26-10 fin
勝機が、垣間見えてきた。
唯一回、一瞬の隙と一撃があれば、この女に勝てる。
何故焦り、弱っているのかをベニザクラは知らない。
ほんの少し、万全の彼女と戦えればという気持ちはある。
それでも、運命が手繰り寄せた勝機を掴むのに躊躇うほどベニザクラは甘くないし、今の彼女は激流に逆らって僅かな勝機を掴もうと踏ん張っているのだ。闘志が漲り、勝利を渇望する。
「――ここだッ!!」
「うっ!?」
ハジメと散々訓練を繰り返し、彼女の動きをひたすら目を逸らさず見続けていたことで暴いたほんの僅かな太刀筋の癖に、ベニザクラは合わせてパリィをした。見てからでは間に合わないので、斬撃を通して感じた「シズクならこうする」という予測に刀を沿わせただけだ。
予想は的中し、シズクの刃が浮く。
技量差の大きさから攻め込むには少し時間が足りない隙だ。
だが、それでいい。
これから繰り出すのは、攻撃用のスキルではないのだから。
「獅鹿威ッ!!」
「!?」
ベニザクラが放出した闘気がライオンのような形になって吠えた。
その咆哮に、シズクの足が地に縫い付けられたように止まる。
「う、嘘でしょ……そんな虚仮威しのスキルで、体が、動かな――!?」
「手癖の悪さが仇になったな」
声が震えるシズクを斬るため、ベニザクラは冷酷に刀を構える。
獅鹿威は体術スキルの一つで、自分より格下の相手を怯ませるという状態異常を付与するスキルだ。他にもデバフ等の効果があるが、この怯みという状態異常は他のものに比べて解除されるのが速く、また抵抗されて無効化されることも少なくない不安定なスキルだ。
普通なら獅鹿威が通じる程度の敵であれば普通に倒した方が早い、多くの人にとって使い道のない外れスキル――だが、今のシズクにとっては違う。
彼女は今、ベニザクラから盗んだ角飾りのせいで「状態異常耐性ゼロ」という本来ならあり得ない状態になっている。それはすなわち、如何なる状態異常であれ今のシズクには100%の効果があるということなのだ。
千載一遇の好機、来たらん。
ベニザクラの全ての神経、感覚、意識が収束する。
今、乾坤一擲の一撃を解き放つ時。
「狂い咲け徒花ッ!! 桜 花 乱 舞 ッ!!」
美しく、優しく、儚い花――桜。
しかし、桜花乱舞はベニザクラの刀が纏う膨大な赤いオーラの噴出により、まるで血を啜ったように赤い花は嵐のように荒れ狂う。それは花の美しさではなく、今という一瞬に全てを賭してただ一つの斬撃と化す戦士の命の煌めきがあった。
シズクの目の前に刃が迫る、迫る、迫る――。
しかし、彼女はまだ諦めていなかった。
幾ら状態異常の耐性がゼロでも、怯みの状態異常は瞬間的にしか効果が無い。もし彼女の刃が到達するより前に怯みが解ければ、それが寸毫の猶予であろうと彼女は刀を抜いてみせる。
「づ、う、ぅ、ぉおおおおおおおおおおッッ!!」
極限の集中力が時間を引き延す。
負けない、負けられない。
この敗北でベニザクラがシズクへの興味を失うことなど許せない。
「私は……シアワセになるんだぁぁぁぁぁぁーーーーーッッ!!!」
刹那――シズクの体に自由が戻り、彼女は神速で刃を解き放った。
ベニザクラの斬撃が全身に叩き込まれるまで紙一重のタイミングだった。
紅のオーラと純白のオーラは虚空で激突し激しく、強かに舞う。
「ガっ……は、ぁ……」
先に膝を突いたのは、ベニザクラだった。
体を幾重にも切り裂かれて鮮血を吹き出すも、装備品が彼女を致命傷から守っていた。あの一瞬で、シズクは必殺剣である『乱レ雪月花』を発動させていたのだ。
桜色のオーラが散る中、シズクは勝利を確信した。
