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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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23-7

 戦いその一、資産対決。


「我らの研究資金は年間3000万Gだ!! 我らにとっては生活それすなわち研究であるため、これが我らの生活費である!!」

「一人当たりは?」

「え?」


 ゴミを見る目のシオからの厳しい追及が入る。


「結婚ってのは一人を相手にするもんでしょーが! 一人あたり幾ら!!」

「ひ、100万くらい……」

「師匠は!?」

「時期によってばらつきがあるが、一月で収入が3000万を超えることは珍しくない」

「はいあんたら雑魚~!」


 純血派、さっそく敗北。




 戦いその二、土地自慢。


「我らは一族の一派であるからして、一族の住まう一等地をほぼ無償で使っている!! 魔法研究に必要な大抵のものは揃う!!」

「娯楽や嗜好品、スイーツは?」

「え?」


 シオ、またもや容赦ない追求を開始。


「アクセサリ! 流行のファッション! 美味しい最新スイーツ! 都会に出てから思い知った生まれ故郷の娯楽の少なさと、研究地からの転移先が僻地だらけという欠点は、どうなのッ!!」

「そ、そういうのはよく分からない……」

「師匠は!?」

「うちの村は周囲を森に囲まれながらも気候に恵まれ、最近腕の良いシェフが村に住むことになったり仕立屋が出来たりと段々充実させてる。アクセサリに関してはまだだが、転移台で近隣の町に行けば手に入るからそれほど売るメリットはなかろう。どうしても欲しければヒヒに注文すれば数日中には用意してくれるだろう」

「はい師匠の勝ち~! そもそもこの人村の大地主だから割と何でも用意出来るんですぅ~~~!! あんたたち研究用以外で土地持ってる? どれくらい持ってる? はい持ってませんよねダメですぅ~~~!!」


 ここぞとばかりに何故か煽り散らかすシオに、純血派は項垂れる。

 純血派、二連敗。




 戦いその三、家柄自慢。


「これは我らの大勝間違いなしだ! 何せ魔導十賢の血を引く名家の集まりだからな!!」

「でも師匠、もう子供いますよね?」

「ああ、養子だが……」

「しかもその子はめっちゃくちゃ可愛くてぇ、素直でぇ、才能に溢れててぇ、毎晩一緒に寝てほしいっておねだりするくらい懐いてますよねぇ?」

「まぁ、否定はしないが。俺には勿体ないくらい良い子だ。あとこれも義理だが妹もいる。少々甘えん坊で困りものだが」


 義理の娘と義理の妹辺りで純血派の連中の歯ぎしりが聞こえたが、何故だろう。

 シオは更にニヤニヤしながら今度はハジメに追求してくる。


「しかも師匠に惚れててもう告白したらOK間違いなしの女の子が何人もいますよねぇ?」

「……まぁ、告白めいたものは、何度か」

「で、あんたらは? 自慢出来る家族いる? モテ期来た事ある? いませんよねはい師匠の勝ち~~! お前らみんな雑魚雑魚ざぁ~~~こ!!」

「クソァアアアアアアッ!!!」


 純血派は激怒した。シオはそれを全力で嘲笑った。

 我が弟子ながら性格が悪すぎる。

 純血派、三連敗である。




 戦いその四、生活力。


「我らは他の俗な研究者共と違って自分たちの身の回りのことは自力で出来るぞ!!」

「助手になってくれる人がいないからでしょうが!! で、師匠は?」

「自慢じゃないが生活力に関しては人並み以上にあるつもりだ。都会暮らし、田舎暮らし、野営にサバイバル。自分の土地を持てば資産管理も必要だし、掃除洗濯家事、今では子育てもやっている」

「じゃ、もう師匠の勝ちでいいよね?」

「真面目にやれ、シオネレジア! お前の将来にも関わることだぞ!」

「関わんないわよ。比べるのが馬鹿らしいくらい差がついてんじゃん。あんたら魔物が出る森で夜を明かしたことあんの? ないよね? はい終了~! ざこぉ~~!」


 純血派、四連敗。




 戦いその五、ここでとうとう魔法対決になる。

 が、問題が発生する。


「我らは始祖の遺した古代魔法しか使わない! 故に、古代魔法に関する問題以外認めない!」

「俺は現代魔法しか知らないぞ。魔法の基礎理論くらいは本で学習したが、古代魔法など知らん」

「ほらみろ、我らの勝ちだぁ!」

「あんまりウザったいこと言ってると現代魔法限定で問題出すわよ」


 互いの専門分野不一致問題である。

 彼らは言ってしまえば人生を魔法に極振りした連中。魔法分野の勝利だけは譲れない為、古代魔法に関わる対決以外は絶対に認めず、認められないなら自分たちの不戦勝だとまで強く主張している。


