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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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25-3

「きゃっほーーー!!」


 大声ではしゃぎながらウォータースライダーを滑っていくクオンに続いて、フレイとフレイヤも楽しそうに滑っていく。


 フリルつきの可愛らしい水着に身を包んだクオンの姿に施設のライフセーバーや付き添いの城の案内人、そして『熾四聖天』ジュールエリエルまでもが視線を釘付けにされ、鼻血を垂らしている。

 愛娘の水着姿を見て鼻血を垂らされるのは率直に言って不快感があるが、女性スタッフの竜人も似たような状態なので根本的に彼らにとって刺激が強すぎたようだ。


 フレイ、フレイヤは色合いの落ち着いたスポーティめの水着を身につけているが、ハジメ視点ではそれでもこの双子エルフも市囲のプールにいれば似たような反応を示す人間がいるのではないかと思う程度には美しい。


「流れる~! かーらーのー水上ぞばーーん!!」

「これはたまらんぞフレイヤ! もうこの滑り台にやみつきだ!!」

「まあお兄様、試してない施設はまだ沢山おありですわよ! でも確かに何度やっても飽きませんわ!!」


 今、ハジメたちはバランシュネイルが誇る世界最大のレジャープールに来ていた。この世界は現代社会より文化的に遅れているように感じる部分が多いにも拘わらず、このレジャープールは現代社会のそれよりも美しく、充実しているように見える。


 右を見ても娯楽プール、左を見ても娯楽プール、ありとあらゆる水関係の娯楽が揃っているだけでなく、休憩スペースの一つをとっても充実具合が違う。元の世界で一度だけ行ったことのある市民プールとは完全に格が違った。


(前にリンに付き合って行った旅行のレジャー施設の何倍あるんだ……)


 入場料に数十万Gがかかる代わりに、全ての施設が使い放題。

 一度でもここに訪れた富豪や王族、貴族はこの美しくも充実した水遊びの世界に魅了されてもれなくリピーターになるという。そんな施設が皇の計らいで使い放題なのだから、子供達もテンションが上がるというものである。


 以前にバランギアに訪れた際は土産屋と装備屋程度しか通わなかったが、こうしてみるとこの国は世界で最も散財に相応しい場所のように思える。引っ越しはしないが別荘の一つくらい無駄に所持してみようかと思う程度には、ここには金で買える娯楽が多いようだ。


 レヴァンナも最初はどうかと思っていたようだが、リアルの頃にも味わったことのない娯楽施設に好奇心が抑えきれなくなったのか、遊びに行ってしまった。モノキニというワンピースとビキニ両方の要素がある水着を着用していたが、その水着が似合う自分を楽しんでいる感じもあった。


(ずっと沈んでるよりはいいか。俺も久しぶりに水泳したし)


 ハジメも折角のプールだからと先ほど流れるプールを逆走で一泳ぎしてきた後だ。たまには泳いでおかないとカンが鈍ってしまう。


 プールサイドのパラソルの下から皆の様子を眺めると、ウルは実は金槌だったのかマオマオの指導で泳ぎの練習をしていた。ウルは自分のスタイルの良さを隠さない上質そうな黒のビキニで、マオマオは何故かスクール水着である。この世界にそんな文化ないだろと思うが胸元の白生地には「1ねん1くみ まおまお」と書かれているのは誰の趣味なのか。

 マイペースな女性たちだ。マオマオがたまらなく幸せそうに涎を垂らしているのは気になるが。プールに落とさないよう気をつけて欲しい。


 スーはというと、胸元のはだけだラッシュガードを羽織って昼寝している。

 素直に普通の水着を着ているが、それでも元々美少年なのでウルは最初見たとき大興奮だった。他の子供達にも可愛い可愛いと反応していたが、彼女的にはスーが一番好みのようだ。

 当のスーは寝ながらも時折薄く目を開けて周囲の様子を確認しているあたり、ウルの奇襲を警戒しているようだ。流石は聖職者なのか、それともウルとおそろいで実は泳げないのかは謎である。


