25-12 fin
優しさの反対とはなんだろう。
フェオはときどき人を叱るが、それはいけないことをしたから叱るのだと彼女はクオンに言って聞かせた。必要なことだし、叱らないでいることが優しさではないらしい。
トリプルブイはよく女性に殴られたり蹴られているが、彼はいけないことだと分かっていても悪い事をするから暴力を振るわれるので、自分が悪いのだと言っていた。悪い人だけどクオンに優しくて、そんなに悪い人にも見えなかった。
ショージとブンゴはよく意味の分からないことを言っては周囲に気味悪がられたりしているが、ショージとブンゴが悪いわけではなく、ただ周りと噛み合っていないだけらしい。指摘してばかりではなくそっとしておいてあげるのも優しさだと言われた。
ラシュヴァイナは前によかれと思って巨大な魔物を仕留めて村に持ち帰ったが、こっぴどく叱られていた。ラシュヴァイナはいいことだと思っていたことが、他の人にはそうではなかったらしい。優しくても怒られることはあるようだ。
優しさは難しく、いろんな形がある。
同年代の子供の中にはいじわるをする子もいる。
だからといって急に相手が悪くて優しくないやつだとは思わない。
だけれども、バランギアの竜人は違う。
クオンに優しくしながら、ママたちには冷たい目をしている。
もしくはクオンだけ見て他の人に目もくれない。
レヴァンナは仲間として見られていたが、それでも、彼らは竜人以外をいらないもののように扱っていた。
クオンが大切にするものを、彼らは大切にしない。
クオンがこの国では暮らせないと思った理由の一つだ。
そして今日、その考えが甘かったことを知った。
分かり合うために喧嘩することは必要だと言われたことがある。
だから、見知った仲間が竜人を傷つけるところも、抵抗はあったが受け入れた。実際、皆は竜人を殺そうとはしておらず、あくまで戦闘不能にするだけだった。だからクオンもそれに則って戦ってきた。
気がついたのは、ハジメが傷ついている様を見たとき。
そのときに、やっと気がついた。
皆は殺す気がなくとも、相手は殺す気なのだ。
そして、今までクオンの中で無敵の存在だったハジメが実は無敵ではなく、彼の命を脅かす存在がいるのだと認識したとき、クオンは生まれて初めてある感情を持った。
それは、明確な敵意だった。
彼らは悪行を以てして悪を成す、悪意ある存在だ。
そこまで悪い人じゃない、ではなく、悪い人なのだ。
悪い人がハジメを、クオンの世界にたった一人しかいないママの命を狙っている。他の何がなくともママがいれば寂しくないと思うほど大好きで暖かいママを、クオンがこの世で一番大切なママを、彼らは価値のない邪魔者として排除しようとする。
クオンがこの世で一番大切にするものを、彼らは大切にしない。
それが、決定的だった。
バランギア竜皇国は、竜人は、悪でありクオンの敵だ。
人が魔物を殺すことで身を守るように、クオンもママのために敵を倒さなければならない。
『どいてよ!! 敵を倒せない!! 悪いやつを倒せない!!』
『ブギュウウウウッ!!』
地団駄を踏んでも拳を振っても、全てグリンが直前で体当たりして邪魔をしてくる。グリンを押しのけようとしても、グリンの方が戦い方が上手くてどけられない。なんで、どうしてグリンは邪魔をするのだろうか。
『こいつらはフレイとフレイヤだって襲うよ! グリンにとっても敵でしょ!?』
『ブガァッ!!』
無数の光の柱を天から降り注がせて地上を焼き払おうとするが、グリンの体から湧き出る神の力が盾となって全てを弾く。グリンは決してクオンに敵意を向けてはいないが、注意するように睨んでいる。
悪い事をした相手は、叱るものでしょ。
話が通じない相手なら、倒すものでしょ。
何が違うの。
何で邪魔するの。
