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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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26-8

 先に仕掛けたのは、ベニザクラとハジメ。

 ベニザクラの義手、『しゃく』が突き出される。

 人間らしい柔らかさは一切なく、ただ無骨で痛々しい鋭利な金属の腕。

 彼女がそこに漲るオーラを流すと、『灼』のあらゆる隙間から獄炎のようなオーラが噴と出した。地獄の悪鬼の腕と呼ぶに相応しい凶悪な腕は、ベニザクラの意に沿って結合部分が次々に外れて腕が長く伸びる。本来なら外れたら落ちる筈のパーツは全てオーラによって繋ぎ止め、埋め合わされ、悪鬼の腕は彼女の身の丈以上の巨腕に化ける。


 狙うのは憎きシズク――ではなく、突如として軌道を変えてオオミツに迫る。

 彼女を庇う動きをしていたオオミツは虚を突かれ、咄嗟にベニザクラの腕を切断するが、切断したのはオーラで形作られた部分で瞬時に再生する。二重の隙を晒したオオミツは巨腕に捕まった。


「ンな、ぐあッ!!」

「ダーリン!!」


 腕が軌道を逸らしたその瞬間には――否、もっと早くにシズクは既に動き出していた。ベニザクラの不意打ちを切り裂くために。しかし、それが間に合わなかったのは、ベニザクラの攻撃より前にハジメが動き出していたからである。

 ベニザクラの腕より更に深く、低く構えた刃が煌めいていた。


「雪破」

「ちぃっ!!」


 超高速の踏み込むと同時に振るわれる刃にシズクは見事に対応して刃で弾くが、その瞬間にはオオミツはベニザクラの『灼』によって足が宙を浮く。


「お前に用はないッ!!」

「この俺を持ち上げたぁッ!?」


 鞭のようにしなる『灼』は、そのままオオミツを遠くコロシアム端に投げつける。

 これこそが戦闘用義手『灼』。リーチ自在、防御困難な腕は、剣を握らずともそれそのものが武器となる。義手の指には鉤爪も仕込まれている。

 トリプルブイが『美しさの欠片もない、敵を恐怖させ、打倒するための鬼の腕』と称したほどの荒々しい性能は、使用者の使い方次第で格上の敵すら薙ぎ倒す。


 ハジメはオオミツが投げられたのを確認すると同時にシズクにスキル『クロスソニック』を放ってオオミツの方へ。そしてベニザクラは入れ替わるようにシズクと向き合う。


 ベニザクラとシズクが一騎打ちするにはどうしてもオオミツが邪魔だった。

 そのため、初手ではハジメがシズクの動きを封じ、その隙にどうにかオオミツを引き剥がし、その後は割り当てを入れ替えることで事実上の一騎打ちを実現するというのが二人の計画だった。背中越しに二人は声を掛け合う。


「上手く行ったな、ベニ」

「いや……あわよくば爪で引き裂いて握り潰してやろうと思ったがまるで堪えていない。その気があれば腕を弾けただろう。あいつの察しの悪さに助けられた」

「心配するな、絶対に負けん」

「そこは信頼してる」


 ふっと微笑んだベニザクラはそのままシズクへと、そしてハジメは投げ飛ばされたオオミツへと駆ける。


 ハジメはベニザクラに限界ギリギリまで特訓をした。

 専用にして最高品質の武器も渡した。

 彼女はパーソナルスキルまでをも発現させた。


 それでも、シズクに勝てる確率は百に一つ程度だろう。


 先ほど刃を交えてすぐにハジメは理解した。

 あれは自分と同じ歴戦の経験を積んで練り上げた本物の剣だ。

 純粋な技量で言えばハジメ以上だろう。


(だとしても、俺はとことん付き合うだけだ)