彼女もベニザクラの『桜花乱舞』を躱しきれずに幾太刀か浴びていたが、純然たるステータス差によって彼女ほどの傷ではない。剣は握れるし膝も突いていない。彼女は振り返ってベニザクラにより屈辱的な敗北をもたらそうとして――。
「……残桜」
直後、シズクの全身から深紅のオーラの連撃が弾けた。
「キャアアアアアアアアアッッ!!?」
不意を突かれ、完全に無防備だった体に浴びせられる衝撃。
それは、ベニザクラの放った『桜花乱舞』の太刀筋を完全になぞった形で爆ぜた。躱した筈の斬撃の分までもが深紅のオーラとなって襲いかかる。防御も出来ず、回避も迎撃も出来ない不可避の連撃は、容赦なくシズクの体の芯にまで響き渡る。
ベニザクラの習得したパーソナルスキル、『残桜』。
それは彼女の放った全ての斬撃がオーラの塊として残り、本物の斬撃が終わった後に時間差で炸裂する追撃の刃。
籠めたオーラが濃ければ濃いほどに炸裂する力は強く、鋭くなる。
故に、一度防いでもオーラに触れてしまえば、それは容赦なく発動する。
弾けたオーラは鮮血のように赤く、桜の花びらのように儚く霧散していく。
それでも、普段の彼女であれば耐えられただろう。
しかし、ベニザクラから奪った髪飾りに呪われた彼女は戦いを長引かせすぎた。
倒れてはいないが、己の予想を上回る消耗がダメージとともに一気に全身にのしかかる。その動揺から、彼女は後ろで立ち上がって『来光』を両手で構えたベニザクラに対して一瞬反応が後れてしまった。
「――とどめぇッ!! 滝桜ッ!!」
横一閃。
極限状態で放たれた、ベニザクラの渾身の追撃。
それが、勝敗を決する最後の一撃となった。
「ありがとう。お前は本当に強かったよ」
「こんな、結果……ふざけ、てる――」
崩れ落ちるシズクは、今度こそとどめの一撃により気絶した。
何もかもがぎりぎりの、薄氷の勝利だった。
ベニザクラが受けたダメージも深刻で、手に力が入らず体が崩れ落ちそうになる。だが、すんでのところでハジメの手が彼女の体を拾い上げた。気付けば視線の先に彼の顔がある。またお姫様抱っこをされていた。心地よい疲労感の中、彼にも感謝を告げる。
「最後まで手を出さずにいてくれてありがとう、ハジメ」
「流石にはらはらしたがな」
「お前ほどの男が動揺することがあるのか?」
「最近はたまに、な。大切な人に関することは尚更だ」
ハジメほどの技量があれば、万全のシズク相手でもベニザクラの援護をするのは簡単だっただろう。しかし、約束通り最後まで手を出さずに意地に付き合ってくれたことが、彼からの信頼の証に思えた。
こういう関係は、初めてかも知れない。
互いに互いを思いやり、信頼し合い、確かめ合う。
フェオはいつもこんなことを彼としているのだろうか。
だとしたら、妬けてしまう。
(でも、今だけは)
見上げれば、観客達が万雷の拍手と笑顔で祝福してくれていた。
呪われた女、不吉な女、死を呼ぶ女――そんな女でも、好きな人と幸せになる権利はあるのだと言われている気がした。ウェディングドレスもブーケも随分厳めしいが、鬼人が結婚式を挙げるとしたら悪くない。
ふと、観客席の片隅に両親と祖父母が笑顔で拍手をしているのが見えた気がした。
目を凝らすと家族達の姿は薄れていき、そこには誰もいない空席があった。
これほどの観客が押し寄せる会場で一番前の席なのに、不自然な空席が。
ハジメがふと気付いたように同じ方に視線を向ける。
「あそこに鬼人の応援が四人いたと思ったが、もう帰ったのか?」
「安心して帰ったんだ、きっと……きっとな」
おとうさん、おかあさん、おじいちゃん、おばあちゃん。
ベニザクラは今、幸せです。
◇ ◆
提灯の優しい光がずらりと並び、夜の村を照らし出す。
あちこちから響く歓声、雑談、喜びの音色。