 と、場に合わせて水着に着替えたガルバラエルが隣にやってきた。


「少し話そうか、ハジメ・ナナジマ」

「ああ、構わない。俺も聞きたいことは多くある」


 隣同士に座る二人の男。

 その間には、得も言われぬ濃い気配が漂う。

 静かに、しかし確かに存在する存在の圧が、異様なまでに静かな空間を作り出していた。


「魔王軍を蹴散らすあの仕事から何年経ったか……見たところ、まだ死を求めて戦い続けているようだな」

「……いや、最近少し考えを変えた。生きてるのも悪くないよ」

「そうか。結構なことだ。ヒューマンの命は短い。後悔のないようにな」


 会話は一旦途切れる。

 やがて、ハジメの方から話を切り出す。


「皇はクオンとレヴァンナをどうするつもりなんだ。国民として迎え入れるのは分かるが、何故今になって?」

「……お前達下界の者には分かりづらいだろうが、バランギアは本来『環境に合わせて自分たちを変える』ことを昰とすることで発展した国家だ。ここ何百年も世界の環境に大きな変化がないために今は停滞しているが、本来は外の人間を取り入れることに積極的でも不思議ではない」


 意外な話だった。

 この世界が中世ヨーロッパ風の雰囲気で停滞しているのは世界が「そう」だからとしか転生者視点には思えないが、その中では溜まるものもあるらしい。フェオを婚約者にしようとしたエルフの古の血とやらも変化を起こそうとしていたのを思い出す。


「……それで国外の竜人を?」

「我々は異能者の存在や法則にある程度は気付いている。国のトップに近い人間達での間でだがな。シャイナ王国のルシュリアという娘、あれほどではないが我々も異能者を集めているのだ」

「何に備えて?」

「皇は特に何も言わないが、恐らくは……皇は己を変えてくれる誰かを欲している。異能者は浮世離れした新しい価値観を持つことが多い故に」

「?」


 曖昧な言い分に眉を顰めるが、ガルバラエルは真剣そのものだ。


「竜人の皇は、以前の皇から政治教育を受け継いではならないというしきたりがある。価値観の固定を防ぐためだ。故に新たに皇となった者は竜人の嘗ての在り方、今の在り方を見つめ、己の王道を見つけなければならない。今の皇は若いのだ」

「自分を変えて欲しいというのは、自分に自信がないのか? それとも自分で考えたくないのか?」

「どちらでもあり、どちらでもない。自分に自信はあるが、自信が価値観の固定に繋がってしまう。自分で物事を考えて決めているが、決定が正しいのか不安に思う」

「ジレンマだな。余人には預かり知れない感覚だが」

「皇の考えは計り知れぬ。想像でしかないと言っておく」


 若く、権威があり、しかし焦る皇。

 そんな人物が娘とレヴァンナに何を求めるのか。


「俺はクオンの意見を尊重するが、クオンの親を辞める気はない。皇が奪いに来るなら俺は戦う」

「それはこちらも同じこと。皇の命令は絶対だ。仮に道理に合わなかろうが、それは道理が皇に合わせるべきこと」

「争いにならないことを祈っているよ」

「こちらも同じことだ」


 立ち上がり、去って行くガルバラエルにハジメは一抹の不安を感じた。


 彼らは何らかの理由で、クオンを『本気で怒らせてしまう』のではないか。


 未だ一度も怒り狂って感情のままに暴れる姿を見せたことのないクオンだけに、いつか一度は訪れるであろうその瞬間を恐れるハジメであった。


「スーたんスーたん! わたし泳げるようになったから一緒に泳ごうよ~! ほら上着脱いで!!」

「脱がすな、触るな、後ろから羽交い締めにするな! ばか! ばか魔王!」

「ウルちゃん様いけませんそんな下賎なショタガキと肌を触れ合うなど! その役目はこのマオマオが受け継ぎますから離してくださいこっち向いてください撫でてください愛でてくださいさあさあさあッ!!」