 投げ飛ばされたオオミツは自分の顔を片手の平で覆ってぶつぶつと何かを呟いていた。


「……っけんな……ろす……の癖に、俺を……ザコブスが粋がって……」

「随分余裕だな」

「あ゛あッ!? ブス専の雑魚に用はねえんだよッ!!」


 怒鳴り散らしたオオミツの野太い腕が『阿形』を振り抜く。

 スキルも用いない斬撃にも拘わらず、剣圧で大地が裂けた。

 ハジメはそれを片足だけ動かして身を捻って躱す。


 オオミツは顔を覆っていた手を離す。

 そこには、何をどうしたらそこまで怒れるのか不思議に思うほどに血管が浮き出た真っ赤な憤怒の顔があった。今までも理不尽な理由で烈火の如く怒る転生者や犯罪者は何度も相手にしてきたが、彼の怒り様は異常だ。


「うぜえ、うぜえ、うぜえ!! ハニーの為に今まで暴れんのは我慢してきたけど、要はここで勝てばいいだけだろ!? 勢い余って相手をブッ潰しちまうのは反則じゃねえよなぁ!? 俺の事バカにした訳分かんねぇかっこつけ野郎なんざ顔面グチャグチャにしてやっても誰も気にしねぇよなぁ!!?」

「言い訳の多いやつだな。誰かに言い訳しないと行動できないのか?」

「テェェェーーーメェェェーーー……大会終わった後に殺してやる。逃げても殺してやる。抵抗しても殺してやる命乞いしても殺してやる女の方も殺してやる殺してやる殺す殺す死ね死ね死ね死ねやぁぁッ!!」


 狂ったように殺意を撒き散らかすオオミツの憤怒の太刀が横薙ぎに振るわれる。

 威力、範囲、迫力ともに先ほどの斬撃を大きく上回る破壊力だ。

 奥で戦うベニザクラの邪魔にならないように居合いのスキルで綺麗に解体すると、それも気に入らないとでも言うようにオオミツは地団駄で会場の足場を蹴り砕いた。威力の余り蜘蛛の巣状に罅が広がり、彼の内から湧き上がる怒りが足下の破片を浮き上がらせる。


「……怒れば怒るほど強くなる異能、ないしパーソナルスキルだな?」

「誰が喋っていいって言ったァァアッ!!!」

「喋るなとも言われていないし聞く義理もないな」

「声が小さくて聞こえねんだよぉぉぉぉぉぉッ!!」

「難聴だな。医者に行けばいい」

「死ねぇぇぇぇぇッッ!!!」


 ゴウッ、と、怒声がプレッシャーとなってハジメの体に叩き付けられる。いつぞやの『プレッシャー』の転生特典とは少し違うが、圧倒的な暴力の気配で相手を震え上がらせるという意味では似たようなものだろう。

 すぐに怒鳴る人間は自分を弱く見せたくない臆病な存在であるという説があるが、彼の場合は怒れば怒るほど力が増すのだろう。髪と瞳の色までが淡い光によって色を変えている。そして怒れば怒るほどに知能と語彙力が下がっている気がする。


 気配からして、今のオオミツならバランギア熾聖隊の一兵卒程度なら素手で殴り殺せるだろう。彼は怒りのままに剣を振り回してハジメに肉薄した。


「グッチャグチャのミンチになりやがれぇぇぇぁぁッッ!!!」

「……」


 ひゅごっ、と、大気を切り裂いて乱れ狂う斬撃の嵐。

 その全てが、威力だけならレベル100クラスに匹敵する。

 完全に相手を殺害するつもりで振るわれた剣は受け止めるだけでも一苦労で、もし受け損なえば粗雑で力任せな太刀筋故に本当にミンチになるかもしれない。衝撃に巻き込まれないよう細かなステップを躱しながら反撃のスキルを軽く入れるが、表皮で弾かれる。どうやら防御力まで上昇しているようだが、ここまで堅牢とは意外だった。