 しかしここで待ったをかける人物が現れる。

 騒がしくて寝られないと眼を擦る、明らかに不機嫌なクミラである。


「……代わりに、やる」

「赤の他人の子供が代役だと!? なら本人が逃げたということで我らの勝利だ!」


 勝ち誇ったように騒ぐ純血派に、クミラは正論という名の冷水を浴びせる。


「……そっちは大勢のくせに、ハジメが一人でたたかわなければならない方が、おかしい。それとも……」


 続けたクミラの決定的な言葉が、純血派のプライドに火をつける。


「……古代魔法でも負けるのが、怖いんだ。惨め、惨め……」

「きっ、貴様ぁぁぁぁ!! いいだろう、貴様如き我らの始祖より脈々と受け継ぎし英知でひねり潰してくれるわぁぁぁッ!!」

(クミラってお喋りが苦手な割には結構煽り上手だな……)


 こうして、遂に最終決戦が幕を開けた。

 早押し形式の古代魔法及びその関連クイズである。


「第1問! 初代魔導十賢において始祖とされる者の名は!?」

「エイン・フィレモス・アルパ」

「聖エイン・フィレモス・アルパ様だ!」

「どっちでもいいけど早かったクミラが正解!!」



「第5問! 古代風属性魔法の詠唱定義に必要な詠唱の単語数は!?」

「おい、風属性担当! 急いで答えんか!」

「ええと、ええと……160!」

「ブッブー!!」

「……89」

「クミラ正解! 160は単語の合計だけど実際には同じ単語が何度も使われるからクミラの数が正確な数でしたー!」

「風担当、この役立たずがぁぁぁぁ!!」

「あんただって知らなかったくせに文句言うなよッ!!」

(内輪もめが果てしなく醜い……)



「第11問! 九属性のうち最も古代魔法としての確立が遅かったものはどれ!?」

「闇属性! 簡単すぎるな! 定義も応用も難しく、最も呪文が出来るのが遅かったのだ! 凡俗は知るまい!」

「いや、属性の定義は確か8つで確定したあと、後に水と氷を分けるかどうかで議論が起きて分裂したと聞いた。答えは氷だ」

「……確かに。学術的には、水と氷は同時に成立した扱いになっているけど、認定となると氷だ……騙されかけた」

「はい正解~。ちょっとした引っかけ問題だけど流石は師匠!」

「ぐぬぅぁあああああ!?」



「第26問~。魔導十賢の名称が国家に正式に認められたのはいつでしょーか~」

「こ、国家に!? 国家に認められなくとも大陸歴402年には既に一族の間で定着していたぞ!」

「でもこれは国家に認められたのはいつかの話だからね~」

「……大陸歴980年」

「ああ、クレナイモン公会議か。意外と認定まで時間がかかってるのだな」

「はいクミラ正解~師匠も正解~純血派はゴミ~」

「進行係が煽るなぁッ!!」



 こうして計30問の問題が終わったが、ハジメとしては弟子の思わぬクイズ出題能力の高さに驚いている。公平性を保つ為に彼女に一人で作って貰ったが、即興なのに問題や正答に全くミスがないのは流石である。


 ちなみに結果はというと、ハジメチームが27問正解、純血派は3問正解という恐ろしい差がついた。これは反射速度の問題もあるが、クミラの明晰さとハジメの引っかけ問題を見抜く速度が上手く噛み合った結果でもある。純血派も6割ほどは正答に辿り着いていたが、人数が多くともチームの連携がイマイチだったのが勝敗を分けた。


「じゃあ、ぼく、寝る」

「歯磨きは忘れてないか?」

「ん」

「じゃあおやすみ」


 クミラはこれでやっと眠れるとばかりに早足で旅館に戻っていった。

 残されたのは、自分たちの得意分野で子供と現代魔法使いにボコボコにされて死屍累々となった純血派の皆様である。一部口から魂が抜けている者もおり、静かにはなったが通行人の邪魔である。