食欲をそそる香りが至るところから立ち上り、広場では双子のエルフによるちょっとした見世物が行われる。
祭り。
鬼人文化と転生者たちのアイデアを混ぜ込んだ、それは祭りだった。
前々からハジメの発案で計画されていたこの祭りは、ベニザクラのリベンジ成功記念を兼ねてフェオの村で大々的に始められた。ベニザクラは皆に祝福され、今まで積極的に参加できなかった祭りを大いに楽しみ、今はツリーハウスの縁にあるベンチにすわって皆を眼下に一休みしていた。
トリプルブイの作った色鮮やかな浴衣に身を包み、厳めしかった戦闘用の右腕も私生活用のものに替えられている。新技術によって腕の取り替えが容易になったおかげで、着脱の際の神経が繋がる痛みも殆どない。
「はむっ……うん、甘い」
白い綿のようなお菓子を食んだベニザクラは、口に広がる甘さに頬を綻ばせる。
ショージの故郷で祭りの際によく食べられるらしい、綿菓子という砂糖でできたお菓子だ。
祭りの前半でご馳走を頂いたベニザクラだが、屋台を控えて量を控えめにした理由がよく分かる。屋台料理には出来たての魅力の他に、この祭り囃子が響く空間で食べることによって得られる不思議な充足感がある。既にいくつかの屋台の料理を食べたが、どれも魅力的だった。
まだ夢見心地なベニザクラは夜空を見上げる。
修行によって剣の腕がめきめき上達する日々。
皆の力を少しずつ借りて、格上の剣士を打ち破った喜び。
家族の形見と名誉を取り返したこと。
そして――ほんの短い間だったが、自分の好いた男と恋人のような時間を過ごせたこと。
今、彼女の指にペアリングはない。
村に帰った際、こっそりフェオの家のポストに短い手紙とともに入れておいた。
あくまでハジメとベニザクラは仮初めの関係。
ペアリングはフェオに渡すのが筋だ。
「……経験だけでも、私には十分すぎた」
ハジメに薬指に嵌めて貰った指輪を幻視し、静かに笑う。
仮初めであったとしてもまるで本当に自分が想い人と結ばれたようで、あの思い出があれば自分は一人でも頑張っていけると思えた。
下を見下ろせば、珍しくベアトリスとアマリリスが話をしていた。
「良いものでしたわ、殿方に守って貰えるのは……なんというか、胸の奥がきゅんとしますの。きゅんと。結局はわたくしのせいで負けてしまいはしたのですけど、その後ふたりで手を繋いでハートピア島を観光して回って……ジライヤ様が恥じらいながらも笑ってくれると、もうたまらなく愛おしいんですの!」
「あーうん。はいはい。もうお腹いっぱいなんだけど」
「あら、コイバナお嫌いですか?」
「フェオちゃんのはいいけど身内のコイバナは胃もたれするし、別に知りたくもないし……」
「まぁ、そんなこと言わずに! というか、フェオ様の応援ばかりされてますがお姉様自身は恋人はお作りにならないのですか? ロドリコともマイルともそんな関係ではないと聞いていますが、恋はいいものですわよ! お姉様も当主の座を退いたとはいえローゼシア家の長女なのですから、世継ぎのために素敵な殿方を探すべきでは?」
「くぅぅ、この妹やはり憎たらしい……! こんなの恋愛マウントじゃないの! こっちは好きで作らないんだからいいのよ!」
「それは勿体ありませんわ! 実際に殿方をお好きになってお付き合いすることでしか感じられない愛がある筈です!」
「あ゛ぁぁぁもうっ! ベアのそういうところマジで嫌っ!」
きゃあきゃあとかしましく言い合う二人の仲睦まじさに、自分にも姉か妹がいればああいうやりとりもあったのだろうかと想像する。いや、アマリリスは既にベニザクラからすれば押しの強い困った妹という感じがなくもない。