「ぺちぺちぺちぺちうぜぇんだよぉ!! 蠅叩きで戦ってんのかぁ!?」

「その頑丈さには素直に感心する」

「そうよ、俺とお前は男として格が違ぇんだよ!! 顔も、肉体も、魂も!! 貧弱な劣等野郎がせこせこ努力して小手先の技術を必死こいて学んでも、本物の強さの前には意味ねぇんだよぉぉぉッ!!」


 オオミツの斬撃が剣を躱したハジメの服の端を掠ると、引きちぎる様に弾け飛んだ。よく以前に捕まえることが出来たものだ。これで理性ある冒険者ならさぞ魔王軍の脅威になったことだろうが、彼は魔王にも人にも靡かず一人の女を追った。


 純愛と言えばそうなのかもしれない。

 世間からすれば余りにも傍迷惑な愛だが、それでも添い遂げたい愛もあろう。

 だからといってベニザクラへの蛮行を許す理由にはならない。


(……そこらの冒険者相手なら勝てたろうが、な)


 ハジメは彼の突進に合わせて、体を反らして躱す合間にオオミツに足を引っかけた。

 

「えっ――」


 そのままハジメがつま先に力を込めて足を振り上げると、オオミツの見上げるほどの巨体が空中で半回転して顔面から派手に大地に激突した。

 勢いの余り顔面で会場の地面に突き刺さって破壊したオオミツは、ふるふると震えながら砂埃と破片を落としてゆっくりと巨体を持ち上げると、真っ赤に充血した眼球でぎょろりとハジメを睨む。瞳孔が怒りで蕩けるほどの憤怒と憎悪のままに、オオミツは八つ当たりで地面を殴ってクレーターを作る。


「こっ……のっ……ゴミ野郎がぁぁぁぁあッッ!!!」


 今度は先ほどの力を更に上回る斬撃だ。

 身体能力だけならハジメより上のチヨコことマルタに匹敵する力は大気を抉り飛ばし、剣先に存在するあらゆるものを破壊し続ける。辛うじて剣を握る手をしているだけの、それは剣術とは到底呼べない力任せの破壊だった。

 彼の持つ『阿形』は名工の作り上げた素晴らしい刀の筈なのに、強引な破壊に付き合わされて刀の鍔や柄がみるみるうちに傷だらけになっていく。他人に飽き足らず刀にまで暴力的なのかと思うと、『阿形』が哀れに思えてくる。


「……はぁ」


 当たれば容赦なく人体を破壊するであろう斬撃を踏み込んで躱したハジメは、剣の柄で彼の体を小突く。すると、乱雑な剣の振り回しで姿勢の悪かったオオミツはあっさりバランスを崩して尻餅をついた。

 触れるもの全てを拒絶し、破壊する乱撃も、当たらなければ意味は無い。


「な、あっ……何でだぁ!! テメェ、なんか卑怯な真似してやがんだろぉッ!! 許せねぇ、お前が俺より強い訳ねえんだこのゴミ野郎がぁぁあッ!!」

「お前……よくも公衆の面前でそこまで醜態を晒せるものだな。会場の様子が見えないのか?」

「あ゛ぁ!? 口答えすんなクソが!! ……なんだ?」


 そこで漸く彼は周囲が異様に静かなことに気付いたようだ。

 先ほどからのオオミツの怒声は会場中に響き渡っている。

 はっきり言って、ほぼ全員が化けの皮が剥がれたオオミツにドン引きしていた。


 呆れて首を振り、会場を去る者。

 蔑みの目線を隠そうともしない者。

 ベニザクラとシズクの戦いを見に移動する者。

 オオミツがどれだけ恥を晒すのか見物する者。

 ハジメがこの悪漢をどう裁くのかを心待ちにする者。

 