「……仕方ないな」


 少し説教めいたことを喋るか、とハジメはため息をついた。


 ――魔法には様々な種類が存在するが、その中にあって異端的なものもいくつかある。

 まずは効果が強力すぎて自分諸共殺しかねない禁止魔法。

 次に、ネクロマンシーを始めとする死霊術の類。

 実は魔法成立より歴史が古いとされる錬金術もその一つだろう。


 そしてもう一つ――占術だ。


 気力をなくした純血派を、ジライヤの分身に手伝って貰って町から離れた静かな丘に連れて行ったハジメは、いつの間にか授業モードになっているシオに説明する。


「魔法使い、ギャンブラー、その他いくつかのスキルとジョブを経由して辿り着くのが占術師だ。果てのジョブの割に使い勝手が劣悪でなり手が殆どいない」


 シオが「確かに」と思い当たる節をみつける。


「魔導系のジョブついでに占術を取った人は居ても、占術だけ取ってる人って見たことないです」

「なり手が少ないから殆ど趣味のジョブだな」


 占術はその名の通り占いに特化したジョブなのだが、なにせ内容が占いなので基本的に全ての使用魔法が確率の壁を越えられない。ランダム発射物の命中確率を上げるコンセントレーションも占術を簡略化して成立したと言われているなど意味はあるのだが、それ一本ではやっていけないのが現状だ。

 極一部攻撃魔法もあるものの、それらは占術師ジョブをかなり上げないと習得できないため、レベリングに使えない。しかも全てにクセがあって魔力消費も激しいので普段使い出来る代物ではない。嘗て催眠の転生者に放った『ゾディアック・エクセキューション』がその代表だ。


「バフも確率上昇、デバフも確率上昇、その他全てが基本的に確率の増減と総じて安定性に欠ける。無論、これは一種の因果律操作なので事象としては十二分に凄まじいことなのだがな」


 現実世界の占いは基本ただの気休めだとハジメは思っているが、こちらの世界の占いは本当に確率が上昇する。しかし、多くのジョブが戦いの為に存在するこの世界では、占術はどうしても優先度が低い。


 何よりも――この世界のジョブは敵を倒すなどの戦闘行為でのレベリングが熟練度上げの最高効率手段であるにも拘わらず、占術はこれが極めて難しい。


「まず、基本的に攻撃魔法がないから魔法で敵をなぎ倒しづらく、熟練度も貯まりづらい」

「早速ハードルが高い……」

「次に、ジョブ的に攻撃魔法使用時のアドバンテージが殆どない」

「燃費も威力も低下してしまうということですね」

「最後に……武器が水晶玉なので相手を殴り倒してレベリングするのが難しすぎる」

「あー……」


 そう、この世界では魔法使いは魔法を使わず杖で相手を殴り倒してもジョブの熟練度が上がるというバグみたいな裏技が存在するのに、占術師はこの裏技が使えないのだ。

 嘗て、物は試しとなってみたハジメも思わずクソみたいなジョブだと口に出しかけた程の劣悪なジョブ、それが占術師である。


 ちなみにハジメはレベリングに関して更に裏技的方法を見いだして何とか効率的な熟練度上げを完成させたのだが、それはさておく。


「俺が気になったのは……占いと言っても種類が様々ある筈なのに、何故占い師のジョブは占術師しかないのか、という点だ」


 占いと言えば創作作品では水晶玉相手ににらめっこが多いが、本来なら手相占いなど相手の身体的特徴を読み取るものやおみくじ、八卦、それこそタロットカード占いなど幾らでもあり方はあった筈だ。なのに、何故占術師は占術師しかないのだろうか?

 

 ハジメは最近になってその理由を探ってみた。

 ホームレス賢者にヒントをもらい、昔の文献を読み漁り、そして判明した理由は以下の通りだ。


「占術は錬金術と同じく魔法成立以前より存在したもので、嘗ては星占術やアルカナといったジョブが存在していたらしい。しかし、それらは魔法という確実性の高い技術の発展によって廃れ、今ではジョブの詳細に関する情報が失われてしまっているのだ。道はあるが、俺たちには見えていないだけということだな」


 ちなみにハジメ的には、タロットを操るアルカナに関してはマジシャンジョブでカードの扱いに慣れたら道が拓けるのではという仮説を持っていたりする。

 草原でぐったりしていたボンジーンが頭を起こし、恨めしげな視線を寄越す。


「だから、始祖の魔法が悪いとでも……? それとも始祖の魔法成立以前の技術の方が価値があるとでも? 或いは古い技術だから素晴らしいとは限らないとでもご高説を述べたいのか?」

「後者に関してはなきにしもあらずだが、伝えたいのはそこじゃない」


 これについては仮説ではあるが、我ながらいい線をいっていると思うものだ。


「始祖の魔法使いであるエイン・フィレモス・アルパも、魔法成立以前は錬金術や占術を学んでいたのではないだろうか?」

「んなっ……!? ありえん!! あと聖エイン・フィレモス・アルパ様だと言っておろう! 黙って聞いておれば、始祖の尊き行いを他者を模倣した真似事と愚弄する気か!!」