『ママのための戦いなのにぃぃッ!!』
体が熱い、頭が怒りに沸き立つ。
もっと暴れろ、もっと壊せと愛が叫ぶ。
なのにどうして、戦っても戦っても靄のように不安が晴れないんだろう。
答えは、虚空を引き裂いて現れたひとりの人間によって導き出される。
「クオォォォォォォンっ!!」
『ま、ママ!? どうして――!!』
この世のどこよりも安全な場所に閉じ込められた筈のハジメの右手には、ハジメの体よりも大きな巨大な機械の拳が握られていた。
クオンはこのとき、震えた。
ハジメが怒っているからだ。
こんなに怒鳴って怒られたことがクオンにはなかった。
拳が振り下ろされる。
クオンは咄嗟に目をつむった。
一秒、二秒、三秒――想像していた痛みと衝撃がこない。
恐る恐る目を開けてみると、クオンの鼻先に立ったハジメの拳はすんでの所で止まっていた。目を開いたクオンにハジメはデコピンする。痛いというほどでもない威力だった。
「もうやめなさい、クオン。もう十分だ。これ以上はクオンが虐める側だよ」
『ま、ママ……でも、でもこいつら……! こいつら嫌いだ!』
「嫌いだから殺してもいいだなんて、そんな残酷なことを教えた覚えはない」
『なんで! ママ!』
この世の誰よりも味方であって欲しい人が、味方をしてくれない。
クオンの目からぽろぽろと涙が零れた。
嗚呼、晴れなかった心の靄の理由はこれなのだ。
「こんなやり方は間違っているんだ、クオン。怒るときは相手のことも考えて怒らないといけない。独りよがりに怒るだけでは、思いはきちんと伝わらないのだから」
『う、うぅ……ふえぇぇ……!!』
――ママの為といいながら、本当は気付いていたのだ。
こんなことをしてもママは喜ばないのだと。
クオンの怒りは嘘のようにしぼんでいき、やがて肉体も収縮し、元の小さなクオンに戻っていった。ハジメ機械の腕を外してクオンを抱きしめ、クオンは盛大に泣きじゃくった。
「ごべ、ごべんな゛ざぁぁぁぁい!! うえぇぇぇぇぇぇん!!」
ハジメは何も言わず、廃墟と化した皇城跡地で彼女の涙を受け止め続けた。
――ハジメが取り外した機械の拳は静かに光り、カルマがそこから現れる。
あの機械の拳は、カルマが自らを変形させて象ったものだった。彼女にはそういう機構も存在していたが、使うのは初めてだった。
「はぁ、まさか人間に使われる日が来るとはねぇ~……ま、他ならぬかわいいクオンちゃんのためだししゃーないか」
あのとき、試練の結界から脱出するために空間を歪める力が必要になったのだが、ウルが皆の魔力を借りる形で大魔法を行使して空間を歪め、そこを更に空間掌握能力を持つカルマが全力でハジメをサポートする形で無理矢理突き抜けた。これによってハジメとカルマだけが『試練の結界』からの脱出を果たせたのである。
既に結界は解け、他の皆も通常空間に戻ってくる。
そんな中、終始巻き込まれただけで疲れたように肩を落とすレヴァンナは、ふと近くに巨大な陥没の痕跡があることに気付いて下を覗き込み、顔を顰める。
「うわっ、いる……」
陥没の奥には不思議な光に守られた皇の母が眠る神殿があり、その光に弾かれる形で完全に意識を失った皇がぼろぼろの状態でぷかぷか虚空に浮かんでいた。
レヴァンナの中では彼はマザコンメンヘラストーカーという認識を持っている。
しかし、あんなボロ雑巾のようになっても意識のない母親の為に無理矢理尊厳を絞り出してクオンに抵抗せざるを得なかったと思うと、若干可哀想な気がしないでもない。
手段は最悪であったが、彼も立場故に追い詰められていたのだ。
間違っているのは分かっているが、周りを気にしてやめられない。
そんな気持ちなら、ほんの少しだが分からないでもない。
「……はぁぁぁ~~~。放っておくのも酷だと思うのは人情であって優しさではないんだけど、変な勘違いされそう……」