その奥ではジライヤが左右をオロチとツナデに囲われ、にやにやしながら何かを聞かれては顔を真っ赤にしながら俯いている光景があった。少し可哀想だが、兄弟子たちの気持ちも分かるので微笑ましさが勝る。ベアトリスとジライヤはお似合いだと思う。
視界の隅にピンクの頭が見えたと思ったら、珍しいことにクオンがライカゲに肩車されて屋台巡りをしていた。クオンがよく食べるのはいつものことだが、これまた珍しいことにライカゲも屋台料理に熱中しているようである。彼の意外な側面を見たな、と可笑しく思う。
ふと、背後から足音。
振り返ったベニザクラの頬に、ひやっと冷たい瓶が当てられる。
「ラムネっていう飲み物なんだって」
「フェオか。わざわざ持ってきてくれたのか?」
「うん。私もちょっと涼みたかったし」
フェオ――心優しい娘で、気立てが良く、美しく、ハジメと相思相愛の人物。
彼女はベニザクラの隣に座り、町の一角を指さす。
「見て、あそこ。ハジメさんがバカみたいに高いお金を払って買ってきたミコシっていう祭具。あれをワッショイワッショイって叫びながら担いで村の中を練り歩くんだって。変な風習だと思いません?」
「はは、私も不思議に思った。なんでもあのミコシは極小の神殿で、神の分霊が移動するためのものなんだそうだ。中にはリヴァイアサンが乗っているのかな?」
「グリンも乗ってるみたいですよ。まぁ、村としては伝統行事くらいあってもいいですけどね」
フェオはビンのラムネをちびちび呷る。
「これ、美味しいのはいいんですけど麦酒みたいなしゅわしゅわがちょっとキツイんですよね……普通のジュースだと思って口に含んでむせちゃいました」
「どれ。むっ……! た、確かに刺激的だ」
喉の奥にじゅわっと広がる刺激に一瞬喉が絞まるが、甘酸っぱいような不思議な味わいが口に広がると印象が変わる、段々と炭酸に慣れてきたベニザクラはごくごくと飲み込むが、後になってげっぷが出そうになり反射的に口を抑える。すると、音は漏れずに済んだが鼻に強い刺激を感じた。
「うぅ、つーんと来た……なんとも不思議な飲み物だな、ラムネとは」
「ブンゴさんもショージさんも堂々と一気飲みしてげっぷ大放出ですよ。デリカシーないですよね、あの二人は」
「そう邪険にしてやらないでくれ。根は優しい男達だ」
二人ともベニザクラにはシャイな顔を見せるので、二人の中でのブンゴとショージの印象はやや異なる。「そうですかぁ?」と、わざとらしく首を傾げるフェオにベニザクラが笑うと、彼女もまた笑った。
「あ、そうだ。これ渡したかったんですけど」
フェオは思い出したようにベニザクラに小さなものを手渡す。
「これ、は――」
「ペアリング。私が勝ち取った訳じゃないのに私に持たされても困るんで」
ハートピア島で勝ち取った愛と勝利の証、ペアリング。
大粒の宝石のような派手さはないが非情に精巧な装飾が施されたそれは、見る目のある者は一目でそのリングの価値を見抜けるだろう。動揺したベニザクラは、咄嗟に首を横に振る。
「だ、ダメだ。かりそめの関係で手に入れたものだが、ハジメは本当はフェオと――」
「勝ち取った筈のベニザクラさんがつけてないことの方がダメです。はい、嵌めて!」
「しかし!」
「しかしもカカシもない!」
子を叱るような口調で急かされ、ベニザクラは指輪を指でつまむ。
しかし薬指に嵌めるには抵抗があった。
だって、これをもう一度嵌めてしまったら――。
フェオは、彼女の手を握って指輪を躊躇いなく嵌めさせた。
彼女は、ベニザクラの目を真っ直ぐに見て頷いた。
「分かってます、ベニザクラさんの気持ちは。そのために身を引いたのも、分かります。でも……私もハジメさんもベニザクラさんにそういう諦め方をさせるのは嫌なんです。幸せになって欲しいんです」
「フェオ……」