「まぁ聞け。そもそも始祖の魔法使いは来歴や年齢など多くが謎に包まれている。ということは、意外と占術や錬金術もその始祖が作ったものかもしれないぞ?」

「……!!」


 後半に関しては憶測だが、あながちありえなくもない。

 なにせ現代魔法成立以前の錬金術や占術の情報は極めて断片的にしか残っていない。『原色魔法プライマリーカラー』を残したという実績から見ても、彼はきっと古代の転生者か、或いはトリプルブイのようなイレギュラー的天才だ。


「考えもしなかったか?」

「いや、まさか、しかし……!」


 純血派は否定出来ない。

 何故なら、これは始祖を愚弄するものではない。始祖が自分たちの想像を上回る偉大な存在だったかもしれない、という名誉な話を否定しきれない。

 ただ、シオだけは始祖フィルターがないので堂々と疑問を呈してくる。


「そこまで万能の天才だったっていうのは、ちょっと大げさに見過ぎじゃないですか? 前者の「両方の学問を修めていた」の方が説得力高いと思います。確かに錬金術も占術ものちの魔法と共通項がいくつか見いだせますし」

「当然ありうる。複数の技術から魔法に必要なエッセンスを抽出したというのは自然な考え方だ。だが、事実は分らない。魔導十賢の保管する記録の中にも始祖の来歴を示すものは全く残っていないのだろう?」


 以前にマリアンから聞いた話だが、図星なのかシオは押し黙った。


「占術が廃れたのは、始祖が魔法の方がまだ世間に浸透して人の手助けになるのに手っ取り早いと考えたのかも知れない。或いは当人にとってそれで占術が廃れることは予想外だったのかもしれない。他にも理由は色々考えられる。始祖は『原色魔法プライマリーカラー』を弟子に託した後は行方知れずなのだろう? 魔法の追求を終えて後で錬金術や占術に手を出した可能性もある。だとすると今の占術は、始祖がやり残したことかもしれない」

「し、証拠もない憶測だ!」

「そうだ、証拠がない。だからこそ違ったとも言い切れない」


 純血派が水掛け論に持ち込む前に、俺は前に出る。


「それらの推論を肯定するにも否定するにも、学者に出来るのは一つだけ。未知の知識を理解し、既知のものに変えていくことだ。それは誰も見たことのないものでもいいし、既存の自分が知らないだけの知識でもいい筈だ。だから、なんでもかんでも頭ごなしに否定せずにもう少し広く世界を見たらどうだ?」


 ハジメは水晶玉を取り出し、自分がいま覚えている占術の中で最も高度なものの発動準備に取りかかる。占術の多くは詠唱破棄が使えず、動作や下準備が必要なのだ。これまでぐったりとしたまま話に参加していなかった者も何事かと顔を上げる中、ハジメは術を発動させた。


「ブレッシングラック。学問の徒たちに幸あれ」


 水晶玉の中に銀河のような無数の光の粒の渦巻きが現れると、その光は一気に夜空に舞い上がり、そして流星のように皆に降り注ぐ。人に当たった光は肌に触れた雪のように優しく解け、彼らの持つ運命を幸運へと少しだけ寄せていく。


 シオは降り注ぐ光を夢中で見つめていた。


「綺麗……星が降りてきたみたい」

(物理的に墜とす魔法もあるがな)


 どの程度効果があるのかは不明だが、この魔法は全体的な運を向上させるざっくりしたものだ。効果時間も可能性の倍率も調べるのが大変すぎて把握しきれていないが、綺麗だという一点だけは確実に評価出来る。


 ハジメは、彼らに少しでも幸があり、その幸を囮に自分たちが面倒から逃げられますようにと願ってその場を去る。シオも少し遅れてついてきて、純血派は祝福の光が降り注いだ後の夜空を、何を思ってかずっと見つめ続けた。


 翌日、純血派は宿の周囲で騒ぎを起こすこともなく、ただ「シオネレジアはいい師に出会った」とだけ言って帰っていった。


「ボルカニックレイジは撃ち込まなくていいか、シオ」

「……まぁ今回は師匠に免じて許します」


 こうして長かった慰安旅行は終わりを告げた。

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[一言] >「結婚ってのは一人を相手にするもんでしょーが! 一人あたり幾ら!!」 いやまぁ、甲斐性を言うならそうだけど、でもこの場合、組織ぐるみで来て欲しい状態だから、支援に宛てられる資金として≒個…
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