ここで彼を助けては本当に自分が良い人のように見られてしまいそうで、しかしだからと言って見てしまったものを助けず放置するのも逆に気になってしまい、結局レヴァンナは皇を救出しに翼を生やして穴の中に飛び込んだ。
◆ ◇
結局――バランギア竜皇国での騒ぎは有耶無耶のままに幕を閉じた。
如何なる皇もこれ以上クオン達を付け狙うことの愚かしさは十二分に理解しただろうということになり、また、クオンに吹き飛ばされて別の大陸まで飛んでいったガルバラエルが凄まじい速度で戻ってきたので全ての事後処理を彼に押しつけた。
「俺たちは国を出て家に戻る。出国手続きはそっちでやれ」
「くっ……事ここに至ってはやむを得まい」
あれだけ暴れてもまだ陣頭指揮を執る余裕があるのだから、ガルバラエルは充分化物だ。ただ去り際に「皇の母君を災禍から守ってくれた借りは必ず返す」と言っていたので、さすがに第二ラウンドはないだろう。
こうして全員がそそくさとバランギアから出国し、帰路に就いた。
後に聞いたところによると、バランギアではエンシェントドラゴンが実は皇の変身した姿でありグリンが悪者扱いされ、皇が神獣を追い払ったといった与太話に無理矢理ねじ曲げられているらしい。これにはフレイとフレイヤが珍しく怒り心頭だったが、当のグリンは興味なさげに昼寝に興じていたので怒る気も失せて一緒に寝ている。
(今回は本当にグリンに助けられたな。今度レヴィアタンの社の隣にグリンの社も建てようか)
思えばグリンは子育ての長さでハジメの先輩に当たるし、拝んでも罰は当たらないだろう。
クオンは今回の暴走を猛省し、暫くはよく食べる彼女が「食欲がない」と食事を断るほどだったが、フェオと他の皆で反省はさせつつ励ます方向で接し続けてなんとか持ち直している。
「でもそれはそれとして血まみれになったママは見たくないよ……」
「そうですね。反省してください、ハジメさん?」
クオンとフェオの二人に言われるとハジメは弱い。
「返す言葉もない。心配させて本当に済まなかった」
ハジメもライカゲもクオンの本気の片鱗は知っていたものの、血腥い戦いにどっぷり染まりすぎてその辺の感覚が完全に抜けていた。ライカゲは反省を兼ねて三日間断食中なくらいである。ハジメも反省の意を込めてここ数日ずっと村の拡張の手伝いをしながらクオンと共に時間を過ごしている。
なお、助っ人に呼んだキャロラインからは「貴方の名前でお店に追加料金の五時間コース予約入れておくから、しっかりお店に来てね?」とばっちり対価を取られた。なんの五時間かは敢えて言わないが、五時間耐えきった者は今まで一人たりともいない文句なしの最上級コースだそうだ。
アトリーヌはあのままバランギアに残り、キャバリィ王国と五分の国交を結ぶ交渉をけしかけているらしい。上手く行ったらそれを今回の手伝いの対価とするそうだが、弱った竜皇国に鞭打つとはとんでもない国家元首である。
そして、今回の件で盛大な巻き添えを食らい続けたレヴァンナはというと――ここ数日は教会とずっと交渉しているらしい。数日後に村に来たと思ったら、新しくできたテラスカフェでコーヒーを飲みながら事情を説明してくれた。
「『アムネシアの聖女』と友達でさ。彼女を通じてベルガ監獄に働きかけて、罪人を一人引っ張り出したいのよ」
ベルガ監獄は、嘗て火山の大噴火で抉れてクレーター状になった地形の中心に建てられたシャイナ王国最大にして難攻不落の監獄だ。ここは凶悪犯もそうだが、転生犯罪者の更生施設としても機能している。
その監獄には『アムネシアの聖女』と呼ばれる転生者の末裔が教会の人間として務めており、真に過去の罪を悔い改め、変わりたいと望む者の姿形を一度だけ新たな姿に変えるというなかなかとんでもない力を持っている。