「だからって私も正妻の座を譲る気はありませんけど! 私に黙ってハジメさんといちゃいちゃしたら嫉妬しますけど! でも……ベニザクラさんのことを幸せに出来るのは、ハジメさんだけなのかなって」
フェオも葛藤があるのか俯くが、顔を上げた彼女の目に迷いはなかった。
「ハジメさんはスケールの大きすぎる人です。でも、悲しい人生を送ってきた人でもあります。ハジメさんの知る幸せは、きっと私たちから見れば余りにも小さい……実はちょっと前にサンドラちゃんからハジメさんと偽装結婚したって告白されました。最初はちょっと怒っちゃいましたけど、でも話を聞いてると……私一人の愛だけでハジメさんを幸せにしきれるのかなとも、思っちゃったんです」
サンドラとの偽装結婚はベニザクラも初耳だが、確かにサンドラはハジメによく泣きつくし抱きつく。それに対してフェオがあまり怒らないなと不思議に思ったことはあったが、それは彼女の考えるハジメへの愛に関係があったことにベニザクラは驚いた。
彼女はハジメの愛を一身に受けることを望んではいるだろう。
しかしそれ以上に、ハジメという男にもっと幸せを感じて欲しいという想いの方が強かったのだ。
「ベニザクラさん。ハジメさんを忘れることなんて出来ます?」
「……む、無理……だ」
なんて残酷なことを聞くのだ、と、ベニザクラは項垂れた。
そんなことを聞かれては、嘘をつけない。
「ハジメのことを、私は愛してる。ダメだと思っても愛してしまう。ハジメ以外の異性が見えなくなりそうなくらい、彼は私を狂わせてしまうんだ……」
「なら、約束。ハジメさんを本当に純粋に真剣に愛し続けるのなら……いいですよ。独り占めし続けるのはちょっと許さないかもしれませんけど……その、一緒に同じ人を愛しましょう」
「と、とんでもないことを言い出すな君は……」
「私だって自分でもどうかと思いましたよぅ。本で読んでも重婚とかあんまり感情移入できないし。でも……自分と同じくらいハジメさんを愛してる人がいると、嬉しくなっちゃう自分もいるんです。サンドラちゃんもそうです」
「……ダメだな。否定する言葉は頭に幾らでも浮かぶが、その約束は魅力的すぎる」
「いいんですよ。この約束、最終的に苦労するのは主にハジメさんですから!」
それは無責任な言葉にも思えたが、逆に、ハジメならばそれを受け止めきれるだろうという信頼にも思えた。
「私は……二番手、三番手でいい。でも、そうだな……甘えたいときは思いっきり甘えようかな。実はサンドラのことがちょっと羨ましかったんだ」
「約束、成立ですね」
二人は互いにハジメのよくする小指同士を繋いだ約束をした。
そして、二人の座るログハウスの下で勝手に自分の扱いが締結される会話に気付いたハジメは、フリーズしていた。隣に座るメーガスが異変に気付いて首を傾げる。
「どうかしました、ハジメ? 転生者のことで質問があるのでは?」
「俺の知らないところで俺が不貞の罪を背負うことが決定された」
「ふふ。嫌なら断ればいいのでは?」
「嫌、では、ない、が……困る? のか? ダメだ、もう何も分からん!」
ハジメは生まれて初めて頭を抱えて悲鳴を上げた。
「複数との女性との交際はよくない」という良識と「ベニザクラを悲しませたくない」という願望の狭間に葛藤し、決断を下せない。彼が決断を下せないとフェオの決断が優先されることになるため、ハジメがフェオの尻に敷かれるのが決定した瞬間でもあった。
頭のネジの捜索依頼を怠り続けた男の末路である。
ホントはこのストーリーの間に3000文字くらい小話が入ってたんですが、決着から祭りまでの流れを見ると、なろう側では挟まないほうが綺麗だと思って大胆にもカットしました。
カット分はおまけ扱いで次話に投稿します。