 観客席には既にオオミツの勝利を応援する者など殆どいない。彼はそんな会場の空気を漸く把握すると、一瞬の空白の後にあろうことか会場に向けて激高して喚き散らかす。


「さっきまでわーわー応援してたくせに何見下してんだぁッ!! 応援しろや、ぶっ殺すぞクソ共がぁぁぁッ!!」


 怪物の咆哮めいた怒声に会場は震え上がるが、逆にその態度が観客の不満に火をつけた。


「ふ……ふざけんな! 今まで猫被ってやがったのはお前だろ!」

「そうよ! 逞しい戦士だと思ってたのに、ただ野蛮なだけじゃない!」

「所詮犯罪者は犯罪者だな! 大会が終わったら潔く自主でもしろ!」

「ベニちゃんへの暴言に加えてナナジマさんへの狼藉三昧、もう許せない!」

「みっともねえんだよクズ野郎!!」

「帰れ! 二度とハートピアに来るな!」

「他人を尊重できない男が愛語ってんじゃないわよ!」

「顔覚えたからな! 逃げられると思うな!」


 ビキィ、と、オオミツの首筋の血管が全て浮き出る。

 観客の態度が更に彼の怒りを新たなボルテージに誘ったようだ。 

 しかし、どんなに怒り狂ってパワーアップしたところでハジメはオオミツに負ける気がしなかった。


 何故ならば、この男は恐らく――。


「オオミツ、お前……スキルの類をまったく覚えていないな?」


 ――ただ力任せなだけなのだから。


 犯罪者は、自由にジョブチェンジが出来ない。

 一度もジョブチェンジをしたことがないまま、力だけがパーソナルスキルで肥大化した結果が今のオオミツだろう。ハジメの問いは、残念ながらオオミツの理性には欠片も触れることはなかった。


「あ゛あぁぁあぁぁぁ!! うるせぇ!! 死ねっ!! 死ねぇッ!!」

「……会話にならないな」


 『不良に絡まれた時に気がついたら意識が無くて周りに人が血だらけでバタバタ倒れてた』――という自身の力を誇示する痛々しいネットのネタがあるとホームレス賢者に聞いたことがあるが、オオミツはそれを地でいく生き方をこの年齢までずっと繰り返してきたと思われる。


 何が彼をそうさせたのかまでは知らないが、彼にとっては怒り狂って暴れれば相手は死ぬか屈服するという単純な構図が当たり前すぎて、他のことを考えたり鍛えるという発想が生まれなかったものと思われる。


 一撃でもまぐれ当たりしたり不意打ちや騙し討ちで一撃でも相手に当てれば自分の勝ち。そしてこんな下らない男のためにわざわざ命をかける奇特な人間はこれまでおらず、力なき者は当然として彼にひれ伏すしかない。

 それが意味することは、彼は弱い者虐めしかしたことがないということ。

 なので、どんなに身体能力が上がっても隙だらけなのである。


 代わりに防御力も果てしなく上昇しているのは厄介だが、技巧派冒険者ならまず負けることはないだろう。ただし、八つ当たりによる周囲の被害を度外視すればだが。


「俺を見下す奴は許さねぇ、許せねぇ、どいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつも!! ハニー以外みんなクソだ!! ハニー以外みんな潰れて死んじまえばいいッ!! 俺をナメてる奴なんざこの世にいちゃいけねぇんだよぉぉぉぉぉぉッ!!!」


 オオミツの中で更に力が膨れ上がり、空を突くほどの圧を生む。

 彼の怒気は文字通り天井知らずらしいが、最早これ以上増長させると会場の観客達が危ない。普段はシズクが彼を諫めていたのだろうが、ベニザクラの予想外の善戦に対応する彼女はオオミツの面倒を見られていないらしい。

 ならば、ハジメが彼を打ち破る他ない。


「分かった。男らしくいこう、オオミツ。真正面から斬り合って倒れた方が負けだ。わかりやすくて良いだろ?」

「ゴミ虫の分際でなに俺に指図してんだスカしたボケクソがぁ!! プチッと潰れてハラワタでもぶちまけろぉぉぉぉぉッッ!!!」


 言葉とは裏腹に、オオミツはこれまでで一番まともな構えからの真っ向唐竹割りを放った。


 恐らく彼の頭の中にある一番強い斬り方。

 或いはシズクのモノマネか何かかもしれない。

 しかし、彼の背に修羅の幻が見える程には桁の外れた気迫と埒外の膂力を以てして放たれた斬撃には、鬼気迫る膨大な殺意が凝縮されている。これほど強力な一撃を放てる者は転生者でもそういない。それほどの、真っ直ぐな一撃だった。