俗に言ってしまえば「気合い入れて自分のアバター作ったけど改めて見ると恥ずかしいor不都合が多い」という転生者が、転生者気分を脱却して真面目に生きるためなら一度だけアバター変化をやってもらえるお助けキャラみたいなものだ。
「引っ張り出してどうするつもりなんだ?」
「そいつは転生者で、『力の無効』の能力を持ったヤツ。そいつに皇の母親の呪いを解かせれば、今度こそ皇と私の縁が切れるってわけよ」
曰く、その『ヤツ』とは元は転生特典無効を手に入れて犯罪転生者を狩っていたが、いつの間にか手段と目的が倒錯してしまい、転生者にマウントを取ることに快楽を覚えて犯罪者ではない相手まで襲いだしたダメ男らしい。
「あいつの『力の無効』は特定の一つの事象を手で触れることで無効化するもの。チート能力狩りにはもってこいだけど、チート能力じゃなくて地力で強い相手だとそうもいかなくてね。だから捕まった」
「で、その『力の無効』を利用して呪いを無効化しようというわけか。しかし、触れている間だけの無効なら呪いが復活するのでは?」
「それでも触れてる間は無効化できるんだし、呪いの種類によっては一度切れたらそれっきりだし、なんにせよ突破口にはなるでしょ?」
「まぁ、そうか。少なくとも解呪が叶えば皇も焦って妻と養子など探さずに済むだろう。分かった、俺は念のために解呪の専門家と話をつけておく」
「助かるわ。それに、まかり間違って私が唯一の命の恩人とか言い出されると迷惑だし」
「そう邪険にしなくとも……ん?」
ふと大きな気配を感じて村の入り口を見ると、そこにはなんと皇とガルバラエルがいた。服装はシャイナ王国の正装に合わせている辺り、再度暴れにきた訳ではないらしい。
皇はそのまま堂々と道を歩いたかと思うと、突如として露店から弾かれるようにのけぞってガルバラエルにしがみつく。何を避けたのかと思えば鮮やかな桃色に染まった服だった。
皇は改めて歩き出し、また突如として道端から逃げるようにガルバラエルにしがみつく。何を避けたのかと思えば、道端の花壇に植えられた綺麗なピンクの花だった。
その後、皇は視界に入るありとあらゆるピンクのものにビクビク震えながらゆっくり近づいてくる。ピンクのものを見る度に足が止まるのでもうこちらから赴いた方が早いと思って近づくと、レヴァンナの存在に気付いた皇が頬を朱に染めつつ背筋を正す。
ガルバラエルが先に口を開いた。
「皇は市囲の着るような服など着ることはない。なのでここにいるのは皇ではない、そういう建前だ」
「……エゼキエルである。皇の代理で参った」
「さっきからピンクのものに怯えていたが」
「怯えていない。ピンクを見ると体が震えて足に力が入らなくなって無性にその場から飛び退きたくなる特殊な発作であって、怯えていない」
クオンが原因でピンク色を見るだけで拒絶反応が出るようになったらしい。こちらに原因がなくもないが、そもそも皇の身勝手な決定が招いた事態なので自業自得としか言えない。
エゼキエルはおほん、と咳払いする。
「これはあくまで余の言葉であって……もとい、私の言葉であって皇の言葉でない。いいな? 皇の言葉ではないが……目的を達成することに夢中になって手段を疎かにし方々に散々な迷惑をかけたことを……謝罪したい」
エゼキエルがその場に膝を突き、頭を下げる。
「申し訳、ありませんでした。竜皇国はこれから二度とクオン殿及びレヴァンナ殿の意志決定をないがしろにした浅膚で倨傲な要求をしないことを、ここに誓います」
竜皇国式の最大限の敬意を払った姿で、間違っても皇がする姿ではない。
彼なりの精一杯の誠意だと考えれば、無碍には出来ない。
「なら、俺はいい。あとはピンク恐怖症が治ったらクオンにも謝罪してくれ。言えるのはそれだけだ。ではレヴァンナ、後は任せた」
