを何故よく使っていたのかを」


 それは本当に珍しい、ハジメの過去の物語。

 彼がまだ死神と呼ばれるほど強くはなく、しかし死神の名が付き纏い始めていた頃の過去の断片――。

いわゆるエピソード0。

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