 ガルバラエルの拳をも遙かに上回る力の塊を前に、ハジメは静かに剣を構える。


 跳ね返し――否、力が強すぎる。

 防御――否、防御ごと叩き切られる。

 回避――容易だが、剣先に集中した桁外れの圧は会場を切り裂いて観客の命を奪うだろう。


 ならば、答えは一つ。


大虚空刹破だいこくうざっぱッ!!」


 それは、一つの剣の境地。

 虚空刹破が虚空を通じて飛ぶ刃なら、大虚空刹破は受けた剣を『飛ばす』刃。

 相手の攻撃を無意味にし、己の刃のみを通す究極の見切り技。


 ハジメが渾身の力を込めて放ったスキルはオオミツの剛刃と衝突し――その破壊力の大半を虚空に消し去る。

 それでも、ステータスだけならハジメを上回る力を発揮するオオミツの剣は完全には無効化できない。刃と刃が衝突し、衝撃波が周囲に響き渡る。オオミツは激情のままに剣を振り抜く。


「終わりだぁぁぁッ!!!」


 力任せに押し込んだ剣が、地面を切り裂く。

 しかし、そこにあるはずのハジメの両断された無惨な姿がない。

 オオミツは怒りの余りに一瞬目の前の現実に頭が追いつかなかった。


「……あぁ?」

「峰打ち――破斬烈震撃ッ!!」


 瞬間、背中に岩をも砕く凄まじい衝撃を受けてオオミツは地面に叩き付けられた。

 背後から聞こえたのは、ハジメの声だった。


「地面に倒れたな。お前の負けだ」


 瞬間、オオミツの両手両足と首を封じるようにハジメが背中に沢山装備していた刀が次々にオオミツを縫い止めるように突き刺さった。刀の峰側で縫われたために傷はつかないが、一対ずつ鋏のように交差して動きを封じられた為に思うように動けない。


 大虚空刹破はカウンター技だ。

 使い手の技量さえ追いついていれば、威力を殺しきれずとも反撃は可能。

 ハジメはオオミツの剣の威力を必要なだけ逸らして、即座に背後に回り込んだのだ。


 更に、ハジメはカームの魔法を使ってオオミツを無理矢理沈静化させる。

 あの異常な怒りの継続は一種の状態異常だ。

 精神を落ち着かせるカームの効果でオオミツの身体能力がみるみる低下し、通常に戻っていく。


「て、てめぇ――!!」

「俺たちの戦いは終わりだ。あとは彼女たちの戦いの結末を見届けよう。恋人の勝利を疑うもんじゃない」

「くそが……ハニーが負ける訳がねぇ! お前にも! あの弱っちい白ブス女にも――」


 ハジメは無言でオオミツの眼前に刀を突き刺す。

 あと僅かでオオミツの鼻をそぎ落とすほど、近くに。


「もう一度ベニザクラを妙な呼び方したら、二度と恋人に愛を囁けないようお前の舌を貰う。これでも結構怒ってるんだ。大切な人の悪口ほど腹立つものはないよな」


 少しだけ――苛立ちのオーラが体の外に漏れた。

 これがキャロラインの言う『色』だというなら、御するのに手子摺りそうだ。

 オオミツは屈辱に塗れた表情で、しかしハジメの本気の苛立ちが伝わったのか、それ以上無駄口を利こうとはしなかった。


(思う存分やってくれ、ベニザクラ。結果がどうあれ最後まで見届けるよ)


 ハジメの視線の先で、ベニザクラとシズクの激闘は激しさを増していた。

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