「うう、ハメを外してハシャぎすぎてちょっと寒い……へっくちっ!!」

「このサーフィンとやら、楽しい! 楽しいぞ! 兄の勇姿を見ているかフレイヤよ!」

「美しい……美しすぎますわお兄様!! なんと鮮やかで軽やかで雄々しいのでしょう!!」

「クオンもやりたいクオンもやりた~~い!!」


 このまま楽しい時間が続くように、と、ハジメは平穏を祈った。

 あとついでに散財の機会にもっと恵まれますようにとも祈った。


『汝、転生者ハジメ!? いい流れだったのに不純な祈りが混ざっていますよッ!?』


 神の託宣が煩い。

 着信拒否権を金で買えないだろうか。


 ――その日の夜、ハジメ達は皇の計らいで用意されたバランシュネイル一の高級ホテルで豪勢な食事に舌鼓を打ち、最上階のロイヤルスイートルームでバランシュネイルの夜景を眺めた。


 夜のバランシュネイルは街頭や建物の灯りに溢れている。

 ハジメは嘗てドメルニ帝国に赴いたときに王都以上の夜の灯りの多さに驚いたが、バランシュネイルの灯りは嘗て暮らしていた現代社会の都会に匹敵するほどの夜景となっていた。


 クオンは普段ならそろそろ寝ている頃だが、未知の国の未知の光景に未だ興奮が覚めやらぬのかハジメと共に夜景を眺めている。


「見て、クオンたちの乗ったゴンドラが光ってる。宙に浮いてるみたい! 不思議な建物、美味しくて初めて見る料理、やさしい人達……バランギアはスゴイとこだね、ママ」

「ああ。こんなにスケールの大きな場所は、世界中探しても他にないかもしれないな」


 ハジメ達が宿泊するホテルは、この世界としては考えられない30階建ての高層建築である。見たこともない建築様式や素材を使って現代と同等レベルまで引き上げられた技術水準は、もしかしたら転生者を取り込んだ成果なのかもしれない。

 クオンは建物の下を見下ろし、ぽつりと言う。


「スゴイところ。スメラさんはクオンにこの国に住んで欲しいのかな」

「多分そうだろうな」

「毎日こんな感じなのかな? 楽しいこと一杯で……」

「贅沢しすぎはどうかと思うが、そうかもしれない」

「でもクオン……なんでかな。ここでは暮らせないって思うの」


 それは幼いなりに何かを悟ったような、そんな声だった。


「みんなクオンと同じ角と尻尾の形をしてて、最初は仲間が沢山いるって感じがしたの。でも、みんなクオンに優しすぎて、甘すぎて、まるで違う存在として扱われてるみたい。クオン、べつに子分なんか欲しくないのになんでみんな子分になりたがるの? フェオお姉ちゃんの村ではこんなことはなかった。みんないっしょに遊べてたのに」

「……」


 クオンは神竜だ。竜人の完全なる上位互換に当たる。

 村の子供達はクオンの容姿に心を奪われこそすれ、それでも個としては対等に扱われているし一緒に遊ぶこともある。しかし竜人は本能でクオンのことを己より位階が上の存在だとして認識してしまっているようだった。

 姿形は近いのに、そこには越えられない上下関係がある。

 対等になれない疎外感――クオンはそれを感じ取ってしまったようだ。

 ハジメは愛娘に問う。


「フェオの村は好きか?」

「……大好き、かな。みんなと一緒にいるのが楽しい。バランギアの楽しいとは違う楽しさなの。胸の奥がぽかぽかするような、そんな楽しさ」

「なら、クオンにとってこの国は凄い所だが、住みやすいところではないのかもな」

「ママ、今日はなんか多分とかそうかもとか多いね?」

「皇の考えもクオンの気持ちも、当人にしか決められないことだ。でも、ママは何があってもクオンのママだよ」

「そっか。えへへ……」


 甘えて腰に抱きついてくるクオンの頭を優しく撫でると、そのまま彼女の足と腰を抱える。


「さあ、そろそろお風呂に入って寝よう。明日寝坊すると皇を怒らせてしまう」

「そうだね! ここのお風呂どんなのかなぁ……ホテルの人達、豪華だからきっと驚くって言ってたし!」


 家族団らんの時を過ごし、バランシュネイルの夜は更けていく。


――一方、ハジメたちと違って夜の探検に出発している者もいた。


「とうとうヒミツの部屋に近づいてきたぞ……!」

「ワックワックドキドキですわ……!」

「どんだけ行動派なのよ貴方たち、皇城に忍び込むなんて……!」

「ブヒ」


 フレイ、フレイヤ、グリン、そして二人と一匹を心配して一応随伴しているレヴァンナである。

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