「えっ」
ハジメは少し用事が出来たのでその場を後にした。
残されたレヴァンナは、気まずい顔をする。
エゼキエルはさっきから頭を下げたまま動かない。
レヴァンナの言葉を待っているのだろう。
ガルバラエルも言外に何か言えと視線をやってくる。
「あの……もういいですから。居心地悪いので頭を上げてください」
「本当に、申し訳なかった……私は貴方に相応しくない。母のことは、自分でなんとかします。幸か不幸かこの失敗を機に私は少し変わることが出来たから……」
うっ、と、レヴァンナは嫌な顔をする。
エゼキエルがうち捨てられた子犬のような切ない顔をしているのだ。
このまま「そうですか。じゃあこれで」と冷たく遇うのは簡単なのだが、人目を気にする女であるレヴァンナにそれはハードルが高すぎる。
「その、貴方のお母さんの呪いに関しては解く方法を考えてあるから、そんなに悲観しないでいいと思いますよ……?」
「な、なんと……! 散々迷惑をかけ倒した私に、そこまでの慈悲を!? まるで貴方は聖女だ……!」
「えっ、いや、あいつがね。ナナジマの方がなんとかするから」
後で言い直したものの、もうエゼキエルの中ではレヴァンナを褒め称えるストーリーが勝手に出来上がってしまっているようだ。
今も昔も、レヴァンナは人に嫌われる勇気というものが足りなかった。
◇ ◆
村の物陰から様子を見ていたルシュリアと部下兼しもべのリサーリへハジメは歩み寄る。ルシュリアはさも感動物語を見たようにわざとらしくハンカチで目元を拭う。
「家族の愛の勝利によってわが国とバランギアの全面戦争は避けられました。そして、あろうことか貴方たち親子はその真の絆を以てして傲慢な皇を改心させることに成功したのです! 国も滅びず、世界も滅びず、死人も出ず! これぞ大団円ですわね!」
「黙れ」
ハジメは、生まれて初めて正当な理由なく女性の腹を殴りつけた。
拳が鳩尾にめり込み、ルシュリアは一瞬の悶絶の後、胃の内容物を胃液ごと嘔吐する。慌ててリサーリが駆け寄る。
「ひ、姫ぇ!?」
「お゛えぇ、げほっ、はっ、あ……!」
本気の拳であったならルシュリアは内臓が破裂して死んでいるところだが、そうなっていない以上はちゃんと手加減はしている。だがそれでも、嘔吐する程度には苦しんで貰う為の悪意を込めた拳であることも事実だ。
こいつは、こうなる可能性を――いや、もっと酷い可能性を考慮した上で、何も言わずに黙って笑っていた。この女の策謀で世界は無用な消滅の危機を迎えた。ハジメは、そう確信していた。
「お前の魂胆を読めなかった俺に責任があることだ。気付けない方がマヌケだ。だからこれは八つ当たりだし、これで終わりだ。ただし、俺は謝らない」
「ちょ、ハジメさん……?」
事情が飲み込めないリサーリが困惑する中、一通り咳き込んで呼吸の自由を取り戻したルシュリアは、胃液と涎を垂らしながらそれでも楽しそうに笑っていた。よっぽど楽しいことがあって、今も余韻に浸っているような蕩けた笑みだった。それがたまらなく嫌で、もう一発殴ってしまいたい衝動を精神力で無理矢理押さえつけた。
――この日の夜、ハジメの夢に神が出てきて悪事について説法をした。長い長い説法になるかとも思ったが、ルシュリアの余りの邪悪さに神も余り強く言えず、思ったよりは早く解放された。
『いやほんと、なんなんでしょうねあの王女……ここまでコメントに困る人格の持ち主は今までの歴史にいませんでしたよ。ここだけの話、わたし一瞬貴方があの子のこと殺すと思いましたもん』
実際殺すべきだったかも知れないと思ったが、愛娘のことを思い出してギリギリ踏みとどまったハジメであった。
ふーん、ドMじゃん。
緩めに評価、感想をお待ちしております。




